◆メルティー・メルティー◆







「暑っっっいィ!!!!」
仙界といえども、四季はある。
照りつける夏の日差しに道徳真君は上着を脱ぎ出す。
鍛えられた筋肉が構成する身体は精悍で同性が見ても惚れ惚れするようだった。
慣れた視線を投げて、普賢は目線を手元に向ける。
「暑いのは分かったから、せめてなにか着てたら?」
「なんでお前は涼しい顔してるんだよ」
一方の普賢は涼しい顔をして、いつものように書物に目を落としていた。
「これ、あるから」
そういって指すのは太極府印。
近付けばそれが普賢の周辺の空気をひんやりとしたものに変えているのが分かる。
「俺にも貸してくれ」
「いいけど、あんまり乱暴にしないでね」
受け取ると同様に今度は道徳の周辺の空気がひんやりとして、肌を冷やしていく。
半時ほど過ぎると、さすがの普賢でも暑さを感じるのか額に汗が浮き始めた。
白鶴洞はどちらかといえば風が入り込みやすい位置にある。
その場所でさえこの有り様なのだから青峯山や乾元山はもっと悲惨な状況だろう。
袖を捲くれば白い腕が外気に触れる。
「なぁ、どうせなら着替えたらいーんじゃないのか?」
「だったらそれ返して」
「嫌だ。俺はお前が道衣じゃないほうが好きなんだ」
「変なこと言ってないで返して」
手をかけようとするのをひょいとかわして道徳は府印を頭上に。
頭一つ小さい普賢がどうやっても届きはしない高さだ。
「さ、着替えておいで」
「……………」
背中を押されて渋々と自室へと消えていく姿。
気付かれないように、道徳はにやりと笑った。




短衣から覗く腿と脚は日光など浴びたことがないかのように白い。
素足に引っ掛けるように履いた鞋(サンダル)からは小さな指が覗いている。
(よっしゃ!!!作戦成功!!!たまには目にいいもの見ないとな!!!)
自分が暑がれば間違いなく普賢は太極府印を差し出してくる。
それを見込んでの幾重にも重ねた巧妙な罠。
半そでの上着からは腕が伸び、身体に密着したそれは胸の形を線をはっきりと浮かばせた。
「あとでちゃんと返してね」
そう言って続きを読むべく普賢は長椅子に座り脚を組む。
見えるか見えないかぎりぎりのところが逆に心を動かすのだ。
(ああやってるとちゃんと女だよな……普段があれだから尚更……)
爪先までじっくりと眺めながらあれこれと思案する。
次の課題は今度はどうやって脱がせるかといったところ。
「あれ?誰か来たかな?」
本を置いて、入口のほうへと向かう。
(誰だ!邪魔しに来たのは!!太乙か!?)
「誰?」
「よお!!俺だよ!!慈航。道徳来てんだろ?」
「居るよ。入って」
扉を開けて、慈航を招き入れる。
「普賢に会うのも久しぶ……」
全部言い終える前に目線が止まる。
普段見る彼女とはまったく違う姿。
張りのある丸く甘い胸と、帯に締め付けられてその存在を誇示する腰。
普段は肩口は覗くが全身を包み込むような道衣を着込むために、そう意識することもなかった。
(こいつって……色白い……結構いい身体してる……)
まじまじと見つめる目線にようやく気付いたのか普賢は慈航の耳を引く。
「イデデデデデデッ!!!!」
「道徳ならあっちだよ」
腰に巻かれた帯が、そのくびれと細さをかえって強調させる。
(あれなら道徳じゃなくても落ちるわ。色気あるもんな)
細い背中に誘導されて、奥のほうに通された。
「道徳、慈航来たよ」
「よ!紫陽洞いったらいねえからこっちだと思ってよ」
何事もなかったかのように、普賢は椅子に座り脚を組む。
男二人は何だかんだと話しながら、どうしても目線が脚に行ってしまうのだ。
「……なんで見るの?」
少しむっとした顔で睨まれ、二人は顔を見合わせる。
「そこに、あるから」
「まぁ、それなりに見れるもんだよな。普賢でも」
その言葉に道徳は慈航の方を見る。
(しまった!!道徳は危険印がでるほどこいつに惚れてるんだった!!)
言ってしまったことは取り返しが付かない。
「慈航、お前とは一度じっくりと対戦したかったんだ」
「ちょっと待て!!俺は何もお前に喧嘩売ってるわけじゃないっ!!」
ぎゃあぎゃあと言い合う男二人の声に普賢は耳を塞ぐ。
「五月蝿いっ!!!いい加減にしなよ」
あきれたような声。
「大人気ないんだから。道徳、もう少し嫉妬は自重してって何度もいってるでしょ」
「いや、だから……」
「道徳」
少しきつく睨まれれば言葉が続かない。
「はい……自重します」
「慈航、ごめんね。気、悪くしなかった?」
「いや、俺はいいよ。道徳も随分と大人しくなったみた……」
今度は普賢の視線が凍りつく。
そしてその先は道徳真君に。
(慈航っ!!!余計なことをっ!!!)
そろそろと後ずさりしながら、慈航は引きつった笑みを浮かべる。
「お、俺、そろそろ帰るわ。道行が来るって言ってたしっ」
「そう?今度ゆっくり遊びに来てね」
穏やかな笑みとは裏腹に普賢の気配は既に戦闘態勢に入っている。
(こ、恐ぇーよ……マジで!!)
ばたん!と扉が閉じるのを確認して普賢はゆっくりと振り返った。





「最近は大人しいんだ」
そっと詰め寄って、見上げてくる瞳。
(不信感丸出しじゃないかよ……お前、俺の事愛してないだろっ!!)
目線を落とせば、ふるると揺れる胸と、伸びた脚。
「別にいいんだけどね。過去のこととかは……」
ちょっとだけ膨らむ頬と、ため息。
(お?嫉妬してくれてる?)
くるりと背を向けて、再び本を読み直そうと机の上に置いたそれに手を伸ばす。
その手を取って後ろから抱きしめる。
「何?」
「ん〜……可愛いなぁと思って」
「知らない。そんな人」
「素直じゃないとこも、可愛い」
「あんまり慈航とかに変なこといわないでね。外歩けなくなっちゃうよ」
そのまま手を柔らかい胸元に落としていく。
ふにゅりとした感触が手に心地良い。
その柔らかさを味わおうと、ぎゅっと鷲掴みにすると肩が竦むのが伝わってくる。
「や……」
「オンナってさ、柔らかいよな……」
「でも、ちょっと物足りないんでしょ?」
「!!」
「だから、そういうことを慈航とかに言わないでって言ったの」
言われてみれば慈航からあれこれ聞かれてつい、ぽろりとこぼしたことがあったかもしれない。
「どうせボクは胸はないよ。でも人に言わなくたっていいじゃない。ボクだって雲中子みたいだったらなって
 思うもん……気にしてるって分かってるくせに、酷い……」
仙界きっての問題児、通称『変人』はその名前とは相反して魅惑的な身体の持ち主だ。
「だからってあれは性格が問題ありすぎるだろ」
「冷たくて、構ってくれないわけじゃないでしょ」
段々と自分でも血の気が引いていくのが分かる。
しかも、まずいことにどこまで話したのかを覚えていないという状況だ。
「可愛げなくて、すぐ拗ねて、子供っぽいとかも言ったんでしょ」
「誤解だっ!!」
「……ボクだって、自分でも分かってるよ……でも……」
涙目で、微かに震える睫。
(やばい、この状況でまだ可愛いとか思える俺は本物の駄目人間かもしれない……)
「何も、男みたいだとか言わなくてもいいじゃない」
背筋に嫌な寒気が走る。
(俺の大馬鹿野郎!!!どこまであいつらに愚痴った!?)
静かに胸に掛かる手を払う。
「だったら、いいよ。仙道は女犯を禁ず……女であることを完全に捨てるのが本来の姿だからね」
淡々と続ける声。
「その戒律に従うだけだから」
「ちょっと待て!!誤解だけは解かせてくれ!!」
「着替えるから、離して」
「……どうやったって普賢は女だ。だから俺だって思うことくらいある」
「じゃあ、今この瞬間から女辞めるから」
振り解いて、進もうとする身体を後ろから抱きしめる。
「やだ、離して」
「どうやったってお前は女だよ」
そのまま細い首に静かに指を掛ける。
「……………」
「ちょっと力入れたら、それで死んじまう……」
「太極府印使えば、あなたを原子レベルまで分解できるけど?」
(マジに迫ってもダメですか……なら、じっくりと自分が女だってわからせてやるしかないよなぁ)
ぎゅっと二つの乳房を掴む。
「!!」
「ほ〜う……じゃあ、この二つの柔らかいものは何ですか?」
「身体まで男にはなれないでしょ!」
そのままする、と手を下げて腿に這わせる。
「ちょ……止めてよ!」
「触られてこんな風になるのは?」
「だったら触らないで!!大体、道徳だって仙人の端くれなら仙人らしく愛欲は断つのが本来の姿でしょ!」
ひょいと膝抱きにして、顔を覗き込む。
「何のつもり?」
「いや、だからさ……なんで俺はお前とこんなにしたいんだろうって考えたことがあるわけよ」
ちゅっと触れるだけの唇。
「道徳が節操がないからでしょ」
「いや、お前だからだよ。謝る。男みたいだなんて思ってないよ」
組紐を解いて、上着を脱がせる。
そのまま窮屈そうに胸を包むさらしを解けば、つんと上向きの乳房が顔を出した。
「やだ!」
「前よりもずっと可愛い身体になったと思うよ……嘘じゃなく」
寝台に降ろして、胸を包もうとする手を外させる。
「柔らかくて……気持ち良いし……」
胸に顔を埋めて、頬をすり寄せるとそっと頭を抱いてくる手。
「決めた。夜になったらまた来て」
「んー……何で?」
「雲中子のところに行って来る」






一度言い出したら頑ななところのある普賢に逆らうことも出来ずに、道徳は夕刻に再び白鶴洞を訪れた。
(香炉か……こういうの好きだもんな……何だかんだ言っても所詮は女の子だ……)
齢百歳にならない恋人は、まだまだ幼いところが多い。
甘いもの、可愛らしいもの、綺麗なもの。
下山した時に悪戯心で買ってきた装飾品を大事してくれたりと、まだまだ人間の部分があるのだ。
「道徳?」
「ああ……あ!?」
いつもよりも魅惑的な胸の膨らみ。
「だから……その……」
俯きながら染まる頬。
(いや……別に俺は女に胸を求めるわけじゃないんだけども……でも……これは……)
ぎゅっと抱きしめて額に唇を落としていく。
「俺のため?かなり嬉しい……」
「でもね、副産物があるの……」
「?」
くしゃくしゃと髪をかきあげると、ぴん!と張った獣の耳。
そして当然のように長く伸びた尻尾も。
(ちょっと待て!!それもありか!?)
「どうしよ……」
(どうするもこうするも……問題無し!!!)
「明日までこのままだって言われたし……」
「だったら戻るまで外に出なければいいだけの話だろ?」
「そうも行かないよ。玉鼎が来るみたいだし。ヨウゼンから伝言で今夜、用事があるから白鶴洞(うち)に
 行くって……絶対に笑われるよ〜〜〜っっ」
普賢は既に涙目に。
(笑うどころか……何が何でも玉鼎の侵入は阻止するっ!!!)
普賢の手を取って少しだけ力を入れる。
「大丈夫だ。どんな手を使っても玉鼎をここには入れない。俺が阻止する」
「本当は怒らなきゃいけないんだろうけども……今夜だけ、お願いっ!!」
さわわさと触れる耳が小さく誘う。
(お礼は弾んで貰うけどな……普賢)







斬仙剣を手に玉鼎真人は九巧山に降り立つ。
無論、この男とて例外ではなく普賢を今でも取り合う間柄だ。
「久しぶりだな、玉鼎」
「そうだな。出来ればそう頻繁に会いたいとも思わんが」
「気が合うな。俺もだよ」
莫邪の宝剣を取り出し、道徳真君も玉鼎真人を見据えた。
「私は普賢に用向きがある。どいてもらおうか」
「普賢は生憎とお前には会いたくなって言ってたところだ。引き取り願おうか」
ばちばちと目線をぶつけ合って宝貝を構える。
「どこか体調でも悪いのか?ならば薬を持ってこなければ……身体ばかり鍛えているような輩に
 まともな丹薬が作れるとは思えぬしな」
売り言葉に買い言葉。
「本ばっか読んでたらあっと言う間に爺さんになっちまうけど?普賢は別モンだけどな」
売られた喧嘩はきっちり買い取る。
「一度決着を付けたいと思っていたところだ」
「俺もだよ」
二つの宝貝の剣先が触れ合う。
大地を蹴って男二人は宙に舞った。





外での爆音と轟音を聞きながら、普賢はもどかしげに伸びた尻尾を指で摘む。
違和感があるわけではないが、先刻から妙に身体が落ち着かないのだ。
(熱っぽい……風邪でも引いたのかな……)
耳を塞いで怒鳴り声を遠ざける。
(道徳も、玉鼎も、もう少し仲良くしてくれれば良いのに)
何かあるたびにぶつかり合う正反対の二人。
間に自分が入ってしまったことによってその関係はより激化したのは確かだった。
そして結果的に一人を選んでしまったのだから。
(また、色々言われちゃうよ……)
気だるい身体を抱きしめてころん、と横になって目を閉じる。
ぼんやりとした熱さと鈍痛に似ただるさ。
(何だろ……どきどきする……)
指先を折っては戻す。それだけで身体がほんのりと熱くなるのだ。
(……まさかっ……嘘っ!!絶対に嫌だっ!!)
背筋を寒いものが走り抜けるような仮説に普賢は身震いする。
(……発情期……ッ……なんて……!)
確保すべきなのは自分の身の安全。保身だ何だの言われてもまずはそれが大事だ。
行動は迅速にと呪文を札に書き綴り、扉に手をかけようとしたときだった。
「あ〜〜〜、痛ッッッてェ〜〜〜!!!」
「……あ、お疲れ……さま……」
「普賢、お前俺選んで正解だぞ。あんな凶悪な性格の男なんて見たことねぇ」
あちこちに傷を作りながら道徳真君は眉を顰める。
「怪我してる……今日はゆっくり休んだほうがいいよ?」
薬を塗ってくる細い指を取って、軽く咥える。
「いえいえ、これくらいは。御馳走が待ってますから」
にじり寄られて後ずさりする身体。
その腰を抱かれてくい、と顎を上に向かされる。
「労働には報酬が付き物だと思わないか?」
「無償って素敵なことだと思わない?」
「そうだな……奉仕って言葉もいいよなァ……」
舌先が唇をなぞりあげていく。
「……言葉の意味が違えてる気がするんだけども」
腰からゆっくりと手が下りて、その下の双丘をやんわりと揉みしだく。
「あ……、待って、こんな姿じゃないほうがい……」
「俺は全然構わないけど?」
腰帯を解いて、慣れた手つきで一枚ずつ脱がせていく。
大きな手がする…と肌を滑るだけでぞくぞくと甘い痺れが走り出す。
(……や……どうしよう……ボク……)
ぺろりと頬を舐められて、伸びた耳をパクリと噛まれる。
「あんッ!!や…っ…」
「やっぱり、耳とか弱いんだ」
からかうように舌先がつつ…となぞっていく。
「…っは……ゃん…ッ!!」
「でかい鈴とか付けてぇ……ダメ?」
「ダメ!!ついでに言うけど、今日はダメ!!!」
器用に組紐と解いていく指先。
ずるり、と上着を下げられてさらしに包まれた胸が顔を出す。
結び目を解けば、ぷるんと揺れる上向きの乳房。しかも、いつもよりも魅惑的な大きさだ。
つん…と指で乳首を押すだけで、震える身体。
(……猫だよな、多分。もしかして……発情期か?麝香みたいな匂いするし……)
胸の谷間に顔を埋めて、そのまま衣服を剥ぎ取る。
「やんっ!!」
「何が嫌?」
下着の中に指を忍ばせて、濡れた入口を撫でる様にやんわりと摩る。
「ちょっと触っただけでこんなに濡らしてんのに?」
耳元に吹きかけられる息。それだけで背筋に走る甘い痺れ。
「!!」
くい、と入り込んだ指先が最奥よりも僅かばかり手前を押し上げてくる。
いくつかある彼女の弱点の一つ。
引っ掻くように指を動かせば、きゅんと絡み付いてくる柔肉の感触。
とろり、とこぼれる滑りを帯びた愛液が男の指を濡らしていく。
「あ!!あ……っは!!!道徳……ッ…!」
壁に背を押し付けて、逃げられないように追い込む。
「あれ?嫌なんじゃなかったのか?」
耳朶を噛んで、そのまま耳を舐め上げる。
ちゅ…と離れて今度は伸びた獣の耳を。
「あ、はんッ!!!」
ぷるんと揺れて誘う乳房を焦らすように舌先でなぞり上げる。
ちゅぷ…と上を向いた乳首を吸い上げてそのまま口中で甘く嬲っていく。
ぽたり、と床にこぼれていく体液。
「嫌?」
首筋を吸われてびくんと肩が竦む。
「……っは……や…じゃ…な……ッ!!」
びくびくと揺れる腰つきと、ぎゅっと絡み付いてくる内壁。
腿を掴んで背中を壁に当てながら、落ちないように繋ぎ合わせて行く。
「ああんッ!!!っは……ん!!!」
ぎゅっとしがみ付いてくる腕。
(こいつの中って……すっげぇ熱い……)
数え切れないほど身体を重ねても、繋がるたびにきゅんと締め付けてくる。
慣れているはずなのに、絡んでくる柔肉は最初に抱いた頃と変わらないまま。
(俗に言う名器ってやつなんだろうな……ま、開発したのは、俺だけど……)
腰を抱いて、ず…と進めれば細い脚が絡みつく。
蕩けそうなのはお互い様で、噛み付くような接吻を何度も重ねた。
手の甲に触れる伸びた尻尾。
(……悪戯しちゃおっかな……)
そのまま指先を滑らせて、つぷ…と指を一本だけ窄まりの中に忍ばせていく。
「あ!!やだっ!!」
びくつく身体を壁に押し付けてそのまま指は奥へ。
「ほら……ちゃんと掴まってないと、落ちるぞ?」
「…っは……ぅん!!やだぁ……そっちは…ッ!!」
打ち付けるたびに、締め詰めてくる肉襞。その度に後ろに入り込んだ指が怪しく蠢く。
前後を同時に攻められて、喘ぎと吐息が交じり合う。
耳に響くのはぐちゅぐちゅと絡み合う互いが産みだした淫音だけ。
「あ、あんッ!!…道徳……ッ…!!」
ふるる、と揺れる胸に掠れる道衣。
(あ…やだ……擦れるだけで……ッ……)
肩口に唇が触れて、舌先がなぞるだけでとろり、とこぼれるのが自分でも分かる。
(……ボク……どう…しよう……)
しっかりと奥まで咥え込んで、微細な動きも逃がすまいと身体は男を絡め取ろうとするから。
「ひ……ぁ!!!」
指一本を飲み込んで、前後から揺り動かされてその度に翻弄される意識。
「あ、やぁ…!!そっち……抜いて…ぇ…ッ!!」
「ん?何?」
ぐい、と腰を進められて仰け反る喉元に触れる唇。
ぬちゅ…と音を立てて指は尚も動き回る。
耳まで真っ赤に染め上げて小さく首を振る姿。
(やば……可愛い……)
額に、耳に、頬に、唇に。
舐めるような口付けが何度も降って来る。
「……虐められるの、好きだろ?」
内側で擦りあう感覚が、ゆっくりと彼女の意識を浸食していく。
博愛主義者の裏を返せば、被虐思考に繋がる。
その傾向は普賢にも見られることを彼は逃さなかった。
(まぁ、コッチの方も戴くけどね……今日じゃなくて、じっくりと)
ずい、と強く腰を進めて根元まで隙間なく繋ぎ合わせる。
「きゃ…ぅんっ!!!」
「ほら……ちゃんと掴まって……」
じゅぷ…じゅる…湿って濡れた音。
自分の背中にしがみ付く指先。
ぐ…と腰を進めて後ろに咥え込ませた指先も一息に奥へと突き立てる。
「!!や、ああああぁぁッッ!!!!」
「――――ッッ!!!」
きゅん、と締め付けられて、空の子宮に一滴残らずに注ぎ込む。
はぁはぁと荒い息と力の抜けきった身体が二つ、ずるりと崩れ落ちた。







「なぁ、機嫌直してくれよ」
伸びた尻尾を摘みながら、不機嫌極まりないといった顔の普賢の頬に道徳は唇を当てる。
どうやらお姫様は大変に機嫌が悪いらしい。
(まぁ、ちょっと虐めすぎたかもしんないけど……許容範囲だろ?)
さわさわと頭を撫でて来る手を、ぱしんと払いのける。
「知らない!!」
ぷい、と在らぬ方向を剥く顔。
改めてみれば裸に伸びた耳と尻尾という魅惑的な姿。
いつもよりも丸く大きな二つの乳房は、両手で隠しても零れ落ちそう。
(うわわわ……やっぱ、まずいだろ。こーいうのは……)
首に鈴でも付ければその手の趣味趣向を持つものにとってはたまらない姿になるだろう。
(高そうな猫だな……西洋渡りの上等な奴みたいだ)
つつ…と近付いて、くい、と顎を上に向かせる。
「だから、雲中子と太乙に所では何か出されても食うなって言ってるだろ?」
「だって……道徳がボクのこと男の子みたいだって……」
(そうだった……俺がまいた種だったんだ……だったらきっちり刈りとらないとな)
ぴちゃ…と舌先を絡ませれば、頭を抱いてくる手。
「この姿もいいけど、普段の普賢だって十分だ。酒入って愚痴ったかもしれないのは謝るよ。ごめん」
ふにゅふにゅと柔らかい乳房が布越しに触れてくる。
(まずい……もう一回したくなってきた……)
見上げてくる瞳も、どこか猫眼のようで悪戯に誘っているよう。
「でも、せっかくだからこの姿も堪能し……」
「馬鹿ッ!!!!」
ぺちんと頬を軽く打たれる。力など入っていないのは愛情の成せる業。
「だって、可愛いし」
ぎゅっと抱きしめれば、伸びた耳がぴるぴると震える。
尻尾の付け根を撫でるあげると凭れるように身体を預けてくるのが分かった。
(やっぱ、耳とか尻尾とか弱いのかな?)
膝の上に座らせてそのまま深く唇を合わせる。
まだ夜は始まったばかり。
そして、彼女の受難も始まったばかりだった。





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