◆彼女と前髪◆




「痛っ……!」
昼食の仕度の途中に上がった声。
「普賢?指切ったのか?みせてみろ」
人差し指の先端を咥えて、振り返る姿。
(……俺、どんどん駄目になってきてる気がする……なんでこうも可愛いんですか、こいつは)
目尻に浮かぶ涙は扇情的で、夜の顔をぼんやりと重ねてしまう。
「切っちゃった……」
「あー……切れてるな。後は俺がやるから座ってなさい」
「作れるの?」
見上げてくる銀の瞳。
「…………無理」
それでも、このまま続けさせるのが困難なことは誰よりも分かっている。
止血にまいた包帯も、見る間に赤黒く染まっていく。
「困ったな……」
「普賢は居るか〜〜〜〜?」
おもむろに顔を出すのは太公望。普賢の同期であり親友である崑崙一の曲者の道士。
「望ちゃん」
「良い酒が手に入ってな。おぬしにも分けようと……指、どうかしたのか?」
「うん、さっき切っちゃって……」
「そうか……ならわしが続きを作るよ。たまにはわしの手料理でも良いであろう?」
手際よく太公望は昼食を作り上げていく。
後姿は十六、七の少女。
「あ、望ちゃん指輪してる」
右手の第四指を控えめに飾る銀の指輪。
彼女の左腕は少し前に地に還った。
義手を使いこなし、不自由はないと笑うが実情を知れば胸が痛くなる。
「誰からだろ?天化かな、ヨウゼンかな。それとも、発かな?」
無邪気に噂話を楽しむ姿は、外見と相応した少女そのもの。
くすくすと笑う小さな唇。
「天化にそんな甲斐性があるとは思えないがな」
「道徳より、気が利くけど?」
悪戯気に目を細める。弟子は自分には何も告げずに恋人のところに相談を持ち込む。
結局は彼に伝わることと成るのだが、天化の意図を知れば知るほどに嫉妬心が湧き上がるのだ。
「なんてね。ウソ」
「はいはい。お前も太公望の親友だな。いい性格してるよ」
出来上がった昼食に口をつけながら、あれこれと互いの近況を。
「ねぇ、その指輪どうしたの?」
「ああ、これか?魔よけに貰った」
「ふ〜ん……誰に?」
覗き込んでくる瞳。はぐらかしの天才は同じように視線を重ねる。
「内緒じゃ。道徳、普賢のことを思うならば気の利いたものでも贈って見せろ」
匙を持ち直して太公望はけらけらと笑った。






籠を持ちながら、玉泉山へと降り立つ。
「玉鼎、お邪魔するね」
扉を開けてひょいと顔を出す。
「訪ねてくれるとは珍しいな」
「うん。たまにはゆっくり話したいこともあるし」
向かい合わせに座って、普賢は玉鼎真人の前に籠を差し出す。
「九巧山(うち)で取れたものだけど、良かったら」
「ありがたく戴くよ。お前の手で作られたものなら尚更」
自分が玉泉山に赴くことは、恋人にはいつだって内密にしてきた。
疚しい事があるわけではないが、いい顔をされないのも現実だ。
あれこれと雑談をしながらも、誘う目線と牽制する視線が交差する。
誰にでも許すほど、普賢真人は甘くは無い。
陥落させるまでに用いた歳月はおよそ三十年。
道徳真君にしては桁外れの長さだった。
「ねぇ、玉鼎」
「何だ?」
「お願いがあるんだけど、良い?」
小さく小首を傾げて、普賢は丸い瞳で玉鼎を見つめた。
「お前の頼みを断わる所以はないが?」
「良かった。髪、切って欲しいんだ。伸びちゃって……」
ごそごそと篠籠から取り出したのは愛用の銀色の鋏。
良く手入れされているのを語るように、それは誇らしげに光を受ける。
「……何処を切ればいいのだ?」
玉鼎真人はもとより、弟子のヨウゼンも同じように長髪を結わえてきた。
「前髪と、後ろが少し煩くなっちゃって」
襟足が少し伸びて、いつもよりも跳ね具合が大きいのが気に入らないらしい。
首から白い布で包んで、普賢の後ろに立って指示を仰ぐ。
いわれるままに鋏を入れれば、ぱさりぱさりと灰白のそれが落ちていく。
うなじの線の美しさに少しだけ見とれていると、今度は前髪を切れと声が掛かった。
「目にかかって、痛いんだ」
「道徳は切ってはくれないのか?」
「一回頼んだら、斜めにされたの」
小さなこだわりは、普賢が女であることを控えめながら主張する。
「でも、あんまり短くしないでね」
「ああ」
慎重に刃先を入れて、ぱちんと閉じていく。
少しずつ前髪が短くなり、視界が広がって行くのが分かった。
「もう少し短くても、いいかな……?」
指先で摘み上げて、目を瞬かせる仕草。
「そうだな。その方が顔が良く見えて愛らしい」
「やだ、そんなこと無いよ」
そうは言うものの、声は嬉しそうだ。
同じように鋏を入れて、閉じる。
それを繰り返そうとした時だった。
「師匠!!!聞いてください太公望師叔が酷いんですっっ!!!」
「!!!!!」
勢い良く駆け込んできたのは愛弟子のヨウゼン。
目下、崑崙一の難攻不落の道士の太公望を陥落させようとあちらこちらと走る日々を過ごしている。
「……ふ、普賢さ……ま……」
ばさりと落ちたのは灰白の髪。
それを指先で摘んで彼女はしばし言葉を失った。
「…………あ………あーーーーーっっ!!??」
叫び声と同時に上がったのは防護壁付きの核融合。
普賢以外を見事に巻き込み、金霞洞は爆風に包まれた。






(どうしよう……もう、ヤダ……)
鏡に映る姿さえ、嫌気がさしてくる。
短くなった箇所にあわせて、どうにか前髪の形を整えはした。
それでも、眉よりもずっと短い前髪は彼女の顔をより一層幼くしてしまう。
童顔であることがあまり好きではない普賢にとっては、前髪は重要な役割を担っていた。
(しばらく誰にも逢えないよ……)
ヨウゼンと巻き添えを食らった玉鼎真人は揃って雲中子のところに搬入された。
実験体が来たと嬉しげに笑って、彼女は二人を引き受けてくれた。
それでも、その時に自分を見て小さく笑った顔が忘れられない。
(ヨウゼンの大馬鹿っ!!今度あったら知らないんだからっ!!)
ばすん、と枕に顔を埋めて少しでも早く伸びるようにと祈りを込める。
誰にも合えない顔。
そして、そう思ってる矢先に扉を叩く音。
「普賢〜〜〜」
(まずい!!道徳来ちゃった!!)
慌てて筆を走らせて、自室の扉を封鎖する。
「普賢?どうしたんだ?開けてくれよ」
「ダメっ!!絶対ダメ!!」
「俺、何かしたか?普賢〜〜〜」
こつこつと響く音。
「何もしてないよ」
「じゃあ、ここを……」
「ゴメン!!それだけは出来ないのっ!!しばらくは誰にも逢わないから!!道徳だけじゃないから!!」
「逢えないって、どれくらいなんだ?」
心配そうな声。
「一ヶ月くらい……かな」
それだけあれば少しは伸びて、どうにかなるだろうという算段だ。
「い、一ヶ月!?冗談だろ!!どうしたんだよっ!!」
「とにかくダメ!!」
「……心配になってきた。力ずくで行かせて貰うぞ、普賢」
宝剣を手に、呼吸を整える。
左手に意識を集中させて、仙気を込めた。
青白い光が莫邪を包んで、道徳は静かに扉の前で構えを取る。
「破ッ!!」
いくら普賢真人の封印札でも、即席のものなど道徳真君の前では意味を成さない。
真っ二つに割れた扉を確認する前に、普賢は布団を被って身を沈めた。
「ま〜〜ったく、何か俺したか?普賢」
「何もしてないよ。だから、帰って!!」
「顔くらい見せてくれよ。それでなくても三日も逢えなくてさ……辛かったんだぞ」
ぽふぽふと頭を撫でる手。
本当ならその手を取って、抱きしめたい。
「ダメ」
「……悪い子には、お仕置きするぞ?」
「ダメ!」
布団の中から出てこようとしない恋人に業を煮やして、道徳は勢い良くそれを剥ぎ取った。
「ああっ!!ヤダっ!!」
両手で顔を覆う姿。その手を外させて彼は目を丸くした。
「ど、どうしたんだ!?お前!?」
「だからヤダって言ったのに〜〜〜〜〜っっ!!!」
眉よりもずっと上で切り揃えられた灰白の髪。
可愛らしい額が、顔を覗かせる。
「いや……うん、可愛いぞ」
「今笑ったでしょ!!」
よほど気にしているのか、普賢は道徳の胸倉を掴む。
「笑ってないよ。可愛い」
「ウソツキっ!!!」
「嘘なんかついてないよ。可愛いじゃないか。なんか、一気に若返った感じだ」
その一言が導火線に火をつける。
中々火は点かないのだが、点いてしまえばその線は一気に焦げてしまう。
本体までの距離は、息をする間に消えていく。
「酷い!!!道徳までボクのこと子供顔って笑った!!近寄らないで!あっち行ってーーーーっっっ!!」
発動する太極府印。
寸での所で防護壁を張り、道徳真君はやれやれと首を回した。




騙しながら宥めすかして、道徳は普賢の顔を覗きこむ。
「そんなに気にしなくても、良いと思うけどなぁ」
指先で前髪を摘み曲げると、少し涙ぐんだ瞳が見上げてくる。
(う……言われれば……子供っぽいかも……でも俺的には無問題!!)
ぐしぐしと頭を撫でると、安心したのか目を閉じてくれた。
「伸びるまで、誰にも会わないって決めた」
ぐずっている姿も相まって、ますます子供に見えてしまう。
(かーわいいなぁ……女の子って感じだ……)
少しだけ力を入れて抱きしめると、凭れるように体を預けてくる。
「我儘……言わないんじゃなかったのか?」
耳元で囁くと、小さく首を振って否定する姿。
「みんなに笑われちゃう……」
「前髪ってそんなに大事なもんか?伸びれば鬱陶しいけどさ。短い方が楽じゃないのか?」
「じゃあ道徳も潔く坊主にしてみせてよ」
「絶っっっっ対、嫌だ」
「一緒だよ。ボクだって……」
さめざめと泣く姿は、悪戯心に火を点けてしまうから。
慰めるような接吻をして、そのまま寝台に倒していく。
「や……まだ、日が高いよ……ッ……」
そういってる間に上着が剥ぎ取られ、つんと上を向いた乳房が露になる。
両手で包み込んで、その先をぴちゃ…と舐め上げていく。
口中で少しずつ硬くなっていく小さな突起。
下穿きに手を掛けて、一息に脱がせる。
「やぁんッ!」
(何か……声まで子供っぽくなってる気が……俺、もしかしなくても病気だよな……)
ちゅぷっと口唇が離れてぬるついた乳首を摘むように指先が蠢く。
(あれ、試したいな……核融合覚悟で行くか……)
きゅ…と捻るたびに、甘い声が上がる。
ふにゅふにゅと揉みながら、左右のそれに接吻していく。
「あ!!…ぁ…んッ…」
きゅんと摘まれる度に、ずきんと奥の方が熱くなる。
胸の谷間を甘く吸って、そのままぬるぬると舌先は下がっていく。
柔らかい腹に顔を埋めて、腰を抱きながら執拗に唇が降ってくる。
「……なぁ、一個だけ頼みがあるんだけどさ……」
「……?……」
少し蕩けた瞳が、不安げに視線を投げて。
「剃っちゃダメか?」
「……???……」
言葉の意味を図りかねて、怪訝そうな表情。
「元々薄いし、いっそ……」
「馬鹿ッッ!!!!」
ばちん!と派手な殴打音。今回だけは手加減無しの本気の一撃だ。
上掛けを引き寄せて、体を隠す。
「痛って……」
「馬鹿!!変態!!色魔ッ!!!」
「一回くらいいいだろ?」
「絶対にイヤ!!!」
すい、と人差し指で扉を指す。
「帰って!!今すぐ帰れっっ!!」
有無を言わせぬその気迫。目には不信感と怒りがありありと見て取れるほど。
「そこまで怒らなくても」
「知らないッ!!!道徳なんか…………大っっっ嫌いっっっ!!」
叫び声と共に、白鶴洞でも大爆発が巻き起こった。




(……っ痛ぇ……普賢の奴、手加減なしでやりやがった……)
まだ痛む頬を擦りながら、紫陽洞へと重い体を引きずっていく。
(まぁ……ちょっと無理なことは言ったかもしれないけど……前髪短いのは可愛いと思うけどなぁ)
心に掛かるのは最後の一言。
(大嫌いか……ちょっと、堪えるよな……)
こんな時に限って、時間はやけにゆっくりと流れてくれる。
(何で機嫌直させるか……困ったな)
恋人は、目先だけのものでは騙せない。
いつだって本当の「気持ち」が其処にあるかどうかを覗いてくるのだ。
疑うのは簡単なこと。
嫌うのも、簡単なこと。
そして、好きでいることはとても困難なこと。
「嫌い」といわれれば、それだけで心が曇ってしまう。
(謝ろう。ちょっと、俺が悪い)
来た道を戻りながら、彼は彼女の笑った顔を思い出していた。




(手……痛いよ……道徳も痛かったよね……)
打ったはずの自分の手。まだ少しだけ痺れてじんじんと痛む。
(だって……ヘンなこと口走るし……剃るって何考えてんだろう、もう……)
枕に顔を埋めて、目を閉じる。
一人で抱きしめるには少しだけ大きなそれ。
(大嫌いって言っちゃった……)
短くなった前髪は、子供のままの自分の心を写し取ったかのようにさららと揺れるから。
少しだけ、素直になってみようという気持ちにもなれる。
それでも、鏡に映る姿は好きになれないのが現実だ。
窓枠に掛かる太陽も、蕩けそうな色合いで。
ゆっくりと寝所の西に沈んでいく。
「…………道徳?」
扉を叩く小さな音。
「さっきは、ゴメン。俺にもちょっと問題があったと……思う」
静かに扉をずらして、覗く小さな顔。
彼女なりの精一杯の抵抗は、小さな髪留め。
悪戯に持ち帰った蝶と花をあしらったそれは、幼さを引き立ててしまう。
それでも、どうにか形を作って短い前髪を留めているのだ。
「可笑しい?」
「可笑しくない。可愛い」
手を伸ばして、抱き寄せる。
(うわ……やばい、まずい、落ち着け!!)
ちゅ…と額に唇を当てて、少しだけ力を入れて抱きしめた。
「仲直り、しないか?」
「……うん……」
「夜の散歩に行こう。たまにはいいだろ?」
布越しに感じる体温と鼓動。それは、どんな時にも嘘をつけないもの。
どんなに強がって、大人ぶって見せても。
まだ、心は子供のまま。




滅多なことではしない夜間飛行。
あの十六夜の月を追って、何処までも飛んでいこう。
「風が気持ちいいね……」
夜風を受けながら、振り向く恋人の顔。
淡い月明りを浴びて、陶器の人形のよう。
「まぁ……たまにはこういうのもいいかと」
自分の前に座らせて、後ろから抱えるようにして操作する。
「灯り、持って来れば良かったね」
「何か不便なことでもあったか?」
「そうじゃないよ。道徳の顔が見たかったから」
何処までもあの月を追いかけて、二人だけで知らないところにいけたならば。
どれだけ幸福なことだろう。
それは、夢であるからこそきっと綺麗なもので。
少しばかり過酷でも、この現実も愛しいことには変わらない。
「灯りじゃないけど……」
鑚心釘を取り出して、彼女の手に握らせる。
「代わりには……ならないか」
「ううん。これ、可愛いね」
彼が触れれば銀の光を放つそれは、彼女が触れると何故か淡い蒼に。
持つものの精神力の強さに比例する宝剣の縮小方の宝貝は、彼女の心を静かに写し取った。
「お前が持つとそんな色になるんだな。俺や天化じゃそんな色にはならないから」
「そう?」
「どこまで行きたい?普賢」
とん…と体を預けてくるのを受けながら、風の導くままに進んでいく。
「ん……ここがいい……」
彼の方を向いて、その胸に顔を埋める。
「ここが、一番好き」
この手が求めるものは、近すぎて見えなかった。
だから、今度は離れてしまわないように抱きしめあった。





「やっぱりここが一番好き」
見慣れた紫陽洞の景色に、彼女は笑う。
彼の手は、彼女の細い腰を締め詰める帯を解いて、そのまま肌の上を滑っていく。
向き合って、同じように彼の道衣の金具を引く指。
小さな手が、腹筋に触れる。
「ボクも、鍛えようかな」
さらしを解かれて、丸く柔らかい乳房がぷるんと揺れた。
「必要ないだろ?筋肉なんて」
「でも……貧相なのも嫌だよ」
やんわりと掴んで、その先端にちゅ…と口付ける。
「あ……」
「必要な筋力はあると思うぞ。まぁ……体力は少し足りないかもしれないけどな。それでもそんなに
 気に病むほどでもないだろう?女だってことを考慮すれば」
舌先はそのまま乳房の輪郭をなぞって、左右を確かめていく。
手に感じる柔らかさを構築するものは確かに彼女の嫌う脂肪ではある。
「柔らかいってのはさ……肉とかそんなのだけで出来てるとは思わないんだよ。俺」
向かい合わせで互いに道衣を落とし行く。
肌に感じる女の柔らかさ。
しっとりとした感触と特有の甘い匂い。
男の頭を抱いて、彼女は少し困ったように笑った。
「何だか自信無くしそう。もう少しだけでも綺麗な体だったらよかったのに……」
確かに、仙道としては些か貧弱であることは否めない。
「十分綺麗だ。他に何が不満なんだ?」
覗き込んでくる瞳の色は闇に溶けるそれ。
静かに寝台に倒されて、残っていた下着も剥ぎ取られる。
肩口に触れた唇が、左腕をゆっくりとなぞり上げた。
「あ!やだ……っ…」
走るのは一筋の刀傷。呉鉤剣を使っての剣術の最中に受けたものだった。
愛弟子により良い宝貝を。
彼女はいくつかの改良型の試作品で男に挑む。
その度に、増えていく蚯蚓腫れの深き傷。
「筋肉、ちゃんとあるぞ?」
薄い手の甲に接吻して、指先をぱくりと咥えられる。
爪を甘く噛めば、きゅっと閉じられる瞳。
「でも……っ……」
もう少しだけでも、凛々しくありたいと彼女は願うのだ。
膝立ちの普賢を抱きしめて、そのままそっと寝台に倒す。
短くなった前髪を留めていたそれを外して、額にちゅ…と接吻した。
ぷるん、と揺れる乳房。
白く柔らかい谷間に溺れながら、小さな乳首をかり…と甘噛する。
「あんっ!!」
抱かれることに体は慣れても、心は未だにびくついてしまう。
「そんなに筋肉付けたいんなら……手伝ってやろうか?」
体を斜めに倒されて、そのまま片足を肩に担がれる。
「あ!!やだっ!!こんな格好……」
そのまま、ぐっと折られて濡れ始めた入口に指が入り込む。
「…ぁ…ん!!」
「そのまま、俺の腰に手を回して」
言われるままに手を男の腰に。
「ここんとこ、ちょっと突っ張ってる気がするだろ?」
つつ…と濡れた指が脇腹をなぞり上げる。
「!!」
「んじゃ、もう少し普賢のトレーニングに付き合いますか」
唇だけで笑って、更に足を開かせて折っていく。
「あァッ!!!」
ずく、と繋がれる感触と熱さにこぼれる声。
いつもよりも深く貫かれる感覚に背筋がぞくりと反応してしまう。
自分にも、相手にも露に見えてしまうこの体位。
彼女が苦手とするものの一つだ。
「…やぁ……ん…ッ……」
じゅく、じゅぷ、と濡れて曇った音。
口元を押さえて声を殺そうとすれば耳元で「駄目」と囁かれる始末。
「…っは……ん!!」
ぱくり。と耳朶を噛まれてこぼれる吐息。
舌先は遊ぶように唇を、顎先を、鎖骨を舐め上げていく。
「ぁん!!!や…あ!!」
緩むこと無く、打ちつけられる腰。
ぎゅっと敷布を握る手を、自分に回すようにと促される。
「筋力も付けたいんだろ?ほら……」
手を取られてそのままぐっと引き寄せられる。
「!!!!!」
一際強く繋がれて、声も上げられずにただ乾いた息だけが響く。
どくん、どくん、と自分の血の流れが手に取れるほど。
「……っあ!!道徳…っ!!や……」
突き上げるたびに、ふるふると揺れる二つの乳房。
小さめの尻に回された手が、ぎゅっとそこを揉み抱く。
「あ……っは…ぁ!!……」
唇からこぼれる涎。
舌先で舐め取って、そのまま吸い合って絡め合う。
突き上げられる熱さと、ひくつく身体。
「あんっ!!!!」
ぱちん。と外れる髪留め。短い前髪が目に飛び込む。
(うわ……っ……まずい……)
喘ぐ顔は子供のようでどこか暗い満足感が顔を出してしまう。
汗ばんだ肌も、しなやかな腕も、柔らかい乳房も。子供のものではないと分かっているはずなのに。
「…ひ……ぅん!!……」
仰け反る喉元がやけに白くて、封じたはずの気持ちがあふれ出す。
(犯罪者の気分だ……子供、犯してる感じ……)
膝に口付けて、そのまま強く突き上げていく。
(でも……こーいうのもたまにはいいかも……)
潤んで見上げてくる瞳。長い睫。
ぬるつきと、甘い匂いは意識を寝食するから性質が悪い。
でも、もっと最悪なのはそれに溺れてしまうことを選んだ自分たちだと彼は小さく笑った。
(俺……希望はやっぱ腹上死だわ……ごめん……)
指先で隠れた突起をくるくるとなぞる。
「やぁん!!ダメ…ぇ…!!」
少し力を入れて動かせばきゅん、と絡んでくる柔肉と襞。
溢れて止まらない滑る体液を掬って、そこにたっぷりと塗りつけて擦り上げる。
「あああァンっ!!!やだぁッ!!!」
「悪い子だな普賢は。全然嫌じゃないのに、嫌とか言って……」
腰に手を掛けて、打ちつける腰の動きを加速させる。
「ア!!アあッ!!!」
甘えるような甲高い声と、縋るような銀の瞳。
じゅる…にゅぐ…柔らかく神経を支配する体液の絡まる音。
片手をそろそろとずらして、愛液を指先に絡める。
(こっちまでこぼれるくらい、濡れてんだもんな……ここまで成長させちゃったよ、俺……)
つぷ、と指先を後ろの窄まりに忍ばせてぐ…と入り込ませていく。
「あ!!ヤダ!!ヤダ…ッ!!!」
第二指と三指をくわえ込ませて、前後から攻め上げる。
「ああんッッ!!!ダメ…!!ボク…ッ…!!」
「何が……駄目?」
「……ヘンに……なっちゃうよぉ……っ…」
耳まで真っ赤に染め上げて、ぎゅっと目を閉じる姿。
(可愛いなぁ……こーいうこと言ってくれちゃうのがさ……)
「あン!!!あああッ!!!」
根元まで前後にくわえ込ませられて、ただ喘ぐことしか出来ない。
(俺も……そろそろ限界……ッ…)
抱き上げるように体勢を変えて、そのまま強く引き寄せる。
普賢を上に乗せて、騎乗位に近い形で体を絡ませた。
重なる息と、腰の動き。
「あああンンっっ!!!」
ぐずれて抱き合ったのはほぼ同じ。
足元に転がった髪留めが、少しだけ赤く光った気がした。





彼の腕の中で彼女は幸せそうに目を閉じる。
「普段使わないような筋肉、使ったろ?あれを続ければ結構体も変わってくるけど?」
「……もう、いいよ。ボクには向いてない」
「そんなこと無いだろ。いくらでも手伝ってやるぞ」
抱きしめてその額にそっと唇を当てる。
「いい子には、ご褒美あげなきゃな」
「いい子?」
くしゃくしゃと短くなった髪を撫でる手。
細い手首を取って自分の方へとそっと引き寄せる。
「なぁに?」
「ご褒美。いつも頑張るお前に」
ちゃら…と音を立てて小さな玉の首飾りが、彼女の細い首を彩った。
藍と蒼の間。水を溶いたかのような模様。
「太公望に指輪を贈ったのが天化なら……俺は弟子に先越されたことになるな」
悔しげに笑って、後ろの金具を留める指先。
「飯とか作るのに邪魔になるかと思ってさ。指輪は外したらこの体たらくだ」
「うれしい。大事にするね……」
輝く宝玉よりも、咲き乱れる花よりも、傾国の美女と謳われる仙女の笑みよりも。
彼にとっては、今ここで笑う彼女に勝るものはないのだから。
「指輪、今度一緒に探そうな」
「うん」
少しだけ子供に見える彼女には、思いの篭った指輪はまだ少しだけ荷が勝ちすぎるのかもしれない。
それでも、そう遠くない日に左手の第四指を飾るものが出てくるのだろう。
それまではもう少しだけ、この気儘な関係におぼれていたいから。
「その前髪も……俺は好きだよ。お前は嫌かもしれないけど」
「……早く伸びると良いのに……今度ヨウゼン見つけたら同じようにしちゃおうかな」
「それ、ヨウゼンにやられたのか?」
「……うん……」
本当のことを言ってしまえば、また余計な火の粉を撒いてしまう。
なら、元凶だけを出して笑い話に済ませたかった。





良く晴れた日。
青峯山で過ごすのは彼と彼女。
「ね、望ちゃんの指輪ね」
「ああ、あれか」
「発に貰ったんだって」
「……一国の王と張り合えるくらいのもの、探さなきゃダメだな……」
「ヤダ、そんなのいいよっ」
まだ少しだけ短い前髪が風に揺れる。
(こいつの前髪が元に戻るくらいまでには、探し出して見せましょうかね。愛の力で)
注ぐ光の暖かさ。
風は今日も優しく頬を撫でていく。





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