◆アルバイト大作戦―改訂版―◆





「まったくなんでわしがこんなことをせねばならんのだ!!」
街の中を走りまわるのは太公望と霊獣四不象。
もらえる答えは細切れで、頭の中で疑問符ばかりが渦巻いてしまう。
「…………スポーツ用品店?なぜ古代中国にこんなものが…………」
訝しがりながら、その扉に手をかける。
「いらっしゃい。望ちゃん」
「ふ、普賢!!おぬし今度はこんなところで何をしておる!!」
「何って……ここは道徳のお店なんだけど。道徳はさっき新しい人材を確保する!
 ってどっかいっちゃったから、バイトしてるの」
けらけらと笑って普賢は太公望に椅子を勧めた。
促されるままに座って、今までの経過を話していけば時間はあっという間に過ぎてしまう。
「おぬしも大変じゃな、わしの行く先々でこうしてわしを待つ」
「ううん。楽しいよ。それに…………」
言いかけて、普賢は口ごもる。
(崑崙にいるよりも、ここでバイトしてるほうがずっと楽しいなんて……言ったら望ちゃんに
 笑われるよね…………)
離れ離れでいるよりも、太公望の修行名目で一緒にいられるならば。
(だって…………一緒にいられるんだもの……)
少しばかり面倒な役回りでも引き受けてしまえるから。





「え?この街で何かいい職はないかって?」
太公望をサポートする形で十二仙はそれぞれの街に分散している。
普賢の役目は太公望の修行のサポート。
彼女の行く先々の町で太公望を待つのだ。
「うん。この間は雲中子のところで留守番してたの」
「ん〜〜〜、俺としては変なところにお前をぶち込むのは避けたいし……バイト……
 そうだ!ここでバイトすればいい、普賢」
「え…………ここで?」
「そう。俺は時々此処を空けなきゃいけないから、お前がいてくれれば安心して出かけられる」
 それに、一緒に居られるしな」
ぽふぽふと頭を撫でられて、普賢は道徳を覗き込む。
丸い瞳が上目で覗けば、ぎりぎりの理性は簡単に消し飛んでしまう。
「じゃあ、そうしよっかな」
「んじゃ、早速着替えるか」
「着替え?どうして?」
「お前ね、ここが何の店だか分かってんのか?スポーツ用品店だぞ。ほら、ジャージに着替えて」
脱がす手腕の見事さは、慣れと経験。
一見すれば普賢真人の通常着用している道衣は簡素で脱がしやすいように見える。
しかし、ありとあらゆるところに取り付けられた金具と組紐。
一つを解けば一つがくっつく。
その身体を拝むには、経験と勘が必要なのだ。
(いいよなぁ、この役目……玉鼎はヨウゼンの監視役で飛ばされてるし、雲中子もこない。
 太乙の遠くの村。今の俺には邪魔が無い!!!!)
男と女、思惑はまるで別物。
それでも、二人で居られるならばと練りだした妙案だった。





「ね、これでいい?」
両手で膨らんだ胸を包む姿。
「今更隠すことも無いだろ?」
ハーフパンツから覗くのは白くて細い足。
「そうじゃないよ、この服……胸が苦しいの」
「どれ」
両手を外せば、必要以上に強調された二つの乳房。
布越しでもその存在が目を奪う。
(普段が色気なしのあれだから忘れてたけど……こいつ、結構胸あったんだよな……)
そろそろと上着の中に手を入れて、さらしの結び目を解く。
「!!!!」
「どのくらい成長したか、チェックしとかないとな」
「馬鹿!!」
手のひらよりも余る大きさと、柔らかさ。
「やん!!止めて……誰か来たら……ッ」
首筋に触れる唇。
舌先はうなじを舐めて、そのまま耳朶に触れる。
「臨時休業の札、下げたから」
「やぁ……ボク、望ちゃんを待ってなきゃ……」
瞬く間に衣類は脱がされて、裸体は床に押し倒されて。
「太公望なら……まだ来ないだろ?赤精から連絡ないし」
唇が重なって、入り込んでくる舌先を受け止める。
(それに簡単にクリアされちゃ、おちおち普賢と遊んでられないしな)
誰にも文句を言われることの無い、このアルバイト。
時間だけはたっぷりある。
(どうしていつもこうなるんだろ……断れないボクにも相当に問題はあるけど……)
男の背中を抱きしめて、そっと目を閉じる。
(一番問題なのは、嫌じゃないってことなんだよね……)
雇用主と従業員。
逆らえないのは明白な関係。
(望ちゃん……ちょっとだけ、ゆっくり来てもいいよ)
離れたくないのは同じ。
あと少しだけ、二人きりで居たいから。
「ん……床(ここ)じゃ……やだ……」
「背中痛いか?」
こくん、と頷く姿。
店内の待合の奥、少し広めのソファーにおろして。
細い指が上着の金具にかかって、それを引き下ろす。
「脱がせて」
言われるままに男の衣類を落として、下穿きの革帯(ベルト)に手を掛ける。
しゅるり、と引き抜けば裸の身体が二つ。
「どうした?」
視線がくすぐったいのか、道徳は普賢の鼻先にちゅ…と唇を当てた。
後ろから抱きしめて、上着の金具を引いてハーフパンツを脱がせて。
伸びた脚を掌で撫でさすって、そのまま下着の上に。
「ァん!」
焦らす様に、布越しになぞる指先。
じんわりとあふれ出す体液が、下着に染みを作っていく。
膝を立てて、小さな抵抗を示しても無駄に終わってしまう。
「……ぅ…ふ……っ……」
わき腹をするりと撫でれば、びくんと揺れる腰。
(良いバイト雇ったなぁ……俺。元始様も味なことを……)
指をそっと忍ばせると、くちゅ…と糸が絡まる。
そのままやんわりと秘裂を撫でるように上下する指先。
「あ……ッん!」
するり、と下着を取り去ればぎゅっとしがみついて来る腕。
(はいはい……我慢できないわけね……耳まで真っ赤になって……)
舐めるように何度もキスを繰り返して、腰を撫で上げる。
「やぁ……ァん!!」
「三本……咥えるとやっぱ気持ちイイ?」
ふにゅんと触れる乳房の感触。
(この中入れて……気持ちよくないはず無いよなぁ……女の身体ってつくづく凄いな……)
少し動かせば、絡むように動く肉襞。
「…ぁ…ッ!!は……んっ…」
「乗って。その方がイイだろ?」
立ち上がったそれに手を掛けさせて、自分で挿入するように促す。
ぬる…と絡んでくる暖かな肉の感触とこぼれて来る甘い声。
(……やっぱ……内側(なか)って……温かい……)
背中に回していた手を腰に下げて、ぐっと引き寄せる。
「ああぁんっっ!!」
突き上げるたびに右耳で揺れる硝子の球体。
空いた手できゅん、と乳房を揉んで小さな乳首を押し上げて。
甘えてくる視線はキスで牽制。
「あ!!あんっ!!」
両手で腰を掴んで、本能のままに絡み合う。
(あーー……意識飛びそ……俺ってこんなに堪え性無かったか?)
うねる様に絡んでくる内壁は、男を絞り上げるかのように蠢く。
(でも……このままこうやってずっと繋がってられたら最高だよな……)
「……道……徳…ぅ……」
啄ばむ様なキスを繰り返して、絡まったまま深く繋がって。
「そんなに気持ちイイ?」
こくん、と頷く顔。
「バイト料、弾むからな」
「……馬鹿…ぁ…!!…」
背中を抱いて、何度も何度もくちゃくちゃになれそうな程突き上げて。
その度に甘い声と熱く絡まってくる内側の感触に飲み込まれそうになる。
一度だけでは終われずに、何度も何度も。
搾り取られてからからになるくらいに。
(開店休業……でも、これも仕事のうちに入れさせてもらおう……)
手を変えて品を変えて、体位を変えて。
「あぁんっ!!道徳ッ!!!」
(いい仕事だよなぁ……スカウトなんか止めちゃおうかな……)
体中につくのは噛痕と互いの匂い。
スポーツ用品店の店長と店員のある一種のスポーツは果てることなく。
互いが納得行くまで甘く甘く続いていった。





「アルバイトは大変か?」
紅茶に口を付けながら太公望はそんなことをいう。
「え、どうして?」
「隈が出来ておる。なれぬ仕事はどれも大変じゃからな」
そう言われれば、苦笑するしかない。
(仕事疲れじゃないんだよね……本当は……)
四不象の鼻先を撫でながら、普賢は作り笑いを浮かべる。
「まぁ、修行もせんとな。時々立ち寄らせてもらうよ」
少女の背中を見送って、普賢ものろのろと席を立つ。
名目上、少しは仕事をしなければ何処か後ろめたいものがあるからだ。
「たっだいま〜〜〜っと。太公望はもう出たのか?」
「うん。さっき出て行ったところ。お昼にする?」
品物を並べながら親友からの報告を、彼女は恋人に伝える。
灰白の髪は、午後の日差しを受けて銀色に。
その姿が愛しくて、後ろから抱きしめた。
「なぁに?」
「幸せを噛み締めてんだ……邪魔者が居ないって最高だ……」
「馬鹿」
「何とでも。幸せですから」
人材確保も大事だが、彼にとっては彼女のほうがもっと大事で。
早めに切り上げては、恋人の待つ場所へと帰ってきてしまうのだ。
「お昼まだでしょ?暑いから冷たいもの作ってたの」
「いいバイト雇ったな、俺……」
向き合って、抱きしめあって。
舐めるような接吻を重ねて上手く持ち込もうとしたときだった。
「…………何やっとるのだ、おぬしらは…………」
「げ!!太公望!!」
「ぼ、望ちゃんっ!!」
はぁ、と深いため息を最初にこぼしたのはうっかり扉を開けてしまった太公望。
「わしはただ情報を貰いに来ただけじゃ、おぬしらがここでキスしようがセックスをしようが
 関係ないが……道徳!!」
びし、と太公望は道徳を指す。
「おぬし、名前と相反する男よのう。昼日中からすることか?」
的を得た太公望の言葉に、流石の道徳もたじろいでしまう。
「何で今さっきでていって、また来んだよ!!」
「わしに稽古をつけて情報を提供するのが普賢の役目じゃ。おぬしはスカウトにでも行け!!」
ぎゃあぎゃあと言い合う二人にたまらず四不象が入り込む。
「僕が、この街のことならきっと普賢さんが良く知ってるって言ったからっす!ご主人は
 悪くないっす!!」
少女を庇う様に、霊獣は前に出る。
「スープー、良いではないか。わしも邪魔立てする気はさらさらないからな」
「ご主人〜〜〜〜〜っっ」
「この二人がウフフアハハのラブラブバカップルなことくらい、知っておる」
(ラブラブバカップルに思われてんだ……僕たち……)
知らぬが仏は、どこまでも。
「望ちゃんもお昼食べていく?」
「戴くかのう。のう、スープー」
あれこれと準備する普賢の後姿を見ながら、道徳は四不象に目を移す。
初めに見たころよりもどう贔屓目に見ても重くなっているのは明白だ。
「太公望、そいつ太ったんじゃないか?」
「うむ。微妙に飛行速度が落ちてきておるからのう」
そう言われれば、スポーツマンの血が騒ぐ。
鍛えて見違えるように変えてみたいと。
「トレーニングしてやろうか?お前が普賢相手に修行している間に」
道徳真君の修行の厳しさは、ある意味普賢真人のそれよりも上を行く。
普賢と違って、彼は手加減をすることが無いのだ。
「おお!!いい案だな。頼んでも良いか、道徳」
「元始さまに黙っててくれんならな」
世の中は需要と供給、ギブアンドテイク。
「もちろん。頼んだぞ、道徳」
「了解」
まだしばらくこの街に滞在する理由が一つ加わる。
(さて、しばらくこの街でおぬしら二人……からかわせてもらうぞ)
太公望の唇に浮かぶ小さな笑み。
三人三様、思いは違えて。
交わした笑みの意味深さ、深く深く午後に沈めた。



「ご主人、いいんすか?ラブラブバカップルとか言って」
四不象が珍しくそんなことを問う。
「それ以外に良い形容詞があるなら教えてくれ、スープー」
「無いっすね」
次の街を目指して二人は雲を超えながら飛んでいく。
一方、いまだにバイトを辞めさせて貰えない普賢は首を回しながら店内の掃除に勤しんでいた。
「ラブラブバカップルだって」
「最初のほうはいいが、馬鹿とは失礼にも程があるよな」
「……どうかなぁ……」
「待て!!なんでそこで口ごもるんだっ!!」



晴れの日も、雨の日も。
恋は恋で騒がしいから。



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23:28 2004/08/31



                 






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