◆天体観測◆


「背が伸びるにつれて、伝えたいことも増えていった」




久しぶりに俺はフーシャ村に帰ってきた。
聞けばルフィのやつも旅立ったらしい。
何の因果か、俺もあいつも悪魔の実を食っちまった。
結局俺らは似たようなもんってことか?





俺は目的の場所を目指した。
昔よく行ったあの思い出の場所。
まだ、あの人は元気かな〜とか時々は思ったけれども、結局は逢わなきゃ分からないから。
だから、俺はここに来た。
重そうに酒樽を運ぶ姿。
「マキノさん」
俺の声に振り返る姿は、何も変わってなかった。
「エース……?」
「あはは、マキノさん俺のこと忘れた?」
村を出て数年。俺の背も伸びて、顔つきも変わった。
でも、忘れられてるかと思うとなんか悔しい。
ルフィやシャンクスのことは絶対に忘れてないと思うから。
「大きくなったわね、エース」
「マキノさん、俺にも酒出してよ」
「そうね、お酒も似合うようになったわね」
でも、マキノさんは俺を子供としか見てくれない。
今に始まったことじゃないけども、ちょっとばかり男としちゃ悲しいんだよね。




「深い闇に飲まれないように 精一杯だった」





貸切みたいにしてカウンターでビール飲んで。
色んなところの話をして。
そのたびにマキノさんは笑ってくれた。
「エースもすっかり大人になったのね。何時までも子供だと思ってたのに」
懐かしそうに笑わないで。
「マキノさん」
俺はマキノさんの手を取ってみた。小さくて、少し硬い手。
この手が俺を育ててくれた。
「マキノさん。俺、大人になったよ。背だってあの頃のシャンクスよりも大きくなったよ」
ねぇ、いつになったら俺はあなたの息子から卒業できるんだ?
マキノさんの手は、多分同じくらいの女の人よりもずっと傷がある。
刻まれた皺、少し節くれた指先。
いつも短く切られてマニキュアなんか塗った事のない爪。
でも、俺にとっては世界で一番優しくて、綺麗な手だ。
「エース、いい男になったわね」
はぐらかしの天才は、いつだって俺の背伸びを上からたしなめる。
だから、それに対応できるように俺も少し修行を積んだ。
海賊は奪って何ぼの商売。
俺だって、海賊なんだよ。
「マキノさん、これ」
重ねた手の中に、そっと小さな小瓶を。
色々悩んで選んだのは「キラメキ」って名前の色。
コバルトブルーに、銀色のラメの入った子供の好きそうな色のネイル。
俺の飛び出した海と、最初に見た銀の星を見せたくてこの色にした。
「綺麗ね……どうしたの?」
「マキノさんにプレゼント。海に沈む星みたいで綺麗でしょ?」
この小さな村がマキノさんの全ての世界。
出来るなら、連れ出してこの海を一緒に進みたいんだ。
「マニキュアなんて貰ったことなかったわ。ありがとう、エース」
分かってる。マキノさんはそんなのをつけないってことくらい。
料理人らしく、化粧とかも殆どしないくらいだ。
「マキノさん、星、見に行こうよ。きっと綺麗だよ」
お酒なんか飲んで、少しご機嫌になろうよ。
「そうね、行こうか」
奇跡と、魔法。起こしてみせるから。




「君の震える手を 握れなかったあの日を」




見上げた夜空はまるで銀粉と硝子の粉をぶちまけたような星空だった。
「……綺麗ね……」
マキノさん、憶えてる?
あの日の夜もこんな風な空だったよ。
船を笑顔で見送って、あなたは一人で夜……この丘に来たんだ。
気付かれないようにこっそり後を付けて、俺もここに来た。
声を殺して、泣いてたあなた。
その手を握ることも出来ない俺。
早く大人になりたいって、あの時思った。
見上げた空に走った星に、俺はそう願いを掛けたんだ。
「マキノさん」
十年かかったかれども。
「ずっと好きだった」
言えなかった告白。
「……エース。あなたの初恋の女になれて光栄だわ」
ああ、マキノさん。
そんな風に笑わないで。
どうしてそんな慈しむような顔で見つめるのさ。
「でもね、エース……」
そっと手が伸びてきて、俺の頬に触れる。
「初恋は叶わないから、綺麗なのよ」
片道の恋は、とっても綺麗だって港の女が言ってた。
片思いは永遠に叶わないから、胸が熱くなるって。
「知ってる。それでも、言いたかったんだ」
俺があなにたにとって「彼」ではなくて「仲間」であっても。
「言わなきゃ、いけなかったんだ」
この恋を終わらせて、進むためにも。
自分に言い訳をしながら。
そっと指先だけを絡めて、俺たちは空を見上げた。
こぼれたこの光を閉じ込めて、あなたの指を彩る宝石に変えたいのに。
でも、あなたはきっとそんなもの要らないって言うんだ。
「エース、私……きっとこの空を忘れないと思うわ」
「…………………」
「十年前、木陰から見守ってくれた騎士が、立派に成った日だもの」
連れ出せないくらいに、優しい顔。
ここはあなたの聖域だから。
誰も侵すことの出来ないあなたの聖域だから。
手を繋いで、星を見上げて。
「俺も、忘れない」
俺の失恋の日だ。忘れたくたって忘れられない。
バイバイ、マキノさん。
バイバイ、大好きだった人。




「僕は元気でいるよ 心配事も少ないよ」



手配書の俺の写真、イマイチ気に入らない。
これをマキノさんが見るかと思うとちょっと、かなり憂鬱だ。
たまに手紙なんか書いてみるけれども結局出さずに積み重なってる。
もうちょっと、背が伸びればもっと違う景色が見れるんだろうか?
苦手だった煙草も、もうなれちゃったよ。
(マキノさんて、全然年とらねぇ……ま、俺が追いつければいいだけだ)
ポケットの中には一枚だけあなたの写真。
しわくちゃで、色あせてきちゃったけれど。
(いい男になって、掻っ攫おうかな。俺も、海賊王って奴を狙ってみるか)
テンガロンハットって奴は凄くいい相棒だ。
泣きたい時には、隠してくれる。
この海で一人で見上げる星と月。
どうしようもなく寂しい気持ちになった時は、あなたのことを思うよ。
(キスくらい、しておきたかったな。出来ればその先も……)
でも、ベッドまで運んでもきっとできないだろう。
マキノさんにとっちゃ、俺はずっと子供のエースなんだろうから。
(いつか、後悔させますよ……と)
書き上げた手紙。
口ずさむでたらめの歌。
名前も何も入れずに瓶に入れて、力一杯遠くに投げ飛ばした。






「イマというほうき星 今も一人追いかけてる」




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23:57 2004/03/19




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