◆科学マニア恋に落ちる〜素直になれない二人の話〜◆


「太乙、おるか?」
鈴を転がしたように細い声。
全身を防護服に包み、頭部もヘッドギアで覆われた姿。
わずかに覗いているのは小さく形の良い唇だけ。
「ああ、道行。どうかしたのかい?」
「右手の調子がおかしくてな…診てもらおうかと思ってきた」
ヘッドギアを外す手。
片方は白く美しい手。
そしてもう片方は無機質で金属の輝きを放つ指が数本混入していた。
ばさりと亜麻色の巻き毛が零れる。
栗色の瞳。形の良い鼻。
彼女は道行天尊。崑崙十二仙の一人である。
「気圧の変化に少し対応しきれていないかもね…少し待ってね」
彼女の身体は半分が宝貝合金で出来ている。
右手の数本の指。左足。左目。
それを全て包み隠すような防護服。
「他におかしいところは無いかい?」
道行は襟元の紐を解いて、太乙の前に座った。
「君の場合は初期の宝貝合金を使ってるからね。そのうちにバージョンアップを考えようか」
道行天尊の身体がそのようになったのには事情があった。
その名前の通り、道行天尊は教主原始天尊の側近の一人である。
金号よりの侵入者を迎え撃った際に彼女は身体の一部を失った。
それを補ったのが太乙真人。
太乙はその腕を買われ十二仙に昇格する。
以来、道行と太乙は密接な仲になった。
「腕が動いてくれればまだ、なんとかなるのだが……」
防護服の下にあるのは生身と宝貝の混在する身体。
継ぎ接ぎのような自分の身体を見るたびに道行天尊はため息をこぼした。
「まぁ、いずれはナタクたちみたいにより人間に近いように改良はしていくよ。
とりあえずそこの診察台に横になってくれるかな」
言われるままに道行天尊は身体を横たえた。
かちゃかちゃと器具の擦れる音。
左足に感じる熱さ。
太乙真人は損傷部の宝貝を的確に交換していく。
「他に調子の悪いところは?」
「これといっては……」
「少し、診察してみようか」
「いや、いい……」
起き上がろうとする道行の手首を捻り上げ、手枷を取り付ける。
もちろんただの手枷では無い。
太乙真人特製の「仙気」を封じ込める手枷だ。
「太乙!!」
後ろ手に縛られ、道行は顔だけで太乙を睨み付ける。
「いい眺めだね〜。さすがはかつて十二仙を翻弄した仙女だけある」
現在の崑崙十二仙になったのは比較的最近のことだった。
前時代から道行は十二仙に名を連ねており竜吉公主と同様にその可憐さを歌われていた。
しかし、十二仙も入れ替わり道行も深手を負ってからは人前に姿を出すことは少なくなり、
道行の素顔を知るのは前時代からの十二仙と原始天尊、弟子達、そしてこの太乙のみであった。
「やめんか!この変態!!」
「……よく言ったね、道行天尊。この体勢で」
仰向けに寝かされ、両手は後ろ手に拘束されている。
どう足掻いても形勢は不利以外の何でもない。
不適に笑い、太乙真人は道行天尊の身体に指を置いた。
「さて、診察しよっか。問診はさっきしたから今度は触診ね」
金属と肉が同居するこの身体は、見るものが見れば罵声を浴びせるだろう。
たが、太乙真人にとっては醜美が一体となった道行天尊の身体は一つの理想系でもあった。
且つ、自分が手を加えるこが出来たという一種の満足感。
「私は気の強い女性(ヒト)が好きなんだよね……道行」
道行天尊の身体を掠めるように指先が動く。
抵抗しようとしてもがく腕ががちゃがちゃと手枷を鳴らした。
豊満まではいかないが、形と弾力の良い乳房を包むように揉まれ、道行はきつく目を閉じた。
つんと上を向いた乳首を吸われ、震える身体。
「……感じちゃった?君の嫌いな変態道士に触られてるのに……?」
目尻に降る唇。
嫌だと頭を振るが太乙真人は気にも留めずに執拗に胸への愛撫を繰り返す。
乳房の下側を舐め上げて、甘く噛む。
「……やめ…っ……」
言葉とは裏腹に身体の熱さは増していく。
太乙の舌が動くたびに奥の方が疼いていく感覚。
防護服の下に手をかけると、一気に引き抜く。
外気に晒される感覚に道行は身体を捩った。
「こっちは……どうかな?」
しっとりと濡れた秘所に指を入れると、ぬるぬるとした愛液が太乙の指を伝っていく。
「胸だけで感じたの?道行もイケナイ人だね」
「…っ……」
真っ赤になった顔と強気な瞳。
満足気に太乙は道行の唇を奪う。
舌を吸って、唇を甘く噛むと銀糸が二人を繋いだ。
指を奥まで入れてかき回すとくちゅくちゅという音と、とろりとした体液が止め処なく零れていく。
「…は……ぅ……っ……」
濡れた指先が肉芽に触れると道行の身体がびくんとはねた。
「我慢してないで素直に声を出したほうがいいんじゃないかな?道行」
太乙は尚も責め上げる。
そして、おもむろに取り出した軟膏のような物を道行の秘部に塗りこんだ。
「どこまでその意地、通せるかな?」
「!!!」
奥まったところから生まれる熱さ。
太乙の指を締め付け、道行の身体は刺激を「もっと」と求める。
焦らすように入り口の所で摩るように太乙は指を動かす。
「あ……んっ…!!…やめ……っ!!」
人差し指と中指が肉壁を擦り親指は敏感になりすぎた肉芽を責めていく。
舌と唇は乳首を舐め上げ、時折歯を立てる。
「ひあっ!!!……あっ!……あぅん!!!」
「そんなにいい?私に触られるのが」
「ひゃあんっ!!!!!」
指が増やされ、道行は喘ぎながらも太乙を睨んだ。
大きく脚を開かされ、道行の顔が羞恥に染まる。
肉の内側を舌が嬲り、唇が荒々しく吸い上げた。
「や…っ…あああああああっ!!!!」
絶頂に達してだらりと力の抜けた身体。
その身体を抱き起こして太乙真人は自分の下腹部の上に乗せた。
ちょうど後ろから抱きしめるような格好だ。
「……?……太…乙……?」
不穏な指の動きに道行は少しとろんとした瞳で太乙のほうを見る。
秘部に塗られた軟膏を器から掬い取り、太乙はそれを道行の菊座に塗りこんだ。
「やめっ!!…この……変態仙人!!!!」
思いつく限りの罵声を道行は太乙に浴びせた。
「そう。変態だから普通のことには興味がないのさ」
慣れない部分を慣らすために最初は指を一本だけ挿入させる。
少し解れてくる度に太乙はその指を増やしていく。
「…やぁ…ぅ……」
必死に零れる声を唇を噛んで道行は殺す。
それでも秘所から零れる体液は太乙の指と道衣を濡らしていく。
「こんなに濡れてるよ……道行」
意地悪く耳元で囁く。
そしてその光る液を指に絡めて後ろを刺激していった。
「もう……いいかな……」
半ば放心状態の道行を現実に引き戻したのは太乙の侵入だった。
「ああああああっっ!!!!!」
媚薬と太乙によってほぐされた後穴はいとも簡単に太乙を受け入れた。
巻き毛が切なそうに揺れてる様が太乙の暗い部分を刺激する。
「あっ……はぁん!!…いや…あ…っ!!」
「後ろでも感じちゃう?」
浮き出た汗と、溢れる涙。
「でも……こっちにも欲しいでしょ?」
唇だけで笑い太乙は傍らに会った袋からそれを取り出す。
男性器によく似た形のそれは何かの宝貝なのか振動していた。
「ちょ……待てっ……」
「だぁめ。変態とか傷つくこと沢山言われたからね……」
後ろで繋がったまま太乙はそれを濡れそぼった道行の秘所に差し込んだ。
「!!!!!!!」
今まで感じたことの無い様な刺激が一気に脊髄を走り、脳内麻薬を活性化させる。
薄皮を通じて擦れ合う感覚が道行を追い詰めた。
「や…嫌ぁ……!!!」
ぎゅっと胸を掴まれ、道行の膝が震える。
がちゃがちゃと手枷がもどかしく動く。
性感帯全てを刺激され、何度も絶頂を向かえ、そのたびに太乙は道行の唇を甘く噛んだ。
「ああぁっ!!!だ…め……っ!!!」
何度目かの絶頂を迎えたとき、太乙も道行の奥に白濁を放った。





「そんなに怒らなくてもいいじゃない」
むすっとしてそっぽを向いたままの道行の身体を自分のほうに向けさせる。
枷の外された手首は少し赤くなっていた。
(ちょっといじめ過ぎちゃったかな……)
太乙真人が初めて道行を見たのは瀕死の重体のときだった。
無残に千切れた手足と砕けて骨の見えた肩。
腹部はざっくりと切り裂かれ、生きていることが不思議ですらあった。
腐蝕の始まってしまった右手の数本の指と左足を切断して、宝貝合金の義手と義足を植えつける。
潰れてしまった左目の代わりに同じ栗色の宝貝の義眼。
砕けた骨も修復可能なところは自分に出来る限りの治療を施した。
噂に聞いていた美女は無残な姿を太乙に晒した。
宝貝が定着するまでの間、太乙は研究もかねて道行に付き添っていた。
そして、彼女に聞いたのだ。
「そんな姿になってもまだ、生きていたいか?」と。
そして道行は間髪入れずに答えたのだ。
「生きていたい」と。
生命力と意志の強さ。そしてその精神力は十二仙という立場を如実に現す。
かつて亜麻色の髪をなびかせながら華麗に戦った姿が太乙の脳裏に浮かんだ。
(色んなことがあったよね、道行)
波打つその髪を指に絡める。
「……触るな変態……」
「その変態に抱かれてさっきあんなに喜んでたのは誰よ」
そう言われ道行は言葉を止める。
赤くなった手首に唇を落とし、道行の髪にも唇を降らしていく。
「今度は繋ぎ目が分からないような宝貝を使おうか」
「……いや、わしはこのままでかまわんよ。今のところ不自由はそんなに無いからな」
少しだけ、見せる微笑。
それはかつて歌われた通りに可憐なものだった。
「それに……ここに来る理由もなくなるからな……」
「え……今なんて……」
道行はまた顔を背ける。
「ねぇ、もう一回言ってよ。道行」
「何度も同じこというとまたお前に年寄りと言われるからな」
皮肉たっぷりの声はいつもの道行天尊だった。




「おお、普賢ではないか。久しいな」
防護服に身を包み、道行は散歩中の普賢に声をかける。
「道行、お久しぶり。これから道徳の所にいくんだけれども一緒にどう?」
対極府印を手に普賢は宙を漂う道行と連れ立って歩く。
日差しの暖かさに道行はヘッドギアを外す。
亜麻色の巻き毛が風になびく。
「いい天気じゃのう」
「うん」
普賢よりもずっと大人びた顔つき。
「あ、太乙の所にいるみたいだね」
太極府印を撫でながら二人は世間話をしながら乾元山に足を運んだ。
いつもように道徳と太乙は何かで言い争ったのか掴み合いをしている。
「阿保二人が……」
ふよふよと漂いながら道行は二人の間に入り込む。
「止めぬか。おぬしらは十二仙なのだぞ。弟子たちが見たらどう思うか……」
「太乙、こちらのかたは?」
道行はきょとんとした顔。
「ああ、そうであったな。道徳。わしじゃ、道行天尊じゃよ」
「なっ!!??道行!?」
慌てふためく道徳真君を普賢真人が宥める。
「普賢は知ってたのか?」
「顔を見たのはさっきが初めてだけども」
普賢真人は元々外面に取られることは無い性分である。
「ちょうど良い、今度の十二仙の定例会は顔出しで行くことにするか」
「ダメっ!!!絶対にダメ!!!」
手を掴み、太乙は自分の後ろに隠すように道行を引っ張った。
「……人のこと笑えない立場見たいだな。太乙」
「〜〜〜〜〜〜っ」
「離さんか、変態が」
普賢はその光景をみながらただ笑っている。


崑崙山は今日も平和である。



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