◆牧野の戦い―生まれ来るもの―◆



王座に腰を下ろして、少女は薄布を軽く纏う。
その細くしなやかな足首に接吻するのは一人の男。
「望みは何だ?余にできぬ事などないぞ」
愛しげにその指を口に含む。
恍惚とした男の表情(かお)などには目もくれず、少女は小さく嘲笑した。
「ならば……あの忌々しい女狐を始末してくださいませ。紂王陛下」
闇の中に響くのは荒い息の音だけ。
それは少女の復讐劇の終焉の鐘音。



差し出された少女はみすぼらしい佇まいではあったが、瞳には小さな光が宿っていた。
両手の自由は枷に奪われても、決して視線をそむけない何か。
姜族最後の生き残りの少女は唯一つだけの決意を持って、男のところに来たのだ。
その胸の内は誰にも告げることなく。
憎しみは時に理性をも変えてくれる。
何にも揺らぐことのない精神として幼い少女の核として着実に構成された。
それを欠片も漏らさずに、億尾に出すこともなく。




日に日に少女はその頭角を現していく。
侍女たちに教えられた性技はその復讐心をより掻き立てていった。
「明日にでも紂王様から夜伽を命じられるでしょうね」
「ええ……この日をずっと待っておりましたから……」
唇を拭って、その笑みを隠す。少女はその微笑一つでこの国を滅ぼそうとして。
己の体にその価値を見出せれば、この復讐は成り立つと宮中に入ることを決意したのだ。
目的はただ一つ。
皇后妲己を討ち取るため。





紂王の寵愛を一身に受ける日々。
少女の元へと通う回数が増えるほどに、妲己との逢瀬は減っていく。
傾国の美貌と歌われた女にとって、田舎の少女の寝取られたのは恥も大恥。
扇の下で唇を噛んで、どうしてやろうかとその血を舐めた。
(わらわの誘惑で、あの子もわらわのものにしてしまえばいいのよ……牝犬に相応しい
 調教をしてあげるわ……)
傾世元禳をはためかせれば、どんなものでも女に傅く。
それが破られることは本来ないに等しい。
「こんにちは、御機嫌は?」
「……皇后様……御機嫌麗しゅうございます……」
しずしずと頭を深く下げ、少女は女に礼を取る。
この後宮において妲己の力に逆らえるものなどはいない。
この少女も例外なくそうだった。
「よかったら妾と遊びましょ。同じ後宮に住まうもの同士」
目論見がかなっても、少女はそれを隠して困惑した振りをする。
「皇后様とは身分が違いすぎます……私などではお相手は……」
「何言ってるのかしらぁん?わらわが良いって言ってるのよ、さ、遊びましょう」
手を取って少女を導く。その少女が昏笑みを浮かべていることなど知らずに。
策士は一つの策で三つの効果を生み出す。しかしながら、この少女の精神はそんなものすら超越していた。
女が自分を誘い出すことをも知っていたのだから。
「どちらへ…………」
困惑顔の少女に、女は穏やかに微笑む。
「妾のお部屋よ。取っても楽しいことが待ってるわ」





蟲の羽音が擦り合う様な音が、室内に響き渡る。
「…ぅん!!ふぁ……ァ!!」
陰唇を開かせて、しっかりと淫具を咥え込まされた少女の身体が闇の中にぼんやりと浮かび上がる。
皮の首輪の一端に繋がれた鎖を、女はじゃらじゃらと鳴らした。
「……皇后…さまぁ……っ!!……ああっっ!!」
「そんなに気持ちいい?」
「……望の……中……んぅ!!ああんっっ!!」
薄弱の振りをして、どこまで正常でいられるだろうか?
流れないように噛んだ唇から毀れる真っ赤な涙。
「ひゃぅんっ!!ぅあぁ!!」
幾重にも繋がった数珠球がこぽり、こぽり、と引き出される。
前後を同時に攻められて細い体躯が弓なりにって乱れた。
金具の先に指をかけて一気に数珠玉を引き抜けば崩れ落ちる身体。
汗と愛液に塗れた少女人形が転がるだけ。
蹂躙は終わることなく続き、何度意識を失ってもそのたびに己が身に加えられる刺激で目を覚ます。
「気持ち良いでしょ?これからはずっと、これをつけて生活するのよ」
前後にしっかりと銜え込まされた淫具。
「紂王様にお出しするのに恥ずかしくないようにしなくちゃね」
塞がれる唇と飲み込まされる甘い液体。
導かれるままに女の体に舌を這わせる。
「そうよ……もっと上手にならないと……」
ぴちゃぴちゃと犬が舐めるかのように幼い舌先が女の陰唇を舐め嬲る。
媚肉、肉芽、襞の一つ一つ。
零れてくる体液を啜り上げて尚も舌を蠢かせる。
(……女狐が……笑っているがいい……)
元来の策士はどちらだったのだろうか。
ただひとつだけの復讐と言う感情を少女は美しく育てていく。
それはまるで花が咲き乱れる有様。




憎しみを織り上げてその血で赤く染め上げた。
前後の穴を犯されながら男の陽根咥え込む。
舌先で鈴口を攻めながら幼さの残る指先が太茎を扱く様。
ぬらぬらと光る体液を絡ませた二本の肉棒が容赦なく突き上げる。
「皇后様のご命令だからならぁ」
「ああ、妲己様のご命令には逆らえないよな」
下卑た笑いを浮かべる男たち。
入れ替わり立ち代り何人もの男が少女を犯した。
膣内に絶えずあふれる見知らぬ男の汚れた体液。
どろろと零れて床を濡らして行く。
赤黒い肉棒が突き上げるたびに細身の体がぎりぎりと軋み喘ぐ。
口腔を犯すそれが勢い良く弾けるたびに飲み込まされる精液にも慣れてきた。
頬に、口に、乳房に、膣内に。
あらゆる場所に吐き出される欲望。
「う、あ……んぁ!!」
黒髪に放出された白濁。
(何とか……この者達を味方につけられれば……)
毎晩自分を抱きに来る男たちに少女は従順な振りをした。
密やかに交わされる一言二言。
その声に男たちは淡い恋を抱くようになる。
誘惑の色香よりも強烈な少女の肉体の魔力。
「待っておりました」
傅かれ奉仕されれば悪く思う男はいない。
まして相手は姜族の正当なる統領の血を持つ女。
強請ることはほんの些細なこと。
「ここに……挿入れてくださいませ……」
男たちがどうすれば満足するのかも。
皇后がどんな痴態を望むのかも。
彼女にとっては察するに容易だった。
少女がよがり狂う様を見ながらの肉の宴が皇后にとっての楽しみ。
自慰を強要されても、輪姦されても少女はもはや何も感じなかった。
最後に待ち受ける男だけを一人で見つめるその瞳に宿った光。
幕開けを数えながら愉悦の笑みを小さく浮かべた。





「紂王陛下、呂望にございます」
少女の声に男がそっと招き寄せる。
後宮からここまで昇るのにどれだけの男と寝ただろうか。
背中を抱かれて重なる唇。
そっと薄目をすれば男は瞳を閉じて自分の夜着を落とすことに夢中になっている。
従う振りももう慣れた。
絡まる舌先を受けながら同じように返す。
「紂王様、愛しい御方……」
蛭のように乳首に吸い付くせわしない唇。
腰を抱かれて上ずった声で何度か男の名を呼ぶ。
嘘を吐くことに罪悪感など存在はしない。
後悔と贖罪で大切なものは帰ってきはしないのだから。
この体だけが大事な武器。この心だけは誰にも犯させない。
「望みは何かあるのか?望や」
紂王の望むままに少女はその体を開いた。
覚えこんだ娼妓は男をとりこにするには十分すぎて毎晩彼女は欧の寝室を訪れることとなる。
妲己が淫具で前後の穴を弄び、少女は男根を丹念に舐め嬲っていく。
幼さの残る顔が隠微に微笑み嬉しげに亀頭に舌を這わせるその様。
饗宴は終わることなく。
「紂王様」
羽衣を裸体に纏って玉座の男に跨る姿。
陰唇を指先で広げて男の太茎を膣口に当てて飲み込む。
小さな呻きと震え、悶え出す柳腰の美しさ。
「あ……ア!!あ、うぅんっ!!」
「ははは……随分と可愛い声をあげるようになったな。望」
上目で男を見上げて。
「意地悪なお方です……紂王様が望を斯様に……」
純潔を汚す喜びに男は魅入られた。
ついには皇后を抱くことなどよりも少女を手元に置くことを選ぶほどに。
元より人間に愛情などのない仙女にとっては面倒な伽がなくなり好都合と享楽に溺れる。
少女の計画など何も知らずに。
「何が望みだ?お前を正室にすることでも……」
「いいえ、紂王様……望がそのようなこと……ただ紂王様の御傍に居られればそれで……」
摺り寄せられる頬の甘さ。
柔らかな体を陵辱していく男の白濁。
「一つ、見たいものがございます……紂王様」
唇が重なって少女は恋人にするような手つきで男の背に腕を回した。
「何だ?申してみよ」
「はい」





捕らえられたのは王妃その人。
罪人に対するような扱いはその二人の妹姫にも。
「紂王様、わらわが何か粗相をいたしましたか?」
手枷足枷など本来は仙道には通用しない。
しかし少女が職人たちに作らせたのは仙気封じの枷。
彼女は王妃たちが人間ではないことを知っていたのだ。
「望がな、お前たちが人間では無いと言うのだ。どうなのだ妲己よ」
「まさか。わらわは蘇護の娘。それは紂王様が一番にしってらっしゃいますわ」
王妃の声に幕の裏から少女が姿を現す。
金の冠に青い衣。銀の刺繍が告げる統領の証。
「ええ。その蘇護がわが娘はもはや娘ではない。人間ではなくなったと呟いておりますゆえ……まずはそちらの
 妹妃。王貴人から切り裂いてみましょう、紂王様」
男の腕に自分のそれを絡ませて視線を合わせる。
「紂王様、貴人は我が妹……そのようなことは……」
「紂王様。望の一族は悪戯な拷問でみな散りました。しかるに、王妃の妹一人の命は望が
 貰い受けてもなんら不都合な取引ではないでしょう?」
掛かる吐息に男は思わず頷く。
誘惑は術ではなく天然の色香であるほどに抜けにくい。
「幸いにして望は剣舞を習得しております。ここに剣を!!」
刀鍛治が差し出す長剣を受け取り一振り。
「さて、本当に人間ならば血の海になりましょう」
一線、走る光。
悲鳴と共に女の体が光り、収まった果てに現れたのは一体の石琵琶。
挙がるざわめき等無いように少女は琵琶を掴む。
「何をする気!?」
「斯様な恐ろしいものを紂王様の前には置けませんわ」
振り上げて渾身の力で床に叩き付ける。
響き渡る断末魔の声に王妃は血の気を失った。
「紂王様!!三姉妹ならばこの姫君も人間ではございませぬ!!」
凛とした声と血塗れた剣。
「ええい、妖怪が!!紂王様の命を狙う不届きもの!!」
胡喜媚の喉笛を突き刺せばその体が雉へと変わり行く。
控えていた衛兵が瞬時にして雉を槍玉に挙げた。
「さて、この王妃……数千年を生きる狐と聞きました。これは取って置きにいたしましょう。
 望に良い考えがございます」
王妃の抵抗は虚しく空を掴むだけ。
彼女をとりこ囲むのはかつてその誘惑の術で支配していた男たち。
全員が少女と寝たことのある男たちだけ。
「鎖を切りなさい」
枷を繋ぐ鎖が槍先で切断される。
「皆様、その美しい女を抱いてみたくはございませんか?」
少女は決して傲慢な言葉など使わなかった。
すべてを計算して上りつめる為に。
「さあ、お好きになさってください。腹を裂いて見るもよし、口を犯すもよし……
 皆様のお好きなように。好色な王妃様にはもっとも嬉しい処刑でしょうに」
その言葉を合図にでもしたかのように男たちは一斉に女に飛びついた。
「いやぁぁあああああ!!!!」
逃げられないように足の腱を切りつけられる。
胸を掴む手、せわしなく挿入される男根は前後両方に。
「口をあけろよ!!」
「手を休ませていいって誰が言った!?」
全身を精液に犯されながら休み無く続く陵辱。
銜え込んだ淫穴からは体液があふれ出す。
「紂王様、お願いがございます」
「望…………」
「あの狐、この城すべての男の慰みものにしとうございます」




石牢に閉じ込められた裸の女。
「ごきげんよう、妲己さま」
「……呂望ちゃん……何が望み?わらわは確かに人間ではないわ。あなたの望みなんか
 なんだってかなえられるのよ」
取引を持ちかけられて少女はくすくすと笑った。
女の手足には枷がしっかりとはめられ、石牢に封じられている間も淫具が忙しなくその体を
攻め続けている。
「あなたが人間ではないことを教えてくださった方がいましたの。望みはその方がかなえて
 くださいますわ。元よりも私にもこの国など興味はございません。一族を失った私に
 どうしてこの国を、あなたを許せましょうか」
少女の影に重なるもう一つのそれ。
「!!」
「申公豹さま。このような空気の悪いところへ……」
駆け寄る少女の背を抱いて唇が重なり合う。
「おや妲己、良い格好ですね」
「……申公豹ちゃん……」
「望。東国でも西国でもどこにでもいけますよ。桃源郷にでも」




浮かぶ汗を拭い去って女は目を閉じた。
毎晩のように繰り返されるもう一つの歴史の夢。
運命は喉を押さえその首を締め付ける。
(太公望ちゃん…………もうすぐ会えるわね…………)
吹き荒れるのは嵐。
その季節は―――――――――闇色の春。






22:13 2007/06/11

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