◆君が好きだと叫んでみようか?SIDE after◆





普賢の手を取りながら、まだ収まらない怒りに曇る表情。
「ねぇ、そんな怖い顔しないで」
「誰のせいだと思ってるんだよ」
それでも愛しいと思ってしまうのは惚れた弱み。先に好きだといってしまった自分が負けだと痛感する。
すれ違う男たちが投げてくる視線を牽制しながら下山させるべきではなかったと頭を抱えた。
「痛い。離して」
手首を強く引かれてちりり、と痛みが走った。
どこに居ても灰白の髪は目を引くらしく、自分が一緒でも声をかけてくる不貞の輩は後を絶たない。
そのたびに追い払ってはいらない心労を重ねるのだ。
「ね、機嫌直して。折角こうしてこんなところにいるんだもの」
久々の下山に彼女は嬉しそうに笑う。
確かになんだかんだと理由を付けて下山をさせなかった自分にも少し非がある。
優しく指を絡めて、繋ぎ直すと普賢は小さく笑った。
「ボク、西の方に来るの初めて。北の方の出だから」
「ここは結構大きな街だからな。見聞にはもってこいだ」
きょろきょろと周りを見ながら並ぶ店先を覗いたりと急がしそうに目を動かす姿。
自分とは違って滅多なことでは崑崙から出ることは無い彼女にとっては見るもの全てが珍しく、興味に溢れていた。
「ね、向こうの方も行ってみたい」
嬉しそうに笑う顔はまだ、子供で。時折見せるそんな表情が胸を締め付ける。
その子供に手をかけたのは自分。そしてここまで開花させたのも紛れも無く自分なのだ。
(玉鼎に攫われるのだけは嫌だったんだよ……)
「どうしたの?」
自分たちが仙人だと言う事を知るものはここには居ない。
「いや、何でもないよ」
繋いだ手を離さないように、この手だけは離さないように。
「道徳も西の出身なの?」
「いや、俺は東。まぁ、もう生まれた場所もはっきりはしないしな。どんな風に変わったのかも見てないし」
「ボクも……もう、誰も居ないしね……」
懐かしむべき人も、場所も、何もかもが一瞬にして奪われた。
同じように全てを失った友の力になるために必死になって功夫を積んだ。
結果、異例の速さで仙号を手にしてあまつさえも師表十二仙に在するまでに。
「すまない。思い出させた……」
「気にしないで。それよりも、あっちも見たい」
手を引かれて、今だけは自分たちが仙道であることを捨ててしまおう。
何軒かを覗いて、少し休もうかと思っていた矢先だった。
「!!」
「うわわわ!!!ご、ご、ごめんなさいっっ!!!」
水桶を手に水撒きをしていた少年は余程ぼんやりしていたのだろう。
前を通り過ぎる二人に頭から冷水を力一杯かけてしまったのだ。
ぐっしょりと濡れた髪を摘みながら普賢は「気にしないで」と笑うだけ。
「と、とにかく、服だけでも弁償いたしますので!!」
あれこれと迷って選んだのは紫紺の長衣。白や淡い色を好む普賢にしては珍しい選択だった。
前垂れには南天と鳳凰の刺繍が入った中々に豪華な品物だ。
「変かな……」
「いや。似合うよ……でも俺は丈が短い方がす……あだだだだっ!!」
手の甲を抓られて、赤くなったそこを摩る。
「知らない。そんな人」
再度奥の方に消えていって、今度は出てくる気配が無い。
(やばいな……怒らせちゃったかな……)
半刻ほど待たされて、出てきた姿はため息交じりで見とれるしかなかった。
先ほど見ていた長衣と同じ柄の短衣に着替えた姿。
両脇に入った切れ込みからは白い腿が覗いている。
「これで……機嫌直った?」
恥ずかしそうに少し頬を染めて上目で見上げてくる。
(これは……俺にどうしろと!!どーもこーもかなりいいんですけども……)
ここで自分が「直った」と素直に言えばことは丸く収まるはずだった。
だが、武王姫発に加担して自分と対峙した時の顔が忘れられない。
「……ちょっと不満は残ってるかな……」
足を踏み出すたびにしゃらんと足輪の擦れる音。
(いい演出を……)
「や!」
普賢を軽々と抱き上げて道徳真君はにやりと笑う。
「お互い人間に戻るなんてそうそうないだろ?」
「な、何……?」
「服が乾くまでちょっと出かけてくるよ。いいかな」
「ええ、構いませんよ。こちらこそすいませんでした……」
見送られて彼は上機嫌。抱かれている彼女は不貞腐れた顔で従うしかなかった。






「さて……と、どうしましょうかねぇ?」
どさりと寝台に降ろされて普賢は憮然とした表情になる。
(なんで情宿なんかの場所知ってるわけ……)
触れてくる手をぱしんと払いのける。
「なんでこんなとこ知ってるの?」
「ここの軍師が誰かはお前もよーく知ってるとは思うけど。その軍師の性癖も」
「望ちゃんを愚弄しないで」
もう一度手を伸ばす。振り払われず肩に触れて、静かに下げて袷を解く。
そのまま体重を掛けると素直に倒されて。
「珍しく素直だな」
「別に」
人間に戻っている以上、宝貝は使えない。
かといって力で勝てる相手でもない。それに加えて僅かばかりの罪悪感はある。
「……あ……んっ……」
「まだちょっと俺だって傷付いてるんだけど」
取り出したのは愛用の髪帯(ヘアバンド)。両手首を捻って縛り上げる。
「やだ!!解いて!!」
「却下」
頭上で縛られた両手はただ宙を掴むだけ。
もがく指先取って一本ずつ舐め上げる。ぴちゃり…と耳に響く音。
薄い爪を軽く噛んで、関節に唇を当てる。
「こんなの嫌。解いて」
睨んでくる瞳。
「そんな恐い顔するなよ」
薄い布で今度は目隠しを。視界は遮られて光の無い世界に変わった。





唇が触れるたびに身体がびくり、と反応する。
焦らすように舌先で鎖骨をなぞって、細い腰に指を這わせた。
少し浮き出た腰骨を軽く突付くと甘く悲鳴が上がる。
「…っは……や……ぁ……」
抵抗しようにも手は拘束されてままならない。
「あんっ!!」
きりり……と乳房を噛まれる。唇はそのまま痣を作りながらつん、と上を向いた乳首を嬲っていく。
ぴちゃりと舐められるたびに震える身体。
「……ぅ……んっ!……」
唇はそのまま身体の線をなぞりながらゆっくりと下がっていく。
時折軽く噛み付いては自分の痕跡を残しながら。
「やっ!!あ!!あんっ!!」
かりり……。腰骨を噛まれて上がる嬌声。唇が触れて、離れる。
その度に彼女は「やめて」と懇願した。
「っは……や……ぁ…!……」
執拗に舐め嬲られてびくびくと肩が震えた。もどかしげに指が空気を掴む。
(意外なとこが弱いんだよな……)
顎を押さえて、唇を合わせる。絡ませた舌先が言葉よりも饒舌だ。
少し強めに吸い上げて、深く重ねて。離れ際、唇を舐めれば吐息がかかる。
膝を折って、身体を曲げさせて指先を掠めるように濡れた秘所に這わせると妖しげに腰が誘って。
焦らしながら、触れては離れる。
「今、どんな格好させられてるかわかるか?」
つぷ……と人差し指が沈んでいく。
「や……」
「見えない分だけ、余計に感じるだろ?神経が過敏になってさ」
引き抜いて、その上の突起を軽く擦り上げる。
「ああっ!!!や……やんっ!!!」
「嫌?分かりやすい嘘だよな」
竦む肩に噛み付いて、小さな歯型を残す。
「あああっ!!!」
内側で動く指は、数を増やしながら奥へと入り込む。ぐ…と押上げると指を締め上げる感触。
根元まで沈めてゆっくりと動かす。
「……ひ…ぅ……っあ!!」
ひくつく肢体と、汗ばむ肌。
溢れた体液がぬるぬると指を伝って零れ落ちる。
「やだ!やめてっ!!」
締まった足首から踝へ。唇はそのまま指にそっと触れていく。
「あ、んっ!!」
ぴちゃ…と舐められて喘ぐ姿。細い脹脛を舌先が這い回ればその度に普賢の声が震えた。
(もう……いいかな。そろそろ俺も限界……)
腿に指を沈めて、脚を開かせる。
「!!」
打ち付けられる感触に身体は未だに強張り、逃げ腰になってしまう。
「……ふ……あ……っ……!……」
腰を抱き上げて、より奥に。
敷布に触れる肩が火照って赤く染まっていく。
「なぁ……俺たち今『お互い』人間に戻ってるって分かってるか?」
「……?……」
薄い唇は乾いて、端から涎が零れて扇情的。
舐め上げて唇を合わせてそのまま強く腰を抱き寄せる。
「!!!」
塞がれた唇から零れるはずの声は飲み込まれて、僅かに残る自由と指は敷布を掴む。
「今だったら……子供の一人くらいは……できるかもな」
「や……やだ!!ダメっ……!」
「駄目?何でだよ」
頭を抱え込んで、括れた腰を掴む手に力を入れる。
受け入れられることはあっても、拒絶される所以は無かったはずだ。
「……ひ…ぁ……!!…っ…ダ…メぇ……っ!!」
耳に響くのはぐちゅぐちゅといった絡まる淫音と荒い息だけ。
「じゃあ、普賢がいつも俺に言ってるのは嘘だってことか?」
「……ちが……あっ!!」
耳朶を噛まれてその周辺を舐められる。息を吹きかけられてびくんと跳ねる身体を抱いて押さえ込む。
「だったら困ることなんて無いだろ?」
口で目隠しをずるりと落として、目尻に接吻を落として。
「……だって……ずっと人間(ひと)でいられるわけじゃないもの……」
仮に、今ここで子供を授かったとしても。
数刻後にその命は己の身体の中で消滅する。
「そんなの……嫌だよ……っ……」
縛り上げた手を自由にして、赤く擦れた手首に唇を這わせた。
「……んんっ…!」
手を伸ばして男の背中を抱いて、脚を絡ませる。
「……普賢……」
瞼に落とされる唇。
「あ!!っあ…ん!!!」
ずい、と引き寄せられて崩れそうな身体を抱かれる。
自分の内側で脈打つ男を感じて、離れないように肌を合わせた。
「っは……やあっ!……ん!!」
濡れた指でくっと肉芽を擦り上げると締め付けがきつくなる。
(ちょっとばかり、苛めすぎたかな……)
「……あっ!!やんっ!」
しゃらん……足輪が揺れて涼しげに鳴く。
密室は饒舌で、空気の流れさえ甘く重く沈むから心地良い。
(そういや、結構無理な格好ばかりさせてるな……俺……)
ぐ…と奥まで沈めると、しがみ付く手に力が入るのが分かった。
「あああああっ!!!」
「……っ…普賢……」
絡まったまま、堕ちていけるのならどこまでも堕ちよう。
この世界の終わる所まで。




汗ばんだ背中が敷布に沈んでひんやりとした感触に肌が震えた。
「……重いからどいて……」
「いや、どーせなら抜かずの二発を……」
言い終わる前に軽く頬を叩かれる。
「バカな事言ってないで。道徳、自分の体重分かってないでしょ。圧死させるつもり?」
「服下死の間違いじゃないのか?」
今度は耳を引っ張られる。
「あだだだだだだっ!!」
「重いから、どいて。ね?」
言われて渋々と身体を離す。
「……んっ……」
引き抜かれる感覚と零れる体液の感触はまだ熱い身体には刺激になるばかり。
身体を起こして、後ろから普賢を抱きしめる。
「何?」
「いや……だからさ、運が良かったら俺らにも子供が出来るわけじゃないか」
「そうだね。それか長期間両方、若しくは片方が人間になれば可能性はもっとあがるかな」
言葉にするのは簡単だが、現実問題としては困難なことばかりだ。
仮に二人揃って一時的とはいえ人間に戻る事となれば自分たちだけの問題ではなく崑崙の問題になる。
そんなには甘くない立場に揃って名を置いているのだ。
「あなたの子供はきっとうるさい位に元気だと思うよ」
「俺は男は要らんぞ。絶対に取り合いになる」
大きな手を取って、彼女はそれを自分の頬に当てる。
「取り合い?」
「お前の」
「やだ。そんなこと考えるんだ。意外」
膝を立てて、すい、と足を伸ばす。
「気長に待てば、そのうち降ってくるかもしれないよね」
もしも、そんな奇跡が起こりうるならば。
もう、これ以上この運命を憎むことはしないから。
「本当はさ……あの薬の効果は切れてるんだ……」
「みたいだね。仙気が戻ってるもの。いくらボクでも分かるよ」
おもむろに振り向いて彼女は彼を敷布に倒す。
「ふ、普賢?」
自分の上に身体を重ねる姿。
「作ろっか……子供」
誰も来ない安心感からか、普賢はそんなことを言う。
「なんだか急に欲しくなっちゃった」
少し、恥ずかしそうに笑って額に唇を落としてくる。
(それは……子供がですか?それとも……俺がですか?)
キミに降る悲しいことを、少しでいいから分けてください。
ボクにとっての嬉しいことと引き換えに。
「道徳とボクの血が半々って、面白いと思うんだけどね」
「そうだな。俺も、お前が膨れた腹さすってる所見たいって思うし」
それは夢。小さな小さな幻。
「大好き……」
その強さも、隠しがちな弱さも、全てこの手の中に抱いて。
あなたを守るためならば少しくらいの傷は厭わない。
今、ここに、こうして同じ時間を共有していられるということが何よりも。
愛しくて、幸福だと思えるから……。




「結局両方貰っちゃったね」
城までの帰り道、紙袋を抱えて普賢は笑う。
襟刳りから覗く白い肩を夕焼けがほんのりと染め上げる。
その肩を抱くと凭れるように寄り添ってきた。
「良かったら、これ付けてみてくれないか?」
碧石の中には泳ぐ小さな魚の細工。
「ありがとう。嬉しい」
人の中に紛れてしまえば、楽に生きられる。それでも、自分たちが人ではないことは変えられない。
飾り気の無い彼女を彩ることが出来るようにと、時間を見てはあれこれと捜した。
何が好きで、どんなのが喜ぶのか。そんなことを考えて自分の足で走り回った。
「これからさ、ちょっとずつ一緒に下山できたら、いいよな……」
「来ても良いの?」
「俺と一緒なら」
人込みと雑踏の中、抱きしめて口付けた。
「……やだ……」
「したかったから、した。こうやって、人のように居られればお前が楽になれるから……」
「……ん……ボクが人間のままだったら、道徳に会うことも、こんなことも出来なかったよ。
楽になれるのもいいけども、苦しくても、あなたが手を貸してくれるんでしょ?だったら……苦しくてもいい……」
伸びた影が二つ並んで。
不器用なキミは弱さを出さないけれども、時折見せる憂い顔が教えてくれるから。
「今日、戻るのは無理だよねぇ」
「そうだな。どっちにしろ夜間飛行は危険だ」
ここに、キミがこうして生きていてくれることだけでも、それだけでもシアワセと言えるのだから。





とっぷりと日も暮れてから、宮中に戻る。
冷やかされながら少し遅い夕食をとって割り当てられた部屋に身を置いた。
「色々あって疲れちゃった……」
寝台にころりと寝転がって、普賢はそんなことを呟いた。
見慣れない室内は勝手が違って落ち着かない。
「俺はお前とあちこち見れて楽しかったけどな」
「んー……楽しかったね」
さわさわと頭を撫でられて普賢は目を閉じる。
「眠くなっちゃった……」
とろんとした瞳。夜着の袷はほんのりとはだけて細い鎖骨が見え隠れ。
(本心言っちゃえば寝かせたくないよな……でも、寝かせてやるのが愛だよなぁ……)
頬に触れていた手を取ってぱくり、と咥える。
(うわわわわ……お前眠いんじゃなかったのかよ)
ちゅっ…と唇が離れて下が中指を根元から舐め上げていく。
「……眠いんじゃなかったのか?」
「ん……眠いよぉ?」
掛かる息がほんの少しだけ酒気を帯びている。
(そういや……晩飯の時に老酒をかなり煽ってたよな……あんなきつい酒のんでもこの程度か……)
唇を合わせて、抱きしめる。
離れ際に銀糸が繋いで、それが劣情に火をつけるから、止まらない。
何度も接吻を重ねて、そっと袷を解いていく。
「誘ってるのか?」
「……うん」
それは予想しなかった答え。
「どうなっても知らないぞ。それでもいいか?」
「ん……いいよぉ……」
(いい感じに酔ってご機嫌なわけですね……んじゃあ遠慮なく戴きますよ……俺はこういうの断わらない性質だから)
少しだけ帯を緩めて、前を開かせて。
「…や……冷たい……」
身体を這う指先の冷たさに身体を捻る。そのまま撫でるように乳房に触れるとぴくんと身体が小さく跳ねた。
冷えた指先が身体を上下するたびに小さな息が零れるのだ。
「……ん……」
その手を取って、口に含む。
「そんなに冷たいか?」
「うん」
ぬるりとした暖かさ。空いた片手で腰を出して、耳朶に口付ける。
(……悪戯しちゃおっかな……どーせなら……)
「……あんっ!!」
きゅっと摘むと、上がる嬌声。そのまま少しだけ力を入れて、乳房を揉む。
沈む指の感触と柔らかさ。やんわりと包むように揉み抱くと細い指が手に掛かる。
「…んぅ……やだ……」
括れた腰を撫で付けて、浮いた腰骨を擦る。
なだらかな腹部。窪んだ臍。白く細い腿。
「…あ……っ……」
舌先が耳の裏を舐め上げると、びくんと肩が揺れる。その身体を押さえつけて、唇を重ねた。
そのまま指先を滑らせて濡れた入口で擦るように上下させる。
焦らしながら、ゆっくりと追い込むために。
「……や……」
つぷ…と一本だけ指を浅く沈める。それだけで彼女の身体は意のままに操れるのだ。
「指だけでも感じる?」
耳に息を吹きかければ、ねだる様にきゅっと目を閉じる姿。
「イケナイ子だ……どうしてあげようか?」
ちゅく、と指に絡まる体液。引き抜いてわざと彼女の前で見せ付けて。
ぬるぬると光る指先を舐めて、羞恥心を引き起こすために。
「……やだ……」
対極府印に伸ばそうとする手を押さえて、動きを封じる。
枕元に隠しておいた宝剣で府印を弾き飛ばす。からからと音を立てて二つの宝貝は床に転がった。
「これでお互い丸腰だな」
真っ赤になって顔を背ける姿が愛しくて、追い詰めたくなる。
追い込んで、鳴かせて、欲しがる様に。
「…やあっ!!あんっ!!」
指を根元まで沈めて、押し上げると細腰が誘うようにびくつく。
「や、ダメ……意地悪しないで……っ……」
「俺は、底意地が悪いから」
かき回すように動かすと、快楽に従順な身体は指を締め付けてくる。
零れた体液を指に絡めて、その上の突起を親指で軽く擦ると悲鳴交じりの嬌声が上がった。
(もうちょっとだな……堕としてみせるか……)
腰を抱き寄せて、首筋に唇を落とす。
「あ!やぁ……ひ……ぁ…!!」
敷布を握る指先、浮かんだ汗。伏せられた銀色の睫。
「!!!!」
上がる声は唇で塞いだ。だらりと投げ出された四肢。
はぁ…と零れる吐息に彼は満足気に笑みを浮かべた。
「……普賢……」
その手を取って、自分の夜着の中に忍ばせる。そのまま下げて、下腹部に導いて。
「触って」
熱くなったそれに掛かる手。たどたどしく触れてくる指と、染まる頬。
「……触るだけで……いい?」
「え……?」
(それって……いいのか?普段は頼み込んだってしてくれないじゃないか……)
「……んっ……」
ちゅ…と舐め上げてくる舌先と触れる唇。
慣れない動きがかえって刺激となって、本能を揺さぶってくる。
灰白の髪に指を挿して軽く引き寄せると、半分蕩けたような瞳が見上げてきた。
(うわ……やばい……可愛いっ……)
ぴちゃ…と触れては離れる薄い唇。たどたどしく舌が上下して時折吸い上げていく。
(こんな事する子じゃないんだろうな……本当は……)
高嶺の花は今や自分の手の中に。
その花に艶を付けて、開花させ、大輪の華に仕上げたのは紛れもなく自分なのだ。
楚々とした花は、今や見るものを惹きつけて止まない。
それでいて、一夜にして散ってしまう月下の儚さを併せ持つのだ。
「おいで、普賢」
「ん……」
抱き寄せて、向き合ったまま腰を沈めさせる。
「!!」
貫かれる感覚に震える身体。しがみ付いてくる腕。
「あ…んんっ!!!」
「ほら……自分でも動いて……その方がイイって知ってるだろ?」
躊躇いがちに腰を振る姿が扇情的で、いっそこのまま閉じ込めたくなる。
「…きゃ……やだ……道…徳っ……!」
仰け反る喉元に口付けて、細い背中を抱きしめる。
頼りなく儚げだとばかり思っていた少女はいつしか自分を包み込む強さを持つようになっていた。
守られるだけの存在では居たくない。愛されるだけではなく、愛したいから。
「ね……ずっとこうして……っ……いられるといいね……」
普段は口にしないような言葉。
酒の勢いでも借りなければ普賢はそんなことは言わない女だ。
「ああ……そうだな。ずっと二人で……」
狂わせるのは、その声と体温。
「ボクが……あなたを守るから……あなたは……そのままでいてくれればそれでいいから……」
軋む身体を繋いで、きつく抱き合って。
「恐いことなんて……忘れちゃったよ……」
溢れて止まらないのは、涙ではなくて。
「俺は……離れるのが恐くなってきた……」
長い長い夜の祈り。
絡まる熱さと、抱きついてくる肌の感触だけがこの世界の仲のたった一つの真実。
「…っは……んんっ!!」
かり…と胸の突起を噛まれる。舌先がぴちゃりと舐め上げてくるたびに零れる涙。
抱き寄せて、抱き合って、離れないように。




「お前の見る景色ってのは、銀色か?」
灰白の髪に触れながら、そんなことを粒やく。
「どうして?」
「いや、睫もそんな色だからさ。日に透けて銀色なのかなと思って」
「んー……朝起きて最初に見る風景はキミの寝顔だよ。それじゃダメ?」
まだ少し、荒い息を抑えながら普賢はうふふと笑う。
一緒の過ごすようになってから、不思議なクセがお互いについた。
彼は絶えず右腕を伸ばし、右に向き眠る癖が。
彼女は左向きに眠る癖が。
それが当たり前のような感じにさえなっていた。
「道徳はボクより早く起きることなんてないみたいだからね」
「たまには起きるけど……なんか安心しちゃって寝るんだよ。俺」
「安心?」
「ああ、ちゃんと普賢がここに居るって。夢じゃなくてちゃんとここに居てくれるってさ」
誰かの暖かさを知ってから、酷く弱くなったと思う。
触れてしまえば、一人で過ごした日々のほうが嘘のようにさえ思えてくるから。
今まで生きてきた日々のことを思えば、それは瞬きするほど短い時間なのに。
過去は一瞬だけで、今ここにある現在(いま)だけが長く、永遠に思えてくる。
「変なの……何人にも言ってきたんでしょ……」
「う…昔話だろ。全部」
「うん……別にいいんだ。今こうしててくれるんなら……」
大人びて見せても、薄い殻に包まれた心はまだ子供で。
「あー、もう、なんて言ったら良いんだ!?いっそここからでかい声で好きだ!!って叫べば伝わるか?
俺は恥ずかしくもなんともないぞ、俺がお前を好きなことは嘘じゃないからな!」
「やめて、そんなことされたら外に出れなくなる!」
「尚のこと好都合だ。一丁叫んでくるか。夜中だし、皆起きるかもな」
「やだ、やだ!!嬉しいけどやめて!!」
真っ赤になって引き止めてくるから。
「んじゃ、ここじゃなくて崑崙で叫ぶか。未だにお前を狙ってくる不貞の輩は多いからな」
「それもダメ!おっきな声で言わなくても、分かるから……」
からかい半分で、額に唇を落とす。
「ん……眠くなっちゃった……」
「そうだな……」
目覚めた時に一番最初に見る景色が君であることに感謝します。
この気持ちに名前をつけるとするならばきっとそれが「幸福」というものだと思うから。




眠たげに欠伸を噛み殺して、のろのろと普賢は回廊を歩く。
「望ちゃん、頭痛薬欲しいんだけど……」
からからと扉を開くと、太公望も同じく眠たげに身体を起こした。
「……頭痛薬……?」
「うん。頭痛くて……」
ゆさゆさと隣で眠る男を太公望は揺さぶった。
「離さんか、普賢が薬をくれと言っておる」
「……師叔……もう少し寝かせてください……僕はくたくたなんですよ……」
「すまんのう。そこの棚の中に入っておる、おお、それじゃ」
赤い丸薬を一つ摘んで口に入れる。
腰を抱かれて動けない親友を見ながら、うふふと笑う。
「ありがと。ボクたちそろそろ帰るね。また遊びに来るから」
ひらひらと手を振って普賢は退室していく。
「おぬしのせいで見送りも出来ぬではないか」
「たまにはいいじゃないですか……僕だってあなたを独占したいんですよ。道徳さまが普賢さまにするように」
「仕方ないのう……」
長い髪を組紐で一纏めにして、小さく伸びをする。
「そういえば、頭痛薬を持っていかれたんですか?」
「おお、前におぬしから貰ったやつを飲んで行ったよ」
「……僕が、師叔に渡した薬……?」
あれこれと思い出しながらヨウゼンははっとする。
何時ぞや太公望に頭痛薬と称して渡した薬があったことを。
(あれは……頭痛薬じゃなくて…誘淫剤です……師叔……)
「ヨウゼン?」
「いえ……頭痛なら綺麗さっぱりと消えますよ。間違いなくね」
飲んだのが普賢真人ならば相手は一人に限定される。
感謝こそされても罵倒されることはないだろう。
「もう少し寝ましょう、師叔……遅れた分の仕事は僕が全部しますから……」
「そうじゃのう……もう少しだけ、こうしておるのも悪くはないのう……」


ある朝の騒動。
周も崑崙も快晴である。




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