◆君を護すること、分かち合えるもの◆





「危ないから、下がってな武吉くん」
宝剣を構えて、男は少しだけ腰を下げる。
「そ。君は天然道士だけども、仙人じゃないからね。ここは僕たちに任せて」
宝貝を起動させて、その傍らに青年も位置を取った。
「あれ?俺、太乙と組むのって昔実働訓練やったとき以来じゃないのか?」
「ああ、そうかもしれない。僕は道徳と違って開発班の出だしね」
二人の会話に、武吉は首を傾げた。
「太乙さんと道徳さんは、昔から仲がいいんですか?」
それに応えたのは、金磚を構えた青年。
「そうだね。道徳は実働班、僕は開発班だったけど、入山が一緒だったんだよ」
思い出すのは、遥かな時間の彼方。
あの日、仙道となるために彼らは崑崙へとその身を投じた。
「思い出したくねぇけど、雲中子もな。俺だけ『真君』なんだよな」
恋人は階位『真人』を得て、親友もまた同じ階位を持つ。
「でもさ、ほら……『子』もらってる人もいるから」
「脳味噌ってやっぱ大事なんだろうな」
雨のように降って来る妖怪を一掃して、道徳は襟元を正す。
「どうだろうね。いつか、僕らも年をとったら『天尊』とか『大法師』とかもらえるかも」
己の階位に不満があるわけではないけれども、自分たちが男である限り恋人よりは上にいたい。
権力は、程よく自己満足を得させてくれるから。
「ま、俺は頭良くないからずっと真君のままだと思うけどな」
「先に仙号もらったのは、君だよ」
光の礫が、抱えられた宝貝から渦を巻くように発射される。
肩を並べて過ごしてきた沢山のあの日々は、一日たりとも無駄なものなどない。
ここで、彼らの道が別れる事になろうなどと知る由もなく青年は隣の親友を見やった。
「先に言っとくよ。おめでとう。泣かせたら多分、崑崙の仙女道女……場合によっては
 始祖も敵に回す事になるけどね」
飛びかかってくる妖怪仙人を片手で薙ぎ払いながら、二人は顔を見合わせた。
「かまわねぇよ。普賢が俺の味方で居てくれればそれでいいから」
君を護れることが、この長き人生で一番の喜び。
そして、君と朽ちる事が出来るのはきっとその中でも至上の幸せ。
この悪夢から、君を助け出したいと思うこの気持ちは欺瞞だろうか?
片手で、涙がこぼれない様に何度も何度も押さえるその仕草。
君を、連れ出せないのなら共にここで抱きあって朽ち果てたいと願う。
「言うね。けど……それは、僕も同じだ」
火尖鎗で狙いを定め、切りかかってくる妖怪を鮮やかに切り捨てる。
「やるか。惚れた女のために命張るのも悪くはねぇ」
「そうだね。たまには男らしいところ、見せなきゃ」






「やっと太乙も仙号取れそうだね」
華茶に口を付ける女の指先は燃える様な赤。
それを横目で見やって、男は小さく頷く。
「だな、俺らもこれで三人揃って仙人昇格だ」
清虚道徳真君、雲中子、そして、太乙真人。
同期の三仙と、何かにつけては引き合いに出される事が多かった。
その腕一本で仙号を得た道徳真君。
頭脳と精神力で昇りつめた雲中子。
その中で、どっちつかずのまま太乙真人は日々を重ねてきた。
御世辞にも高いとは言えぬ体力値。剣を持ってもその重みに腕が下がってしまう。
「宝貝開発は、誰にも負けなかったからね。そっちからの抜擢みたいだよ」
「いーんでないのか?太乙は頭良いし。俺みたいに腕力だけよりも」
「あら、自分の事わかってんだ。同じ事、慈航と黄竜も言ってたけどね」
真っ赤な唇がけらら…と笑う。
「人食いそうな口だな、お前」
「この口がすきだって男もいるんだから、世界は広いね。道徳」
「俺、もっと清楚な感じの女の方が好きだけどな」
銜え煙草で笑う顔は、まだ少しだけあどけなさが残る。
仙となり、時を止めて悠久を一人で生きる事を課せられる哀れなものたち。
崇められても、この孤独を消してくれる相手はそうそう三つからないのが実情だ。
「俺も課題ださねぇと……剣士だから剣を作れって言われたんだけどさ」
「それこそ、親友様に聞きなよ。あたしなんかよりずっと適任だ」
毎日、がらくたの山の中で青年は時間を流れさせる。
その中から宝物を見つけるように、宝貝を作るのが彼の特技だ。
「仙号の授与式終ったら頼もう。今じゃ忙しくて話にならねぇとおもうし」
それでも、誰よりも彼の昇進を喜んだのも親友である彼ら。
悪態を吐いてもその奥の心は、伝わっていたから、信じ合えることが出来た。
「さて、太乙真人様の誕生を待つとしますか。雲娘々」
「そうだね、偉大なる仙人様を待つとするか」








太乙真人となり、与えられた洞府は乾元山。がらんとしてどこか殺風景ではあるが、
実験を繰り返す施設を置くにはもってこいの条件だ。
青峯山、終南山との中間地点でもあり、絶えず誰かが遊びに来る。
「道徳、基盤がずれてる。それだと、光が出ないよ」
「うあ……難しいんだな。よくこんなの何個も作れるな、太乙は」
ばちばちと飛び散る火花に目を細めながら、男は指示される通りに工具を使う。
仙号は得たものの、追加課題として出されたのが剣の宝貝の提出だった。
弟子を取れば、いずれはその優秀たるものに宝貝を与えるのもまた、師匠の務め。
「基礎さえ憶えれば、紫陽洞でもやれるよ。がんばりなよ」
「ここがもうちょっと……あづっっ!!!」
「炎は、青いほど熱いんだよ…………道徳」
何度も何度も、同じ事を繰り返して彼は一つの宝貝を完成させた。
形あるものは何でも切り裂く事の出来る、至高の逸品。
その名を『莫邪の宝剣』とし、彼はその生涯それを離す事はなかった。
浪漫的な事は、突然に降ってくるからこそ面白い。
時間は流れて青年たちは恋をした。
片や崑崙創設以来の才女。
そして、もう一方は若年にして師表まで上り詰めた少女。
どちらも、ありきたりな恋とはかけ離れていた。
それでも、渦中の本人たちはまったく気にもかけないまま。
喧嘩と抱擁を繰り返し、数え切れないほどの接吻(キス)をした。
自分達が男だという事を、恋は再確認させてくれる。
護るべき誰かを見つけてどこまでも行けると確信をして。
囁いてくる「愛してる」の言葉だけで、強くなれる気がした。










(普賢、怪我とかしてなきゃいいんだが……まぁ、あいつもあれで結構強いから大丈夫って
 いったら大丈夫なんだけど……身重だしな……)
額の汗を手の甲で拭って、再度宝剣を構え直す。
まるで火の粉のように妖怪は次々に現れて、休む間も無い。
(……あれは…………)
頭上を流れたのは、一筋の光。その光の強さから、階位あるものだという事が窺い知れる。
おそらくは、自分たちの仲間の誰かか十天君の一人。
「おい、太乙」
「なんだい?キリがないよ……掃除は早めに終らせたいんだ」
「誰か封神されたぞ」
ゴーグルをたくし上げて、太乙真人は親友の方を向いた。
「俺らの方か、十天君かはわからねぇ」
「…………道行じゃないと思うよ。ナタクは強くなったからね」
「普賢でもないだろうな。あれは、俺が思うよりもずっと力はある。ただ……その加減を
 まだわかってないところがあるのが不安だけれども」
「理解してないのはまだいいよ。これから理解すれば良いだけだから。問題なのはわかってても
 故意的にやるってことさ。つまり確信犯。ま……道行なんだけどね」
サイド金磚を構えるのを見て、道徳は手を前に付きだし腰を引いた。
膝に入る力と、静かに閉じられる瞳。
金磚から光りの矢が放たれると同時に男の掌からも夥しい光の輪が生まれた。
「…………へぇ、君でもそんなことするんだ」
防護壁の中で、どっかりと座って道徳は視線を指輪に向ける。
対になる指輪を持つ少女は、この星の島のいずれかにいる事だけは確かだ。
(無茶だけはするなよ……普賢……)
「道徳さん、凄い汗かいてますよ。大丈夫ですか?」
「ちょっと運動したからな。そのせいか変にだるい……」
汗は止まる事を知らないかのように、噴きでてくる。同時に感じる気だるさと熱さは、
どこか風邪の諸症状にも似て体力をゆっくりと奪っていく。
「太乙、なんか変にだるくないか?」
「なんかね……さっきからふらふらするよ……」
額を押さえて、同じように座りこむ。荒い息と、感じる倦怠感。
「ここに来てから、変じゃねぇ?身体」
「そうだね……ここは敵陣のど真ん中。よく考えなくたって、罠なんかあって当たり前なんだ」
懐から取り出した小瓶の蓋を弾いて、ざらざらと錠剤を掌に取り出す。
ほんのりと甘い匂いは、どこか彼女の作る菓子に似ている気がした。
「なんだこれ?」
「仙桃薬。道行用に作ったんだけど、余ったの持ってきてたんだ。ちょっとは体力が回復する。
 僕も道徳も沈んだら、誰も黄巾力士動かせないよ?武吉君は仙道じゃないし」
罠に掛かった事を理解できないほど、馬鹿ではない。
馬鹿でいられるのは恋人の前だけだと、小さく呟いた。
「なぁ、もしかしてだけど金鰲全体に変な細菌(ウイルス)とか蔓延してんじゃねぇのか?」
「考えたくないけど、それが正解だろうね。現に僕達がこうなってる」
「……やっぱそうか。俺は体力あっからいいんだけど、普賢の方が気になるな……
 妊娠初期とかにそういうのに感染するとやばいだろ?」
「随分と健気になったね、道徳。でも、普賢の傍には太公望がいる。心配は過剰には
 いらないと思うよ。気になるのは、他の面子だ。ナタクはいいとしても……」
胸騒ぎを押し殺して、頭上を仰ぐ。
数多に連なる星と、そこに住む数え切れない生命達。
「邪魔な物はさっさと片付けて、どこかの班と合流しよう」
「そうだな。それが懸命だ。運が良かったら普賢と合流できる」
「僕は、道行と合流したいけどね。身重の妻の方が優先順位は上だろうし」







星の上に降り立ってはその空間に少年は苦笑する。
(ちょっと……痛ぇさ……)
包帯に滲み出る赤い体液は、ゆっくりと彼の命を削っていく。
「おい、天化大丈夫か?まだ腹に変な傷が残ってんだから、無理はすんなよ」
じわじわと、生暖かいそれが告げる生命の起源。
「ただ血が出るだけで、どうって事ないさ。それに……師叔が待ってる」
「随分と立派な息子になったな。お前が本気で女を護るようになるとは思いもしなかったが……
 大層な高嶺の花に惚れたな、馬鹿息子」
本の数年離れていただけのはずなのに、子供は一人の男になって帰ってきた。
両手に剣を持ち、天を華麗に舞うその姿の仰々しさ。
亡き妻が見たならばきっと、これ以上にない笑みを浮かべただろう。
我が子を誇りに思えるという事。これほど嬉しい事など無い。
同様に、弟子を誇れる事ほど師にとって嬉しい事はないのだから。
「ね、ここって敵のど真ん中?」
「ああ。そうだな。俺たちの家みたいなもんだ」
天祥の問いに答えたのは雲霄。こめかみを押さえて辺りを見回す。
「金鰲で注意すんのは幹部連中、十天君のみ。それ以外は敵じゃねぇ……あとは、
 教主のみ。狙いを定めりゃ、勝てねぇ相手じゃねえしな」
にやりと笑う唇と、細まる猫の瞳。
「あんた、金鰲の人間だろ」
「ああ、その通りだぜ。俺は金鰲の者だ。お前らの味方じゃねぇ……俺は、太公望個人に
 力添えするだけだ。そのためにお前らと組んだ」
天祥の頭をくしゃくしゃと撫でる、褐色の武骨な指。
「なぁ、十天君って何さ?」
「そっちの十二仙みたいなもんだ。八角陣を敷いて空間を武器にする。ま、八角陣には
 近付くなってことだ。俺たちは強ぇからな」
雲霄の実力は、金鰲内部でも高い方に評価できる。
その彼が十天君は強いと言い切ったのだ。その言葉に偽りはないだろう。
「な、碧霄……って、おまーーーーーー!!!!」
体制を崩して落下して行く碧霄とそこしがみつく瓊霄。
舌打ちをして、雲霄も二人を追いかけ星の繋ぎ目へと飛び込んだ。
「しょうがねぇ……俺っちたちも行くさ。他に当てもないし」
煙草を指で弾いて、大きく伸びをする。
「って、そんな暇もなくなったさ、親父、天祥」
ぐるりと取り囲む夥しい数の妖怪仙人。
人間の匂いは蜜の味とばかりに、涎を垂らして三人に狙いを定めてくる。
「んじゃ、行きますかね」
「おう」
「うんっ!!」
同じ血を持つ三人の男は、それぞれの武器を手に華麗な手付きでそれを操っていく。
「雑魚は、引っ込んでるさ」
宝剣から零れ落ちる光は、まるで誰かの涙のようで。
離れて戦う、彼女の小さな涙。声も上げずに、ただ、こぼれるままにしていたあの姿。
(望……待ってるさ。今、行くから……)
この剣は、誰かを護るために使えと教えられてきた。
ならば、今がまさにそのときなのだと。
「!!」
不意に、足元から湧きあがってくる光の波。
それは八角の陣の形を描いて、三人を包み込んだ。
「どくがいい。其の者達への審判は私が下す」
ざらついて、耳障りな声がうねるような音波で呟いてくる。
「!!」
「私の名は董天君。この風吼陣を操る者」
「……敵さん御出でなさったさね。これで俺っちがこっちに来てることが望に伝わるさ……」





渦を巻く風の中、瞬きさえもままならない。
「何だよここは!!すげぇ風さっ!!」
恋人は、風を御する者。まがいなりにも激風には慣れているはずだった。
「二人とも俺に掴まってろ!!」
父の声に、息子二人は従って上着をしっかりと握る。
「ちっくしょ……この竜巻、どこまで続いてるさ……」
風の中、聞こえてくるのは数人のざわついた声。
ゆっくりと首だけでそちらを見やれば、追いかけてきた妖怪仙人の姿。
「待ちやがれ!!人間!!」
「……しつこいさね。あんまりしつこいと、女に嫌われっさ?」
視線だけで、どうにかかわせそうにないか天化はあたりを見回す。
難事の時ほど、恋人は穏やかな笑みを浮かべていた事を思い出して。
風にそよぐ黒髪は、傍にはないけれども。
(あったさね……これで何とかなるさ)
手を伸ばせば、まだ触れられるところで待っていてくれるのだから。
「二人とも、俺っちにしっかり掴まるさ!!」
宝剣を取り出し、嵐の中心にそそり立つ柱に突き刺す。
鈍い音と共に、ひかりがばららと零れ落ちた。
(うわ……コーチに知れたらぶっとばされるさね……)
宝剣を支えに、ひらりと妖怪達をかわす。そして見えてくる嵐の中の底辺の場所。
細い金網が張り巡らされ、まるで蜘蛛の巣のように獲物を、待ち構える。
(嵐の中心は風が穏やか……師叔のいう事もちゃんと聞いとくべきさね)
それは恋心と同じ。覚悟を決めて懐に飛び込めば、暖かく包んでくれる事も在り得るから。
甘い甘い接吻を得るには、それなりの努力が必要なように。
「兄さま!!あれ!!」
弟の声に、階下を見れば糸に切り裂かれて肉槐と化した妖怪たち。
血の匂いに、天化は眉を寄せた。
「愚かなり……この董天君の風吼陣にはいることは死を意味するというに……」
円柱に絡み付く、巨大な蟲。
その姿のおぞましさに、太公望や普賢だったなら悲鳴の一つでも上げただろう。
「十天君か……相手に不足はねぇさ」
銜え煙草を弾いて、天化はゆっくりと上を目指していく。
ざくり、ざくりと円柱を削る音と耳の裏で響く風の音。
「二人とも、ちゃんと捕まってるさ。道士じゃねぇから、ちょっとぶつかっただけでも
 大怪我しちまう」
二人分の体重を背負いながら、天化は頭上の董天君へと近付いていく。
「くっそ……親父が馬鹿みてぇに重いから……っ……」
「親に向かって馬鹿とは何だ!!」
凪のような風は、その言葉を合図にでもするかのように急速にその勢いを増す。
呼吸すら不能なその強い風。
「げっ!!!!」
風圧に押されて、宝剣がずるりと抜け落ちる。
「落ちるさーーーーーーっっ!!!!」
「ちぇえいっっ!!」
背中の長剣を華麗に引き抜き、飛虎はそれを支えにして息子二人を受け止めた。
「ぎゃーーーーーっっ!!!痛ぇぇっっ!!!」
「お、何だお前。生きてたのか」
妖刀飛刀は、ぎろりと男を睨んだ。
「お前は乱暴だから大っっ嫌いなんだよ!!」
二人の言い合いを他所にして、天化は頭上を仰ぎ見た。
獲物は遥か頭上、どうやって仕留めるか。
(蟲だし、焼いてみっか)
火竜縹を董天君目掛けて、勢い良く投げつける。
炎を操る宝貝は、離れている恋人より譲り受けたもの。
武器を操る才は、自分にはないと悔しげに笑った小さな唇。
「うあ!!やっぱダメさ」
「ぎゃあああああ!!!熱伝導で熱い熱い熱いーーー!!風も強くなって抉られるーーー!!」
この状況を、彼女ならば簡単に切り抜けるかも知れない。
それだけの智謀を持つ女を、この腕の中で何度も抱いてきたのだから。
(ここで切り抜けなきゃ、望に笑われっさね……)
見向きもしない董天君に、天化は思案をめぐらせた。
視線すら投げてこないという事は、完全に自分が優位であると確信している証拠。
その過信は、破滅を呼ぶ匂い。
「親父、ちょっといいさ?」
口だけで笑って、天化は飛虎に耳打ちする。
「……なるほどな。それなら行けるかもしれん」
ぶつぶつと文句を言う飛刀に、男の声が命ずる。
「おい、あの中心まで歩け」
「んなことできるか!!ボケ!!うー……でも、背に腹は代えられねぇ。見てな」
妖刀はその仙気で、刀身をぐいんと伸ばしていく。
魂を得た長剣は、思わぬ力を持っていたのだ。
「やっぱ、ここは風が弱いさ。ここなら、あいつに武器が届くかも知れねぇさ」
鑚心釘を構えて、天化は天祥へ視線を向ける。
「おっしゃ!!持ってる武器を全部投げるさ!!天祥!!」
「うん!!」
弾丸のようにそれらは董天君目掛けて一直線に投げつけられた。
しかし、下からの攻撃は簡単にかわせてしまうもの。
一瞥することなく、董天君の笑い声が響く。
「愚かなり、これでお前たちの武器は無くなった」
風は嵐となり、三人を強く揺さぶる。
それでも、男二人は笑いをこらえることが出来ずに上を見上げた。
「もう一個の火竜縹がどこにあるか、見てみな」
「上ばっかみてる、あーたには見えないかもしれないけどな」
火竜縹は、炎を生み出す事の出来る宝貝。そのように使うことが殆どだっただろう。
炎は熱を伴い、全てを焼き焦がす。
天化の武具を扱う才には、おそらく勝てる道士は居ない。
「何!?」
初めて見る三人の顔は、そのまま最後に見た風景となった。
件の火竜縹は、柱の底に鑚心釘で括りつける様にして隠したのだ。
熱は、僅かな時間差を置いて董天君の身体に伝わる。
防護壁無くして、耐えられる熱さではない。
「!!!!」
「十天君さまにとっちゃ、俺っちたちは小物に見えるかもしんねぇけどさ、たまには
 下もにねぇとこういうことになるってことさ」






八卦図から抜け出して、再度辺りを見回す。
「親父、これからどうすっさ?」
この金鰲の最高司令官は、黄飛虎のかつての親友。
避けて通る事など、不可能な一戦が待っている。
「聞仲を探す……って言いてぇところだけど、いまさら俺が何言っても聞きやしねぇだろう
 からな。雲霄たち追っかけてみっか」
「ま、それが無難さね」
運が良ければ、太公望と合流する可能性もある。雲霄の狙いもそれなのだから。
「天祥、親父に捕まるさ」
「うん……」
もぞもぞと動く何かを、ぱちんとつぶす。
掌の中の小さな死体は、蟲に良く似ていた。
「何だろ……ちっさな、虫?」
「天祥、早くするさ」
「うん」
一つの星の中に投入された、三人の策士。
勝ち残れるのは、ただ一人だけ。





「ね、望ちゃん……何だかくらくらする……」
額に浮かぶ汗を拭って、普賢は太極符印を抱えなおした。
「わしもじゃ……風邪かのう……!!」
瞳に飛び込んできたのは、小さな刻印。それも、見憶えのある忌々しいものだった。
「……ちっ……王天君め……」
「王天君…………」
灰白の瞳が、一点を見つめる。
(そう、君がどんな子かわかったよ。君には負けない)
四不象に寄りかかって、普賢は符印である場所を探し始めた。
「金鰲の仙人が出てこないのは、これの感染を逃れるためじゃ……」
通信機を手に、太公望は忙しなく指示を出す。
智謀合戦の軍配は、これだけでは決まらない。
(道徳も……大丈夫かな……)
指輪を擦って、そっと唇を当てる。
(王天君、ボクを怒らせてただで済むと思ったら大間違いだからね……)




張り巡らさせれた幾重もの罠。
掛かりし胡蝶は、未だその光を失わない。




                BACK




22:44 2005/06/15


Gポイントポイ活 Amazon Yahoo 楽天

無料ホームページ 楽天モバイル[UNLIMITが今なら1円] 海外格安航空券 海外旅行保険が無料!