◆スプリングオペラ◆





「シュラ、材料は全部揃ったよ。足りないもののチェックも終わり」
「了解。あとは派手に行きましょう!!」
「んで、俺様はこのチューブラベルをどうすりゃいいんだ?」
同じ並びの二十三歳はカレンダーを見ながら明日のことを思いやる。
「んで、俺はカクテルがんがん作るってことでいいの?」
「私はそれを片っ端から冷やせばいいわけだな?」
金と緋色。対になるような二人はアルコール担当と決められた。
花は双魚宮と処女宮からの調達で何とかできた。
「お料理は私とアルデでなんとかなるよ!!大勢の作るって大好きなんだっ!!」
獅子座の乙女はブロンドを輝かせてこぼれる様に笑う。
風薫る季節の一番最後。
その手前の日を待ちながらこそこそと隠し事。
「で、私は何をすればいいのだ?魑魅魍魎でも召喚するか?」
「チベット高原あたりから何か取ってこさせましょうか?ええ、もちろんカノンにでも」
その言葉に穏やかに笑う女は一言で片をつけた。
「ムウも婿殿もおとなしくておいで。用意ができたならば私が直々に教えよう。このシオンがな」
首謀者の三人にとってこのシオンを味方にするのとしないのでは大きな差があった。
まずは任務遂行にもっとも壁となるであろう二人を封じることができる。
件の二人とはもちろんこの牡羊座の女と乙女座の男。
「邪魔になろう?童虎のところにでも行っておれ」
テレポーテーションでまるで荷物でも送り込むかのようにシオンは鮮やかに二人を
どこかへと飛ばしてしまう。
「あれも婿殿も……悪い子ではないのだが……」
「いえいえ、シオン様がいてくださるだけでも作業がはかどります」
山羊座の女の一言にその場にいた全員が頷く。
そう、あのサガでさえ前教皇であるこの女、シオンには逆らえないのだ。
唯一の対抗馬と思われた天秤座の男は蓋を開ければシオンに尻に敷かれっぱなし。
ならばと先手を打ったのは年中組の参謀とも言えるシュラだった。
「なー、シオンさん。なんでシャカが婿殿なんだ?」
練習だといって出されたカクテルを口にして女は豊かな髪を揺らす。
「我が娘に手をかけたならば婿殿で妥当であろう?この機会を逃せばあれは生涯独身を
 貫かざるを得なくなる。婿殿にはちと悪いが……生贄に成って貰おうかと。それに、
 ムウのようなはねっかえりには丁度良かろう?」
そう、前教皇として勤め上げてきたのは伊達ではない。
聖域最凶といわれる二人ですら簡単に従えてしまう。
「ミロや、随分と雅な味よのう……」
「まだグリーンチェリーが手に入らなくて。明日カノンと行って来ようかと」
酒好きの男二人は何かと顔を合わせる。
「あ、じゃあ私が行ってくる。パイ生地が足りなくなりそうだし。カノンに荷物持ってもらえるし」
普段ならば爪が折れること嫌う女がこの日のために自慢の爪を全て切りそろえた。
「あ、これそういえばシオンさんのほうが似合うかも」
普段は水瓶座の彼女のためにしか作らない甘口のカクテル。
見た目も香りも大事だとあれこれとどれを主賓にするかをミロは頭を抱える。
「シオンさん春だもんね。誕生日」
「ミロ、それスプリングオペラ?」
山羊座の女の声にミロが笑う。
「俺、聖闘士なってなかったら絶対にバーテンダーなってたと思う」
「んで、客できたカミュにエンジェルキスとか出して口説くと俺様は見た」
蟹座の男の言葉に真っ赤になるのは水瓶座の女。
「な、なんでミロが最初に作ってくれたのをしってるのっっ!?」
「あ?当てたかぁ?俺ぁこいつとはスティンガーだったけどな」
本気で口説き落とすには甘さの中に必要なもの。
情熱的な女には強めのキスを。
「アフロ、お前はあの堅物に何で口説かれた?ぁん?」
「堅物じゃないよ。サガは普通だもん、どっこも変じゃないもん」
メモに必要なものを書き出す。準備は怠らずに手を止めずに。
「……リトルプリンセス……」
「らしっちゃらしいな……ポーカー決めて確実にお持ち帰りコースかよ」
「デス、そっちの話、俺も聞きたいっ」
がやがやと盛り上がる男たちを目線で笑うのは穏やかな女。
「アフロディーテ、サガは本当に良く働いてくれる」
「サガはシオン様への罪悪感が消えないって……」
「いらぬ杞憂だ。過ぎたことを……伝えておけ。このシオン、恨みは無いと。
 ミロ!!今度は違うものをおくれ!!」
きっと一番最初に双子星を見つめていたのは他ならぬシオンだっただろう。
「次に馬鹿なことを考えたら乳で窒息させると伝えておけ」
酔いの回った前教皇は悪戯に笑うだけ。
「あー、確かにシオンさんのおっぱいなら窒息できる!!」
法衣の下にある柔らかでたわわな二つの乳房。
聖衣に押しつぶされて苦しかったと本人は笑う。
「すげーよな、両手で片方の乳を掴む。男のロマンぎっしりよ……あー!!じじいが羨ましいっ!!」
二杯目を渡せばシオンは指先でミロを招く。
「挟まれてみるか?」
「うん!!」
「おぬしの前にカミュを挟むがのう。カミュ、おいで」
グラスの中で転がる氷は純度100%。
水瓶座の絶対零度は玩具ではない。
「柔らかくてふかふかしてる……やー……ん……」
いくらシオンといえども普段ならばそこまで興じることなど無い。
「ミロ、シオン様に何飲ませたの?」
「ダーティマザー。丁度良いかと思ったんだけどなぁ。だって、シオンさんって俺たち
 みんなのママみたいなもんだし」
香るコーヒーリキュールとブランデー。
確かに、自分たちよりも上手の彼女に似合いの一品だ。
たった一人の主役の目をごまかすために。
「どれ、私はそろそろサガをからかってくるか。みなもばれぬようにな!!」






「つ……疲れた……」
本来彼が帰るべきは双児宮。いくら近道をしても還りたい場所は別と言わんばかりに
双魚宮に身を寄せてしまう。
教皇宮から近いこともあるが何よりも自分の帰りを待つ人がいることの心地よさ。
顔を合わせれば文句ばかり言う同じ顔の弟の待つ宮にどうして帰りたいだろうか。
「おかえり、一日お疲れ様」
よろよろと倒れこむようにソファに崩れる身体。
長い手足をだらりと投げ出して虚ろな瞳が天を仰ぐ。
「シ……シオン様に今世紀最大の嫌がらせを受けた……」
「おっぱいで窒息しそうになったの?」
「なぜ知ってる!!」
「アフロも挟まれたことあるもん。ふかふかでやわやわで気持ち良かったでしょ?」
何度も横に振られる首と一緒に否定の動きを示す左手。
「そんな生易しいものか……危うく意識まで失うところだった……」
まるで子供でも抱くようにシオンは男の頭を抱える。
両方の乳房で挟み込むように谷間に顔を埋めさせてそのまま抱きしめたのだ。
抵抗しても黄金聖闘士だった女の力は本物だ。
効率よく進めてきたはずの仕事もこれで停滞してしまった。
「……悪夢だ……」
普通の男ならば泣いて喜ぶようなことでも生真面目にさらに真面目をコーティングしたような
男には通用しない。
教皇職は山のような書類を処理しながら謁見に来る人間とも顔を合わせる。
問題はいくら処理しても次から次に。
各地にどの聖闘士を派遣するかもあわせてサガに休息などほとんど無いのもまた事実。
「!!」
「まねっこ」
同じように男の頭を胸に抱く。
甘い香りとどことなく微かに残るアルコールの匂い。
「あんまり気持ちよくないかな……シオン様よりちっこいし」
「私にとっては一番心地よい柔らかさと大きさだが?」
目尻の小さな黒子と笑う唇。
「隠し事をしてないか?アフロディーテ」
「どうして?」
額に触れる柔らかな唇。
「アルコールの匂いがする……甘い……」
閉じた瞳がゆっくりと開く。
「さっきまでミロと一緒に居たからかな。一杯だけご馳走になってきたの」
「そういえば……私は君とゆっくりと酒すら飲んでいないな……」
のろのろと身体を起こしてふらつきながら奥に消えていく姿。
薄手の上着を引っ掛けて青年は女の手を取った。
「明日のことなどもうどうにでもなるがいい……」
「サガ?」
「たまには酒でも飲みに行こうかと」
その言葉にアフロディーテの顔から血の気が引いていく。
通常時のサガと連れ立ってバーに行くのは大歓迎だ。
普段なら強請ってもあしらわれてしまうことだってある。
しかし、これだけ疲れきっている状態でいけば悪酔いは必至。
「ふ、二日酔いするよっ!!駄目ッ!!」
「いや、そんなこともないだろう」
「ワインならあるよ!!シュラに貰ったの!!」
「それはそれは。しかし、姫君の髪に残る香りが私を誘って離さなくてね」
「じゃあ、ミロに頼もうよ!!うんっ!!」
「たまには誰にも邪魔されずに、君とグラスを合わせてみたいのだが?」
言い出したら聞かない性質もあいまって青年は身支度を終えてしまっている。
「それとも……私と一緒は嫌かい?アフロディーテ」
少しだけ悲しげな色合いの瞳が重なって。
手を引かれるように抱き寄せられる。
「……一緒に行くよ……」
「良い子だ」
綻ぶ唇にこぼれるため息。
まさにどうにでもなれは彼女の心境だった。




薄明かりのバーは彼のお気に入りの場所。
時間の止まったような空間と錆びた音楽が耳に優しい。
「どうして急に外でお酒飲みたくなったの?いっつも双魚宮でのんびり飲むのに」
「君の髪の残り香が誘ったんだ。それが理由では駄目かい?」
確かにアルコールの甘さを残したのは自分の失策。
彼は予想以上に勘も鋭く嫉妬深い一面もある。
「何頼んだの?」
「君の髪に聞いたほうが早いと思うが?」
騙し合いで勝てる相手でもはぐらかしが効く男でも無い。
手痛い仕返しが待つような賭けは好きでもないと心の中で呟いて。
「……あ……」
「当たりならば私の勘も衰えてはいないかな?」
蠍座の青年は魚座の女を気遣ってアルコールは使わなかった。
シロップの甘さと移り気な香り。
「プッシーフットとは……ミロも洒落たことを」
猫の足のように魅惑的な曲線。
絡ませてくる腕の細さと肌の細やかさは女神の名に相応惜しい。
「たまに二人で出るのも悪くはないだろう?」
カウンターの下で絡ませた指先。
その指の変化に気付かないほど彼は愚鈍ではない。
気付かない振りをして探りを入れる。
その素振りなど見せないままに。
「アースクエイクを」
次々に彼の唇に消えていくカクテルはどれも強いものばかり。
顔色一つ眉一つ動かさずに煽る姿。
普段ならばうっとりと見蕩れてしまうところでも今日は違う。
(なんだか怖いよぉ……こんなときのサガって……妙に……)
やけに饒舌で意味深な視線を時折投げて。
見えないところで誘う指先が絡んでくるから。
「きつめのものがお好きなんですか?」
「今日はそんな気分なだけですよ。彼女にも何か甘口のものを」
見た目と甘さに騙されない様にと身構える。
それでも騙しあいで彼に勝とう言うのがそもそもの大間違い。
その笑みは天使の如く、神さえも謀ろうとした男。
「サガ、飲みすぎ……」
「何か?」
「……なんでもないです……」
少しむくれたような表情と小さなため息を見逃すほど彼は甘くはない。
甘やかしの裏返しは独占欲の塊。
「アイスティーを彼女にお願いできますか?」
その前に小さく呟いた言葉たち。
美貌の青年が可憐な女を連れていればそれとなく事情を察することは容易。
「どうぞ」
「飲んでも良いの?アフロまで酔ったらちゃんと帰れなくなるよ?」
見上げてくる瞳に混じる蒼と翠。
下心は押し殺すものではなく初めから抱かないほうが面白い。
誘うようにして誘わせるのもまた一興と笑う唇。
「……美味し……」
「帰れなくなるほど強いものでもないと思うが……どうかな?」
「うん。アイスティーは好き」
長期戦は彼の最も得意とするところ。
もちろん、そのための用意も周到に。
「ラスティネイルを」
「……サガ、ほんとに大丈夫……?」
それは自分への問いかけにも似ていて。
「君のほうこそ、何だか瞳が潤んで……なんとも魅惑的だ」
「そんなこと…………」
「君も、簡単には罠には落ちないからね。それは私が一番に知ってるよ、アフロディーテ」
ここでぐらつけばひっそりと進めてきた計画すべてを吐きかねない。
しかも相手は隠し事を最も嫌う双子座の彼。
擦り合う秒針と重なり合う鼓動。
(うっかり喋っちゃいそうだよぉ……がんばれ、アフロ!!この程度でサガに負けちゃダメ!!)
作り笑いでもそこは聖闘士最高峰の美女の一人。
節目がちな目線と長い睫で男の思惑を打ち砕く。
「彼女にハンターを」
差し出されたチェリーレッドのグラス。
微かに震える指を叱咤して唇を付ける。
いつもは名前までも甘いものを選ぶ彼が今夜は違う。
「甘酸っぱい……ね、これすごく綺麗」
「君が飲めばもっとそれは綺麗に見える」
「……サガ……何言って……」
小声で何かを頼む男に頷くマスターの姿。
琥珀と檸檬の混ざり合った柔らかな色はどこか春を想像させた。
「そろそろ帰らないと……」
次第に呂律の回らなく唇と正反対に綻ぶ彼のそれ。
「じゃあ、君はこれで最後に」
これが最後の一杯だと言われ、早めに片をつけようと勢い良く飲み込む。
喉を落ちるひんやりとした甘さと体を支配するキュラソーの痺れ。
ゆっくりと崩れ落ちて寝息を立てる姿。
「私を誤魔化そうなどとは考えないほうが良いよ、アフロディーテ」
ふわふわの巻き毛を愛しげになでる指先。
「ずいぶんと育ちのいいお嬢さんですね」
「ああ……家柄も申し分ないよ。しかし、なぜそれを?」
「一口飲むたびに、グラスを指で。そんなことを自然にできる方はそういませんから」
淑女の名に相応しいように彼女は立ち振る舞う。
立場上断りきれないパーティに連れてっても普段の幼さなど微塵も出さない。
教皇の同伴という職務をも堂々と勤め上げる。
同伴が必要とされる会食においても彼女は社交界の住人に引きをとらなかった。
「比べれば私はさしずめ悪党というところか……」
「男の人に勧められるままに飲んではいけませんからね。さっきの名前を知っていたら、
 お飲みにはならなかったんでは?」
初めて彼女をバーに連れてきたときに最後に選らんのはリトルプリンセス。
子供ではなく女として扱うようになった今だから。
「ビトゥイーン・ザ・シーツ。まぁ、私も男なのでお気持ちはわかります」
「この先をただ告げるのは面白くないだろう?」
指先に伸びた髪を絡ませて。
「私にも最後の一杯を」
「なら、ここはお任せください。あなたの気持ちをお作りしますよ」
ジンとドライベルモット。
アニスに加えられたミントの香り。
「どうぞ」
「……確かに。ノックアウトか……勝てないからな、多分」





肌に触れる冷たさに瞳を開く。
「……サガ……?……ぅ……」
唇をふさぐ暖かなもの。それが彼のだと気づくのにそう時間はかからなかった。
「お目覚めかな?姫君」
はた、と見回せば一糸纏わぬ己の裸体。
それは良いとしてここがどこなのかがわからない。
「…ひゃ……ん……待って……」
耳元に触れる唇と掛かる吐息に身を捩る。
「ここ、どこぉ……?」
天井の高さから自分の住処である双魚宮ではない。かといって同じようなつくりの双児宮でもないようだ。
「ん……?ここは私の宮だが?」
囁く声と背中を抱いてくる腕。
(ああ……そっか……サガの宮……宮……ってまさかっ!!)
「きょ、教皇宮っ!!??」
がばっと体を起こしその勢いでサガは強かに顎を打ち付ける。
「絶っっっっ対ダメ〜〜〜〜〜〜〜っっっ!!!!」
教皇宮は前教皇シオンが居を構えている場所。
しかも間近にはアテナ神殿まであるという曰く尽き。
そんな彼女の拒絶など、彼はお構いなし。
「シオン様なら先日天秤宮に居をうつした。アテナか……見せ付けるのも悪くない。
 いずれ知ることなら、黄金聖闘士として手本を見せてやることも必要だ」
一本ずつ細い指を舐め上げていく赤い舌先。
「そんな御手本必要ないよっ!!」
「君にしては随分口汚い言葉だ……」
言葉とは裏腹な笑みに感じる底知れぬ恐怖。
(……サガ……酔っ払ってる……っ……)
教皇としての立場上、酒宴に呼び出されることもしばしば。
それでも彼は節度を重んじる性格も相まって泥酔することなどまず無かった。
その反面、酔えば彼ほど性格が逆転する男もいない。
「できれば、君の口からはそんな言葉は聞きたくないものだ……」
こんな危機的状況でも他の男に組しかれてたならば言葉巧みにかわすこともできただろう。
最悪な場合、薔薇に埋もれさせて意識を奪ってしまえばいい。
誰も傷つかずに穏便に事を済ませる自信はあった。
過去に何度も迫ってきた蜥蜴座の男も、ペルセウス座の優男も。
何の因果か海将軍の連中までもが双魚宮に押しかけた。
ほんの冗談だと言いながら目線は本気だったもう一人の双子座の聖闘士も。
挙句は一度お相手願いと殺到した冥闘士の集団をも。
それを彼女は自慢の薔薇ですべて見事に退けてきたのだ。
攻防一体になる甘い香り。本気の黄金聖闘士は遺憾なくその実力を発揮した。
狙った獲物は確実に仕留める最強の布陣。
女神の名前は飾りではない。
それが唯一通用しないのがこの男、双子座の恋人。
「ね、サガ……酔って……」
「だとしたら何か不都合でも?」
ちゅ…と重なる唇と絡んでくる視線。他人のことなどその存在すら無視する強引な男。
実力と権力は相まって聖闘士最強の不敗神話は褥の中でも嘘は無い。
「ア、アフロ……酔ってこういうことするの好きじゃない……」
「それで?」
両手を一括りに押さえられて舌先が、つ…と鎖骨をなぞり上げる。
(だって……アテナ神殿には……っ……)
教皇宮の目と鼻の先にあるアテナ神殿には女神と年若い聖闘士が泊り込んでいる。
もちろん女神に不埒な行為を使用ものならば聖域を守護する黄金聖闘士によって成敗されてしまう。
その役目を担う自分たちがこんな場所で肌を合わせるのは問題だ。
いや、すでに聖域公認のこの二人が今更何を。
(絶対に……聞かれちゃう……ッ……)
こんなときに聖闘士特有の小宇宙は厄介なものだ。
それぞれの特色が浮かんでしまうがゆえに、自分の状態まで悟られてしまう。
双魚宮ならばまだ距離がある分マシな方だ。
しかしここは神殿直下の教皇宮。血気盛んで健康的な少年たちが見逃すはずが無い。
ねっとりと絡みつくようなキスを受けながらどうにか打開策を考える。
「…っは……サガ、あのね……」
体を少しだけ起こして青年の喉仏に口付ける。
「……アフロ、ここじゃないほうがいいなぁ……」
濡れた瞳と唇が懇願すればさすがのサガでも心はぐらつく……はずだった。
「外は風邪を引くぞ?」
「そうじゃなくって!!自分の家が良いの!!」
「却下だ」
酔った天然ほど性質の悪いものは無い。
普段の温厚さはどこに消えたのか、今のサガは己の欲求に忠実な男。
(もう……どうにでもなっちゃえばいいんだ……)





「やー……ッ!!あ!!」
かり、と乳房を噛まれて細い腰が跳ねる。
口中で嬲るようにして転がせばそれだけでも上がる喘ぎ声。
両手が揉み抱くように沈んで乳首を舌先がちろちろと這い回っては吸い上げて。
「ふぁ…ん…!……」
ちゅぷ…唇が離れては触れる。その度に呼吸が速くなっていくのが自分でもわかった。
柔らかな肌に刻まれていく痣がひとつ、ふたつ。
「私は君の綺麗な爪が好きだったのに……こんなに短くなってしまって……」
確かめるように唇が触れた。
爪を一枚ずつ口に含んでちゅる…と離れる。
「あれほど美しいものはそう無いというのに」
少しごつごとした指が女の肌を滑りおちていく。
括れた腰を撫で上げるだけで零れて来る吐息。
執拗に繰り返される胸への愛撫にふるふると肩が震えた。
「…ぁう……ア!!…サガ…ぁ……!」
つつ、と滑る唇が形の良い臍に小さなキスを。
なだらかな腹部を抱いてそのまま膝に手を掛けて脚を開かせる。
「アんぅ!!」
ぬるぬるとした体液が青年の唇に絡みつく。
それを楽しむかのように陰唇に舌が掠めて媚肉をぺろ、と舐めた。
十年間、この体を作り上げた男の手。
「あ、ぁン…っ!!…やぁ……ぅ…」
掌で口を覆って声を殺そうとしても。
ぴちゃくちゃと秘部を舐め嬲る陰音が嫌でも耳に入ってしまう。
ぐちゅ…入り込む指に仰け反る肢体。
掻き回される度にぬちゃにちゃと曇った音が響く。
「!!」
ぬるつく愛液を絡ませてまるで弦でも爪弾くかのように指先がクリトリスを攻め上げる。
びくんと一際大きく腰が跳ねて逃げるように細い指がシーツを握った。
荒くなる呼吸ときつく閉じられた瞳。
首筋にキスをすればそれだけでも甘い声。
「そろそろ白状したらどうだ?アフロディーテ」
「……何も……っ!!……」
押し上げるように蠢く指。
その動きを逃がさないように絡まる女の肉。
べたべたに濡れた指先を見せ付けるように開けば半透明の糸が指同士を繋いだ。
「口を」
「何にも知らないもん……アフロがサガに隠し事できないのはサガが一番知ってるでしょ……」
置き去りにされた猫のような視線。
「ほう……どこまでそれが私に通じるかな……?」
天使の如く麗しいサガの微笑みも、こんな時は冥界直行にも似た邪悪さ。
男の手をとって根元からぺろ…と舌が舐め上げる。
まるで男根に奉仕するかのような動きに青年の目が細まる。
(ここでばれたら……何のために頑張ってきたか……)
男の髪が乳房に掛かって。
「ひゃぅ……」
「そんな風にされれば、意地でも吐かせたくなるな。どんな手を使っても」
太腿に手が掛かり開かされた身体に男が入り込む。
普段ならば甘い言葉の一つどころか室内が染まるほどのラブパレード。
それが今夜は違うのだ。
「ふぁ……んんっっ!!……」
入り込んでくる彼に腰がぎりぎりと軋む。
苦痛でしかなかった行為も今では受け入れて楽しむ余裕もできた。
最奥まで突き上げてはぎりぎりまで引き抜く。
擦り上げられる度に生まれる疼きと痺れ。
慢性的な熱さに支配されてまるで赤子のような言葉しか出せない。
「あ…っは…!!やぁ、んぅ!……」
ぐちゅぐちゅと絡まった音。
ねっとりと乳首を甘噛して嬲る丹精な唇。
幼い顔立ちに似合わない細身の筋肉質の身体が、彼女が聖闘士である事を静かに告げた。
「ァ……!!だめぇ……!!」
いくら胸を押しやろうとしても力の抜け切った細い腕では適わぬこと。
少し浮き出た骨盤を抱かれて深々と突き上げられる。
じんじんと疼く体と彼の声。
「……っは……アフロディーテ……」
汗で張り付いた前髪を払う指先。
蒼翠の瞳が愛しげに見つめてくるだけで身体が熱くなって。
理性を狂わせるキスが心を侵食していく。
「あアっっ!!サガぁ……っ!!」
喘ぎは唇で塞がれて夢中になって舌を絡ませあう。
蹂躙されたのは身体だけではない。
ぐじゅ、ずじゅ…繰り返される挿入に何度迎えたか分からない絶頂。
結合部から溢れた愛液が腿を濡らしてシーツを濡らした。
しゃくり上げる様な喘ぎ声と腰に絡まる細い脚。
「まだ隠し立てするのか?アフロディーテ」
小刻みな呼吸と蕩けた瞳。唇の端から毀れる涎と浮かんだ汗。
折られた膝は降伏の証の様。
「んんぅ!!」
「なら、私も君を追いつめようか」
これ以上無いような優しく美しい微笑み。
この笑顔で彼は神さえも欺こうとしたのだ。
「やぁん!!ひゃ……んぁ!!……ッ!!」
腰を掴まれてきつく引き寄せられる。
より深くなる結合と子宮への圧迫に身体が震えて。
「ひ…ぁ……サガ…ッ!!……」
額に触れる唇。そのまま耳元で囁かれた言葉。
「……中に出すぞ……アフロディーテ……」
「!?」
「どの道、子供ができたらそれはそれで好都合だ。もともと君を妻に娶るつもりだし。
 妊娠を理由にして魚座を解任させれば危険な任務をさせることことも無い」
「やだ!!そんなのやだっっ!!」
逃げようにもしっかりと腰を抱かれてもがくほどに体中を甘い痺れが走るだけ。
「いつもそんなことしないじゃない!!やだ!!」
普段の彼は余程のことが無い限り避妊具を用いてくれた。
タイミングを失ったときはぎりぎりのところで膣外射精にも応じてくれた。
「君と私の子ならかわいがる自信があるよ」
「やだ、中はやだ!!」
子供ができるのが嫌なわけではない。
聖闘士として彼の隣に立てなくなることが嫌だった。
けれども、彼が望むのは自分の無事でそのためには聖衣剥奪も止む無しと。
「きゃ…ぅ…あああアアっっ!!!」
「……ッ…アフロディーテ…っ……」
身体の内側で弾ける奔流を受けいれて、零れそうな涙を必死に堪える。
それでも抑えきれずに流れる涙に彼の唇が触れた。
「優しくしないでぇ……っ……」
「初めから隠し事などしなければ良いだけの話だ」
「知らないもんっ!!サガなんかしらないっ!!」
不機嫌そうな瞳の色にも気付かないほど泣き出した彼女に似た雨。
振り出した音色はこの空間を一層柔らかく染め上げてしまう。
「サガなんか大嫌い!!」
「それは困った……私はこんなに君の事を愛しているのに」
けれども、それも普段は聞けない彼の本音であることも確か。
「君に嫌われたら、どうやって残りの人生の日々を過ごせば良いのか……」
抱きしめてくれる腕も、この温かな胸も。
長い睫も、形の良い唇も、憂いの蒼を含んだ瞳も。
どれひとつ憎むことなど出来はしないのに。
「……じゃないもん……」
両手を伸ばして彼の頬をそっと包む。
「酔っ払ったサガは好きじゃないけど、サガのことは嫌いじゃないもん……」
「ただ、私は隠し事されるのが嫌いなんだ。君を痛めつけて楽しんでるわけでは……」
青年の身体がぐらりと揺れて崩れるように折り重なる。
「……やっと……寝た……っ……」
寝息を聞きながら彼の広い肩を抱く。
爪が短くなったことも見逃さないような恋人は、何でも抱えすぎてしまう傾向がある。
「サガの馬鹿ぁ……いつもは強請ったって付けるくせにぃ」
わしゃわしゃと銀糸織の髪を撫でてみては零れるため息。
こんなに酔った彼に抱かれたのは久しぶりだった。
「サガの赤ちゃん欲しいよ。でも、アフロは魚座の聖闘士は辞めない。ずっと、聖闘士
 でサガの隣に並びたいの。だからあんな事言わないでね……」
酒癖の悪さを許せるようになるまで要した時間。
もう一人の自分に嘆き苦しみ全てを否定していたあの日。
純粋なる彼は彼として彼女を愛した。
それすら彼には許されないことだった。
「カノンより酒癖悪いって致命傷だよ、サガぁ……」
もう一人の同じ顔を持つ双子座の青年。
周りから見ればまったく区別のつかない二人でも不思議と彼女は一度も間違えたことがなかった。
同じ動作をして見せても確実に見分ける。
「あ、もう三十日……お誕生日おめでとう、サガ」
眠る彼に甘いキスを。
もう彼の人生に悲しいことが降らない様にと女神に祈った。




アテナへの礼拝を終えて、計画通りにそれぞれが散っていく。
ぎりぎりまで足止めをするのは牡羊座の女と乙女座の青年。
「ムウ、婿殿。私は貴鬼を歯医者に連れて行くゆえに、サガの邪魔は適度にしておくのだぞ」
「シオンさま……そう思うならばこの二人も連行してください……」
「ならん。そのあと私は貴鬼とデートだ。のう、貴鬼や」
シオンの後ろに隠れながら少年は嬉しそうにちょこまかとテレポートを繰り返す。
「シオンさま、行こっ!!」
「そういうことじゃ。頼んだぞ、サガ」
残されたのは女神と二人の黄金聖闘士。そして青銅聖闘士たちと教皇であるサガ。
シオンは現役は引退とすき放題に遊んでいる始末。
「サガ、おっはよ〜〜〜、すっげぇ今日活き活きしてんのはなんで?なんで?」
そんなことを聞いてくるのは聖闘士最勇のペガサスの少年。
「そんなこと、聞くようなものではないだろう。」
「サガも健康的な男だったと言う証明でいいのでは?」
伸びた黒髪を靡かせる龍座とブロンドの美しい白鳥座は好き勝手。
「ア、アフロディーテの心配してあげたほうが……」
何とかしようと必死なのはアンドロメダの少女。
懇意にしている魚座の彼女を気遣う姿。
「貴様らのような童貞の戯言がこの男に通じると思うのか?ようは溜まっていたものを
 問答無用で抜いたという事実だろう」
不死鳥座の少年が放つ一撃。
わいわいと自分の周りで盛り上がる外野にサガはため息をつくばかり。
そうなのだ。
聖闘士特有の小宇宙で夕べのことはこの少年少女にも知れ渡っていた。
何度も弾ける薔薇色の小宇宙に絡まる青銀のそれ。
何事かと辿ってきて見れば重厚な扉の奥から聞こえもれる女の声。
普通の人間ならば聞き取れないものでも聖闘士の彼らには苦も無く全てが聞き取れた。
(……一生の不覚……っ……どうして私はよりもよって教皇宮なんかを選んでしまったのだ……
 確かに双魚宮を狙ったはずなのに……っ……)
いつも以上に眉間に皺を寄せて、がりがりと書類の山を捌く姿。
「そう小宇宙を爆発させずとも、君の魚は逃げやしないと思うが?」
「…………私はお前たちと違って他人に覗かれて喜ぶ趣味は無い」
「せめて今度は場所だけは確認することですね。あなたの酒癖はカノン以下です」
サガを封じるには最も適任の二人。
有無をも言わせぬ圧力でサガは仕事の没頭する以外の逃げ道が無くなる。
これがシオンを味方につけたシュラたちの狙いだった。
余計なことを考える能力を奪えばこちらの詮索には気が回らなくなる。
「カノン、これも持ってもらってもいい?」
「おう。まったくサガの誕生日って俺もじゃねぇかよ……」
「だからカノンの好きなものはデスとシュラがシェフになってる。私はケーキとかパイ
 とか作るほうが得意だから」
ご丁寧にパイ生地から作る女の荷物を持たされて青年はげんなりとする。
彼女は同じ顔を持つ兄の恋人であり自分のものではない。
「朝見たときはぶっ倒れそうな青い顔だったのにな」
「これでも黄金聖闘士だもん。あの程度で寝込んでられない」
小宇宙で作り上げたバラを一輪、結い上げたブロンドに。
光を浴びてまるで彼女は女神のよう。
「お前って、俺とサガ一回も間違えたことなよな」
「だってぜんぜん違うもん。どうして間違えるの?」
一番欲しかった言葉を簡単に紡ぐ唇。
「サガはサガだし、カノンはカノン。間違えるほうが不思議だけどね」
少し翳りのある笑い方。何気ない視線。
「そんなもんなの?」
「カノンは眉間に皺寄せて悩まないでしょ?サガは大口開けて笑わない」
単純な言葉でも、それをくれる人はいなかった。
ただ一人、少女は青年の前に降り立った。
「お前さ……俺があのまま聖域に残ってたら俺に惚れてたぞ」
「絶対無い」
「サガよりも野性味あるし」
「下品なこと言う人好きじゃないもん」
「ヒンコーホーセーなお二人ですってか」
「サガはアップルパイ。カノンはチェリーパイ。おいしいの作るね」
ストラップシューズの靴音。
それを静かに追いかけるブーツの踵。
(まぁ……俺の好みじゃないけどな……あれは自虐的なサガだから相性良いんだろうし)
「カーノーンー!!そろそろ戻らないとシュラに怒られるよ!!」
「そりゃ勘弁願いたい。あれの聖剣はまともに食らったら相当痛いからな」
枷は外れた。
もう自由に歩くことを邪魔するものは何も無い。
風薫るこの場所に降り立って天を仰いで。
「痛む足も心も無し……か。良い嫁なんだろうな、あれにとっちゃ」
ただ一人、最後まで彼にのみ忠誠を誓っていた聖闘士。
「カーノーンー!!」
「小煩ぇ……やっぱ俺とサガの趣味は違うわ……」
双子星は船を守る。
流れ落ちた星は今度は地上の星となり人々を守った。





所狭しと並べられた料理とあわただしく出入りする聖闘士たち。
「おいシュラ!!ワインカミュに渡しとけ!!俺は仕上げにかかる!!」
「アフロ!!焼き上がり大丈夫みたいだよ!!」
「どれ、私は貴鬼と味見でもするかのう。うむ、美味」
景色が最も美しいとされる処女宮を飾り立てて、あとは主賓を待つばかり。
「アフロディーテ、サガを迎えに行っておやり。そろそろ就業も終わりじゃ」
貴鬼を胸に抱えてにこにこと笑う女。
持ち前の俊足を活かして女は教皇宮へと駆け上っていく。
「カノン、グリーンチェリーは?」
「ほれ」
「よっしゃ。これで完成品いけるな」
「リア、お肉のほうこれくらいの焼き加減で良い?」
「あ、それなら私よりもアルデに聞いて」
無人の宮を駆け上り、ふと足を止める。
少年たちはどんな気持ちでここを上って行ったのだろう。
(……こんなに綺麗なのにね……でも、今からでももっともっと楽しくはできるよね……)
最後の一段を飛び越えて、少し驚いた顔の青年に抱きつく。
「ア、アフロ……そんなに急いでどうかしたのか……」
「サガ、みんな待ってるよ。行こう」
今日だけは彼をエスコートするのは彼女。
ふわふわとゆれる巻き毛が風を切る。
「うわぁぁあああああああ!!!!」
「サガ、あんまり暴れないでね!!」
速さだけならば双子座のサガを凌ぐその足。
光速で連行された処女宮でさらに彼は目を丸くした。
「お誕生日おめでとう、サガ!!カノン!!」
鳴り響くクラッカーは止むことを知らない。
二人そろって席に着かされて次々に掛けられる祝いの言葉。
「はい、これは私とデスから。二十九年もののワイン」
「俺とカミュからはこれ。カミュ行きつけの美容院のスペシャルなシャンプーとトリートメント」
「私とアルデからはこれね。頭痛薬と胃薬と飲みすぎのときの薬」
「般若経の写経用だ。ありがたく受け取りたまえ」
「チベットの青い芥子……あなたたちと同じ目の色です」
それぞれがそれぞれに込められた気持ち。
こぼれそうな涙をこらえて笑う姿。
「これはおいらとシオンさまからだよ!!」
巨大な熊を二匹抱えて、ニコニコと笑う少年。
「カノンや、これは私と虎からじゃ。なんぞ珍しい喫煙具かぇ?」
純銀のライターに目を輝かせたのはカノン。
重厚さに笑う唇は嬉しさ満開。
「サガ、お前にはこれだ」
手渡されたのは一枚の書簡。
「お前は明日から二週間休暇を与える。それ以上は聖域の任務を
 阻害するからのう。たまには羽を伸ばしてどこでも行くがよい!!」
「……シオンさま……」
「なに、その間はこのシオンが教皇として今一度采配を振るおうぞ」
切り分けられた二つのパイ。
今まで一番賑やかな誕生祭。
「サガ!!カノン!!俺たちからはこれ!!」
次々に差し出される箱たち。
「サガ教皇!!ジェミニのカノン様!!私たちの気持ちを!!」
「おめでとうございます!!」
ひっきりなしに訪れる白銀聖闘士たち。
「サガ、飲んで飲んで」
「いや、酒は…………」
「すげー、カノン、ワインそのまま一気してるぜ!!」
ちらり、と視線を彼女に向ければ笑う唇。
「じゃーん、ミロ様特性のスプリングオペラだ!!」
春の終わりに一番似合う甘く煌くカクテル。
「サガ、アフロからはこれ」
もう一枚の書状には、魚座の聖闘士にも二週間の休暇を与えると。
「お誕生日おめでとう、サガ。生まれてきてくれてありがとう」
頬に触れる唇。
少しだけ涙を隠すために上を向いた。




騒ぎ立てる夜が嫌いだった十三年前。
今はこんなにも愛しく思える。
空の双子星のように死してまで共にありたいとは思わなくとも。
二人で生まれてきたことを後悔することはもう止めた。
鳴り響く福音と篝る火時計。
今宵、地上の星が二つその輝きを増した。












13:59 2007/04/19

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