◆新説逆転恋愛論◆
なんともなしに俺とシュラはそんなに悪い関係じゃない。
けれども付き合ってるかって聞かれればそうとは言い切れないわけで。
キスも普通にできるし、セックスだって普通にやってる。
けれどもシュラから俺への気持ちなんてものは聞いたことはないのかもしれない。
同期で聖域に入って、なんとなく気になる存在っちゃそうだった。
ほそっこいのにエクスカリバーなんて技持ってて。
スパニッシュブルーの瞳と真っ黒な髪。
やけに括れた腰とか初めて触ったときには正直びびった。
ほかの女聖闘士はみんな髪伸ばしてる中シュラだけは伸ばしてない。
けど、俺から見てもシュラは短い髪のほうが似合うし色っぽいと思う。
「私の爽やかな朝をぶち壊しにきたのか?デスマスク」
額に浮いた汗とか拭う指先も、ちゃんと見ればすげえ手入れされる。
ネイルとかアフロディーテはごてごてとするのが好きらしいが、俺はシュラみたいに
綺麗に形を整えてるほうが好きだ。サガの趣味は俺にはわからん。
「んなわけねぇだろ。普通にきただけじゃねーか」
「悪いけども今日は遊んでやれないよ。買出しに行くから」
おい、何だよその扱い。
俺は近所のガキか?あん?
「じゃあ、荷物持ってやるよ」
「やだ。あんたの場合見返り要求が大きいもの」
そりゃ、男だったら下心の一つくらいもつだろうよ。
それでなくとも相手が美人ならばなおさらお相手願いったいってもんさ。
「んだよ、その言い方」
「私だって聖闘士だ。荷物くらい自分で持てる」
だから、そのジャケットいつ買ったんだよ。俺見たことねぇよ。
ブーツは知ってるけども、あとそのバングルもしらねぇ。
「じゃあ、私行くから」
「待てよ、俺も行くって。第一小麦とか担ぐ女なんて怪しい以外のなにもんでもねぇよ」
こいつは忘れがちだが、軽々と小麦の入った袋を担いだり驚異的なジャンプは普通の女の
やることじゃない。
まぁ、ムウなんかだったら別に違和感もないんだろうけども、たまには理由つけてくっついていたい。
「そういわれればそうかもしれないけども……」
カミュみたいに爪が長けりゃ折れるからって理由もつく。
でも、それはシュラには通用しない。邪魔になるからって伸ばしやしねぇ。
「たまには良いか。本当に荷物持たせるよ?」
「ああ。まかしとけって」
了解取れれば理由は兎も角万事OK。
さて、たまにゃ楽しくデートと決めますか、シュラさんよ。
野菜やら果物やら買い込むものは尽きることがない。
女ってのはどうしてこうも買い物が好きなんだか。
言ってるそばからまたトマト見てるし。おい、それ赤すぎねぇか?
だからパン屋の男と仲良く話すなって!!
「ちょっと」
「あ、んだよ」
「ブロッコリーとカリフラワーどっちが良い?」
それ、緑か白しか違わねぇんじゃねぇの?
「なんで俺に聞くんだよ」
「ほかに聞く相手がいないからだよ」
待てよ、こんくらいで怒んなよ。綺麗な顔がきつくなるぜ。
じっと見つめてくれんのは嬉しいけども、もっと違うときに見てくれよ。
「白いほう」
「そ」
手早に金払って、またその次へ。マジで荷物もちじゃねぇかよ。
そんでも近場でも、こうやってこいつと街に出るなんてほとんどない。
「なぁ」
「何?」
「アフロみたいにミニスカートか穿いたら似合うんじゃねぇの?」
俺の言葉にシュラは何なんだ?って目をした。
別に脚が太いわけでもなけりゃ、体つきが悪いわけじゃない。
むしろ男だったら一度は抱きたい良い身体してんだからさ。
乳だってでかいし、形の良さはシャツの上からだってはっきりわかる。
腰だって細いし手足だってすらっとしてて見惚れちまう。
「脚とか綺麗だろ」
「……ありがとう。でも、好きじゃなくてね。ロングはダンスドレスで慣れてるけども
短いのはどうも落ち着かなくって……」
そうやって笑うとまだ俺たち十七だって思い出すよな。
俺よりもシュラはずっと大人っぽく見えて、まぁ、アフロがガキ臭さ満開だからか。
「重くない?」
「あ?俺様を誰だと思ってんだよ」
チラッと投げてくる視線とか、何気ない仕草とか。
俺は多分こういう女が好みなんだろうな。
山羊座の聖衣箱を担いでやってきたのは細身の少女。
地図を片手に聖域の入り口でうろうろ。
(多分、ここであってるはず。間違いじゃないはず……っ……)
不安げに視線を落として、師匠からの手紙をもう一度開いた。
「ん?もしかして山羊座の聖闘士かな?」
朗らかな声に視線を上げれば岩の上に二人の少女。
短く切られたブロンドが太陽に透けてきららと笑う。
まだ少し幼い少女を小脇に抱いて、女は大地に降り立つ。
「私は射手座の聖闘士、アイオロス。こっちは妹のアイオリア」
姉の後ろに隠れながら、アイオリアという名の少女が見つめてくる。
「はい、山羊座の聖衣を授かりましたシュラと申します」
「ようこそ、聖域へ」
人馬宮は少女の住まう磨羯宮の隣。何かを相談したりするうちに尊敬の念が生まれた。
射手座の女は気さくで誰からも愛される。次期教皇候補にすら名前が挙がるほど。
本人は「面倒なことは嫌い」と笑っては双子座の男を悩ませる。
尽きる日まで、朽ちる日までただひたすらに進もうとする姿。
聖衣は誰かを守るためのものと幼い妹に言い聞かせて。
その彼女が聖域に謀反を起こすなどとは信じられなかった。
だからこそ、追撃者として名乗りを上げた。
本当のことを聞きたくて。
「おい、大丈夫か?」
「あ……うん……ちょっと昔のこと思い出してた」
なぁ、憂い顔ってのはものすごくお前の場合色っぽいんだぞ。
うっかりそんな表情で歩いてたら何が寄ってくるかわかったもんじゃねぇ。
「オロスさんのこと思い出してた」
「……………………」
あれは不幸な事故だったんだよ。お前が名乗らなきゃ俺が行くつもりだった。
まるで姉妹みたいだったんだ、何でお前が行ったんだよ。
「私の行動は正しかったのだろうか……もっと、もっとあの人と一緒に居たかった」
あの日から数日間、酷く塞ぎ込んで誰にも会わなかった。
泣きはらした顔と荒れた磨羯宮は見てるだけできつかった。
みんな知ってる。お前が本当にあの人を尊敬してたことを。
「考えんな。アテナ篭絡は立派な犯罪だ」
「理由もなくあの人はそんなことをしない!!」
「こんなとこで言い争ったってアイオロスは生き返りゃしねぇよ」
気まずくなったら煙草に逃げちまうのは俺の悪い癖だ。
でも、俺の吸い刺し奪うのはお前が辛い時の癖だって気付いてんのか?
「わかってる。わかってるけど……」
ああ、そうだ。あの女の命日が近いんだ。
反逆者の汚名を背負った女に花を手向けるのはお前と妹のアイオリアだけ。
それでも一人ではないと笑うんだろ。
泣きそうな顔しても絶対に泣かないお前がさ。
「飯でも食ってくか?」
「え……うん……」
こういうときにどんな言葉をかけたらいいかわからねぇ。
お前にとっての俺は何なんだ?
な、スペインの空って世界で一番綺麗なんだろ?
その空の下で笑ってたはずのお前がそんな顔すんのが俺にとっては一番辛ぇよ。
「笑っとけよ。そのほうが似合うから」
「普段そんなこと言わない癖にね」
意志の固そうな唇にメンソールの煙。
いつからだろうな、俺とお前の煙草の銘柄が一緒になったのは。
「そういえば、あんた背伸びた?」
あ?身長?んなのお前とほとんどかわんねぇよ。
でも、なんかちょっとだけでも見上げてもらえんのは男としちゃ嬉しい。
「どうだかな。俺はサガみたいな色男じゃねぇから」
「あんた、サガと比べること自体が間違ってるよ……」
そのあきれ果てた顔は何なんだよ!?俺はそんなに情けない男か?
あれくらい身長あったら良いとは思うけどよ、それって普通いわねぇだろ。
「そのうちもっと伸びんじゃないかな?」
「あったりめぇだろ」
ようやく笑ってくれてなんつーかほっとしたって言うか……。
な、シュラ。黄道十二宮ってのは太陽の通り道。
だったらそこにいるんだから笑ってくれよ、スペインの空に輝く太陽みたいにさ。
ふと思うのは、こいつ聖闘士になんなかったら何やってたんだろう。
フラメンコとか踊るからやっぱそういうのなんだろうか。
料理だって下手じゃないし、気が付きゃ巨蟹宮も掃除してくれる。
「何見てんの?」
「んー、聖闘士やってなかったらお前って何になってた?」
うわ、このワイン結構きついな。勘だけで選んで失敗した。
色は良いんだがそれ以外のとりえがねぇ。
「そうだねぇ……踊り子かなぁ……そういうあんたは?」
俺なんていいとこその辺のチンピラだろうよ。
「私の予想は、あんたは真面目に学生やってたと思うよ」
「は?」
「私の家って結構貧しくて。踊り子は手っ取り早くお金稼げるから」
でもそれはお前……身体で稼ぐってやつだろ。
目当ての踊り子に大金貢いで抱いてるやつなんて腐るほどいる。
「聖闘士にならなくて、もう少し自由になるものがあったら、そうだな……私も
学校にちゃんと行って勉強をして……」
でもよ、聖闘士になってなかったら俺はお前と出会ってないわけで。
これってのは俺にとってはすげぇでかいことなんだけども。
「ま、聖闘士になったから我が家には補助金いったはず」
「……お前、命がけで……」
「大事なものは真剣に守んなきゃ。指の隙間からこぼれてくのよ」
そんな風に笑うなよ。どう返したらいいかわかんねぇだろ。
意外と長い睫も、薄くて形の良い唇も。
銀色のフォーク咥えてるだけでも十分エロいし、やばい。
パスタ舐め取るよりかさ、もっと楽しいことしようぜ。シュラ。
唇って名の付くものは旨いもの食うのとエロいことするためにある。
ちょっと苦しそうにしながらしゃぶられんのとかは気持ち的にもりあがっちまう。
「ついでに挟んでくれよ」
張りはあるけども柔らかい乳ってのは身体がある程度鍛えられなければ無理な代物。
舌と口唇どっちも使ってってのはさすがに気持ち良い。
こういう時のシュラは普段よりもずっと女っぽい。
「もう良いから……後ろ向けよ」
そういえば、俺とシュラはセックスの最中ってあんまりキスしねぇ。
「!!」
ちっちゃい顎押さえつけて舐めるようなキス。
そんなに驚いた顔しなくたっていいだろ。
「……ふ、ぅ……ッ……」
舌同士が絡まってぴちゃぴちゃと音を立てて。
俺の親指軽く舐めて離れる口唇がなんか濡れてるから。
でもお前……誰にそれを教え込まれた?
知らない顔が時々ちらつくのは嬉しい反面やっぱりむかつく。
だから結局俺は後ろ向きでこいつとやっちまうんだろうな。
「ア!!」
甲高い声と甘えるような声色が混ざり合う。
揺れる乳房を掴んで後ろからぶち込むとその瞬間に腰が逃げようとする。
十分に濡れてっから挿入るぶんに痛いとかはないだろうけども。
唇開かせて今度は中指しゃぶらせれば素直に舌を絡ませてくるってのさ。
誰なんだろうな、こいつを開花させたやつは。
見つけたら冥界波食らわしてぶっ殺す!!
「……うー……や……!…ッ…」
突き上げるたびにこぼれて来る愛液が俺とシュラの間でぐちゃぐちゃと音を立てる。
小刻みな呼吸と揺れる乳房。
あー、チクショウ。俺はこいつに多分惚れてんだよ!!
腰を掴んでひたすら後ろから犯すように何度も何度も俺も腰を振る。
首に噛み付いて、キスマークなんて可愛いもんじゃないブツ刻み付けて。
「あ!!……うぁ、ン!!…アあっ!!」
お前がやってるときに俺の名前を呼ばないことも。
ぬるぬるになった指でクリトリスを弄ってやればいっそう締め付けてくるってのも。
「ああアッッ!!!!」
やべ、いつもだったら一緒にイッてた……。
崩れ落ちるシュラの背中の線を舌でなぞると、それだけでも肩が震えた。
俺、お前がどんな顔でイクのか知らねぇ。
「!」
ひっくり返して顔を覗き込んだら物凄く驚かれた。
「…ちょ……待て!!待って!!」
まだ硬くなったままの乳首を軽く噛む。
目尻にたまった涙とかそのままにして、左右を交互に舐め嬲る。
「…っは……ん……ッ…」
そんな色っぽい顔してたか?お前。
両手で口を覆ってまで声なんか殺そうとして……そんなに俺に聞かれるのは嫌なのかよ。
だから手首ごと押さえつけて噛み付くようなキスをかました。
「お前ってそういう顔すんのな」
「!!」
飛んでくる手刀を受け止めて手首に吸い付く。
こいつが本気だったら俺の首なんか簡単に飛ぶ。
「イッたばっかりでもう一回って、良いだろ?」
「……後で……ッ……」
脚開かせて、今度は珍しく正常位で。
喘ぎ声と吐息が混ざりあうからこういうのっていいんだろうな。
何よりも顔見れるし。
「んぅ……っ……」
何度も繰り返すキスは俺だって嫌いじゃねぇ。
「後でなんだよ」
「……殺す……ッ……」
んな蕩けきった表情(かお)で言われても死ぬ気配なんてまったくねぇし。
ぐちゃぐちゃと聞こえてくる音が嫌でも盛り上げていく。
「や……アぅ!!あ!!」
何で……泣きそうな顔すんだよ。
手が伸びてきて、俺の頬に触れて。
世界で一番やばめなキス。
抱きつかれて初めて気づいた。こいつの体は細すぎる。
強さと希薄が鎧になって全部隠してただけだったんだ。
しがみつく様にして俺の背中をぎゅっと抱いてくるこの腕の細さ。
紛れも無く女じゃねぇか。
心臓の音。耳に掛かる息。切なげに顰められる眉。
なぁ、お前を最初に抱いた男に嫉妬するぞ。
「……ぁ…ん……」
半分泣きそうな顔で俺に抱かれてんのは不本意か?
こんな風に抱き締めあうことも今まで無かった。
「……シュラ……」
唇の端を舐めて、そのまま舌を絡ませた。
腕の中できれいな顔が歪んで力が抜けていくのを見ながら、俺も同じようにこいつの中に吐き出した。
いつもだったらどっちとも無く煙草に手ぇだせる。
でもって、今俺が考えてるのは腕の中のこいつをどうするか。
こんな風に身体を預けられたことなんか今まで無かったってのがさ。
だから柄にも無くこいつの髪とか撫でたりして。
あ、意外と柔らけぇ……うん。
「な、大丈夫か?」
「……ん……」
俺の胸を押しやって、のろのろと身体を起こす。
どうしたら良いか分からなくなって俺も起きる事にした。
ついでに煙草に火を点ければ隣から手が伸びてそれを奪う。
「大して美味しい物でもないのにね」
咥え煙草の横顔がこいつは綺麗だ。
なぁ、誰のこと考えてんだよ。
「お前っていつから煙草吸ってんだよ」
「聖域(ここ)来てから。初めて覚えたのがこれ」
女が吸うにはきつめのメンソール。ああ、前の男の名残な。
「綺麗な髪だよね。銀色で」
ああ、俺か。綺麗って言われたって男だからなんとも言えねぇっていうか。
そんな視線で見上げんな。
明らかに俺に誰かを重ねてるだろ。
「あー、ムカツク」
「あんたいつも世の中にむかついてない?」
「誰見てんだよ、お前。俺じゃねぇだろ」
ほんの少しだけうつむいて視線が投げ出される。
だからそういう表情されるとどうしたらいいかわからねぇんだ。
なぁ、俺はお前にとっていったい何なんだ?
「うるさい。あんただって私のことなんか単なる人形みたいに抱いてるだろ」
「あ!?俺はお前のこと好きだって前から言ってんだろ!!」
「弱い男は好きじゃない」
とどめの一撃、脳天直下確実死。
「でも、置き去りにする男はもっと好きじゃない……ッ……」
両手で顔を覆って、涙を隠す。
声を殺す癖はこうやって泣き声を消してたからなんだって気が付いた。
「俺だったらしつこいくらい追いかけるぞ」
まだまだお前と心の距離は離れてるよな。
後ろから抱きしめて泣き顔見ないようにするくらいしかできねぇ自分に一番ムカツクんだ。
「知ってる」
今日だけ。今日だけ限定だ。
「誰だよ、お前をそうやって泣かせんのはよ……」
大人になれ、心を広く持て。何がきても動揺するな。
「……言えるわけないでしょう……」
こんなにほそっこくて肌も柔らかくて。
抱え込むことが多すぎんのにまだ何か隠してるってのもさ。
「だからお前は俺の名前呼ばねぇ」
「そうじゃない。そうじゃない……」
だから、両手でこいつの目を覆った。
「誰も見てねぇ。誰も居ねぇよ」
「……ただ、もう一度会いたいだけ……あの人に……」
一つ一つ、区切られる言葉。
「……カノン……」
おい待て!!ちょっと待て!!マジで待て!!
でも、でも、今日だけは俺は何もいわねぇぞ。
飲んで泣いて抱かれて忘れちまえ、そんなやつ。
「これ、まっず……」
相変わらず俺の煙草をこいつは奪い取る。
「きっつ……苦手かも……」
けほけほと咳き込んで、読みかけの本で扇ぐ姿。
「別に銘柄変えただけだぜ?文句あんなら自分の吸えば良いだろ」
「これに慣れるしかないんだろうけどね」
おい、ちょっと待て。それってどういう意味だ?
意味深な視線と深読みさせる言葉だったら俺は確実に乗るぜ。
「ほら、だらしなくしない。ちゃんと片付けろ」
なあ、俺は諦めはめちゃくちゃ悪いぞ?
そんで俺の明日はどっちなんだよ!?
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13:00 2007/03/26