『生きていく力がこの手にあるうちは 笑わせてねいつもいつも
  そばにいてほしいの                 』
                   こいのうた



モクタクを下山させてもやることは山積。
休みなどなく彼女は普段どおりの日々を過ごしていた。
「普賢」
「ああ、太乙。どうかしたの?」
たまには庭でのんびりと日差しを受けながら書類を片付けるのも悪くない。
そんな考えで穏やかに。
「霊珠は完成したの?」
「大体はね。文殊のとこの子も帰ってるんだろ?」
胎の中の肉に命を与え、この世に生まるるための儀式。
「子供がほしかったら言ってよ。協力くらいはできるから」
彼と二人で抱きしめる願いをかなえる為の魔法。
恋は良くも悪くも自分の弱さと向かい合わせにしてくれる。
「ありがとう。でも……まだいいかな」
愛をあげたい人がいるから多分、この気持ちを抱いて一人で眠ることもできるから。
何かを人工的にすることを、自分たちは望まない。
「何か用事でも?」
「金庭山のほうに行こうと思って。ついでだからちょーっと顔でもみていこうかなー、って
 思ったわけ」
自分の顔を覗き込んでにやつく青年に少女は首をかしげた。
「何かついてる?」
「そうじゃないよ。今の君たちをみてるとあのときに道徳が散々悩んだり頭抱えたり
 してたのが嘘みたいだなーって」
恋人とこの青年は同期であり、仲もよい。
何かと相談を受けていたのは想像に難しくはなかった。
「あの道徳が女関係で悩むとは思わなかったし」
「そんなに昔は派手だったの?」
「若かったからね。僕たちだってきっちり欲を持った男だし」
男と女。二つの性があるから幸せも不幸せも存在してしまう。
大仙といわれてもこうなってしまうのだから、道士時代のことは考えないほうが無難だろう。
「興味無い?」
「だって、知ってもどうにもできないことだもん。気にならなくは無いけど……」
最後のほうが少し口ごもってしまうあたり、まだまだ彼女も恋の真っ只中。
真白の道衣をも染め上げられそうなこの思い。
「道徳と玉鼎は仙女に不自由はしかなったよ。正反対だし、どっちも人に好かれる体質だしね」
それは今も変わらずに、多くの仙道が彼を慕って洞府に集う。
自分もはじめはその一人だったのだから。
「何千年ぶりだろうね、あの二人が同じ仙女を争ったなんて」
分があると踏んだのは玉鼎真人。
書庫に篭る少女と波長も合うことと、学術的な話もできる。
並べば聡明な恋人像。道士たちのほとんどが玉鼎真人がその心を射止めると思っていた。
「ふーん……前もあったんだ」
「そんな怖い顔しないで。せっかくかわいい顔してるんだから」
曲者揃いの師表たち。その一人に彼もこの青年も座するのだ。
「ちゃんと見ると人形みたいな顔してるんだね」
何気なく伸びた手が小さな顎に掛かる。
「飾りたいってのがわかるかも。あの二人、どうして道徳を選んだのさ?」
安堵感をくれる優しい大きな手。
耳に響く低い声も、時折どきり、としてしまう眼差しも。
自分が知らないものを持っていた彼の存在。
「僕も普賢が道徳を選ぶとはおもってなかったから」
「そんなにおかしい?」
「話が合わないだろ?まぁ、性根は悪くないけどそれだけじゃ一緒にはいられない」
好きだけじゃ駄目なことは自分たちが一番よくわかっている。
無償の愛など存在しない。でも、有償だからといってそれが正しいわけでもない。
「価値観が同じでもないだろうし、本だって読まないよ」
「酷い言い方だね。確かにそうかもしれないけど……あの人じゃなきゃ嫌……」
そっと太乙の手を払い除ける。
「あの人の考えや言葉を理解できて、もっともっとあの人と深いところで繋がれるなら
 少しくらいの苦労は厭わないよ」
彼女のことを理解するために、親友はあちこちを走り回る。
歴史の造詣は書物よりも実体験を有してきた先の仙人たちに。
女子の好みそうな菓子や茶葉は仙女たちに。
必死になればなるほど滑稽なその姿。
それでもそれにさえ気付かないほど、そうしてまでも手を伸ばしたかった。
「あの人が手を差し伸べてくれたから。だから、仙人になろうと思った」
彼の隣に並ぶに相応しくありたい。
引け目を感じることなく、頭一つ分の高さを乗り越えられるように。
彼を名前で呼べるように仙号を得た。
「多分ね、好きになったのは僕が先。気が付かなかっただけで……」
「ふぅん……それじゃどう頑張ったって玉鼎に勝ち目は無かったってことだね」
「玉鼎だったらもっと素敵な女性(ひと)が出てくるよ」
優しい言葉で残酷なことを言いのけるのも、少女ならでは。
「多分ね、話が合うのは玉鼎だろうけど……君を幸せにできるのは道徳だろうね。
 どっちも知ってるから思うけども」
「すごく大事にしてもらってるよ。甘やかされてるし」
うれしそうに少しだけ笑みを浮かべる小さな唇。
「君に惚れなくて良かった。そんなことになったら今頃道徳に殺されてる」
「道行がいるくせに」
「だから良かった。僕にとっての彼女は、道徳にとっての君だから」
数千年を生きて、前時代からの仙女とまだ若い仙人。
並んで引けをとらないように彼もまた必死なのだ。
「年の差くらい、心意気で乗り越えるさ」
「奇遇だね。ボクも同じこと考えてる」
壁は高ければ高いほど越える甲斐がある。
まだまだ悟りを開くには時間が掛かることもわかっていた。






「うお、びっくりした」
扉を開ければそこにたっていたのは恋人の姿。
「来ちゃった。駄目?」
「いんや。あー……天化居たんだったな……どっかに預けてくるか」
「あ!!ごめんなさい……ボク、帰るね」
立ち去ろうとする普賢の手を思わず掴む。
(あ……前もこんな感じなことあった……)
同じように紫陽洞を訪ねて、手をとられたあの日。
「太乙あたりに預ければ問題無しだろ?」
「んー……でも、今日は帰るよ」
さわさわと頭を撫でられて、うっとりと目を閉じてしまう。
薄く開いた唇が、無意識に誘うから離れられない。
「あー!!!!モクタクのところのねーちゃんさ!!」
男の後ろから飛んでくる少年の声。
「遊びに来たさ!?やった!!!!」
「飛び上がるほど喜んでもらったとこ悪いんだけど……」
言いかけた口を塞ぐ男の手。
「っっ!?」
「そ、今日は晩飯作ってくれて遅くなりそうだから泊まってくんだ。あんま夜中まで
 騒ぐなよ、天化」
目配せと、その視線で理解できる関係。
「おっしゃああああ!!久々にまともな晩飯食えるさ!!!!」
その言葉に普賢の瞳が、ちら…と見上げてくる。
こくん、と頷かれてたら笑うしかない。
「じゃあ、がんばっておいしいの作るね」





瞬きをする間に出した料理は消えていく。
子供が苦にならないようにと辛味は抑えて味は肉や魚を思い出しながら近付けた。
「すんげーーーうめーーーーーっっ!!!」
「慌てなくても大丈夫だからね」
にこにこと見つめながら空になった茶碗を受け取る。
細竹と茸の炊き込み飯を山にして返しても、あっというまに茶碗は戻ってきてしまう。
愛弟子のモクタクもそれなりに食欲はあるほうだが、天化はその比ではない。
「おっかわり!!!!」
「はい」
目の前の最後の一つになった椎茸の煮物を師匠と争いながら天化は育っていくのだろう。
その一つ一つの動作に目を細める。
「ごっそさんでしたさっっ!!」
「食べれないの無かった?」
「うん。かーちゃんの次に美味かったさ」
それでも恋しいのは母の柔らかな胸。
「食ったら風呂入れよー。天化」
「うーい」
親子のようで兄弟のようにも見えるこの師弟。
小さな背中を見守る兄のような青年。
「道徳っていいお父さんになれそう」
「そうか?んじゃ、子供じゃんじゃん作っか」
抱き寄せて額にそっと唇を押し当てる。
熱病にでも冒されたような感覚、それが多分恋心。
「んー……まだ、もうちょっといい……」
意外な言葉に、道徳は普賢の顔を覗き込んだ。
子供好きの恋人からは出ないであろうその言葉。
「何でだ?」
「だって、赤ちゃんが来たら道徳のこと独占できなくなっちゃうから」
ぬれた唇が囁く我侭は、どんなことでもかなえてやりたいと思ってしまう。
「……普賢……」
ゆっくりと顔を近付けて、唇を重ねようとする。
腕に細い指が掛かって同じように普賢も目を閉じた。
「うがっ!?」
「道徳っ!?」
「おっさんなにしてっさ。人が風呂入ってる間に!!」
背中に鮮やかに決まった飛蹴り。
擦って心配気に覗き込んでくる恋人に「大丈夫」と言うのが精一杯だった。




「痛っってぇ……あんの野郎、本気で蹴りやがったな」
丹薬を塗りながら普賢はくすくすと笑う。
「道徳が育ててるだけあるね。立派な道士になると思うよ」
喉仏にちゅ…と唇が触れてじっと見上げてくる灰白の大きな瞳。
夜着装束から覗く柔肌の艶やかさ。
「お役に立てれば……道徳師兄」
唐突な言葉に咳き込んで、普賢の肩に手を置く。
「急に何なんだ……お前も天化も」
「だって、師兄には変わりないもん。それとも道徳師伯のほうが良かった?」
手を小さく振りながら「どっちも勘弁してくれ」とつぶやく。
同格の仙人だからこそ恋人に成り得ることができるがこれが道士なら話が違ってくる。
階位を利用して手をつけたと言われることもあるだろうし、下手をすれば仙号剥奪という
可能性も出てくることにもなるだろう。
「急に師兄なんて呼ぶから……」
「かわいそうな師兄を慰めようかと思いました。それはいけないことですか?」
誘われるなら乗らないわけにはいかない。
まして普賢の誘いなどまず滅多なことではありつけないのだから。
「じゃあ慰めてもらうかな……」
ぱさり……夜着が落ちて露になる裸体。
男の袷に手を掛けて同じように剥ぎ取る。
柔らかな乳房が重なって、されるがままに絡まりながら身体を寝台に沈めた。
「……ん……っ……」
挟むようにして唇を重ねて、歯列を割って舌を絡ませていく。
下から見上げる恋人の顔はいつもよりも幼く見えて、罪悪感がちろりと顔を出す。
「ふ…ぁ……」
乳房に掛かる指が蠢くたびに上がる嬌声。
「やぁ…ん……っ…」
そろり、そろり。少女の唇が下がっていく。
喉仏、鎖骨。一つ一つ確かめながら唇がその痕跡を残す。
(期待しちゃっても……いいのかな……)
躊躇いがちに指先がそこに触れる。
「無理……しなくてもいいん……!!」
舌先が先端をちろ、と舐め上げていく。
ぎゅっと瞳を閉じて亀頭を銜え込む姿。
「…っは……」
少しだけ身体を起こして、少女の頭をそっと撫でる。
染まった頬と困ったように閉じる瞼。
(幸せで死にそうですよ……かわいい顔して……)
たどたどしく這い回る小さな舌が、赤みを帯びて妖気に艶付く。
舌先が離れれば半透明の糸が伝う。
「ん……あんま強く握んなくていいよ……」
不慣れな動きでも自分を喜ばせたいことが伝わってくるから。
「…ぅん……」
ぴちゃぴちゃと舐め上げる淫音と唇が吸い付く感触。
柔らかな唇と口腔に包まれる暖かさ。
膣内とはまったく別の粘膜と絡まってくる舌先の不可解な動き。
「あと良いよ……急がないでゆっくりと覚えればいいから……」
自分に覆いかぶさる少女を抱きしめて、その頬に唇を当てる。
肌に感じるぬるつきにそっと指先を下げていく。
「きゃ……ん!!」
「濡れてる」
指先を突き入れられて、ちゅくちゅくとかき回される。
「んー……ぅ…ッ……」
少しだけ上がる腰と胸板に重なる乳房。
「なんで……急にあんなことしようって思ったんだ?」
耳元に掛かる甘い息。少女の吐息は色まで恋色。
「…ふ…ぁ!……」
目尻に溜まる涙と、薄く開いた唇。
男の頭を抱いて、普賢は愛しげにその髪に口付けた。
「あなたを繋ぎ止めたいと思ったから」
彼が彼女に近づく男を追い払うように、彼女もまた同じ思いだった。
何も知らないまま仙となり、ただ一人の腕しか知らない。
「……ちゃんとつながってる。そんなことしなくたってな」
「本当に?」
この胸のふくらみが増しても。
「本当に。俺、浮気はしないほうだぞ。太乙あたりに聞いてみな」
「ん……昔のことは聞かない……」
「興味ない?」
「ううん。知ったってやきもちしかやけないから……」
少女の身体を押しやって、今度は男が覆い被さる。
「あ!!」
乳首を摘み上げられて肩が竦む。
谷間を舌先が這って、乳房に当たる歯の感触。
ぬるついた先端を吸って口中で舐め嬲る。
「あ……ぅ…!!……」
「んー……前よりも感度良くなったか?」
くちゅ…裂け目に入り込んだ指先と絡まる粘液。
引き抜いて見せ付けるように、少女の目の前でゆっくりと開く。
膝に手を掛けて、ぐっと開かせる。
「きゃ…ン!!」
ぐちゅり…粘り気のある音と入り込む舌先。
「ふぁ…!!」
震える指が男の頭を押しのけようとするが腰をしっかりと抱かれてそれもかなわない。
唇が小さな突起に吸い付いてそのまま嬲り始める。
「あ!!あぁん…ッ!!……」
ちろちろと舌が攻め上げるたびに桃色の媚肉が震えて愛液がこぼれて。
それを啜り上げる音に普賢はぎゅっと目を閉じた。
「や……!!あ!!ンっっ!!」
顔を埋めるようにして唇を押し付けられる。
微妙な息遣いでさえわかってしまうほど。
「ひぁ…!!やだ、やだぁ…ッ!!」
首がいや、と振れるたびにふるふると揺れる丸い乳房。
「普賢」
「……?……」
潤んだ瞳がじっと見上げてくる。
「止める?」
「……やめちゃ……やー……」
ほんのりと散らせた薄桃のような頬。
唇の端からとろり、と零れる煽情的な涎。
(そんな顔されると……やめらわけねぇよ……)
唇を噛み合って眩暈を分け合う接吻と、細胞まで融合させたいと願う抱擁。
濡れきった入り口に先端が押し当てられて襞肉を割って入り込んでくる。
「あ……んんっ!!」
背中にしがみついてくる細い腕と小さな爪。
突き上げるたびに生まれる嬌声と絡まってくる膣肉の隠微さ。
「……く…道……徳…ッ!!」
腿を抱えるようにしてより深くまで入り込む。
ぐちゅ、ぎゅぷ…繰り返される注入と混ざり合う体液の生み出す水音。
腰に絡んでくる脚と上ずる声。
「あ、ん!!や……!!」
肌に落ちる汗にさえ反応してしまうこの身体。
「……道徳……っ…」
「ん……?」
頬に指が触れて、唇が僅かに開く。
「……大好き……ずっと、好きでいてもいい……?」
泣きそうな心を封じても、この腕の中では無意味になるから。
気持ちを吐露できるたった一つの中で少女は瞳を閉じた。




与えられたこの運命の中で泳ぐことも面白いのかもしれない。
それは一人ではないという自覚があるからこそ。
もしかしたら二人で出会うことははじめから決められていたことなのかもしれない。
そしてその意味を知るのはずっとずっと先のこと。
誰が仕組んだことであれ自分たちは出逢ってしまった。
誰かの言いなりになれるほど、弱くは無い。
けれども一人で生きれるほど強くも無い。


精一杯運命を蹴り上げよう。
君と二人、手をつないで。





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22:57 2005/11/24

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