『こんな夜は逢いたくて……君に逢いたくて、また、明日を待ってる』
                        JAM





「折角、人数も揃っておる。麻雀でもするか?」
夕食を終えて、太公望がぽつりと呟く。
「面子は?」
「わしと、おぬし。それと道徳。子供は二人で一人と見れば良い」
「面白そう。良いね」
器に浮かべたのは、白蓮茶。湯を受けて甘く花開く。
「おぬしは、どうじゃ?道徳」
訝しげな顔をする男を呼び寄せて、三人で輪を作る。
太公望の提案に、男は小さく笑って頷いた。
「天化、脳味噌鍛えるのにはいい訓練だ。お前はモクタクと組め。いっとくけどな、
 俺たちは強いぞ」
大仙も、元々は人間。遊びも恋も捨てきれないもの。
「じゃあ、準備するね」
「久々じゃのう。脱衣麻雀は」
その声に、少年二人は顔を見合わせた。目の前に居るのは三人の仙道。
そのうち二人は紛れも無い女なのだから。
しかし、彼らはまだ彼女たちの本性を知らない。
崑崙の悪童と称されるこの二人の少女の素顔を。






「何なんだあいつら!!」
子供二人は結局惨敗。再戦を挑んでそれでも敗れた。
初めから仕組まれた罠に掛かってしまうのはまだまだ幼い証拠。
望んで掛かるようになれば、一端の男だと少女は笑った。
「んで、俺がお前らを風呂に入れなきゃなんねーというのもなぁ」
子供二人を湯船に沈めて、男はにしし、と笑う。
愛弟子はどうにも入浴というものを好まずに、逃げてばかり。
事のついでとモクタクの襟首を掴んで、三人揃っての入浴となった。
「ま、脱衣ってあたりでこれを読んでおくべきだったな、お前ら」
「迂闊だった……あいつ、麻雀強ぇって、忘れてた……」
何度も相手をしているはずなのに、目先の欲望に眩んでしまう。
二人揃っての甘い言葉は、それに拍車を掛けてしまうから性質が悪い。
「洗ってやっから、出ろ」
「ぜってー嫌だ!!」
「嫌さ!!」
「覚悟決めろよ、ガキ供」
浴室から聞こえてくる悲鳴など、気にも止めずに氷菓子に目を細める。
「なんだか、凄いことになってるみたい」
「小猿をを二匹、熊が洗っておるからな」
「そんなに、熊に見える?」
困ったように笑う少女の表情に、思わず噴出してしまう。
「熊じゃろう。大柄で人懐こい」
「んー……そう言われるとそうだけど、熊……うーん……」
一人になる事を嫌うところも含めて、彼は確かに熊に似ているのかもしれない。
彼女はまだ、自分が『猛獣使い』のあだ名を持つ事を知る由も無く。
降り注ぐ幸せを、受け止める事で精一杯の日々だから。
「おいコラ!!あの男何とかしろ!!」
「全身剥かれたさーーーっっ!!」
見れば真っ赤になった二人が、声を荒げて飛び出してくる。
「良かったのう、湯冷めする前に寝るが良い」
「氷菓子(アイス)持ってきてあげるね」
二人分の小皿と、そこにもられた薄桃色の甘い氷菓子。
小匙と、一口大に切られた果実をおまけに、と差し出す。
「モクタクはずるいさ、コーチなんかなんもないさね」
「毎日食えるわけでもねーぞ」
「んで、俺には無いのか?」
浴巾で汗を吹きながら、道徳は普賢の顔を覗き込む。
はい、と手渡して上目で見上げた。
「美味しくなかったら、ごめんね」
ほんの少し寄り添うだけで、その場の空気は一瞬で色を変える。
男の口に匙が触れるのを、嬉しげに見つめる少女。
「モクタク、あのねーちゃん男の趣味悪くないさ?」
「めったくそに悪ぃぞ」
それでも、二杯目に手をつけてしまうのは子供の性。
笑いを噛み殺して、太公望は髪紐を解いた。
「わしも風呂に入るとするよ」
「ボクも一緒に入ろうかな」
「おお、久しぶりにいいのう」
連れ立って浴室に消えて行く後姿。
波乱含みの夜はまだ、始まったばかり。




扉越しに聞こえてくるのは、少女二人の軽やかな声。
時折はいる水音が、それをよりぐっと際立たせる。
「お前ら何やってんだよ……」
隙間から覗きこむ子供二人の襟首を掴んで、男はため息をついた。
「風呂場覗くなんざ、千年早いっつーの。さっさと寝ろ」
「コーチだって、覗きにきたさ」
「あのな……俺は風呂場覗く様な趣味は持ってねーんだよ」
隠れていれば、見たくなるのは男の本能。言葉と気持ちが裏腹なのを隠して、子供達を諌める。
長い長い夜に、邪魔者が三人。
少しでも数は減らしておきたい。
「とにかく、覗くなってこった」
湯気の向こうに見えるのは、魅惑的な影。柔らかな身体の線と、甘い香り。
目を逸らせと言うほうが無理だろう。
現に、彼とて見え隠れする影に目線を奪われているのだから。
「コーチはいいさね、いつだってみれっから。俺っちはこーいうときじゃなきゃ見れないさ」
「な……天化!!あのな!!」
「あの女は別だけど、師叔を覗けるなんてそうそうねーし」
二人の襟首を掴み直して、ごつん!と額をぶつけ合わせて。
よろめく子供二人は扉を直撃する。
「!!」
二人分の重みを受けて崩壊する扉。
「うわ!!離せっ……!!」
苦し紛れに伸ばされた手が、道徳の夜着の裾を掴む。
「…………何を、してるのかな?」
「阿保が三匹、釣れたのう……」
ばちばちと火花を上げる太極符印と、ぼきぼきと音を立てる小さな拳。
噴き飛ぶ壁と響き渡る男の悲鳴。
少女二人のため息が、しずかに重なった。





「いてててててて!!!」
消毒液を真綿に浸して、そっと頬に当てる。
「覗きなんて、考えないほうがいいよ」
「俺は、止めようとしただけだ」
前髪を静かに掻き分けて、額に唇が触れた。
「道徳」
夜着の袷に掛かる白い指先。今宵の指先は、ほんのりと蕩けた薄桃と白。
ぱらり…露になる柔らかな乳房。
「見たいなら、ちゃんと見せてるでしょ……」
恥かしげに逸らされる目線と、染まった頬。
耳朶まで赤くして、ぎゅっと閉じられる双眸。
「あ……うん……」
「……そんなに、ほったらかしにしてた……?」
膝立ちで、晒される裸体はいつもよりもずっと淫靡で。
袖を通されただけの夜着が、それを増長させた。
「してない……」
手が伸びてきて、男の頭を抱き締める。柔らかな白い谷間に埋まる顔。
湯上りの香りに絡まる女の甘さ。
ふにゅんと頬に感じる柔らかさと、聞こえてくる心音。
「や……っ……」
敷布に倒されて、覆い被さってくる男を見上げる。
ゆっくりと近付いてくる唇に目を閉じて、どこか期待めいてしまう心を小さく叱咤した。
「天化と、モクタク……ちゃんと寝たかな……」
首筋に掛かる息を感じて、指先でそれを牽制して。
「見えるところは、ダメ」
夜着を剥ぎ取られて素肌に感じる敷布の冷たさに肩が竦む。
掌が乳房に触れて、やんわりと指先が沈んで行く。
舌先がその輪郭をなぞって、先端を嬲る様に舐め上げる。
「やー……ぅ……」
歯先が乳首に触れて、少しだけ強く噛む。
甘い疼きが身体を走って、仙人から女に引き戻してしまう。
「あ!!あ……ァ!」
ちろちろと這い回っては、時折吸い上げられる。
腰を撫で上げる手がくれる暖かさに、身体は反応してしまう。
「……少し、張ってんな……」
「……え……?……」
唇が重なって、入り込んでくる舌先を受け入れる。
絡み合って、何かを確かめるかのようにして離れるそれ。
名残惜しいと繋がる銀糸を断ち切って、再度接吻を繰り返す。
「あんまり無理しなくていいんだぞ、お前は剣士じゃないんだから」
離れているからこそ、気付くこともある。気遣えることもあるから。
無駄な事など、無い一つ無いと笑ってくれる君がいるから進んでおこうと思えた。
「うん……ありがと」
少しだけ身体を起して、男の喉元にちゅ…と唇を当てる。
腰に手を回して抱き締めるようにして、身体を寄せた。
「うわ!!」
「うふふ……形勢逆転……かな?」
道徳を組みしくようにして、その瞳を普賢は覗きこむ。
胸板に重なる乳房が、やけに艶めかしい。
「やん!」
指先が腰をなぞって、秘裂の中に入り込む。
じんわりと溢れだす体液を絡ませて、指の腹でひくつく突起を押し上げた。
「!!」
二本の指先で摘むようにそこをくちゅくちゅと弄られ、びくびくと細腰が震える。
「あ……!!ア……ッ…」
とろとろと零れ出した愛液が、白い腿をぬらぬらと濡らしていく。
しがみつくように抱きついてくる身体と、耳に掛かる甘い吐息。
真っ白なものを染め上げる喜びと、僅かな罪悪感が鬩ぎ合う。
口元を押さえる手をそっと外させて、その目を覗きこんだ。
「声……聞かれたくない?」
こくん、と頷く姿。
(俺、病気だ……この状態でもこいつが可愛いって思えんだから……)
柔らかい髪を撫でて、そっと耳打ちする。
「じゃあ……自分で挿入れてみせて……そのほうが、自制効くだろ?」
震える指が勃ち上がったそれに掛かって、濡れた入り口が亀頭の先にちゅく…と触れる。
ゆっりと下がっていく腰と、絡まってくる柔らかな淫襞。
支えるように腰を抱いて、その動きを促す。
「んんっっ!!あ!!ああ…ッ…!」
「もうちょっと……奥まで……」
目尻の涙が、頬を流れ落ちる様さえも彼女を彩る飾りになる。
「きゃ…ぁん!!」
根元まで銜え込んだ膣口が、じりじりと熱い。
腰を振る余裕も無く、ただ喘ぎ声と荒い息だけが零れ落ちた。
それでも、どうにかして腰を上下させる。
その度に、太茎に絡まる半透明の体液がぬらぬらと光っては彼女の心を攻め立てた。
(やだ……恥かしいよ……)
ぢゅぷ、ぢゅく……動くたびに聞こえてくる淫液の音色。
乳房に掛かる男の手を取って、貪るように舌を絡ませた。
(今度は、指じゃ無い方舐めて欲しいよな……そっちも追々修行積もうな、普賢……)
耳の先まで真っ赤に染めあげて、涙交じりに腰を振る姿が愛しくて。
永遠にこのまま絡まっていたいとさえ思えた。
「…く……道……徳……ぅ…」
重なっていく動きと、呼吸。
「ああああっっ!!!」
きゅん、と絡まる肉壁と吐き出される白濁。
びくびくと痙攣する身体を抱き締めあって、もう一度接吻を重ねた。






「何やってんだ、お前……」
酒瓶を片手にモクタクは、扉の前に座りこむ天化に声を掛けた。
「覗き」
「んなこた、見りゃわかる。ま、俺は興味がねーからいいけどさ」
ぺたぺたと裸足で回廊を歩いて、モクタクは客人用の寝室を目指す。
「あんま熱中すっと、明日の朝……後悔すっぞ」
何度も同じ状況を越えて、彼は彼なりにどうすれば良いかを知っている。
だからこそ、関わらないことを選んだのだ。
「じゃーな」
厨房から掠めた逸品を持って、今夜は敬愛するあの人と少しだけの時間を共有したい。
限られた時間は、有効に過ごせと師は身を持って教えるのだから。
「師叔、起きてますか?」
「寝るにも、騒がしいからのう」
招きよせられて、そっと入り込む。酒瓶を見せれば、綻ぶ口元。
「俺も、師叔みたいになりたいんです」
「わしはなまくら道士じゃ。目指すなら他の仙道にしろ」
解かれた黒髪と対になる、柔らかな絹肌。
仙界に住まうものが捨て去ったはずの色香は、まだそちらこちらに残っている。
「師叔みたいに、生きてみたいんです」
憧れと恋は混ざり合って、花となる。
まだその肌に触れることは無いけれども、この人の背中を見つめたいたいと思えた。
それは、まだ誰も真実を知る由も無かった日の出来事。
一夜の淡い夢のように。





(なんか……まだ、挿入ってる気がする……)
身体を起せば、内側からどろり…とこぼれて来る体液。
(御風呂……どうしよ……朝でもいいかな……)
からからの心は潤っても、今度は喉が渇いてしまう。
欲求は尽きる事無く生まれ行く、この無欲なる仙界の中で。
手を伸ばして、透青の瓶の栓を抜く。
喉を潤すには多少辛目だが、この心には丁度良いような気さえした。
「一人酒は止めないが、行儀のい呑み方じゃねーな」
「やだ、起きてたんだ」
上掛け一枚で腰を隠して、半裸で酒を煽る姿。
濡れた唇は無意識に誘う甘い武器。
「近いうちに、また元始さまの所に行かなきゃ。呼び出しかかっちゃって」
「俺も来たな。多分、十二仙全部掛かってんじゃないのか?」
幹部全員を招集するなど、早々ある事態ではない。
「超重要計画の御披露目か?」
「多分ね。それ以外に考えられないし」
飲みかけの瓶を男に渡して、大きく伸びをする。
ぷるん、と揺れる乳房に残る噛み跡と汗の匂い。
「ボク達、どうなっちゃうんだろ」
膝を抱えて、投げかけられる視線。
「俺にもわかんねーな……あのじーさまの考える事は裏がありすぎる」
「もし、ボクがその裏に噛んでるとしたらどうする?」
「……………………」
「裏はね、とっても怖いことかもしれないよ?ボクは、貴方を裏切るかもしれない」
ゆらゆら、ゆらゆら。ただ、不安な気持ちだけが蝶となり室内を舞う。
「そうだな……そうなったとしたら……」
静かに少女の首に掛かる手。
「俺が、幕引きをするよ」
「……そう……ありがとう……」
雲路の果てに見えるもの。
この目で全部見届けようと決めた。
「もし、お前が十二仙全てを裏切るならば……対峙するのは俺だ」
「……………………」
この耳に伝わる鼓動を、どうして打ち捨てることができるだろう。
真夏の夜は、一人で過ごすには苦しすぎる。
「でも、その対象が崑崙全てなら……」
「…………」
「俺は、お前を護る」





ただ一つだけの真実。
その光を両手に携えて、足を踏み出そう。





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20:11 2005/07/07

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