『君と好きな人が……百年続きますように……』
                  ハナミズキ




「新弟子を、取ったらしいのう」
疲れきった表情の普賢の隣に、太公望は位置を取った。
李家の次男を弟子としてから、普賢の日々は一転したのだ。
仙籍に入る以前の子供を引き取っての生活は彼女にとっては苦難の連続だった。
愛弟子の名はモクタク。
臨潼関の李靖の次男坊である。
「うん…………懐いてくれなくて…………」
疲労感は十分、気合も十分。
慣れない子育てに似たようなものだと普賢は笑った。
「まぁ、わしは道士ゆえに弟子は取れぬが……仙号を得ると中々に大変じゃのう」
「ん……でも、みんなに相談しながらやってる。モクタクも、そのうち懐いてくれるって
 信じてるしね。焦ってもどうにもならないってわかってるけど……」
肝心のモクタクは自室に立てこもり中で、珍しく普賢は余った時間を自分のために使っている。
今まで当たり前に重ねられた日々も、一変してしまった。
「食事出しても母上と違うって言われちゃうし、渡したメニューは放り出しちゃうし」
桃花茶は二人を少女に戻す味。
あれこれと話せば時間はあっという間に過ぎ去ってしまう。
それでも話し足りないのがこの不安定な年代の少女たちの特徴で。
名残惜しいという気持ちを形に変えてしまう。
「ね、望ちゃん。今夜は泊まっていって。モクタクも紹介したいし」
「そうさせてもらうかのう。わしも普賢ともう少し話をしたいからな」







「モクタク、出ておいで」
扉の奥の愛弟子は出てくる気配もない。
「モクタク」
何度声をかけても、反応は返ってこず普賢はため息をついた。
「ごめんね、やっぱり出てこないみたい」
「どれ、わしがやろうぞ」
こつこつ、と太公望は扉をたたく。
「モクタク。わしは太公望というもの。ここを開けよ」
それでも返ってくる声は無い。普賢を後ろに下げて太公望は扉に指をかける。
「普賢、後で修繕に……道徳を呼ぶが良い」
言い終わるか終わらないかのうちに炸裂したのは鮮やかな飛び蹴り。
扉だったものは木屑となって山を成した。
「師が呼んだのに出てこぬとは良い度胸じゃな」
淡々とした声。
「そんな女じゃ強くなんてなれねぇ!!」
「その普賢よりもおぬしはまだまだ弱いがな。口の利き方には気をつけろ」
モクタクの胸倉を掴んで、太公望は目線を合わせた。
「強くなりたければ、まずは普賢に一太刀入れるが良い。なに、そう焦らずとも
 普賢ならばおぬしを鍛えられる武術の達人をあてがってくれるぞ」
聞かされたのは、彼女が開祖の一番弟子であること。
そして、普賢と同期の道士であることだった。
「それともわしが剣の指南をするか?モクタクよ」
その声だけでも、太公望のただならない実力は伝わってくる。
自分の師が、異例の速さで師表たるもの一人に上り詰めたことは兄から聞いてはいた。
それでも、彼女が『仙女』であり、その幼い容姿であるということ。
素直になれない感情がそこにはあった。
「モクタク、あまり普賢を困らせるな。何ぞあれば……わしも敵に回すと思え。ああ、
 扉のことはすまなかった。ゆっくりと休むが良い。わしは今夜、ここにとまらせてもらうからな」
さららと流れる黒髪の明媚さ。
仙女とはかくも美しいものだと知った瞬間だった。
仄かな恋の匂いには気付くには、まだ少し時間は足りなく。
苛立ちに似た気持ちを抱いて眠るしかなかった。





始祖にモクタクを対面させて、正式に仙籍に入る許可を得る。
これで、彼は道士見習いとして崑崙で生活せざるを得なくなった。
「ついでだし、少し玉虚宮(ここ)も案内するね」
手を取って並べば、少しふてくされたような顔。
「昔はここで望ちゃんと一緒に暮らしてたの。今は、白鶴洞だけどね」
普賢は自分では過去を語らない。
太公望や他の仙道から伝え聞くばかりだ。
自分とはかけ離れた環境の中で、彼女は生きてきた。
「こっちがね史書室で、あっちは望ちゃんが居る部屋」
昔を懐かしむような声。
「昔話ばかりすると、また君に老人扱いされちゃうよね」
見た目は隣家に住んでいた姐娘とそうも変わらない年端。
それでも齢百に近いと彼女は笑う。
「あっちがね……」
「普賢」
声の主は見たこともない男。
普賢よりも頭一つと少し大きな背丈。
「あ…………」
「顔色悪いぞ、また無理してるのか?」
頬に触れる手。はにかみながら彼女は少しだけ頬を染める。
「少し痩せたな。ちゃんと食ってるか?」
「うん……食べてるよ……」
はじめてみる女としての普賢の表情(かお)は。
「……俺、あっちに行ってみる。じゃあな」
少しだけ、心を動揺させた。
「待って!」
「来た道くらい覚えてっからよ」
そういうなりモクタクは反対側へと歩いていく。
小さくなる背中を見送って、普賢はため息をついた。
「反抗期、なのかな…………」
「いや……あれは違うな」
小さな恋敵に、道徳は笑いを噛み殺す。
(一端に男なわけか……モクタクも)
自覚のない恋は、他人には簡単に見破られてしまう。
それが関係者ならば殊更に。
「少し、二人で話しないか?」
「うん…………」
離れてしまえば、今までの日々が夢のよう。
「あのね…………」
「ん?」
裾を握る指先。
「逢いたかったの…………ずっと…………」
額に触れる唇。
「此処じゃない場所で……続き、聞かせてくれよ……」




「あ、やぁ……ん……」
上着を落として、柔らかい谷間に顔を埋める。
ちゅぷ…と甘噛して乳房を唇でなぞる。
「あ、あぁん…ッ……」
両手で包むように揉み抱いて、その先端を舐め上げる舌先。
濡れた乳首を指先できゅん、と摘んで歯を当てる。
「あ!!ァんっ!」
史書室の奥、机の上に横たえられた身体。
「ここじゃ、やだ…ぁ……」
「紫陽洞(うち)に行ってる暇もないだろ?モクタクだってその辺歩いてんだし」
肌蹴た上着と、解かれて床で山になるさらし。
下穿きを剥ぎ取って、腹部にちゅ…と唇が触れる。
細い腰を抱いて、舌先がその中央のくぼみを舐め上げていく。
「あ!」
足首を掴んで、踝に降る接吻。
指先を確かめるように舌先が這い、ちゅる…と口腔に含まれる。
「…ッ…は……ぁ……」
両手で口を覆って、こぼれそうになる声を必死に押さえ込む。
舌先はそのまま脹脛を這い回る。
「…ゃ……ぁ……!……」
かすれる声と、ふるふると揺れて甘く誘う乳房。
とろとろとこぼれる体液を掬って、指先に絡める。
「久々だと……感じる……?」
「知らない……ッ……」
親指と中指で薄い茂みの中の突起を摘む。
「きゃ…ん!!」
強弱をつけて摩るように動く指先。その度にびくびくと揺れる細い肩。
両手で膝を割って、濡れた入り口に舌を這わせる。
じらす様にその先端に舌先を捻じ込む。
「あァン!!や…やん…っ!!」
唇全体を使って、くちゅり…と吸われ膝が震えた。
男の唇が上下するたびに、奥のほうから催促するように零れる愛液。
少女の下腹部に顔を埋めて、小さな尻を掴むように抱く。
ねっとりとした感触と、体内で起こる奔流。
「あ……っは…あ!!アあんッ!!」
唇が離れて、舌が掠めるように赤く充血した突起を舐めていく。
「や……ダメ……ボク……ッ……!」
かり…と触れる歯先。
「ひ…あ…ッ!!あぁんッッ!!!」
びくん、と大きく身体が仰け反って、だらりと普賢は四肢を投げ出した。
室内に響くのははぁはぁと荒い息。
そして、しっとりと絡まるような甘い喘ぎ。
「……道徳……」
伸びてくる細い腕。
「……来て……お願い……」
半分蕩けた目が、見上げてくる。
発情期の真っ只中の口付けと、絡ませて吸いあった舌先の柔らかさと熱さ。
「……あ……ッ……」
腰を抱かれて、先端が入り口に触れる。
「あん!」
そのままくちゅくちゅと濡れたそこに押し当てていく。
単純な挿入よりも、ずっと卑猥に、淫靡に。
「や……意地悪ぅ……ん!」
「うん……俺、意地悪かもしれない……」
頭を抑えて、口を開かせる。
「ほら、ちゃんと舐めて……」
半透明の体液を絡ませた指を咥えさせれば、愛撫するように赤い下がぺろ…と動く。
根元から指先まで。
まるで陽根を吸うように、男の指を舐め咥える。
「……もう、いいよ……」
引き抜くと、つ…と伝う糸。
「ぁん……」
(開発途中で引き離されちゃったからな……やっぱ……可愛い……)
脚を引かせて、身体を割り込ませる。
「あん……ッ!!!」
ぐ…と注入されて腰が引く。
内側を抉るように突き上げられて、上がる嬌声。
「あ!!ああんッッ!!」
動きを強めるたびに、腿を伝って床に零れて濡れた染みを作る体液。
小さな身体を折って、奥まで繋がりたくて夢中になって腰を進めた。
「きゃ…ぅん!!ああ……あ!!」
顎先から落ちた汗が、尖った乳首に落ちる。
それだけで悲鳴を上げてしまう身体。
ぐちゅ…ぢゅく…湿った音と男女の混ざり合う匂いが充満する。
「……道…徳…ッ!!!あ!!ああっっ!!」
耳を噛まれて、湿った息が吹きかけられて。
裏側まで確かめるかのように舌は這いまわる。
「そ……なに・・・…な…!!…で…ぇ…!!」
指を噛んで、声を殺す仕草。
「ダメ……聞かせて……」
卓上に触れるのは肩口だけ。男の腰を掴んで、どうにか保たれる体勢。
(久々だと……結構……クルかも……)
押しつぶすように絡む肉壁の感触に眉を寄せる。
(負けるわけには……ん?何の気配……だ……?)
彼女に悟られないようにそっと目線を動かす。
僅かにずれた扉から覗く顔。
(覗き見か……良くない趣味だ……)
見せ付けるように片足を担いで、そのまま身体を斜めに倒す。
「あ!!!!!」
より奥まで貫かれて、悲鳴に似た甘い声が上がった。
(なら……じっくりと拝ませてやるよ……売られた喧嘩は買う主義だからな……)
激しくなる腰の動きと荒い息。
両手で乳房を掴んで、揉みながらその頂を吸い上げていく。
「あぁ…ん!!んんぅッ!!」
絡まる二つの身体。
「や!!ダメ!ダメ…ぇ…!!」
ぬりゅ…濡れた指が突起を捻り上げる。
腰に絡みつく脚と、加速する動き。
「…く……ぅん!!あ!!ぅん!!!」
ぬるぬると溢れた体液が、互いの身体を濡らしていく。
ぎゅっとしがみついて来る腕に、答えるように強く抱きしめる。
ずく!と押し上げるように強く突き上げられて炸裂する何か。
「ふ…あ…ッ!!ああああぁんッぅ!!!」
「……ッ…!…普賢……」
重なった身体と唇。
甘い甘い接吻をした。



早まった動悸を抑えようと、壁に背中を当ててずるずると座り込む。
(なんであいつ……あんな顔すんだよ……っ……)
崑崙に来て約一月。モクタクが見てきた普賢はどこか悟ったような表情ばかり。
自分が何かをしでかしても、少しだけ困ったように笑って全てを受け入れる。
その普賢が見せた『女』の表情。
甘えて、求めて、男を受け入れる姿。
(何だってんだよ!!家に居たって父ちゃんと母ちゃんも同じことしてたろ!!)
それとは違う感情が、胸の中で渦巻く。
苛立ち紛れに壁を蹴って、頭を掻き毟る。
(あいつがあんな顔するから悪いんだっ!!)
それでも、彼女が自分の師であることに変わりは無い。
自覚の無い恋はただただ自分を追い詰めてしまう。
この先に待ち受ける波乱の日々など考えもせずに、モクタクはもう一度壁を蹴飛ばした。





「あ、良かった。モクタク見つけた」
「!!」
何事も無かったかのように、普賢はモクタクの手を取る。
「ごめんね。話し込んでたら時間忘れちゃって……」
ほんのりと香るサクラに似た匂い。
耳の後ろに付けられた香油だった。
(話し込んでた?大嘘付きやがって……)
「それでね、もう少ししたら剣術の指南してもらえるように頼んできたから。ボクじゃ
 確かに君が望むような稽古は付けてあげられないし。格闘技とかもやってる人だから
 きっといい指導をしてくれるよ」
薄い唇。
さっきまでの乱れた姿など微塵も感じさせない。
いつもの普賢の顔に戻っていた。
「でも、それまでボクがやる。基礎くらいは教えられるからね。明日からまた頑張ろうね」
自分よりも背の高い少女は、穏やかに笑う。
凄惨な過去など欠片も見せず、緩やかな風のように生きる姿。
師表十二仙の最後の座を若年で手にした実力。
「あんたさ……」
「なぁに?」
「……何でもねぇよ……」
伸びた影が二つ。並んで歩く。
「ねぇ、モクタク」
「………………………」
「ボクは確かに、ひ弱な仙女かもしれない。けど……」
凛とした声。
「弱くは無いよ。強くなるための努力はしてきた」
崑崙十二仙の一人、普賢真人。
それが自分の師であるこの女の名前。
「帰ろ。暗くなっちゃう」
「…………そうだな」




騒々しすぎる未来への扉。
零れる光に釣られて開いてしまった。
これから始まる賑やかな日々。
その前の小休止が、両手を広げて待っていた。



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1:40 2004/08/03

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