『きっと想像した以上に騒がしい未来が僕を待ってる』 
                   チェリー









玉虚宮の書庫で、のんびりと史書の紐を解く。
暖かな日差しはそれだけで心を穏やかにしてくれる自然の贈り物。
「普賢」
「玉鼎。どうしたの?」
隣に座って玉鼎真人は普賢の手を取る。
「なぁに?」
とろんとした灰白の大きな瞳。少しだけ伸びた襟足が愛らしい。
「いや、その……道徳と恋仲というのは本当なのか?」
「あ……うん……」
面と向かって聞かれれば、口篭ってしまう。疚しい事ではないのだろうが、大っぴらに言えることでもない。
ましてや玉鼎真人と道徳真君は仲が良いとはお世辞にも言えないのだ。
「がさつで書も読まぬような男が良かったのか?」
きゅっと手を握られて詰め寄られる。
道徳真君の最大の恋敵がこの玉鼎真人。
先手を打ってあれこれとアプローチ。惚れたら一直線の男は見事に恋を手に入れた。
「がさつじゃないよ。優しいところもあるし……」
そっと手を離して、普賢は玉鼎を見上げた。
困ったような瞳で見られれば、心が動かないわけが無い。
ましてや相手が思い人ならば尚更。
「玉鼎は、道徳のことが嫌い?」
「いや、そういうわけではないが……」
「ボクは、玉鼎のことも好きだよ。だから、二人がもっと仲良くしてくれたらいいなって思う」
小首を傾げる姿は魅惑的で、この手に抱きたいと感じてしまう。
どれだけ功夫を積んでも断ち切れない人間の思い。
「玉泉山のほうに、今度遊びに行ってもいい?玉鼎の史書の見解、また聞きたいし」
「構わないよ。いつでも来てくれ」
指先に触れる花は、他の男が咲かせてしまった。
悔しさと腹立たしさが交じり合う。
「じゃあ、ボク、望ちゃんに用事があるから」
ぱたぱたと走り去る小さな背中を見送って、手を握り締める。
先に見つけたのは自分だった。
書物を好み、学問に精通し若年での開発班への抜擢。
(だからといって……何故に道徳なのだ?普賢には一番似つかわしくない相手ではないか……)
武道の達人はその腕一つで師表の地位を獲得した。
同じ剣の使い手として、何度か手合わせしたこともあった。
互いの実力はよく分かっている。
「よぉ、何ぶつぶつ言ってんだ?玉鼎」
宝剣片手に姿を見せたのは件の道徳真君。
「普賢見なかったか?」
「普賢なら太公望に用向きがあるとか言っていたぞ」
「そっか。じゃあ玉虚宮のほうだな」
そのまま立ち去ろうとする男を呼び止める。
「待て。普賢に手をつけたというのは本当か?」
その言葉に、道徳も振り返らざるを得ない状況に。
「ばれてるんなら、嘘付いてもしょうがないよな。合意の上で」
やけに自信たっぷりの黒い瞳が小さく笑う。
「気の迷いは、誰にでもあるからな。普賢も本意ではあるまい」
「いえいえ。俺たちは劇的に恋してるんで。本意のど真ん中」
手には互いの愛用の宝貝。重なる目線はばちばちと火花を散らす。
「お前とは一度話を付けたいと思っていたところだ」
「気が合うな……俺もだよ」
譲らない性格の男二人。
一人の女を賭けて、大地を蹴った。






「望ちゃんとこうやってのんびりできるのも久しぶりだよね」
菓子を摘みながら、互いの近況を話せば時間はいくらあっても足りない。
仙号を得てからは以前のように時間を贅沢に使うことは出来なくなってきていた。
甘く絡めた黒糖の蜜豆は自分たちが仙道であることを忘れさせてくれる。
こうしている時だけはただの少女でありたいと思うのだ。
「して、道徳とは上手くやっていけそうか?」
「ん……どうなんだろう。でも、優しいよ。大事にして貰ってる気がする……」
笑うことが苦手だったはずの親友は、良く笑うようになった。
ぎこちなかった笑顔は、夏の日を受ける花のように。
それは大事なものをとられたような一抹の寂しさを齎した。
誰よりも幸せになって欲しいと願ったはずなのに。
「おぬしを泣かせたら、わしがきっっっつくお灸を据えてやるがのう」
けらけらと笑って、剥かれた林檎に手をつける。
兎に模られたそれを見て、太公望は口元をほころばせた。
「道徳にも、林檎はこうしてやっておるのか?」
「あ、うん……なんか癖で」
寝食を共にしているときに普賢は太公望のために林檎の兎を作っていた。
それが知らず知らずのうちに癖になり、彼女の剥く林檎は全てそうなってしまうのだ
「まぁ、ただの筋肉馬鹿ではなかったようじゃのう。あれこれと頭を使って……」
「筋肉馬鹿?頭を使う?」
きょとんとした顔で普賢は太公望を見つめた。
「あやつにしては珍しく頭を使った行動が多かったじゃろ?」
「そうなのかなぁ……まだ分からないところが多すぎて」
細い身体からは想像できない意思の持ち主は穏やかに笑うだけ。
林檎が消えて今度は甘蜜柑に手をつけたときだった。
「普賢さまはこちらにいらっしゃいますか!!??」
見れば弟子の一人が息を切らせて駆け込んできた。
「どうしたの?動力炉に何かあった?」
「いえ……それよりも下手をしたら大変なことかも……」
肩で息をする弟子を宥めて、普賢は太公望のほうを見る。
「まさか……核分解の高炉に何かあったの!?」
「いえ、それでもありません」
ほっとした顔で、普賢は蜜柑を剥き始める。
「じゃあ、大したことじゃないね。その二つに何かあったら降格どころじゃないから。仙号剥奪とか」
うふふ、と少女二人は話の続きを。
「普賢さま!!私どもではどうにもできません!!早くこちらへ!!」
普賢の手をとって弟子は訴えるが、元々物事に対して性急ではない少女はとろりとした瞳のまま。
「だから、何があったのじゃ」
「道徳さまが、玉鼎さまと……」
言葉は最後まで聞かなくとも、大体のことは想像が容易につきすぎた。
生まれた頭痛を封じ込めるように普賢は頭を振る。
「行こう、望ちゃん」
「うむ…………」
弟子に案内されて二人は空中庭園に足を向けた。
簡易だが闘技場のある庭は、手合わせに使うにはもってこいの場所だ。
見れば件の二人が宝貝を使って豪快にやりあっている最中。
人だかりを掻き分けて、二人は前の方にと進んだ。
「貴様のような筋力しかない男に普賢は渡せんっっ!!!」
「真面目な振りして下心がっちりしてるような男に言われたかねぇっ!!!」
莫邪の宝剣と斬仙剣がぶつかり合って、光の粉がぱらぱらと落ちる。
両者一歩も引かずに剣を交える姿。
何時の世も、例え仙道となっても男は女を取り合って喧嘩をするものなのだから。
二刀流で莫邪を使う男は剣術だけではなく、格闘技も習得している。
戦闘能力だけをとるならば十二人の中で最高位に立っていると言う事実。
腕一本で師表十二仙に上り詰めた実力は伊達ではない。
斬仙剣を手に大地を蹴る男は頭脳も明晰で長剣を華麗に扱う。
武力と知力の均衡が取れた仙人は長期戦を得意とするのだ。
「どうする気じゃ、普賢」
恐る恐る隣の普賢を見れば、俯いたままじっとしている。
しかし、それは男二人をどうしたらよいかとあぐねている訳ではない。
(まずい……普賢がきれかかっておる……)
太極府印に掛かる指が小さく震えた。
(やばい!!この群集を避難させねば!!)
普段が冷静な分だけ、暴走した時の普賢の恐ろしさは五割り増しになることを太公望は良く知っていた。
なんとかしなければと必死に策を講じるが、こんなときに限って良案は出て来ないもの。
そうこうしているうちに普賢は静かに前へと進み出ていく。
「太公望?どうかしたのか?」
真白の防護服に顔を全て覆うゴーグル姿。一見すれば異様な姿だが、ぶつかり合っている男二人よりもずっと年長の仙女は
ふわふわと漂いながら太公望の隣に。
「このままでは皆が普賢の巻き添えを食らってしまう。何とかならぬか?」
「そうか。ならばバリアでも張るか。どっちにしろこの結末を見たいからのう」
元は人間。故に他人の色恋沙汰は誰も皆面白くて仕方ないのだ。
つかみ合ってる二人の間に割って入って、普賢は双方の顔を見る。
「喧嘩しないで……恥ずかしいでしょ」
怒ったような表情でほんの少しだけ頬を膨らませる仕草。
(うっ……可愛い……って、俺……駄目人間かも……)
染まった頬も、尖らせた唇も惚れてしまったら全てが愛しくてたまらない。
(だから、その表情を道徳一人のものにするのが許せないんだ)
ぎりぎりと唇を噛んでも、思い人が選んだのは自分ではない男。
ましてやその腕に抱いたとなれば黙っていられるはずが無い。
「どっちにしろお前とは気が合わねぇってのはよく分かった」
間合いを詰めながら、宝剣を構え直す。
「まったくだ。普賢、このような男早々に見限ったほうが良いぞ」
「男の嫉妬は醜いぜ?玉鼎」
図星を突かれれば怒りは倍増。
爆音と派手な炸裂と硝煙があたりを支配する。
口元を押さえて咳き込みながら、普賢は必死に二人の姿を眼で追った。
「悔しいだろ?普賢が俺に抱かれてんのが。自分だってそうしたかったんだから」
「お前と一緒にするなっ!!お前のように見境無く身体を求めるようなことはせんっ!!」
耳を塞ぎたくなるような言葉に眉を顰める。
「ね、二人とも止めて。怪我しちゃうよ」
自分の言葉など耳に入らないのか、剣先がぶつかり合う音は途切れることが無い。
「止めて、ね、二人とも」
伸ばした指先に触れるのは宝貝が発する熱風。
「……………………」
静かに目を閉じて、呼吸を整えて太極府印に手を掛ける。
前を見つめて普賢は指を滑らせた。
打ち込まれていく規則的な記号と配列。
「道行!!」
「うむ……防護するか」
びしびしと空気を変える気配に男二人はようやく気が付くが後の祭り。
「喧嘩しないでって……言ってるでしょう!!!」
生まれる光と爆発音。
避ける間もなく二人はその光の中に飲み込まれていった。






「……ってぇ……ここ……」
寝台から身体を起こせば、前進に走る鈍い痛み。
頭を擦りながら辺りを見回してそこが普賢の邸宅の寝室だと気が付く。
「気が付いた?」
「……太極府印ってあんな風に使うんだな。初めて知ったよ」
そっと腕をとられて傷口をなぞられれば悪い気はしない。
優しく丹薬を塗って来る指先。
「痛い?」
「ん。そんなんでもない」
心配そうに見上げてくる瞳に心は揺らいでしまう。
「そういや、玉鼎は?」
「道行が終南山に連れて行ったよ。彼のほうが怪我の具合は重いみたいだったから……」
少し沈む顔。そっと抱き寄せてあやすように背中をぽふぽふと優しく打つ。
「喧嘩しないで……それに、恥ずかしいよ……」
「う……あいつとは昔から気は合わなかったんだ……普賢のことだけじゃなくて」
同じようにきゅっと道衣を握ってくる指先。
恋を自覚した時から、欲しくて欲しくてずっと手を伸ばしてきた。
その思いは誰にも負けない。
「あ……やだ……っ…」
鼻先にちゅ…と接吻して顎を上に向かせる。
「怪我してるんだから、駄目だよ。ちゃんとしてないと」
「普賢とこうしてるほうが、治りが早い」
抱きしめて、そのまま寝台にそっと押し倒す。
牽制してくる手を押さえて、唇を塞ぐ。
道衣の中に手を忍び込ませてさらしの結び目を解く。
「あ!やだ……ッ…」
上着を剥ぎ取れば上向きの乳房が二つ触れて欲しいとふるると揺れる。
あせる気持ちを抑えながら唇を当てて、そっと指先を下穿きの中に。
焦らすように下着越しに指を這わせて、何度も入口の上を上下させていく。
次第にこぼれだす吐息と、指先に感じるぬるつき。
悟られないように唇だけで笑って耳朶をぺろ…と舐め上げた。
「やん…ッ!」
下着の中に指を忍ばせて、濡れた秘所につぷりと指を咥えさせて。
「あ!!あ、んぅ……!」
縋るようにぎゅっと抱きついてくる腕。
(この姿は俺だけのもんだ……絶対に誰にも渡さない)
じゅくっと掻き回す様に蠢かせれば、絡むように締め付けてくる感触が指に伝わってくる。
「傷だらけ……なのに……ッ…」
顎先をぺろ…と舐められて竦む細い肩。
「ん……だったら尚更。房中術で治してくれよ」
「だったら……身体は…!!……ぅんっ!!」
内側で生まれる熱さに、翻弄される意識。
荒くなる吐息に増やされた指。僅かな動きでさえも絡め取ろうとする女の肉の柔らかさ。
「直接……取り込んだほうが早いだろ?」
喉元、浮いた鎖骨、胸の輪郭。舌先は一つ一つを確かめるように下がっていく。
括れた細腰を抱き寄せて、柔らかい腹部に接吻して。
「あッ!!や、やんっ……!!」
腿を掴んで脚を開かせて、濡れた秘所をじゅる…と吸い上げる。
舌先はゆっくりと上下して、次第に中へと入り込む。
「んっ!!あ…ッ…道徳……!や…ぁ……」
押しのけようとしても、手に力は入らずにただ軽く制するばかり。
甘く、強く吸われて仰け反る身体。
指先はぎゅっと敷布を握る。
「あ…あんっ!!……っは……」
舐め嬲る舌と口唇。濡れた突起を掠めるように攻められてびくり、と腰が跳ねる。
「んんっ!!!や、やだぁ……ッ!!」
びくびくと震える腰。それすら誘っているように見えるのは恋の魔法の成せる業。
ちゅぷ…舐め上げて軽く歯を立てられて、身体の奥から生まれる熱さ。
唇を拭って、膝を割って脚を開かせる。
「もう……いいよな。こんなになってるし……」
ちゅく…と指先に絡むのはぬるついた体液。
指をずらせばぬらぬらと妖しく光る。
「……や……」
恥ずかしげにきゅと目を閉じる姿。汗で濡れた肌は火照ってほんのりと甘い色に染まって。
震える小さな膝に唇を落として、ぐっと折る。
(ちっちゃい指と爪だな……)
足首を優しく掴んで、ちゅっとその指先に唇が触れた。
親指を軽く噛んで、薄い爪を舌でなぞる。
「あ!!やだっ!!」
唇を離して、隣の指へ。
そのままそろそろと下げて少しだけ骨張った踝を突付くように噛む。
かりり…と歯を当てられて小さな口唇からこぼれる吐息。
(意外なところが……弱いな……)
ぬる…唇は脹脛を這ってその所々に赤く痣を作る。
「あぁ…んっ!!やだ…ぁ……!」
指を噛んで声を殺そうとすれば、片手でそれを外されてしまう。
息遣いと、唇が這う感触が神経を支配する。
ぺろ…と爪先を舌先が嬲り上げて、甲に触れた。
「……足、弱い?」
「……知らないよ……そんなの…っ…!」
それでも、舐め上げればその度に肩は竦んで瞳はぎゅっと閉じられる。
(可愛いなぁ……ちょっと被虐嗜好あるっぽいし……色々教えたくなる身体だ……)
身体を押さえつけていた手を柔らかい乳房に移して、やんわりと揉み抱く。
時折その先端をきゅっと捻るように摘むと甘えるような嬌声。
溢れた甘蜜は腿を濡らして、敷布へと沈んでいく。
(……そろそろ、いいかな……)
腰を抱いて、一息に突き上げる。
「!!」
びくん、仰け反る喉元に噛み付いて体を絡ませていく。
縋るように背中に回された手。
きつく抱き合って発情期真盛りのような接吻を何度も交わした。
重なる胸と肌の熱さ。繋がった箇所がじんじんと甘く痺れて、自分の身体が女だということを自覚させられる。
芽生えた悦びは、男の手で大輪の華にされつつあった。
「…あ……っは……!!…んぅ!!」
腰を進められるたびに、ぢゅく…ぢゅぷ、と淫音が鼓膜に沈んでいく。
「……ひ…ぅ…!!…っ…ぁ…!…」
「普賢……俺の方見て……」
ゆっくりと開く瞳。
濡れて潤んだまま上目で見られて、心が揺れない男など居ないだろう。
飾りのついたままの右耳を愛撫するように唇で挟む。
「ぁん……!!や…ぁ……」
抱えるように腰を掴んで、ずん…と突けばその度に絡んでくる柔肉。
捨て去ったはずの欲はきっちりと残っていて、自分が男だということを思い出させる。
微温湯のような仙界は退屈すぎて、牙を抜かれた獅子のようになってしまう。
獲物は極上。本能を呼び覚ますその匂い。
罠を掛けたつもりが、何時の間にやら掛けられて。
毎晩こうして身体を重ねて互いのことを知ろうとする。
「…ふ……ぁ!!ああんっ!!」
小さく震える肩。
片足を肩に掛けて、そのまま身体を斜めに倒させる。
「!!」
ぐっと深まる結合と乱れる呼吸。
触れ合って、舐めあって、絡み合った舌先。
抉るように突き上げられて、ぼろぼろとこぼれる涙。
「ぁ…!あああッ!!!!」
深く貫かれて、弾け飛ぶ理性。
奥に注がれる熱を受け止めながら、震える指先で彼女は恋人の背を強く抱いた。






「ずっとこうやって居られるといいのにね」
小さな声で普賢は呟く。
「ん?一緒に暮らすか?それもいいよなぁ……離れてると心配で堪らん」
くすくすと笑って胸に顔を埋めてくる。
「心配されるようなことしてる?」
「悪い虫がわんさか居るからな。潰すのが大変だ」
上掛けから少しだけ覗く爪先。
窓枠からこぼれた月明りが二人の影を映し出す。
「あのね、今度新しい弟子を取ることになったの。お父様が土厄の所で修行してた……」
「ってことは季家の息子か?」
「うん。まだどんな子か分からないんだけど、近いうちに会いに行ってこようと思う」
新弟子が男となれば心中は穏やかではない。
「新しい子を引き取ったら、こんなこともしてられないね……」
「う……まぁ、その……」
道徳の腕の中で、普賢はうふふ、と笑った。
「あんまり大きな声で喧嘩しないでね。吃驚しちゃった」
閉じた瞳に翳る睫の長さ。
「道士見習いからの子を育てるなんて初めて……ボク、ちゃんとできるかな……」
「そう難しく考えることはないさ。ってなると新入りの季節か。まだ俺のところには何の話も来てないな……
 道行はちょっと前に問題児引き取ったばっかりだし。太乙は分野外だしな……いずれは俺のところもくるだろうな」
白鶴洞と同様に、紫陽洞も現在は門下不在のまま。
甘い日々は長くは続かないと、道徳は苦笑した。
「まぁ、半分が今のところ弟子無しなんだ。何かあったら俺でよければいくらでも手助けするから」
「うん……お願い……」
眠たげに目を擦る指先。
今だけでも甘えさせて一人の少女として扱ってやりたいと思うのだ。
仙籍に入る前から育てるということは、子育てと同じ。
仙道は自分の子供を持つことが限りなく不可能に近い分だけ、弟子を我が子として育て上げる。
「でもね……もしも、もしもだけれど……ずっとこうしていたら、ボクたちにも子供が出来るのかな?」
「公主や燃燈……普賢の前任者の例があるからな。まるっきりゼロなわけでもない」
それは、想像するだけで賑やかで理想的な日々。
この手に抱けるのは、何時のこと?と二人で顔を見合わせた。
「もうちょっとだけ、こうしてて……」
「ん……少し寝たほうがいい。俺も……こうさせてもらうから」
抱きしめあって、眠る夢は二人同じ色。
それは騒動の前の、些細な日常。
そして、愛すべきもの。



おやすみなさい――――――――。





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23:06 2004/02/27

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