『切なさも恋しさも何もかも、分け合いながら夜を越えて 
 ずっと二人で生きていこう 幸せになれるように……』
               ずっと二人で







そっと寝台に降ろされて、自分がこれから何をされるかをようやく悟る。
触れてくる指先が上着の紐を解いて、肌の上を滑って締め付けている結び目に。
やんわりと胸を包んでいたさらしが外されて、柔らかく丸い乳房がぷるんと揺れた。
(……やだ……どうしよう……)
女を捨てることを義務付けられても、この身体が女であることに変わりは無い。
思わず両手で胸を隠すと、そっとその手を外される。
「恐い?」
「……うん……」
「困ったな……俺もちょっと……恐い」
額に触れた唇は、ゆっくりと下がっていく。
小鼻から、頬へ。そして、唇に。
「……っふ……ん……」
舌先が絡まって、頭を押さえ込まれる。
優しく耳を撫でられて、普賢はきゅっと目を閉じた。
「……っは……ぁ……」
離れるのが嫌だと言わんばかりに、唇を銀糸が繋ぐ。
親指でそれを断ち切って、男は女の肌に口付ける。
首筋を甘く噛むと、小さな跡がほんのりと残った。
舌先で鎖骨を舐め上げると、ぴくんと小さな肩が揺れる。
つつ…と滑らせて、柔らかい乳房へとたどり着かせた。
「あ!……ゃ…ん……ッ…!」
小さな突起を唇で嬲られて、嬌声が上がる。
円を描くようにゆっくりと揉み抱かれて、時折甘く歯が当てられていく。
その度にこぼれる吐息と喘ぎ声。
ぴちゃ…離れては触れる唇の熱さ。ちゅっと吸われる甘さに身体が震えた。
初めて他人に晒す己の肢体。
「や……」
言葉は接吻で塞がれて、同じように彼の頭を普賢は抱きしめる。
「嫌?」
「ううん……そうじゃないの……」
小さな手を取って、彼はそれを自分の頬にそっと当てさせた。
「本当に嫌だったら、突き飛ばしても構わない。無理に抱かれることなんてないんだ」
「……だって、ボク……色んなところに傷があるから……」
「傷も、痛みも厭わないのが普賢だ。恥ずかしいことじゃないだろう?」
下着ごと下穿きを脱がせれば、すらりと伸びた細い脚が目に眩しい。
括れた細い腰。少し浮いた腰骨。なだらかな腹部。
柔らかい肌は、男の本能を呼び覚ますのには十分すぎた。
舌先がゆっくりと身体の線をなぞりながら、そろそろと下がっていく。
膝に唇を当てて、つ…と滑らせる。
擽ったそうに身をよじる嬌態。
無意識の誘惑ほど、本能を刺激するものは無い。
そして、それは自分が男だということを再認識させるのだ。
捨てたはずの、人間の感情がもがくように。
「あ、やだッ!!」
薄い茂みを開かせて、濡れ始めた入口を舐め上げていく。
逃げようにも、しっかりと腰を抱かれて身動きが取れない。
「!!」
びりびりと何かが走る感覚。生まれて初めて味わうその鋭敏な感じは身体の一番奥に小さな火を点ける。
指先でその突起の顔を覗かせて、ちゅる…と吸い上げていく。
時折、焦らすようにその周辺も掠めるように舐める上げた。
「んんッ!!あ、あアッ!!」
唇全体を使って吸われて、舌先が嬲るように小突いてくる。
とろとろと零れ始める半透明のぬるついた体液。
振り払おうとしても、力の入らない腕。
かりり…と甘く噛まれてはじける何か。
「やあぁッ!!あ、ああんッッ!!!」
びくびくと痙攣する細い身体をぎゅっと抱きしめられて、更に舌先は下へと向かう。
蕩けて、濡れきった入口をじゅるりと吸われてぎゅっと敷布を細い指が握り締める。
ぴちゃ…ちゅるっ……濡れた音が嫌でも耳を支配していく。
「あ、あんッ!!やだ、やだぁ……ッ!!」
小さく首を振る姿。
何もかもが扇情的で今、こうしていることが夢なのか現実なのかさえも分からなくなってくる。
零れる声。甘い吐息。しっとりとした肌の感触。
指先で触れるだけ形の変わる柔らかい乳房。
とろとろとこぼれる半透明の体液を指に絡めて、そっと沈ませていく。
傷つけないように、彼女の恐怖心を引き出さないように慎重に奥へと。
「……やぁ……」
恥ずかしげに目を閉じて、耳までほんのりと赤く染まった姿。
(やば……可愛い……っ…)
慣れさせるように、入口から浅いところで軽く指を折る。
異物の侵入に本能がそれを排除しようと絡みつく。
「……ッ!!」
びくん。大きくその肩が揺れる。
「……やっぱし、痛いか……?」
薄い唇が小さく震えて、こくんと頷く。
「……俺が、今から何をするつもりかは……分かるか?」
自分を組み敷く男が、どれだけ優しいかは十分に理解しているつもりだった。
それでも、これから自分が抱かれるのだと思うと、恐怖感が静かに湧き上がってくる。
普賢の手を取って、自分の胸にそっと押し当てて彼は困ったように笑った。
「……もし、ボクが……嫌とか言っても、それは嘘だから……」
「普賢……」
「嫌じゃないから、本当に……」
そっと膝を割って、脚を開かせる。
折れた膝はまるで降伏を示すかのように従順で。
身体を割り込ませて、濡れた入口にそれをあてがう。
ゆっくりと沈んでくる感触と熱さ。
しなやかな身体が強張って、逃げようとする。
「……力、抜いてて……」
緊張を解かせようと、優しく頭を撫でてくる大きな手。
他人を受け入れたことの無い身体は、狭く、拒むようにきつい。
(無理だよな……せめて、恐がらせないように……)
それでも、懸命にしがみ付いてくるその手が愛しくて堪らない。
「息、大きく吐いて……そう……」
それに合わせて、身長に中壁の侵入を試みる。
(うわ……きっつ……ってか…痛ぇ……)
押しつぶされるような感覚とその狭さに眉を寄せる。
はぁはぁと荒い息と、浮いた汗。
重なる鼓動と肌の熱さ。
(俺よりも、普賢のほうがずっと……)
唇の端から零れる涎を舌先で舐め取って、そっと唇を重ねていく。
縋るように背に回される手。
細い腰をそっと抱いて、奥まで一息に沈めて絡ませる。
「や!!やだ!!!止めてッ…!!」
「……ッ……普賢……」
胸元に接吻して、ぐ…と突き上げていく。
「〜〜〜〜〜〜ッッ!!」
ぎり、と唇を噛んで悲鳴を噛み殺す。
(やだ……恐いよ……っ……)
自分を貫く男の感触と、自由の利かない身体。
腰骨と子宮を鋭利な石で叩かれるような重く鋭い痛みが下腹部から湧き上がっていく。
腿を伝うのは、赤と白の混同した体液。
その生暖かさが今この状態が嘘でも、夢でもないと証明する。
「大丈夫か……?」
目尻の涙を払う指先。そのままそっと頬を包まれて、掠めるような接吻が甘くて。
「……平気……だから…ッ……」
壊れないように、そっとそっと抱きしめる。
「……嘘言わなくて、いいんだぞ……」
その言葉で、堪えていた涙がぼろぼろと溢れ出す。
「……痛いよぉ……助けて……ッ……」
大仙の一人でもなく、才女でもなく。
今ここで身体を絡ませているのはただの男と女。
真っ直ぐで少しばかり不器用な男と、大人びているが幼い少女。
「…あ!!やッ!!!」
ぐっと抱き寄せられて、隙間無く絡み合う。
腰を進められるたびに、ずきんと刺すような痛みが走る。
まるで、全神経がそこにでも集まったかのように僅かな動きでさえも明確に伝わってくるのだ。
「〜〜〜〜〜〜〜っっ!!」
きりり…と細い爪が背を走る。
痛みとは裏腹に胸の奥に生まれた小さな灯り。
身体とは相反するように、こみ上げてくる愛しさ。
あれほど自分を支配していた恐怖はいつの間にか違う感情にすり変わっていた。
自分を見つめてくる眼も、囁く低い声も、抱きしめてくる腕も。
この身体に受け止められるなら、手を伸ばして全てを抱きたいと思った。
「……あ!……く…ぅ…!!」
「普賢……」
柔らかい胸を噛みながら、肌の感触を確かめる。
両手でぎゅっと掴んで、その先端をちゅぷ…と吸うと、誘うように嬌声が上がった。
「……道徳…ッ……道徳……!」
敷布の上で乱れる灰白の髪。
肌に浮く汗と、混ざり合う匂い。
ぴったりと胸が重なるくらいに抱きあって、お互いの心音と熱さを確かめ合った。
離れてしまわないように、引き離されることのないように。
遅い朝は未だその足音さえも聞こえてこないから。
抱き合って、交わって、重なって、舐めあって。
傷の舐めあいでも、慰めあいでも構わなかった。
こじつけて、それで手に入るのならば。
身体に付属する『こころ』が得られないのならば、人形を抱いているのとなんら変わりは無いのだから。
「あ……っは……!!…」
歯列を割って、指を咥えさせる。
ちゅる…と薄い唇が吸い付いてくるのが分かった。
「……いい子だ、もう少しだけ……」
ぐ…と強く突き上げると、その度にぎゅっとしがみ付いてくる。
細く、少しばかり仙人としては頼りないかもしれない背中を抱いて、唇を噛みあう。
そのまま手を滑らせて括れた腰に。
ぐ…と抱き寄せて、奥まで貫く。
「!!!!」
びくん。と仰け反る白い喉元。
(……もうちょっとだけ……我慢してくれ…ッ……)
血の滲んだ唇を甘く舐めて、その血の味に眩暈と錯覚を覚えた。
女の身体は甘さと血の匂いにまみれた媚薬。
深く深く刺さる棘すら取り込んで、その身体で育てるのだ。
溺れれば、抜け出すことは容易ではない。
それ故に仙道は愛欲を絶つことを義務付けられ、女道士、仙女は女を捨てることを命じられる。
(しきたりも、慣習も……要らねぇ)
絡ませた舌先。濡れた唇。熟れた身体。未完の裸体。
あの日に自覚したこの恋を、手離すことなどどうして出来ようか。
(こんな階位だって……邪魔なんだ……ただ、二人で……)
愛しくて、眠れない夜も。その小さき手を握れなかったあの日も。
今までの日々全てが、繋がっていたのかもしれない。
「や、あ!!道…徳……ッ!!」
視界は赤と黒が混ざり合う。
粘膜が擦れる感触が普賢を追い込んで、道徳の意識を侵食していく。
(……嫌じゃないのは……どうして……?)
鈍い痛みと、痺れは絶えず身体を走り抜けて。
じんじんと繋がった箇所が悲鳴を上げる。
(……恐くないよ……大丈夫……)
自分を包む男の匂いが、落ちる汗が、見つめてくる眼差しが。
何もかもが、愛しいと思えた。
「…あ!!あアッ!!!」
自分の中で何かが弾ける感触。
彼女の記憶は、そこで途切れた。





ぼんやりとした視界。
ゆっくりと目を開けると、自分を見つめる男の顔が目に入った。
「……目、覚めたのか?」
「うん……」
そっと抱き寄せられて、その胸で目を閉じる。
「ずっと起きてたの?」
「夢だったら、覚めないように。寝たら、お前がいなくなりそうだったから」
くしゃくしゃと頭を撫でてくる手。
柔らかい胸がふにゅんと触れる。
(やば……気持ちいいんですけど……)
「やだ……夢なの……?」
とろんとした大きな瞳が、少しだけ悲しげに歪む。
自分を抱くこの手が、声が、肌が、その匂いが。
今更どれを手離せるというのだろう。
「夢なんかじゃないよ。それを確かめてた」
朝の気配は遠いから、頬を撫でる生暖かい風は夏の匂い。
「その……嫌じゃなかったか?」
「……うん、嫌じゃなかったよ……」
身体のあちこちに付いた情愛の痕。
それに気が付いて、彼女が真っ赤になる朝はまだ来ない。
甘い甘い、夜の途中。
「元始様に怒られちゃうね……」
少しだけ甘えた声。
伸びた指が道徳の頬に触れる。
「どうする?そうなったら」
「そうだな……全部捨てて二人で逃げるか?」
「あはは……それもいいかもしれないね」
崑崙の師表二人の逢瀬が知れ渡れば、何かと厄介なことが多くなる。
だが、そうなるのもおそらくは時間の問題だろうと彼は笑うのだ。
「どうして?」
「敵を牽制する為には、事実を広めておかないと」
「やだ!!止めて!!」
「ん〜〜〜〜」
ぎゅっと抱きしめれば甘い香りがくすぐってくる。
「俺でよかったのか?本当に……」
ぎゅっと抱きついてくる細い身体。小首を傾げて、見上げてくる薄い色素の瞳。
「俺、本気でお前に惚れてるから。絶対誰にも、渡さない」
「……力で道徳に勝てる人なんて居ないよ」
「お前を思う気持ちも、俺に勝てるやつなんていないぞ」
目を細めて、小さく笑う。
「……恥ずかしいこと、言わないで……」
俯き気味になる瞳と、ほんのりと染まる頬。
「口で言わなきゃ、伝わらないだろ?」
「……うん……」
そっと目を閉じて、互いの息遣いと心音だけの世界にその身を置いた。
明けない朝は無いけれども、できることならば一秒でも長くこの夜と朝の時間を抱いていたい。
日が昇れば、師表二人の顔に戻らなければならないのだから。
「面倒なことが、沢山だ」
「そうだね……」
「でも、それを引いても……俺は普賢とこうしていられるんなら何だって出来るよ」
片道の恋は、いつの間にか結ばれた祈りに変わっていた。
この腕の中の温もりを、離す事などもう出来ない。
「……好きだ……お前のことが……」
離れてしまわないように、体を絡め合う。何かを符合させるかのように。
「……ボクも……道徳のことが、好き……」
長い睫、薄い唇、細い指。
この先に待ち受ける運命など知らずに、ただ気持ちを確かめ合う。
今のこの気持ちに名前をつけるならば、それがきっと「幸福」というものなのだろうと。
「おいで」
重なり合う肌と息遣い。
遅い朝は……受け入れることを放棄した。
今はただ二人。
この幸せに耽溺していたかった。
「……お前、その足……」
足首の紋様は何かを焼き付けたように、無残な傷を晒していた。
数日前、鏡に映る己の姿を見て彼女は無意識に自分の足首に塩酸をかけたのだ。
痛みも、何も感じないほどの無機質の夜に。
肉と皮膚の焼け焦げる匂いではっとする。
痛み止めと丹薬で紋様は消えたものの、同時に醜い痣を彼女の白い足に残すこととなった。
「痛かっただろ……ひどいな」
「……消したかった。ずっと。こんなものに縛られてるのが悔しかった……」
その傷に唇を押し当てて、なぞり上げる。
「……や…ッ……」
「俺が、消すから。この傷も……過去の傷も。思い上がりかもしれないけれども、俺が守るから」
絡ませた指先。
遅い朝の足音は未だ聞こえないから。
今はただ二人……この幸せに絡みながら沈んでいくことを選んだ。




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