◆BABY DYNAMITE◆







「照星さーん」
男の後ろに立つのはたおやかな女の姿。
「おや、珍しいですね。防人がここに来るなんて」
「ここに来たらセクハラされ放題ですからね。足も遠のきますよ」
シルバースキンで完全防備の黒髪の美女は眼だけで笑う。
はちきれそうな豊満な胸と腰の括れはメタルジャケットの上からでもはっきりとわかるほど。
「火渡だって同じ事言ってるでしょう?」
「君よりは隙だらけで可愛いですよ。ふふふ」
肩を抱き寄せれば指先が男の唇を軽く止めた。
「輝星さん、ここにはあくまで仕事にきてるんですけど」
「じゃあ司令室でじっくりと」
「お断りします。その手はこの間使われたし、火渡にも使ったでしょう?3Pはしばらく
 お預けにしますからね」
長身の彼女は司令官の隣に並んでも引けを取らない。
少しだけ青味の掛かった黒眼は心の奥まで見透かすような爽やかさ。
「お、防人ーーーーっっ!!」
「騒がしいのが来ましたね」
少し小さな女が手を振りながらこちらに向かって来る。
再殺部隊を率いる戦士長の一人。
伸びた髪を結び上げ、燈色鮮やかに。
「防人、何してんだ?」
「照星さんのセクハラを拒んでたところ」
「セクハラ?照星さんのは生まれながらエロ大王だから無理だろ?この間だっていきなり
 部屋に連れ込まれてパイズリさせられたしさぁ」
「上司じゃなかったら今頃天に返してるんだけどな、私も」
大小いいコンビだと思うのはまだ彼女たちをよく知らないものだろう。
どちらも戦士長という立場までのぼりつめた屈強な二人。
最強の防御力を持つシルバースキンを纏う防人衛。
最強の攻撃力を誇るブレイズオブグローリーの使い手火渡赤馬。
どちらも核鉄の力を最大限に引き上げるだけの自力があるからこその強さだった。
過酷な訓練も乗り越えてこそのその力。
「新入りこねぇかな……」
「ああ、新入りが来たら楽しみだね。火渡」
視線だけを交わらせればにい、と火渡の唇が笑った。
「若いのがいいなー、防人」
「そうだね。本当に何も知らないような子がね」
「二人とも少し自重しなさい。戦士たちはあなたたちのおもちゃではないんですから」
その言葉に二人が男の方を振り返る。
「私たち、照星さんの愛人だから戦士長になれたって言われて憤慨してるんですけども」
その言葉が事実ならばこの二人は傷だらけになることも、瀕死の重傷を負うこともない。
危険地に赴くことが多いのもこの二人がツートップだった。
「愛人になった覚えはないよなぁ。セフレだとは思うけど」
「ね、迷惑な話。火渡、ケーキ食べに行かない?」
「お!!行く行く!!ロートルは帰ってちゃんと仕事しろよっ!!」
散々なことをいう二人の肩をがっちりと掴む。
「ケーキだったらホールで準備してあげますよ。話があります」
ついでにと火渡から煙草を取り上げる。
「お茶だけじゃ済まないんでしょ?」
「わかってるなら」
「わぁってるから、防人とケーキ食うんだよ。いーじゃん、たまに二人でケーキ食ったってー。
 今度ちゃんとフェラでも何でもすっからケーキ食いに行かせろよ」
ふるんと揺れる胸にそぐわない小柄な体。
「なので、御誘いはお断りしますね」
腕に絡みついてくる火渡の頭を軽く撫でる指先。
二人を見送って大戦士長はため息をついた。
(同性愛は非生産的です。まぁ、防人が両刀だから仕方無いんでしょうけども……)
大戦士長お気に入りの二人は曰くつきの美女。
歩けばそれだけで男たちの視線を集めてしまう。
「キャプテンブラボー」
「ん?」
部下の一人が声を掛ける。
「今度入りました新入りの犬飼です」
眼鏡にふわふわの髪の、痩せた青年が人間不信気味に二人を見つめた。
「もしかして……犬飼大戦士長の?」
「はい。どこに配属になるかはわかりませんが顔だけでも見せておこうかと。おい、
 こちらが防人戦士長。キャプテンブラボーだ。こちらは再殺部隊を纏める火渡戦士長だ。
 ちゃんと覚えろよ」
「大戦士長の愛人って奴ね」
その言葉に青年の襟首を掴んだ火渡の手を、防人が静かに制した。
小さく首を二度ばかり振って優しく微笑む。
「はじめまして、防人衛と言います。キャプテンブラボーと呼んでください。私のことを
 名前で呼びたかったら死なない程度に強くなればいいだけですけども」
帽子を取ってにこり、と笑う。
黒髪は短く切られてはいるものの艶やかで凛とした彼女の色香をより引き立たせた。
「こっちは火渡赤馬。喧嘩を売りたかったらやっぱり……死なない程度の強さは必要かしら」
「……………………」
「度胸は合格。けど……」
犬飼に視線を絡ませる。
その瞬間に感じる殺気と狂気の渦が背筋を走り抜けた。
「今度口のきき方を間違えたら、死ぬと思いなさいね」
「防人、ケーキ」
「ああ、そうだった。私たちはこれで」
見送ると同時に犬飼はその場にへたり込んでしまった。
ホムンクルスを知らないわけではない彼ですら立っていられないほどの狂気。
これが戦士長といわれるものだということを知った瞬間だった。




喫茶室でケーキを頬張りながらフォークの攻防戦。
ベリータルトを切り分けて防人は小声で呟く。
「さっきの新入りだって言ったね」
「うん。ひょろっちい……でも、犬飼大戦士長の孫だっけ?うーん……」
今度はガトーショコラに手をつけて火渡は首を捻った。
「新入りには痛い目見せておく?」
「いいかも。楽しそうじゃん」
唇に付いたチョコを指先が拭って舐め取る。
「ただ、照星さんがうるさいかな?」
「あのエロロートル……この間も顎痛くなるくらいまでフェラさせやがってさ……」
「まぁね、火渡がかわいくて仕方無いのは私も一緒だから気持ちは分からなくもないけど」
「だったら俺、防人の方がいい。照星さんいっつもさー」
空になった皿を見て、追加にチーズケーキを。
くしゃくしゃと頭を撫ででうふふ、と笑う。
「今夜戴きましょうか、美味しく」
顎を取る手と重なる視線。
「賛成」
「いっぱい付いてる。きちんと食べなきゃダメでしょ?」
淫猥な空気を生み出す達人は微笑み一つも誤解の種に。
きっけかなど錯覚にまぎれさせてしまえばいいと。
「あーうー」
「子供みたいで可愛い」
どこか紳士的でもある彼女は戦団の中でも目立つ存在だ。
幼さを残した火渡と対になる様な女。
「ケーキだけだと物足りねぇ」
「夕飯には早いでしょ。何か食べたいなら司令室に行ってきたら?食べるだけじゃなくて
 食べられちゃうけどね」
その言葉に首を振る。
「飯まで我慢した方がいい。顎が痛いのはいやだ」






当てられた部屋でのんびりと寛げば、それを打ち壊す無粋なノック。
「誰だよ?」
「だーれだ」
その声に扉を開けば長身の彼女の姿。
「おなかすいてるかと思って、ケータリングでピラフ貰ってきた」
包みを開ければ食欲をそそる香り。大きな海老は料理長からのプレゼントだと彼女が笑う。
「本格的な夕飯になっちゃうけどね。一杯もらったから」
「防人が行くといっつもいいものくるよな」
「火渡に持っていくって言ってるからね。人気者は火渡のほう」
サラダとパンプキンスープ、骨なしのフライドチキンと海老のフリッター。
オーロラソースとシーザードレッシング。ご丁寧にクルトンも。
デザートには林檎のスフレが付いてきた。
「私、あまり食堂に行かないからな。いっつもケータリングでお願いしてるし」
書類を纏めるときには部屋から一歩も出ないことも珍しくはない。
反対に火渡のほうがまめに食堂や売店には顔を出していた。
「んーまいっ!!」
「照星さん、明日から出張だって。さっき聞いてきた」
その言葉にスプーンを握る手が止まる。
口元に付いた米粒を取って、それを口にした。
「また付いてる」
「ってことは、明日か?」
「そういうこと。それに今から私には過酷なお勤めがまってるから」
シルバースキンを脱がないのはそれもあるからだと苦笑する。
全身を包むフルメタルのジャケットは、そう簡単に生み出す創造主はいない。
指先までの完全防備にして美しさも持つ武装錬金。
「照星さん?」
「そ。面倒だなぁ……男でも女でもどっちも好きだけど、どっちかってと女の子の方が私、好きだもん」
指先に帽子を掛けてくるくると回す。
陶器のような白い肌はその下に隠された傷など思わせないような美しさ。
日に焼けた健康美の火渡とは対照的だった。
「お勤めが終わったら来るね。それまで待ってて」
ちゅ、と唇が重なって離れる。
「死なない程度にがんばれよー。飯、ありがと」
「死なない程度にしてもらえるように頑張るよ。じゃ、後でね」
ぎゅっと抱きしめられれば柔らかな胸が当たって。
少しだけ力を入れて掴めば防人が悪戯気に笑った。
「後でいっぱい触らせてあげるから」
「エロートルによ・ろ・し・く」







司令室には一組の男女。
防護服を纏った女は困ったようにため息をつくばかり。
「だから何度も言いますが、あの男を再殺に入れるには……」
「家柄があれなだけにどこも引き取らないんです。残るは貴女と火渡の所だけ」
「じゃあ、私のところでいいじゃないですか。力がないなら雑務をさせます」
「しかし、名門犬飼家の子息という肩書がありますからね」
「今の大戦士長はあなただ。坂口照星」
防人衛も戦士長として一つの部隊を統括している。
錬金戦団はいくつかの部隊で構成され、その総括がこの男だった。
しかし、一般では扱えない難件を受け合うための特殊集団も存在する。
それが再殺部隊というものだ。
再殺部隊は他の隊とは決定的に違うところがあった。
隊員そのものが問題性があるものだけの集団。
それを束ねるのが戦士長たる火渡赤馬という女だった。
「これ以上火渡のセフレを増やすのは私も頭が痛いのですが」
「常に食われてるのは戦部くらいなんで、その心配は良いと思います。丸山とは合意で
 いろいろやってるみたいですけどね。どーせ初物食いですから」
すっきりさっぱりと言ってのける防人に今度は坂口が首を振った。
「ここに来た時は可愛い二人だったのに……いつのまに両刀なんかになっちゃったんだか」
「照星さんの歪んだ性教育に決まってるでしょ。3P大好きなくせに」
「可愛い子限定ですよ。防人」
出されたコーヒーを飲みながら過ぎる悪寒。
「ええ、私は性格も性癖も君の言う通りに悪いですからね。普通のコーヒーなんて出しませんよ?」
震える手からカップを受取る。
重なる唇と入り込む舌先。
「毒性はありませんよ」
男の頭を抱いて諦めたように瞳を閉じる。
戦士長を束ねる男に勝てるとは思ってはいない。
「……ぅん……」
「シルバースキンの部分解除、できますね?」
「またですか?どうしてそういうコスプレが好きなんだか……」
素肌にメタルジャケット一枚になれば、満足げに唇が笑う。
床に膝をついて、歯先でファスナーを噛んでそのまま引き下ろす。
半勃のペニスの先端にちゅっ…と唇が触れた。
ねっとりと絡みつく舌と口淫は、それを硬化させていく。
「火渡よりも……上手ですね。やはり」
唇が離れるとぬるり、と唾液が糸を引いた。
両手でやんわりと包み込んでゆっくりと扱く。
「教えたのは私ですからね」
「ああ、そうでしたね」
メタルジャケットのボタンを外して、柔らかな乳房でペニスを包み込む。
覗く亀頭を舌先で舐めあげればふと男の手が頬に触れた。
「何ですか?」
「場所を移しませんか?ついでにゲームもしましょう」
「ゲーム?」
唇を拭えばそのまま手を取られる。
「十分耐えられたら給料二倍にしてあげますよ」
「やります!!」
「耐えられなくても特に罰ゲームはしませんよ。君が頑張って耐えられれば給料は倍。
 おいしい話でしょう?」






美味しい話などそう簡単に転がってはいないと誰かが呟く。
「んー…ァ……ッ!!」
「じゃあ、はじめましょうか。ごまかしはしませんよ、ちゃんとここにタイマーもありますし」
機械音が響いて再び男のペニスに舌を這わせる。
「脚は閉じないでください。さ、十分間がんばりましょう、防人」
しっかかりと銜え込ませた極太のバイブにはごつごつとしたイボがびっりしと付着している。
ぬるぬると腿を濡らす愛液と媚薬入りのコーヒーは相乗効果。
「ひゃ……っん!!あああ!!」
「あ、一分ごとに強くなっていきますから。言うの忘れてましたけど」
「な…!!ああんっう!!」
震える膝に力を入れて唇を動かす。
ただ耐えるだけならばどうにかなるかもしれないがこの状況ではぞれは難しい。
唇で先端を咥えながらゆっくりと上下させる。
「っっ!!」
椅子に座ったまま、タイマーを見てくすくすと笑う。
「あと五分」
強くなる回転と響くモーターさえも神経を刺激する。
尖りきった乳首にジャケットが擦れるだけでびくびくと腰が震えた。
「挟んでもらいましょうか」
無理だと首を振って抵抗するだけで精いっぱい。
「でしょうね。絨毯がべたべたになってます」
残り時間とともに激しくなる震動に耐えきれずに男の膝にしがみ付く。
膝立ちのままどうにかして耐え抜こうとしても触れるものすべてが快感に変わってしまう。
「!!」
男の指先がクリトリスに触れ、目の前が一瞬真っ白になる。
「っは……ァ……!!……」
「あと一分。流石は防人ですね、火渡は三分で脱落しましたよ」
銜え込んだ箇所が渦巻くように熱く、ただ動きを受け入れるしかない。
(もう……無…理…ッ…!!)
指先がそのままそこを摘み上げると同時に迎える絶頂。
床に転がり落ちたバイブだけが激しくうねる。
「…っは……ぅ……」
「残り三十秒だったんですけどねぇ……昔から詰めの甘い子なのは変わりませんか……」
へたへたと座りこめば絨毯に愛液がべたべたとこぼれおちる。
火照った肌を擦るメタルジャケットに再び体に欲情が灯った。
「さて、どうしましょうか?」
愛液が溢れるその感触が余計に刺激して。
ぐちゅぐちゅと起毛が膣口を擦ってくる。
「……ぅ……ア……」
「防人?」
ぐったりとした女の手を引いて抱き起こす。
「二倍貰い損ねたァ……」
「臨時ボーナスは付けてあげますよ。ただし、明日からの出張に同行してもらう増すが」
男の頬を両手で包んで繰り返すキス。
「火渡もつれていきますよね?」
「置いていきますよ。任務にはあなたがいれば事足りますから」
そのまま腰を持ち上げて濡れそぼった入り口に先端を押し当てる。
「ッア!!」
ぬるぬると体液を零しながらゆっくりとした挿入に息が止まりそうだと体が震えた。
突き上げるたびに揺れる乳房を掴めば首筋をきつく抱きしめてくる腕。
「本当にいい胸ですね。柔らかさも申し分ない」
乳首を吸われるたびに浅い疼きが体を走り抜けていく。
ジャケットごと抱きしめてひときわ強く突き上げればきつく締め付けられて思わず唇を噛んだ。
「おや、こっちもべたべたですね」
「ちょ……ま……!!」
「さっきのよりは細いですよ」
目の前に見せ付けられたのは大小のボールで構成されたアナル用のバイブだった。
「細いとかそういう問題じゃ……あアんっっ!!」
ずぶずぬと飲み込まれていくバイブが勢い良く動き出す。
「あああああっっっ!!」
「あんまりきつく締めないでください。イッちゃいそうになったじゃないですか」
のけぞる体にキスをして傷口を舐めあげていく。
「あ!!あん、ぅんんっっ!!」
「二本差し、好きでしょう?防人は」
腰が蕩けそうな快楽にただ喘ぐ事しかできない。
「やだ、や……ア!!ああああっっ!!」
内側でごりごりと抉る様に動くペニスとバイブに肌が張り詰める。
唇が触れるだけで吹き飛びそうな意識を必死に繋ぎ止めた。
「ひゃぅ……っく、ああああっっ!!」
崩れる体を抱いてなおも突き上げていく。
「やっだ……も…ッ!!……」
黒髪に降るやさしいキス。
「私もイかせてください。世の中はギブアンドテイクですから」






途切れた意識をもう一度手繰り寄せる。
「……っ痛……」
軋む体を起こせば隣で眠る金髪の青年。
(根元とか伸びてないもんなのかな。それにカラコンまでして……)
細身というには豊満すぎる乳房を持つ彼女の体を抱えるにはそれなりの力が必要だ。
「何をしてるんですか?防人」
「根元伸びてないかなと……ぅわ!!」
乳房を鷲掴みにされてあがる声。
「馬鹿なことしてないで寝なさい」
「起きたばっかりなんで大丈夫です。照星さんは寝ててください」
「………………………」
げんなりとして体を起こす。
「シャワー借りますね」
「どうぞ」
「火渡のところ行かなきゃいけないんで。照星さん、香水のにおいがけっこうするから……私は嫌いじゃ
 ないけども、火渡が苦手なんで」
掌の匂いをくんくんと犬のような仕種で嗅ぐ。
「良い匂いだと思うんだけどなぁ……何でしたっけ?この匂い」
「エゴイストプラチナムですよ」
「照星さんにシャネルってイメージない。無い無い」
笑い転げる女を押さえ込んで男は引きつった笑みを浮かべる。
「あー駄目だ、可笑しくて死ぬ!!」
「もう一回犯しますよ」
「媚薬なしだったらいいですよ。私も火渡も薬酔いするんで正直嫌です」
枕を抱きしめて寝転がる。
すらりと伸びた脚と背中に走る傷跡。
「照星さん、なんで前髪だけここ長いんですか?」
「チャームポイント」
「ヤダヤダヤダ!!ありえない!!それこそありえない!!」
笑う女の髪をそっと撫でる手。
「日本が一夫多妻だったらよかったのに」
心底残念だと呟く。
「愛人二人、もっといるかな」
「愛人?誰がですか?」
「私と火渡」
蠱惑の瞳が魅惑的に光を帯びる。
「どっちも本妻ですよ。私の」
そっとため息のこぼれそうなこんな青い夜には、少しくらいロマンティックになれれば良い。
「明日付き合えば、臨時ボーナスでるんですよね?」
「出しますよ。個人的に」
「じゃ、火渡に香水でも買ってやろうかな。プレゼント代のために身を挺して頑張ろう」
「二人連れて行きますか。短時間で決まるなら、残った時間で買い物でもいいでしょうし」
その言葉に防人がきょとんとする。
目を丸くしてぺたぺたと坂口の頬を打った。
「しょ、照星さん、買い物って……」
「可愛い恋人二人にたまに何かあげたいって私だって思いますよ」
「だって」
「行きつけのシャネルにでも」
「ありえなーい!!でも……似合わないわけでもないのかな。だって照星さんのジャケット、
 フルオーダーだもんね」
核鉄を取り出して、それを胸に押し当てる。
シリアルナンバーは百番。最後を飾る武装錬金だ。
「よく、私も火渡も生き残れたなぁ」
「………………………」
手をつないで乗り越えてきたことも、喧嘩をしたことも。
表裏一体の二人を導いてきた青年の姿。
随分と逞しく、綺麗になりすぎた。
その花に止まろうとする虫は後を絶たない。
「衛」
ふいに名前で呼ばれて、胸が高鳴る。
「よく頑張りましたね」
「な、なんで名前で呼ぶんですか……」
「自分の恋人を名前で呼ぶのは普通でしょう?ここには私と君しか居ないんですから」
くしゃくしゃと髪を撫でる手に、泣きそうになる思い。
「もう少し逞しくなくてもいいんですがね」
「いいんです。引退したら火渡と楽しく老後は暮らしますし。引退できなかったら
 お墓は火渡と一緒にしてくれれば」
こつん、とぶつかる形の良い額。
「痛っ」
「簡単にそんなことを言わないでください。私はどちらも死なす気はありませんよ」
銀色の防護服を纏う完全防備なる美女は、己の身体能力を限界値まで引き上げた。
シルバースキンはあくまで防御のみの武装錬金。
他の攻撃は防人本人の力が最重要になってくるのだ。
それは火渡も同じことだった。
摂氏五千百度のブレイズオブグローリーは、あくまで着火燃焼の力を増幅させる。
その持続力と方位燃焼は火渡本人の能力値の高さだった。
愛人として戦士長になったのではないと、その力が何よりも雄弁に語る。
「防人も火渡も、どちらも大事な恋人ですよ」
「……はい……」
「もう寝なさい。明日は短時間で終わらせますよ」
「はい」
子供にでもするように額に降るキス。
戦団に引き取られたばかりのころ、二人の教育係として担当したのが坂口照星だった。
寝つきの悪い防人を眠らせるために魔法だといって額にキスをして。
「昔もよくこうしてもらった」
「教育係がそのまま美味しく二人とも頂いちゃいましたけどね。あの時は私も
 大戦士長にきつく叱られましたよ」
手を伸ばして、金髪に指を絡ませる。
「火渡、戦部と遊んでるんだろうな。あーあ……」
「同性愛(レズビアン)にはあまり賛成はできませんけどもね」
「バイセクシャルって言ってください。でも、どっちかというと女の子の方が好きですけど」
「教育を間違えてしまいましたね……ああ……」
それでもよく笑うのはきっと彼の愛情が深かったのだろう。
「いいや。その分照星さんに優しくしてもらおう」
身体を起こしてぎゅっと抱きつく。
胸板に重なる乳房の柔らかさ。
「やっぱり良い匂い。私は好きな匂いだな」
長い睫が翳る色香と濡れた唇。
「もう一回いっときますか」
「寝ろ、変態」
「収まりが付かなくなったのは防人のせいでしょう?」
「やですよ。眠くなってきたもん」
「衛」
「もう名前呼んでも駄目ですよ、照星さん」
駄目押しのように彼女からのキス。
眠れない夜と眠らせない夜が交差する真夜中に降る流れ星。
「おやすみなさい、大戦士長」
眠れない夜にため息がひとつ。
眠れない夜にキスをひとつ。







0:14 2008/10/30

PC用眼鏡【管理人も使ってますがマジで疲れません】 解約手数料0円【あしたでんき】 Yahoo 楽天 NTT-X Store

無料ホームページ 無料のクレジットカード 海外格安航空券 ふるさと納税 海外旅行保険が無料! 海外ホテル