◆永夜の報い◆







色褪せた一枚の写真を愛おしいと思えるのはそれだけの過去があるからだろう。
守るものがあれば人はどこまでも強くもなり弱くもなる。
大事なものはそう沢山は抱えられない。
だからこその人生は美しく儚く魅惑的だ。




伸びた黒髪を一本に編み込む。
銀色の戦闘服によく映える漆黒はどことなく藍交じり。
目深に被った帽子とすらりとした長身の少女は花麗しい乙女十七。
「おや、防人」
「照星さん。何かありましたかぁ?」
いつも小脇に居るはずの相棒が見当たらないと男は首を傾げた。
「いえいえ、特に急ぎの用でもなんですけどね。学校は出席日数だけでもクリアして
 下さいね。まあ、修学旅行はちょっと難しいですけれども……」
所属させた高校の日程表を見ながら彼はため息を一つ。
成績は悪くはないのだが錬金の戦士としての姿を持つ彼女は出席日数が過分に足りない。
それはもう一人の少女にも言えることだった。
「やっぱり、行けませんかね……」
諦めたような瞳の中に混ざる寂しさ。
長期間の外出は彼女たちには認められないものだった。
それだけの強さを持ってしまったが故に、日常生活は中々営めない。
放課後にどこかに立ち寄るのが精いっぱいの現状。
「火渡にも言ってあるんですけどね。申し訳ありませんが」
「……はい……」
軽く頭を下げて立ち去る姿。
コートの裾が揺れてまるで彼女の心模様を映したかのようで。
入れ替わるように現れた侵入者は赤毛の少女。
「照星さーん、修学旅行やっぱ無理?」
デスクに腰かけてぐい、と顔を近付ける。
少しだけ長く伸びた彼の前髪を指に絡ませて。
「防人にも言ったんですけど、難しいですねぇ。君たちの学校は海外旅行ですし」
「その気になれば帰ってこれるぜ?」
ブレイズオブグローリーの飛行能力を使えば帰還は難しくはない。
しかし、彼の方針はできるだけ二人に日常を与えたいということが大きかった。
戦士としてだけの日々だけではなく、当たり前の生活も大事だと。
襟足で跳ねる赤い髪。まだ少し幼さの残る勝気な瞳。
「火炎爆弾に二人乗りして空なんか飛んで御覧なさい。テレビ大騒ぎですよ?」
そうまで言われれば条件を飲むしかない。
口の中で弾けたキャンディーの味は少しだけ冷たいミントだった。






靴紐を治す指先に絡む夥しい絆創膏。
「さーきーもーりーっ!!」
後ろから飛ぶようにして抱きついてくる小さな体。
触れる頬と耳元に響く声に瞳を閉じる。
黒髪は母譲りだったと思い出しても、この胸に宿る郷愁はない。
「どこ行くんだ?」
「お墓参り……一緒に来る?」
彼女とて両親など存在しない。物心がつく前に二人とも戦団に引き取られた間柄だ。
同じ瞳を持つ二人の少女は相反する強さを手にした。
「んー……行く……」
指を折り曲げて感情の行方を占う。
羊雲の美しいこの季節は碧すぎる青空が目に沁みるようで。
眼にしたのは想像していたような墓標ではなくて十字架のそれ。
ぼんやりと見上げる火渡の隣で静かに防人は胸に十字を切った。
「クリスチャンだったのかよ」
「……まあね。だから、照星さんが私の担当になったんだろうし……」
男一人に少女一人よりは二人が良いだろうと思われたのだろう。
結果的に楯山千歳を加えた三人を彼は担当することになった。
彼の意を細やかに汲み取り、確実な任務を遂行する三人。
照星部隊は任務失敗の無い、稀有な存在となる。
両手を組んでそっと祈りを捧げる姿。
「なぁ」
「?」
「俺……お前残して死んだりしねぇから、お前も俺残して死んだりすんなよ」
それはとても晴れた日の唐突な告白で。
泣くことさえも忘れてただその言葉を反芻して空の青さが滲むと思えるように。
少しだけ遠くを見る彼女の横顔に見え隠れする優しさ。
「……うん……」
「って……キリスト教ってレズ駄目なんだっけ?」
涙交じりに彼女は首を横に振った。
「覚えてないからわかんないや」




手を繋いだ帰り道、頬を撫でる三月の風。
桜の蕾はまだ固くとも、春への誘いの小道は一人よりも二人の方が良い。
去年よりも伸びた背丈はジャケットを小さくしてしまった。
鏡に映る自分の姿。
伸びた手が鏡面に触れて生まれ出た決意。
「……………………」
床に散らばる黒髪はまるでさようならとでも告げるかのように。
別人のような姿は卒業式などどいう形骸的なものでは得られない脱却を教えてくれた。
(……修学旅行はいけないけども、別に良いや……)
癖でつい、首筋の髪を払おうとしてしまう。
「防人ーー……って!!うぉい!!どうしたテメエ!!髪!!」
「火渡……日本語がゲシュタルト崩壊してる……」
「だだだだだって!!照星サーーーン!!」
ばたばたと飛び出していく姿が消えて、今度は二人に増えてくる。
火渡に手を引かれてやってきた彼もやはり、驚きは隠せない。
「……とりあえず、美容院に行ってきなさいね。火渡、君もです」
苦笑して黒髪に触れる大きな手。
幼年期を終わらせて少女は駆け足で女に変わって行く。
階段の踊り場、二人で足を止めて向かい合うように。
「終わったら電話をください。ディナーくらい御馳走しますから」
「だって。火渡、今日は好きなもの食べよう」
「おう」




春に巡らせるは各々の思い。
見守ることも一つの愛情だとすればこの季節もそう嫌いではないと感じた。
羅列された数字や記号で年齢を一つ重ねていく。
そのことに意味など見出そうとはしない日々だったはず。
「照星さん、もうすぐ誕生日ですね」
「ええ、二十歳の」
「冗談はその前髪と金髪だけにしてください」
シルバースキンに身を包んだ女は眼だけで笑った。
不意に重なった手に驚いたのは彼の方。
帽子を空いた手で取って彼女はにこり、と唇を綻ばせた。
「この時期になると思い出すんですよ。私と火渡をイギリス連れて行ってくれたこと」
修学旅行には参加させられないからと、彼は自分の任務に託けて二人を連立った。
初めて見る異国の空に目を白黒させる少女と普段通りの彼の姿。
錬金戦団の戦士としての肩書を最大限に利用した行為でも、二人にとっては十分だった。
「あれがきっかけて火渡は英文学を専攻するようになったんですよ」
「君は、宗教学と理科第二。そうそう、ちゃんと単位の方は取ってますか?」
その声に反応するように開くドア。
「照星さーん、防人来て……来てた」
駆け寄ってくる姿が合わさればいつもの三人組。
「まったく。探すのに付き合わされる僕の身にもなってほしいんだけどね」
そして彼が加われば最強の四人。
「お誕生日には出張が入ってるんですよね?」
千歳の声に男は少し残念そうに頷いた。
「そんな日くらい休ませてやればいいのにな」
「火渡と違って偉い人になると、色々大変になるんだよ。ほら、一応火渡だって戦士長
 なんだから。衛も単位が足りないとかそういう恥ずかしいことはできない立場だろ?」
千歳の言葉に二人が声を詰まらせた。
鉄壁の成績を誇る楯山千歳の前ではさすがの二人でも霞んでしまう。
「二人とも、ちゃんと進級はしてくださいね。出席日数は圧力が掛けれても成績は君たち
 の実力勝負なんですから」
笑い声が響く午後も。
「まあ良いけどさ。防人、準備出来たぜ」
「うん。照星さん、ちょっと早いんですけどもお誕生日のお祝いさせて下さい。出張だって
 聞いてたんで……照星部隊の三人で頑張っちゃいました」
それはとても晴れた日。
「ホームパーティって感じですけどね」
彼も随分と笑うようになった昼下がり。
「ケーキは俺がわざわざ作ってやったんだぜ?」
入れ替わるように伸ばした赤い髪を結いあげる柔らかな日々。
「照星さん?」
泣くことさえ出来なほどの優しさに包まれる日々をどう想像しただろう。
「ええ、行きましょうか」
幸福を運んでくれるのは天使でも神様でもなく。
全てを失った彼女たちだったと。
願うならば三人の明日が今日よりも少しだけ良いから幸せであるように。
もう少しだけ笑えるように。
この青空が透き通る季節に思いを馳せた。




それはとても晴れた日の出来事。
一枚の写真に刻まれた思い出に付属したお話。
「あ、懐かしいもの見てますね」
いつものように全身をメタルジャケットに包んだ女が覗きこむ。
少しだけ色あせてきた写真に写る四人の姿。
「君が髪を短くした時のですね」
帽子に手がかかり、そっと外す。
「随分と大きくなってしまって……綺麗になりましたね」
頬に触れる手と、重なる視線。
「照星さん?」
グローブを外されて手の甲に触れる唇。
僅かに触れるだけのキスはまるで何かの儀式のようだった。
「決闘でもしますか?」
「それは相手にグローブを投げつけることですよ」
わしゃわしゃと黒髪を撫でて彼は穏やかに笑う。
「たまには防人とお茶でも飲みに行きますか」
「あー、火渡……遠方任務中ですしねぇ……」
「一人でお茶を飲むのはあまり面白くないんですよ。縁側でお爺ちゃんがお茶を飲むにも
 お婆ちゃんか猫か犬はいるでしょう?」
だからたまには、そんなことを呟くこの人の隣を歩こう。
手を繋いで少しだけゆっくりと歩いて。
「防人?」
滅多なことでは手など繋がない彼女が、指を絡ませて。
「照星さんの手、おっきいですね」
メタルジャケットの裾が柔らかく揺れて春の日差しを呼び込む。
「そうかもしれませんね。バスケットボールくらいなら片手で掴めますし」
「背も高いし。私が大きいから、私よりも高い人ってあんまり……」
少しだけ俯く姿。
「良いじゃないですか。私よりも小さいですよ」
こんな日は少しだけ甘いカフェオレでも良いのかもしれない。
まだ頬に当たる風は少し冷たくても。
「私と火渡だと丁度良いんですよ?」
「あの子は小さいですからねぇ……パーティドレスなんて絶対に着てくれませんけども」
公式な場所に向かうにはそれ相応の格好を求められるのは当然のこと。
シルバースキンをドレスに変えて、胸元には核鉄を忍ばせる。
「明日の朝まで付き合ってくれたら、ありがたいんですけどね」
「いいですよ、用事も特にないですし。非常召集がかかったら別ですけど」
その非常召集を出すのもまた彼であって。
「じゃあ、たまには豪華なディナーでも行きますか。一人足りない分、上乗せして」
「やった!!じゃあ、書類チェックもやさしめにしてください」
それでも公私混同は極力避けたいから。
「駄目です。それに関してはきびしめ判定です」
「……はい……」
その分、愛情を上乗せして甘やかせばいいと結論を着けた。





「フットケアって初めてだったんだすけど、気持ち良いですねぇ……」
全身くまなくマッサージされ、仕上げにエステとヘアケアのフルコース。
普段、女性らしい生活からは離れたところにいる彼女にとっては至福の一時だった。
「ええ、そこまで磨かれてるとこっちも高揚しますね、ふふ」
同じように彼も普段の疲れを取るためにケアコースを受けてきた。
せっかくだからとジャグジーも二人で満喫して、心身ともに癒されて。
「だから照星さんって、そんな髪なのにさらさらしてたりするんですね」
「……そんな髪って思われてたんですね……」
「火渡もいまどき金髪は無いって言ってますけどね」
後ろから抱き付けば彼の耳に息がかかる距離に。
「私も権力者になりたいっ!!そしたら火渡に危ない仕事なんかさせないっ!!」
「がんばってくださいね。私も協力してあげますから」
「私も火渡も、あなた以外に従う気なんかありませんよ」
小さな一言は爆撃型のプロポーズ。
戦うことのない日々が訪れるならば彼女たちに安息をと、願うばかり。
「細いのに、筋肉しっかりついてるんですよねぇ」
仄かな香りに目を閉じる。
「顔も綺麗」
「褒められてるんですかね?」
「どんな風に戦ってたかなんて全然解んない」
肉弾戦を主とする彼女とはまったく違った戦い方をしてきた彼。
その強すぎる力は使い方を誤れば周囲一帯を一瞬で壊滅状態に追い込めるものだった。
「そのうち教えてあげますよ」
布地越しに柔らかな胸が触れる。
手を取られてそのまま組み敷かれ、繰り返すキスに目を閉じた。
「……ぁ……」
布地ごと乳首を吸いあげられて肩が竦む。
時折当てられる歯先の甘い痛みをバスローブがやんわりと遮って。
袷を解けば張りのある乳房がふるん、と揺れた。
輪郭をなぞるように蠢く舌先。
震える肌を甘い声が余計に劣情を煽ってしまう。
「柔らかくて……良い身体ですね……」
唇が触れた痕がじんわりと赤く染まって行く。
全身を防護服に包む彼女の肌は陽に焼けることがほとんどない。
文字通りの白銀の美女として戦場に佇む姿は見る者に恐怖を与えてしまうほど。
窪んだ臍に接吻して足首を掴む。
「や……待って…!!」
踝に走る真新しい傷跡を舐め上げると女のからだがびくん、と跳ねる。
「傷口、好きでしょう?」
意地悪気に歪んだ唇が執拗にまだ赤く腫れ上がった箇所を攻め嬲って。
彼とは対照的に彼女の身体中に走る数多の傷。
瀕死の状態での帰還も珍しくはない。
「私は……好きなんですよ……」
指先が濡れた入口に触れてそのまま抉るように侵入する。
ぐちゅぐちゅと絡まる体液と傷口から流れ出す血液。
どちらも生み出すのは彼女のはずなのに同じであって同じではないもの。
「…っは……いった……」
「でしょうね。これだけ酷く抉られてれば痛かったでしょうに」
解放した足首にそっとキスをする。
「ああ、でも……まんざらでもなかったでしょう?痛いのと気持ちいいことの混在も」
「……殺す!!」
飛びかかる彼女の手首を掴んでそのまま引きよせて。
視線を絡ませてから唇を重ねた。
「意地悪されるのも好きでしょう?本当は」
「するほうがもっと好きです」
彼の頭を抱いてもう一度唇を重ねる。キスは何度でも良いものだと。
「じゃあ、お互いにしましょうか。意地悪なことを」
耳元で囁かれれば渋々と言われた格好を取る。
「どうしていっつも……もう、慣れましたけど……」
男の舌先が柔らかな陰唇に触れて媚肉の中に侵入していく。
生暖かなその感触に身震いしながら乳房で勃ちあがったペニスを包み込んだ。
覗く亀頭の先に舌を這わせて時折啄ばむようにして口唇で嬲る。
「嫌いですか?シックスナイン」
にちゅ…と舌先が離れればぬらぬらと愛液が伝ってしまう。
腰を抱えるようにして顔を埋めて今度は唇と舌先が執拗にクリトリスを舐め嬲った。
「…ぅあ!!だって……ッ!…」
暖かい舌が触れるたびにもどかしげに揺れる腰。
何かを話すかのように唇が動くたびに生まれる甘い刺激に四肢から力が奪われていく。
「ン!!あ……ッ!!……」
耳に響く淫音にきつく目を閉じても、抵抗など意味の無いもの。
震える手で肉棒を掴んで口中に含んで上下させる。
飲み込むのは無理だと首を振って舌先で浮き出た脈を丹念になぞって行く。
(……硬った……喉痛いの嫌だな……)
唾液でべたべたになったペニスを手で扱いて。
掌で感じる脈動と熱くなる自分の身体。
「!!」
ぐ…と内側を押し上げる指に息が詰まる。
「あ!!や…!!」
根元まで飲み込まされて掻き回すように蠢くたびにこぼれ出す愛液。
三本の指先がそれぞれ違う箇所を一斉に攻めあげる。
「…ふ…ァ……!!……んんっ!!……」
根元までべたべたに濡れた指先と内腿を噛む感触。
「降参しますか?防人」
「んー……!!んん!!」
掌で肉棒を包んでやんわりと上下させる。
「よろしい。根性のある子は大好きですよ」
わざと聞こえるように愛液を啜る音と剥きだしのクリトリスを攻める唇。
内腿も腹部も彼が刻んだ痣でそちらこちらが赤くなっていた。
しっとりとした肌と均整のとれた体躯は扇情的としか言えない。
「あ、アんっ!!」
「普段からそれくらい可愛い声でいてくれれば嬉しいんですけどねぇ」
「……参りましたぁ……」
ぐったりとした身体を抱き起して膝を開かせる。
肉棒の先端が膣口に触れてゆっくりと押し広げながら侵入し始めて。
その度に感じる熱さとぬめりにぎゅっと目を閉じる姿。
隙間なく埋め込まれて男の背中を抱きしめた。
突き上げられるたびに上がる嬌声。
「しょ…せ……サ、ンっ…!!」
首筋に触れた唇。
貫かれるほどにぐちゅぐちゅと体液があふれ出してはシーツを濡らしていく。
ほんのりと赤く染まった肌。
左右の乳首を交互に甘噛されては舐め上げられる。
「あ……ぅ!!あ!!」
最奥まで突き上げられては引き抜かれて。
蕩けるような甘いキスで耳まで赤く染まった。
自分の体が軋む良音とゆっくりと奪われていく意識。
死はきっとこんな感覚にも似ているのだろう。
「防人?」
額に汗で貼りついた前髪を、男の指先がそっと払う。
「……大丈夫……ですか?」
「死ぬのって……こんな感じなんですかね……」
「……そうかも知れませんね……」
絡まりあった二つの身体はやがてただの肉塊に変わるのだろうか?
戦士として生きるには穏やかな人生など約束できるものではないから。
最後の瞬間にこのまぶたに焼き付くのは誰の姿なのだろう。
「……んっ……ふ…ぅ……」
張りつめた乳房と絡みつく脚。
腰を抱えるようにしてより深く繋がりたいと身体を押し付け合った。
呼吸を分け合うようなキスと肉のぶつかる音。
内側で膨張する肉棒と僅かな動きさえも逃すまいと蠢く襞肉。
「や、あ……あアんっっ!!」
一際きつい締め付けに吐き出される体液。
内側でびくびくとひくつく感触とどろりと溢れる生暖かな体液に意識まで混濁してしまいそう。
額に鼻筋に唇に、何度も降るキスの優しさに瞳を閉じる。
覆いかぶさったままで黒髪を撫でる大きな手がくれる安堵感を手放すことが出来ないままに。
「…ん……」
唇が離れて。
「……どいてください……重いし……」
遮るように彼女の身体を抱きしめて彼は頬を寄せた。
「嫌ですよ。今日はこのまま抜かずの二発。そのあとも連弾戦って決めてるんですから」
「な!!冗談じゃないですよ!!」
「さっき降参しましたよね?」
ねっとりと絡まる視線。
「!?」
内側でゆっくりと硬度を取り戻していく感触に動きが止まる。
「せっかく二人きりなんです。じっくりと堪能させてもらいますよ」
「変態プレイには付き合いたくな……」
「この態勢でよく言いましたね、防人。悪い子には……お仕置きですよ?」
乳房に残った歯型を舌先が辿って行く。
身体を絡ませたまま彼女を抱き起して向かい合う。
少しだけ防人の身体を押しやれば繋がった箇所が視界に入った。
「ね……こんな嫌らしくて可愛い子を独占できるっていうのは……」
赤黒い肉棒に絡まる桃色の媚肉。
「ちゃんと見てますか?」
「なんで見なきゃいけないんですか!!」
「決まってるじゃないですか。見せたいからですよ」
覗きこむようにして視線を合わせてから、にこりと笑う。
「ひゃ……っ!!」
「ほら、こんなにぬるぬるになってて……」
溢れる愛液を指先に絡ませて彼女の前でゆっくりと指を開く。
人差し指と中指に絡んだ愛液がぬらぬらと繋がるさまに僅かに逸れる視線。
「もう……やだぁ……こんな上司……」
滅多なことでは見れない涙目は見る間に泣き顔に変わって行く。
さすがの彼も泣かせる趣味はないと子供をあやすようにぽふぽふと黒髪を撫でた。
「照星さんなんか嫌いです……っ……」
「困りましたねぇ……私はこんなに防人のことが好きなのに……」
「……ごまかされませんから……」
身体を引き離そうとしてその度に亀頭が内側で擦れて甘い声が溢れてしまう。
彼の膝の上に座り込むようなこの体位では逃げることも儘ならない。
「じゃあ、うーんと優しくしてあげますから」
「……嘘吐き……」
「嘘じゃないですよ」
少しだけ疲れた笑顔で片目だけを閉じて見せる。
小さく「たっぷりと虐めた後にね」と付け加えて。








投げ出された身体を抱き寄せれば小さな寝息。
いつのまにか随分と成長してしまった姿を改めて確認させられた。
物理攻撃を遮断できるとはいえ彼女の体に傷は絶えない。
「……照星さん……?」
「随分と傷だらけですね……」
「大したことないですよ。照星さんがなさすぎるんです」
細身ではあるがしっかりとした筋肉は戦士としての証明の一つ。
「核鉄、貸してもらえますか?」
十七番目の核鉄を手にして呼吸を整える。
軟かな金色の光を纏った防護服は御丁寧に胸の谷間の部分が露わになる形状を取った。
スリットから伸びる脚とウエストラインを強調するパーツたち。
要所要所に埋め込まれたヘキサグラムプレート。
「核鉄まで変態仕様なんですか……」
「願望を写し取っちゃいましたかね。まあ、もう長年私の一部になってますから、それ」
「火渡のを使った時は綺麗なマゼンタになったんですよ。面白いですよね」
武装解除して、 核鉄を手渡す。
「本当に傷の無い身体」
「ありますよ。今日は壮大に背中に爪痕がつきました」
「……鉤爪で引き裂きますよ」
「構いませんよ。君と火渡の暴走は私なら受け止めますから」
裸の身体を抱き寄せて、せめて今だけは甘えさせてやりたい。
胸に顔を埋めればそこにかすかに残る古傷。
「これですか?」
「ええ。正面からやりあって……死にかけました」
「正面突破……照星さんらしいや……」
甘えるように背に回る腕。
「少しおやすみなさい」
「……はい……」
「君が甘えられる空間ではあるつもりですから」
人前では弱さなど見せることの無い女が、たったひとり自分を誇示しなくても良い異性。
それが坂口照星という男だった。
二人の女は互いに支え合い依存しあう。
それを良いとも悪いとも言わずに彼は二人のあるがままを受け入れ、唯一つの地位を手にした。
強いものが強くなくあるための存在として。
(君が知らないだけで……傷はあるんですよ……)
胸の傷と相反する場所に残る小さな傷跡。
仲間を見捨てて逃げ出して繋いだ命。
初めから全能なる存在などありはしないのだ。
(死ぬまで見せませんけどね)
さわさわと頬を撫でる手。
「……照星さんの手、やっぱり好きだなぁ……」
「?」
女の手が彼のそれをとって。
「うん……すっごく……気持ちいい……」
「……寝なさい。良い夢が見られるように祈ってあげますから」
桜の季節は己の弱さを思い出させてしまう。
それを埋めてくれたのは彼女たちの存在だった。
手を取って外のに走り出す二人にどれだけ救われてきただろう。
鈍く痛む傷も随分と薄くなったのはきっと彼女たちの魔法。
そして今度はその二人が彼の傷を負い、生きている。
「寝たくない……もうちょっとこうしてたい……」
そんなことなど滅多なことでは言わない彼女がこぼす小さな本音。
終わらない夜は災いとなるだけ。
永遠などこの世界に必要はないのに人は常にそれを求めてしまう。
変わらないものなどありはしないのに。
「でも……寝ちゃうんですよね……君も火渡も」
「……んー……」
「衛」
「……はい……」
聞こえてくる寝息。
眠らないのはいつも彼の方だった。
「良い夢は……一緒に見るもんでしたね。君が教えてくれた」
子供のように身体を折って眠る姿。
窓の外では春風が少しだけ強く歌い始める。
罪巡る桜を綺麗だと呟く唇。
「おやすみなさい、衛」
一つの夢を二つにするのではなく、二人で見ること。
巡る罪を静かに断ち切ったのは銀色の光だった。








18:16 2009/04/05










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