◆夜だから眠れない◆





カタログを見ながらのんびりとコーヒーに唇を付ける姿。
並んだ彼女はそれにミルクと砂糖をたっぷりと入れ、キャラメルソースも。
「な、これ良いんじゃね?」
彼女が指すのは筋肉質の男の写真。
「ああ、いいかも。でも、あの人に赤って何かさ……」
まだ暖かなコーヒーをもう一口。
「だな、ヤリにきましたって感じだよな」
「いっそ褌でいいんじゃない?」
けらけらと笑う彼女を抱き寄せる。
ちゅ、と重なる唇。
「甘いなぁ……体全部お砂糖になっちゃうよ」
絡ませた舌先とボタンを外してい指先。
唇が首筋に触れて軽く吸い上げれば女の体がびくり、と竦んだ。
そのままソファーに押し倒せば抵抗なく倒される身体。
「見えるとこ……つけんなよ…ッ…」
「髪下ろしてれば見えないよ。私、火渡は下ろしてる方が好き」
重ねた半休は二人で過ごしたいと部屋に籠ることを選んだ。
街を彩るイルミネーションよりも彼女が操る焔の方が余程綺麗だと。
白が足りないのならば銀を纏えば良いだけ。
「よしよし、フロントホックだ」
「お前がそうしろっつったんだろ」
「うん。色も私の好きなやつだ」
白を基調にしたロイヤルブルー。彼女の赤い髪に映えるように、その肌を殺さないように。
ふるん、と上向きの乳房が揺れる。
「んー……」
震える先端に唇が触れてそのまま啄ばむように吸い上げる。
乳房に掛かる指先。
「なぁ、ここよりベッドいかね?背中痛くなんだよ」
「そうだね。せっかくだもん」
小柄な彼女を抱き上げて、姫に使える騎士宜しく歩いてみれば、似合いすぎると呟く。
「軽いなぁ。お酒と煙草じゃ栄養にはならないんだよ?」
「お前だって同じじゃんか」
「いいなぁ。昼から火渡と二人っきり。文句言われても全然気にならない」






クリスマスが近いからと面倒な仕事は纏めて片付けた。
たまには花束片手に彼女を誘ってみたい。
「おや、防人。花束なんか持ってどこにいくんですか?」
同じように白薔薇を抱いた男が隣に並ぶ。
「照星さんと目的は同じかもしれませんね」
見る間に彼女を覆うメタルジャケット。
青銀の光は真紅の薔薇をより美しく彩った。
「絶対に譲りません!!」
手刀が空を裂き、そのまま廊下を崩壊させる。
「給料から引きますよ」
「それも嫌です!!」
彼女の拳を片手で止めればまさに拮抗状態。
どちらかが倒れるまでこの勝負は終わらない。
「あ、大戦士長とキャプテンブラボー!!お先しまーす♪」
小脇をすり抜けていく円山の姿に女は男を蹴りあげた。
「先越されちゃう!!照星さん、私の幸せのために死んでくださいっ!!」
身勝手極まりない一言でも彼女にとっては真実だ。
フリージアを抱いた青年に負けるわけにはいかないと追いかける。
「えいっ♪バブルケイジ!!」
「それは私には通じない!!」
「私にも通じませんよ、ふふ」
全てに均等な威力を加えれば、爆発は封じることができる。
三人並んで走り出せばその背後に男の影。
「千歳!!」
ヘルメスドライブを華麗に操り、彼は彼女に耳打ちする。
空間移動を得意とする彼は彼女のあらゆる意味での盟友だ。
「照星さん、たまには僕とふたりっきりのクリスマスにしませんか?」
「千歳君、何度も言いますが私は女性オンリーなんです」
彼の頬を両手で包んでそっと唇を近づけた。
「大丈夫です。優しくしますから」
「……待ちなさい、君の中では私が下ですか?」
「それが僕のジャスティスです」
男二人の異空間に、女と半分女が立ち止まった。
「きゃ……却下です!!」
「間口は広いほうが人生は楽しいですよ」
「だったら、円君がいるじゃないですか!!適任です」
「ああ、もう試食済みですので。円山とは相性もいいですよ」
「戦士千歳は逞しかったです、大戦士長っ」
しっかりと坂口の手を握り、千歳はこの上ないほどの優しい笑みを浮かべる。
ともすれば背後に大輪の薔薇を咲かせてもおかしくないほど。
「それに……照星さんは僕の憧れの男性(ひと)だから……特別な日は一緒に過ごしたいんです……」
そのまま愛の告白に、男が硬直する。
頬を染めた千歳が女だったらこの上ないロマンティックな告白だっただろう。
「円山、なんだか私……泣けてきた……」
「アタシもです……ハンカチ、どうぞ……」
「ありがと。ね、争わないで三人でどっか行こうよ。照星さんは千歳といい感じだし、
 邪魔するのもあれだし……」
「ですね。千歳さんの一途さに感動しちゃいましたっ」
聞こえてくる言葉に動きが封じられていく。
大らかすぎるほどのジェンダー意識の二人に、世間一般のそれは通じなかった。
「ま、待ちなさい!!防人!!誤解です!!」
「千歳、応援してるからがんばって!!」
「千歳さん、素敵ですっ!!感動ですっ!!」
感涙のあまり抱きあう二人に流石の大戦士長も言葉を失う。
一番の敵は身内に居るということも常識の一つだった。



冬の真ん中で立ち止まれば、頬を撫でる冷たい風。
「防人、届もん預かってんだけどよ」
任務中で席を外していた彼女への荷物を預かったと箱を抱えてくる姿。
「あ、それねー火渡にプレゼント」
「俺に?」
「いいから開けてみて」
かさかさと包みを剥がして箱を開けて絶句するのは赤毛の女。
片手で顔を覆って立ちくらみを堪える姿。
「な……何考えてんだてめぇ……」
中に入っていたのはフロントホックのブラと下着一式。
白とロイヤルブルーのレースは豪奢で火渡本人が絶対に選ばない色だった。
ガーターベルトとリングベルト。お揃いのベビードール。
「だってぇ、超可愛いし、火渡に着せたかったんだもん。あ、着せた後はもちろん脱がせるんだけども
 どうせだったらたまには衛プロデュースで……って火渡?」
デスクに手を着いて防人の前に身を乗り出す。
「わかった。じゃあ、俺もお前のためにすっげぇの選んでやるよ」
「私のサイズ知ってるの?」
「んなものはその道のプロがいるだろうが!!」
咥えた煙草の火が魂魄かと見紛うほどに大きかったのは気のせいだろう。
そのまま廊下を進んで火渡りはその道のプロの部屋へと入る。
「照星サンっ!!」
予期せぬ訪問に驚きながらも、その剣幕とは裏腹に穏やかな笑みを浮かべて。
「怒ってても可愛いですが、どうかしましたか?」
「防人のスリーサイズ教えろ!!」
「ふん……防人のスリーサイズですか……」
ミリ単位まで正確なのはやはりその道のプロでしかない。
そのまま照星の膝に座りこみパソコンで下着の通販サイトを開いた。
「パンツでも買ってあげるんですか?」
「一式だよ。あいつが着るのも嫌なくらいのを選んでやる」
しかし、防人衛は常識に囚われないジェンダー意識の持主。
普通のレベルを越える程度ではむしろ喜んで着用してしまう。
「な、これとか。あいつだったら絶対ぇ嫌がらね?」
画面に映し出されたのは乙女チックな下着たち。
レースとフリルをふんだんに使った贅沢な可愛らしさ。
「火渡、忘れてませんか?防人は意外と少女趣味ですよ。だた、身長が結構あるので
 着ないだけでサイズさえ合えば喜んで着用するかと……」
無意識に腰をさする手に視線を移す。
「千歳にヤられたの?」
「バロンに立てこもりました。流石の千歳君も追ってこれませんからね」
「詰まんねぇの。一回くらいヤらせてやれよ。可愛い部下だろ?」
そのままマウスを動かして画面を切り替える。
ならば淫猥なものならと思い立つものの、今度はしっくりしすぎてしまう。
レザーバンドもSMコスチュームもバニーガールも、彼女の手に掛かれば普段着になる。
今更ながらに相手の強さにがっくりと火渡は肩を落とした。
「照星さん……ネタ切れ……」
涙目で振り返れば今度は男の指先がカタカタと文字を打ち込む。
「キティちゃんのプリントなんてどうですか?年齢的に恥ずかしいと思いますよ」
その言葉に火渡は顔を横に振った。
「シルバースキンの下に、マイメロのブラ着けてたことあったろ……」
「そうでした。あの子は昔はぬいぐるみが大好きで……ミッフィーの特大サイズを
 買ってあげたんでした。じゃあ、意味がないですね」
片手で火渡を抱いてそのまま画面を切り替えていく。
「メイド服。良いじゃないですか」
「照星さんの趣味だろ」
「じゃあ、チャイナドレス。魔法少女も良いですね。でも、ミニスカポリスも捨てがたい。
 この腋巫女なんかどうですか?セーラー服も悪くはない。しかし、やはりメイド服を
 差し置いて他を買うのも……っ……」
眉間に皺を寄せて真剣に悩む上司に深いため息。
風貌が美しいだけに台詞が似合わないのは今に始まったことではない。
「どれも喜んで着るぜ、あいつはどこまでも前向きに変換できる能力の持ち主だ」
「どれでも同じならメイド服にしましょう。下着は私が選びます。そうそう、火渡は
 色違いのお揃いが良いですね。大丈夫です、これは私から君たちへのプレゼントなので
 支払は気にしなくていいですよ」
この男が普通の下着を選ぶ筈がない。
まして趣味を全開にしてくるのだ、それなりの覚悟は必要だ。
「ん……?これも外せませんね」
男の声に画面に視線を戻す。
そこにはレースとフリルで飾られた可愛らしいエプロン。
「裸エプロンは男のロマンです!!」
「死ね。マジで一回死ね!!」
「代金は私が出します。大丈夫です、火渡の分も一緒に頼みますから。サイズは熟知してますので」
その道のプロはそれなりに収入が高額だ。
殺人的な笑顔でカードを出す姿は買い物内容に似合わないことが多すぎる。
「んなもの燃やしてる!!」
「一回くらい見せてくれてもいいじゃないですか。せっかく綺麗な身体してるんですから」
「綺麗な身体ぁ?」
「ウエストラインの綺麗な子は好きですよ。ヒップラインが綺麗な子も好きです」
にこにことこの上なくうれしそうに笑う姿に深いため息。
その道のプロは通り越してまさに極道とでもいうべき。
力なく髪を解いて視線を画面に移せばオーダー完了の文字。
「……おっさん、あんたも褌くらいしろよ」





再び向かったのは同期の女の部屋。
了承など関係なく勢い良くドアを開けた。
「おかえり〜〜〜、ただいまのキスは?」
「……おめーも脳みそ腐ってんじゃねぇのか……」
椅子に座ったまま両手を広げる。
「照星さんが、俺とお前に裸エプロンとメイド服のプレゼントだってよ」
「へぇ……火渡は似合うと思うよ。でも、私はあんまり……」
「お前のサイズ、ミリ単位で知ってたぜ」
その一言に勢いよくデスクに頭を打ちつける。
あまりの音に覗きこめば血の気の引いた顔つき。
引き攣った笑いと戦慄く両手。
「し……身長百七十六センチにメイド服なんてありえないっつーの!!」
「おちつけよ。ブツが届くまでには時間があるだろ?」
咥え煙草の赤毛の女は心底憂鬱だと眉を寄せた。
「最近、病気ついでにいろいろと検査したのよ」
「エイズ?」
「そっちじゃなくて。私、体脂肪率一桁なんだよね……いわばマッチョっていうか。それなのに
 裸エプロンってねぇ……円山の方がよっぽど似合うでしょ」
気がつけば春はすぐそこまで来ていて。
頭の中が春満開の先人まで現れる始末。
吸い刺しを奪って噛み付くように銜える。
「最悪なバースディね……私らがプレゼントってことでしょ?」
季節季節のイベントで戦う彼と彼女。
しかしながら大戦士長の誕生日はよりにもよってホワイトデーのその日。
高笑いしながら箱を持ってくる素敵な悪夢の具現化。
「東の国の眠らない夜ね」
「むしろ、夜だから眠れないな」
ぱん!と手をぶつけ合って。
「メイド服ならあるよ」
「リングベルトでナイフ止めるんだろ?」
ただのメイドならば山の様に居る。
しかし、この二人にそれを求めるならば命の保証はできない。
「とっておきの御奉仕でもキメてやるか」
咥え煙草を弾き飛ばせば一瞬で燃え尽きて。
「じゃあ、シルバースキンも変形モードで行かせてもらいますか」
全身を覆う防護服の一部を変形解除すれば、長い脚が露わになる。
深めに入ったスリットは腿の付け根ぎりぎりのライン。
「ケーキじゃなくて、パイ投げだ」
「良いね。届く前にこっちから行こう」
冷凍の生地を取りだして、全力で量産されていくパイ。
それを手に進む二人の姿は一種異様で麗しかった。
すれ違う男が皆振り返るのはその気迫か容姿か。
「照星さーん」
ドアが開いて顔を覗かせる。
その姿に男は瞬きをして、そして微笑んだ。
「随分と可愛いメイドさんですね」
「お誕生日なんで、パイとか作ってみました」
隣に並ぶ女もいつもとは違った姿。
「おやおや、こんな可愛い子二人からなんて……私は幸せも……」
良い終わる前に顔面を強打するパイ。
「喰らいやがれっ!!」
「味わって食え!!」
渾身の力でぶつけられるパイと響く呻き声。
「照星さん、お誕生日……衛!!火渡!!何やってんのーーーーっっ!!」
「千歳!!おまえもぶつけろ!!」
「ぶつけるか掘るか決めろ!!」
一斉に振り返る二人にたじろいで、青年はパイを手にした。
「こんな状態で照星さんを美味しく頂くのもあれなので……参加する!!」




その後、仲良く説教を受けたのもいつもの三人。
室内にクリームの匂いがしばらく残ってしまったのはまた別のお話。




12:09 2009/03/15

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