◆明日ハレの日、ケの昨日◆





「苦しいなぁ……どうやってこの事実を伝えよう」
膨大な資料を見ながら防人は深いため息を吐いた。
そこから算出された残時間は六週間。
それが中村剛太に残された時間だった。
目深に帽子を被り、その表情を隠してしまう。
「この選択難しいなぁ」
戦士長としての立場は重く、彼女を責めたてる。
新隊員の戦士としての承認作業は強さのみに焦点が定められてしまう。
才能はあってもその強さが足りないと判断された少年。
その最終試験を行い判定を下すのが防人の仕事のひとつだった。








「防人ーーーっっ!!」
勢い良く後ろから抱き付いてくるのは同じ戦士長の火渡という女。
かつての照星部隊に居た二人はずいぶんと強くなりすぎた。
「火渡、危ないから廊下は走らない」
戦団の中でもシルバースキンを脱ぐことの無い女の素顔をするものは少ない。
その一人がこの戦士長、火渡赤馬だった。
「何見てんだよ?」
「最終試験を受けるメンバー。どうもどれも生き残れなさそうだ」
唇まで覆う詰襟越のため息は蝶のようにひららと舞う。
その中の一枚を奪い取って火渡は読み上げる。
「中村剛太ってあれか。ホムンクルスに一家全滅させられて」
「そう」
「駄目っぽ?」
「ああ」
子供のように覗き込んでくる火渡に帽子を被せる。
「サラシがずれてる。おっぱい見えちゃうよ。それと戦団内は禁煙」
煙草を取り上げてにこりと笑う。
赤毛の女の顎先を擽れば猫のように身を捩る。
「試験官はお前なのか?」
「最終判定ね」
ぴったりと体をくっつければ肌に掠めるシルバースキンの冷たさ。
その白銀のメタルジャケットを生成した女は、事実上この戦団で最強といわれる一人だ。
私情は一切はさまない。それがキャプテンブラボーと言う戦士長だ。
「あんまりくっつかないの」
長身の防人に登れば、了解したとおんぶして。
「私たちは強かったからいいけども、どうしようかなーって」
「んー」
「火渡もあんまり発火しないの。ジャケット何枚焼いてる?」
「あーうー。必要経費」
強さは自分で磨きをかけたもの。
才能は努力で開花させ、二人は過去も飲み込んで戦士長という立場に着いた。
嬉しい事も悲しいこともまとめて飲み込んで。
「あら!!キャプテンブラボー!!それにうちの戦士長まで」
その声に二人が振り返る。
再殺部隊の一人、丸山がにこにこと近付いて。
「!?」
おもむろに火渡の頬をむにゅんと摘み上げた。
「さ、戦士長。うちの会議はどーすんですか?」
「ほえ?」
「次の案件の打ち合わせの時間です。ほら、行きますよ」
引きずられていく火渡の姿にこぼれる小さな笑み。
単独行動の多い防人に対して、火渡は誰かしらと組むことが多かった。
それを少しばかりうらやましいと思うこの気持ち。
書類を抱えて自室に戻り、その体をベッドに投げ出す。
(……中村剛太……もう少し時間が有ればものになるのに……)
それは晴れの日を願うことにも似た希望。
その希望がいずれ青空を呼び出すとわかっているのだから。





食堂の片隅にいる少年の姿。
夕食をとるために戦団員が少し落ち着いた頃合に、防人はそこに向かった。
その少年がいつもそこにそうしていることを彼女は知っていたのだ。
「隣、よろしい?」
全身を包むメタルジャケット。
はるかなる存在の一人、戦士長キャプテンブラボーその人。
「キャ、キャプテンブラボー」
「隣じゃなくてお向かいだった」
コーヒーを片手に真向かいに座り込む女に戸惑いがちに視線を交わらせる。
「中村剛太。明日は試験だな」
「………………………」
気にはしているのか口ごもる。
栗色の髪の少年はまだ幼さがその瞳に残っていた。
「俺、戦士になんてなれっこないです……」
それは昔、自分がつぶやいた言葉。
核鉄はその闘争本能を写し取って錬金生成を織り成す。
彼女が望んだような武器でも強さでもなく、核鉄は最強の防護へと編成した。
内に眠る死への恐怖。
形となってそれは最強の防護服、シルバースキンとなった。
「昔、私も同じことを言ったなぁ」
詰襟を少しずらして、コーヒーを飲み干す。
「おばちゃーん!!もう一杯!!あ、二人分!!」
「あいよー!!ブラボーちゃん!!」
気さくな女はどうやら食堂の主とも懇意らしい。
他の者とはまったく別のマグカップがあるのがその証拠だった。
「まったくブラボーちゃんはいっつもこの時間なんだから」
「人多いとねー。おばちゃん、何か食べるものある?」
「だと思ってほら、カツサンド」
「あーりーがーとっ!!」
こつん、と拳をつき合わせてにかりと笑う。
覗くのは瞳だけでもその笑みが分かるのはきっと付き合いの長さなのだろう。
「食べたら?」
「あの……どうやって食事してるんですか……?」
「気合」
指先までの完全防護。
シリアルナンバーの最後を飾る特異にして完璧なる装備。
その反面、核鉄の攻撃力はゼロに等しい。
「戦士になりたくはないのか?」
「…………よく、分からないんです。俺……斗貴子先輩みたいに明確な目標ないし……」
「明確、か……」
彼女とて最初から明確な意思などありはしなかった。
戦団に引き取られたときはこの少年と同じように不安と恐怖しかなかったのだ。
「はじめから明確な意思など持ってるほうが稀だな」
不安で一杯の昨日を乗り越えて、何かが待つかもしれない明日を迎える。
「剛太」
「はい」
「明日ハレの日、ケの昨日って知ってるか?」
初めて聞くそのなぞめいた言葉に少年は首を振った。
「最強になれとはいわない。今よりも少しだけ強くなれば、いずれ力が必要に
 なったときに苦しまなくてよくなる。そう思えば、戦士になるのも悪くはないだろう?」
あの日の不安定な自分が今、目の前に居るような感覚。
眠れない夜と悪夢は簡単に終わることなど無かった。
「誰だって最初からいきなりなんて強くは無い」
「……キャプテンブラボー……」
彼女が自分の名前を捨てたことを知るにはまだ時間がかかって。
少年は目の前の強すぎる女に畏怖するしかなかった。
「今よりも少しだけ強くなれ。力だけが強さじゃない」
脆弱な心、それが剛太の最大の弱点だった。
覚悟が足りないということは戦場に出れば死に直結する。
子供の命を散らすことを由としないこの戦士長はそれゆえに資質を重視してしまう。
「ほれ、景気付けにカツサンド」
「あはは……いただきます……美味しいや……」
繰り返す悲しみは止まない雨に似ている。
次の日は晴れると信じて前に進むしかないのだ。
「がんばれよ、剛太」
「はいっ」
「いい男候補には、戦士長は優しいぞ」
覗くその視線だけなのに、どうしてこの人をいい女だと思ってしまうのだろう。
後に彼はその理由を知ることとなる。
幼さを脱ぎ捨てれば大人になるための階段を駆け上がるだけ。







「キャプテンブラボー!!」
駆け寄ってくる青年にはこぼれんばかりの笑顔。
貰いたての核鉄を手にして息を切らせる。
「廊下は走るな、剛太」
「晴れて今日より中村剛太、錬金の戦士ですっ!!」
相変わらずメタルジャケットに身を包む女は、その表情すら伺えない。
自分よりも長身の女が、少年の頭をそっと撫でた。
「おめでとう、戦士・剛太」
「ありがとうございますっ!!」
まだおぼろげな覚悟でも、いずれそれが明確になる日が来る。
少年がいずれ男になるように。
「そういえば、この間の言葉ってどういう意味なのですか?」
「ん?」
「なんだっけ……明日晴れたら……」
「明日ハレの日、ケの昨日か?」
並んで歩けばまだ自分が子供だと分かってしまうその気迫の差。
静か中に秘めたものこそ激しく熱い。
「もう少しいい男になったら教えても良いぞ?」
詰襟を少しだけ指先で下げる。
覗く唇の形の良さに、胸が高鳴るのは男の性。
「あ…………」
帽子を少年の頭に載せて。
「何かお祝いが必要か?」
「あ、え……」
少し屈んで女の唇が静かに重なった。
瞬きするよりも短い触れるだけのキス。
「ま、これはほんの冗談だ。カツサンドでもご馳走して……どうした?」
短く切られた黒髪と、藍交じりの瞳。
シルバースキンの中に隠された女の素顔にぼんやりとしてしまう。
「いえ…………」
「明日ハレの日、ケの昨日。気になるなら今日よりももう少し強くなれ」
まだ恋に恋するならば、道しるべとなるものが必要だ。
ならば目の前の彼女がそれになったとしても何もおかしくは無い。
「んじゃ、カツサンドでもご馳走してあげますか」
「もっと豪華なものにしてくださいよ」
「豪華なもんねぇ……」
意味深な笑みは深読みするには知恵が必要。
「そりゃ、それだけの対価をもらう必要があるからな。カツサンドとランチセットだ」
「もっと強くなりますっ!!そしたら豪華なディナーに!!」
「現金引きおろして待ってるよ」
帽子を目深に被りなおせば、そこには白銀の美女が佇む。
「でも今日はカツサンドとランチだ」
「はい」
「キスじゃ足りないくらい、功績あげてくれ」
「は、はい!!」
「出世払い希望なら、状況によっては受け付けなくも無いぞ?」
「はいっっ!!」





「んで、中村剛太は生き残ったのか?」
風呂上りでまだ濡れた髪を拭くのは長身の女。
「ぎりぎりだけどね。本当、かわいいなぁ……ちょっと頼りないところが可愛い」
「まだ童貞なのかよ」
「多分」
拳をこつん、とつき合わせて笑う。
「んじゅあ行くか」
「もちろん。ここでの洗礼を受けてもらわないとね。でも、まずは髪を乾かしてから」
風邪をひかないおまじないだと額に触れる唇。
家族を失った子供は同じ日に戦団に引き取られてきた。
俯いたままの黒髪の少女と瞳に焔を宿した赤毛の少女。
どちらも戦士には慣れないだろうというのが大概の予想だった。
「あっちぃ」
「風邪ひくでしょ。それでなくとも怪我してくるんだから」
シルバースキンは最高位の防御力を持つ。攻撃に転じるには創造主の素力がメインになるが
その分致死率は劇的に低いのが特徴だ。
ブレイズオブグローリーは最高位の攻撃力を持つ反面防御はゼロに等しい。
火炎同化で周囲一帯を巻き込んだ攻撃中に、炎が消えてしまえば彼女の命も消えてしまう。
同じようでまったく異なる二人の女が持つ核鉄。
「いいよなー、俺もシルバースキン欲しい」
「着てみる?」
「着る!!」
指先から生まれるヘキサゴンパネルが女の体を収束していく。
青銀の光が形を成して全身を完全に防護するメタルジャケットへと。
「はい、帽子」
ぽふ、と載せられるそれ。
「すげーな。ブーツとグローブまで」
「ちゃんと火渡サイズになってるしね。射出させれば相手の動きもある程度拘束できるし、
 エネルギー攻撃はほとんど効かない。このまま絞め殺すことも可能。まぁ、その間は私が
 ノーガードになっちゃうけども、強いから大丈夫」
「外からの衝撃にも強いもんな。んじゃ、行こうぜ」
気に入ったのかシルバースキンを脱ごうとはしない。
ドアを開けて廊下を歩けば前方にはもっとも会いたくない男の姿に二人はため息を吐いた。
「おや?防人に防人のコスプレをした火渡ですね。こんな夜分に」
「コスプレじゃなくて本物ですよ。コレ」
咥え煙草の先端の火力をゆっくりと上げていく。
崩れ落ちる寸前で止めて一気に爆発させれば小規模爆撃が可能になる。
「喰らえ!!変態!!」
「まだまだ甘いですね、この子は……」
左手で拳を抑えて右手が女の唇に触れた。
「悪い子にはお仕置きですよ、火渡」
「うるせえ!!変態!!」
「しかもシルバースキンまで着て来るなんて、滅多にないシチュエーションですね」
「照星さん、汚れるんでエッチするなら返してください。私の核鉄ですから」
げんなりとする防人に向けて閉じられる片目。
「あなたも一緒に来ればいいんですよ、防人」
火渡からシルバースキンを剥がしてそっと耳元で囁く。
頷いて同じように火渡も核鉄を取り出した。
「二人掛かりで私に勝てると思ってますか?今日は本当に楽しい夜になりますね」
「あんな巨大ロボ、戦団内で使えませんから」
勢いよく射出されるヘキサゴンパネルが男を収束する。
「私にシルバースキンは効かないと思いますが……っ!!」
それでも通常の動きは抑制される。
坂口の前に立った火渡は面白いものでも見るかのように、下から見上げて笑った。
「んじゃ、前髪(コレ)燃やすか」
「待ちなさいっ!!」
怯んだ隙に鳩尾に打ち込まれる数発に崩れる長身の男。
「今度ちゃんとつきあってやっから」
「流石は火渡……照星さんをハンデありでも沈めてる……」
「早く行こうぜ」




ノックの連打は殺意の現れ、故に二回だけ。
「ふぁい?」
寝ぼけた声で目を擦りながら少年が顔を出す。
非常召集も無く一応の安眠は約束されていたはずだ。
「こんばんは」
「キャ、キャプテンブラボーっっ!?」
「簡単に紹介する。再殺部隊を纏める戦士長、火渡赤馬」
防人の隣にいるのは小柄だが勝気そうな女の姿。
はっきりとした体躯と魅惑的な胸の形。
「ほんと、子供なんだな」
「まだ十七だからね。いいよねぇ、若い方が」
「戦団で育って来てんだよな」
「そ」
自分の前で取り交わされる会話が理解できずに、剛太は首を傾げた。
そもそも戦士長が二人そろって新米戦士の部屋に来る用事など余程でなければ
存在しないはずだからだ。
(もしかして……核鉄没収!?)
憧れた少女の隣に並ぶ資格を剥奪されるのは、彼にとっては死に等しい。
あのときに差し伸べられた手。
「斗、斗貴子先輩ーーーーっっ!!」
思わず叫んでしまってから口を押さえる。
「斗貴子って?」
「私のところの配属の女の子。結構かわいいけども気も強い。そこが良いかな?」
その言葉に今度は火渡の視線が鋭くなる。
「食ったのか?」
「まだ。そんなにすぐ手をつけるほど……ちょ、火渡誤解してない!?」
「こんの浮気者ーーーーーーーーーーーーーーっっ!!」
見る間に始まる火炎同化に少年が硬直する。
「火渡!!話を聞いてってば!!」
「食らえ!!五千百度の炎!!ブレイズオブグローリー!!」
「シルバースキン!!ストレイトジャケット!!」
射出されるヘキサゴンパネルが女の体を収束する。
「本当に、エネルギー攻撃に耐性があってよかった」
胸をなでおろしてため息をつく。
もがきながら唸る火渡を怒らせたまま少年とのセックスを選ぶほど彼女は馬鹿ではない。
(ま、今度いただきますか。今日は火渡にしよう)
ぽふ、と剛太の頭に乗せられる手。
「またじっくりと来させてもらうよ」
「はあ……」
涙目の少年はただ頷くことしか出来ない。
「浮気者ッッ!!」
「だから何回も言ってるけど、女は火渡だけにしてるって」
「絶ッッッッ対ぇ嘘だ!!」
「嘘じゃないよ。最近は本当に火渡だけ」
目の前で交わされる会話には疑問符しか浮かばない。
理解しようとしても頭が反応しないのだから仕方のないことだった。
「お休み、戦士剛太」
子供にでもするかのように額に触れる唇。
喚く火渡をずるずると引きずりながら防人は長い回廊の先へと消えてしまった。






ストレイトを解けば頬を膨らました不機嫌な女。
ベッドの上で胡坐を組んで剥れ顔もどこか可愛らしい。
長い睫と緋色の髪はそれだけでも艶やかで。
「いくら私でも子供は食わないって」
「どーだか」
「機嫌直しなよ。女は火渡だけ」
重なる唇に閉じる瞳。
絡まり合う舌先と頬を包む女の手が熱い。
「……っは……誤魔化されねぇぞ……」
「どうしてかなあ……私はこんなに火渡が好きなのに」
腕組みをして防人がため息を一つ。
こんなときに何を言っても聞かないのはもう慣れてしまった。
「明日も早いから先に休むね。火渡も部屋戻って寝なよ」
のそのそと長身をベッドにもぐらせて、枕を抱いて眠りにつく。
ぽつんと取り残されれば今度は怒りはどこかに消えてしまって寂しさが出てきてしまう。
「なー、防人」
「煩いなぁ……部屋帰りなよ」
「んー……なあってばあ……」
少しだけ体をずらして彼女のための空間を作る。
少しだけぎこちなく入ってくるもう一つの体温。
「なーってば」
後ろから背中に抱きつく。
「もう怒ってない?」
体を翻して小さな体をぎゅっと抱きしめる。
「やっぱ火渡はあったかくて柔らかいな」
鉄壁の美女の見せる素顔はどこか疲れていて。
その背中に見せる生き様と引き換えに彼女は私情を捨てた。
防人衛と言う女の負の面を知る数少ない人間がこの火渡という女なのだ。
「浮気すんなよ」
「しないよ。火渡が好きだもん……」
「んなこと知ってるっつーの……」
寄せられる頬に感じる不安定な感情。
「誤解させて心配させちゃったから明日はおいしいものご馳走するね」
「ケーキ?」
「フォンダンショコラ好きでしょ。おいしいところ見つけてきたから」
「んじゃオッケ」
額同士をこつん、と合わせるのは二人だけの仲直りの合図。
胸に抱かれて眠りにつくことは幸福をもたらしてくれる。
世間なんて必要ないと思えば本能に従えばいいだけ。
男と女の境界を越えてしまえば魂がそこにあるように。
「明日もいい天気だと良いね……」
「んー……」
「おやすみ、火渡」
どれだけ喧嘩をしても朝は必ずやって来る。
昨日が悲しいことばかりでも明日がそうとは限らない。
この昨日と明日の狭間の空間に立てば気づく事。
雨上がりのお日様が飛びきり綺麗な事を知っているならそれだけでもその人は幸福だ。
きっと明日は素敵な日になる。
明日ハレの日、ケの昨日。
(べっつに、俺だって男くらいいっぱい居るんだぞ)
ふわふわと暖かな体を寄せられれば、どことなく自分を抱く男の感情がわかる気がした。
手を伸ばして女の背を抱けばそれが顕著に。
「んー……寝れないの?」
「…………………」
「もう雷だって怖くないのにね。私も火渡も」
あの日から強くなろうと思った。
彼女は誰よりも強くなってもう誰も傷つかないようにと。
彼女は何者からもすべてを守り抜く力がほしいと。
二人の女は背中合わせで本来は一つ。
「んー……」
頬に触れる唇は官能的で肉厚。
そのまま少しだけ上にずれて耳朶をやんわりと噛む。
「剛太食べ損ねたから」
「……っばっか……」
繰り返されるキスは男女のそれよりも背徳的な何かがある。
「ダメ?」
「んなこと言ってねぇ!!」
「了解」
手早に解かれるさらしと外気に触れる上向きの乳房。
その先端を舐め嬲る唇に体が震える。
「んー……やわらかくて良い匂い……」
両手で乳房をぎゅっと寄せて、二つの乳首を攻めあげる舌先。
指先が下がって僅かに濡れた入り口を下着越しに上下する。
もどかしげに震える腰と繰り返すキス。
下着の端に指先が触れてそのまま引き下げて剥ぎ取る。
「……脚……開いて……」
喉元に唇が触れて舌先がつ…と下がった。
「んぅ……」
「全部が性感帯って感じで可愛い」
「バカヤロ」
「悪態吐いても可愛いっ」
愛しくて適わないと抱きしめてくる。
甘いキスを交わせば引き裂くように鳴り響く携帯電話。
「……出動要請だよね……」
なんでこんなときにと思いながらも電話を取る。
「防人、出動です。そこに火渡もいますね?あ、もしかしてエッチなことしてましたか?
 同性愛は非生産的であまりよろしくないですよ」
「すっこんでろロートル」
「ともかく、二人とも来てください。じゃ」
ぷつん、と切れて顔を見合わせる。
仕事とあらば行かねばならないのは戦士の悲しい定め。
「せっかく盛り上がってたのに」
「あのロートル、ぶっ殺す」
核鉄を手にシルバースキンを纏って、火渡と連れ立って目指すのは司令室。
その扉を蹴り上げようとしたのを真夜中だからと制した。
(本当は私がこのドアぶち破りたいよ)
むくれ顔の火渡と表情すら伺えない防人を前に男はにこやかに笑う。
「同性愛はあまり好ましくないと言ってるんですけどね」
「死ね!!」
「すいません。私はともかく火渡は結構着火しちゃってたんで……」
「…………………」
臆面も無くそんなことをいう長身の女。
「ホムンクルスの殲滅を」
「っち……仕事かよ」
「再殺部隊に動いてもらいます。防人、君は残留です」
「はい」
文句を言いながら司令室を出て行く姿を見送る。
ドアが閉まるのを確認してから防人は男に詰め寄った。
「どーしていいタイミングでじゃまするんですか!!あれじゃ仕事明けに戦部か
 円山とエッチしちゃうじゃないですかっ!!」
「じゃあ、私とエッチしますか?」
「今日はお断りです!!久々の女の子だったのにーっっ!!」
怒りに任せて一刀両断。
ブラボーチョップは伊達ではなく綺麗に彼の自慢のデスクを叩き割った。
「なんでバイセクシュアルになっちゃったんでしょうかね……」
「あーもー、がっかり。剛太でも襲ってこよ……」
「待ちなさい。何度も言いますが戦士はあなたたちのセフレにするためのものじゃ
 ありませんから」
「可愛い子とエッチしたい気分なんで、照星さんは除外します……可愛くないもん……
 火渡に殺されるの覚悟で斗貴子でも食うかな……いや、本当に殺されるな……
 前髪焦げるくらいじゃ済まないな……それとも新しいあの女の子……でも火渡に……」
「人の話を聞きなさい!!」
「あんたが邪魔したんでしょう!!照星さんの馬鹿!!」





人生は悲喜交々。
明日ハレの日、ケの昨日。





1:06 2008/11/25










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