◆メルトダウン◆
よりにもよってこの日に当直は納得がいかないと顔を見合わせたのは照星舞台の三人。
もういっそどうにでもなれと、司令室にコタツを持ち込んだ。
「私の年末年始は火渡の腰が砕けるまでエッチする予定だったんだけど」
三人一斉に煙草に火を点けて盛大なためいき一つ。
「それ言ったら僕だって、ニューイヤーズイヴはさぁ……」
憂い顔、俯く彼の横顔は。
凍るような寒気さえもまだぬるいと思わせるほどの鉄壁、それが楯山千歳という男だ。
「一回くらい良いじゃないか!!意外と目覚めるかもしれないし!!」
「千歳、お前はおっさん趣味か。あんなロートル掘りてぇなんて思うのはお前くらいだぞ」
のんびりと蜜柑の皮を剥く指先。
その半分を傍らの女に手渡す。
「ありがと」
「だーかーらー!!僕もそーいうことをあの人としたいだけで!!」
「戦部とやってろ。蜜柑くらい剥くだろ、あいつ」
口の中に入れれば冬の味わい。
寒いからと下ろしたままの赤毛がほんのりと醸し出す色香。
首元に巻かれた銀色のマフラー。
「良いよな、防人はあったかくてよー」
シルバースキンは外界の変化ですら遮断できる。
顔以外の防寒は完璧だと、二本目に火を点けた。
「あっためてあげるからおいでー」
「おう」
ボタンを外して内側に火渡を抱きとめる。
「あったけー!!」
「火渡は体温が高いからあったかいなー。これぞ良い関係」
蜜柑を剥きながら千歳が首を傾げた。
「いいよねぇ、気楽な関係は」
「女でも男でも、お前だったら結構寄ってくると思うけどな」
抱き締めてくる女の腕を取りながら視線だけを移す。
時間はもうすぐ十一時。
何もなければあと一時間で一年が終わって始まってしまう。
「ピザでも取るか?」
「いいねぇ。ちょっと辛めのがいいなぁ」
「オンラインオーダーってやってみたかったんだよな」
液晶画面をのぞきながら、携帯のボタンを押していく。
「どうして僕の思いは届かないんだろう……」
「心底私達もあらゆる面で千歳の恋は応援してるし、協力も惜しまないよ」
顎先を擽る指先。
楯山千歳の意中の相手は大戦士長である直属の上司。
「むしろ、照星さんのどこがそこまで良いの?」
「飲みもんは?」
「私ウーロン茶。千歳も?」
「僕は緑茶」
ぱちぽちと手際よくオーダーフォームに打ち込んでいく。
年が明ける前には戦士長たちにささやかな御馳走が届く算段だ。
「こう……あれくらい近寄りがたい人を組み敷きたいって言うのは男として本能だと
思うんだ。それに、照星さん美人だしね。美人に弱いのも男としちゃ仕方無いことだと
思わない?衛が火渡のことを可愛くて仕方無いのと同じだよ」
丹精の顔立ちの青年は、同じ両愛主義者だが彼はどちらかといえば同性を好む。
明媚秀麗な上司に抱いた憧憬は静かに恋に変わった。
「私たちは本当に、千歳と照星さんのことは応援してるんだよ」
「そーだぞ。オメーがロートルとくっつきゃ、いろんなところで被害が減るんだ」
栗色の髪に乗せた薄紅は、不思議な色合い。
誰かと違うようにありたいという彼の小さな主張だった。
「僕だってかなうならすぐにでも照星さんに挿入したい」
最後のひとつになった蜜柑を火渡がのんびりと剥く。
自分に害がなければ積極的にかかわらないのは彼女の特性のひとつだ。
「許可する。今すぐヤッってこいよ」
「そうだったな。火渡の命令ですって言えば良いんだ」
いまさらながらに彼女は戦士長という立場を持っている。
奇しくも千歳の上司というポジションにも居るのだ。
「そうなると、確実に火渡にお仕置きがくるじゃない。却下」
「あのおっさんは立派な変態だ。いつだったかのクリスマスに、サンタコートきて
いきなり部屋に入ってきたんだぜ?コートの下は全裸でな」
「あったねぇ……アソコに真っ赤なリボン結んでたっけ……」
「しかも、勃ってたもんな……マジ退くよな……」
灰皿で煙草の火を消してため息をつくあたり、二人が本当に鬱積したのが感じられた。
剥き終わった蜜柑をまた二つに。
「そんな……僕のとこに来てくれたら美味しく戴かせてもらうのに……ッ……」
がっくりと肩を落とす青年に掛ける言葉はそんなにない。
そうこうしているうちに残り三十分を回り始めた。
「お、ピザ来た。千歳、ドア」
「はいはい」
カードで簡単に支払える生活は、命の危険以外不便はない。
運ばれてきたピザとドリンク。
「しっかりとデザート付き……女ってのは面倒だね」
「防人、タバスコ?」
「変色するくらいかけないでね」
降り積もる雪に、世は事も無し。
鳴りはじめる鐘の音は誰のために?
「一年お疲れ様でしたぁっ!!」
ペットボトルでも乾杯には変わらない。
いつもの三人がそろえばそれでいいのだから。
「来年もいい年に」
「俺たち三人、誰も欠けることもなく」
「生き抜いてまた、この日を迎えるように」
触れ合ったペットボトルが三つ。
「乾杯!!」
とろけるチーズと、彼のために準備したフルーツサラダ。
少しだけ日にちのずれてしまったチキンとバニラアイス。
「お、もうすぐカウントダウン」
十秒前から始まる時を刻む声。
防人の膝から飛び出して。
三本の針が重なる瞬間に青年の両頬に触れる唇。
「!!」
「たまにゃいいだろ?こんな年越し」
「女は苦手でも、私と火渡はOKでしょ?千歳」
寒いと震えながら再び女の膝の中に戻ってしまう小さな体。
ほんのりと熱い頬に触れれば、眼前では女同士の濃密なキス。
「ま……新年だしね。あー……僕も照星さんとキスしたい!!」
騒ぎあう声に開くドア。
「おやおや、人の部屋で何をしてくだってるんですか。防人と火渡だけなら
まだしも、千歳君までついてながら……」
口ではそんなことを言いつつも、彼の手にはロゼ・ノワール。
「おつまみもあるみたいですね」
「ここあいてるぜ、照星さん」
彼には不似合いなコタツでも、入ってしまえば同じ事で。
「んじゃ、改めて乾杯を!!」
触れ合った紙コップではせっかくのワインが泣いてしまっても。
酔って楽しむことが飲酒の醍醐味と男が笑う。
黄昏過ぎて降り行く雪にかかるは砕月よと。
「お年玉ねぇの?」
「あ、脱がなくてもいいですからね。それ系のネタはもう飽きたんで」
「そっちのお年玉なら僕がいただきます!!」
「…………三人とも、しばらく休み無しですよ?」
飲んで騒いで楽しめるのも生きているからこそ。
頭痛でも何でも愛せるのは、大事な人と酌み交わす杯だからこそ。
粋酔にして迎える新しき年。
また同じように杯を交わせますように。
「こら酔っ払い」
しっかりと胸の谷間に顔を埋めて半分夢現の女の頭をそっと抱く。
「ワイン紙コップで三本空けるのはあれですねぇ……さすがに……」
酒には強い彼も焦点が定まらなくなってきたのか眼が虚ろだ。
同じように千歳は炬燵に倒れ込んでいる。
「照星さん、風邪ひきますよ。ベッドで寝てください」
「……なぜ、君はへ…き……」
良い終わる前に頭上から決まった肘鉄。
そのままヘッドロックをかけて鮮やかな音を上げる首を確かめる。
ついでだと何発か鳩尾に貫手を決めた。
面倒だとそのまま体重をかけてとどめの一撃。
白目をむいて倒れこんだ男に、女はにこやかに微笑んだ。
「決まってるじゃないですあ。私のはぜーんぶ火渡(こいつ)が飲んでるんですから」
酔うはずもなければ彼女は簡単には酔ってはくれない。
面倒だと男二人を引きずってベッドの中に投げ込んだ。
「これでよし。千歳……やっちまいな!!存分に掘れ!!」
幸せは誰かと分かち合えるのは心に余裕があればこそ。
当直交代の手続きを済ませて今度は火渡をそっと抱いて部屋へと戻る。
少しだけ冷たい空気が頬を撫でれば寒いとしがみ付く小さな体。
(子供みたいで可愛いよね。さ……お正月だし、姫始めと行きますか)
嫉妬を閉じ込めることを考えればアルコールなど水に等しい。
彼女にとって唯一つの真実はこの腕に抱く女の存在だけ。
甘い吐息は秘密の鍵。
ドアはきっちりと締めて、念にはとオートマンにしたシルバースキンを内側に。
遠隔操作はできなくともこの距離ならば確実に相手を仕留めることはできるはずだ。
「火渡」
ベッドに下ろして、そっと髪を解く。
広がる赤毛に絡まる甘い酒気と、火照った肌。
「……あ……?……」
触れるようなキスと絡まってくる腕。
「んだよ……」
重ねるごとに深さを増して、舌先を絡ませて噛みつくようなキスを繰り返す。
ジャケットを剥ぎ取れば細身の体と漆黒の晒し。
首筋に触れる唇に細い肩が震えた。
「……正月早々……盛ってんじゃねぇよ……」
「だって、私、正しい日本人だもん」
「?」
「お正月だからね。やっぱり仕来たりに則って姫始めを」
「……んー……じゃあ、しゃーねぇよなぁ……」
口で悪態と吐いても、視線と唇が笑うから。
おいでと伸びてくる手を取ってその腕に唇を押しあてる。
血管をなぞるように舌先が蠢く。
ぱらり、と解かれた晒しと外気に触れる上向きの乳房。
「おめーも脱げよ」
「脱がしてよ」
シャツに掛かる指先と重なる二つの異なる質感の肌。
「ん…ぅ……」
張りのある乳房に指がかかってその先端を唇が包む込む。
口中で転がすようにして甘噛すれば零れる声。
弾力を楽しむように動く指先が乳首を捻り上げればその度にもどかしげに震える括れた腰。
「訓練生だったころの傷……消えないね……」
腰骨の上に走る傷に指先が触れて、何度も撫でさする。
すでに核鉄を発動させることはできても、駆使することのできなかった二人は訓練生として最終試験に臨んでいた。
攻撃力と引き換えに防御のない火渡の核鉄はその最中で暴発した。
全身を炎に包まれ腰骨を抉るように斜めにその金属は切りつけた。
古の錬金術で生み出された呪われた鉱石。
「てめーも消えねえだろ、ここ」
ちょん、と火渡の指先が防人の鎖骨の端に触れた。
シルバースキンで抑え込んで動きを封じるために走った彼女。
二十番目の核鉄は僅かな隙間を縫って同じようにその骨を抉った。
「火渡の核鉄だから良いんだ。同じだし」
その形態をより全身を覆うものに編成した百番目の核鉄は、事実上すべての攻撃を遮断するようになった。
二人の女は対になるようでその実は一つ。
額に降るキスに満足げに笑う薄い唇。
入り込む指先をちゅる…と吸い舐める舌と唇が濡れて妖しい。
下着越しにやんわりと焦らすように動く指と押しあてられる掌。
「ん、ぅ……」
挟み込むようなキスと掠めるように触れる中指。
「…ァ……っ……」
耳を唇で挟んで、ふ…と掛かる息。
「!!」
「耳、弱いもんね……これだけで感じるくらい」
両手で小さな顔を包んで鼻先に触れる唇。
交わる視線が甘いのはそれだけの時間と感情を共有してきたから。
首、肩、乳房、腰。存在を確かめるように降りて行く唇と舌先。
下着の端の結びを解けば入口と布地をぬめる糸が繋いだ。
「脚開いて」
「ぶっ殺すぞ」
おずおずと開かれる膝に手をかけて広げる。
そのまま顔を埋めて入り口を舌先で舐め上げた。
「!!」
押し付けるように唇が触れて指先が花弁を開かせる。
覗く桃色の媚肉と襞の内側に侵入する舌先がやけに熱くて息が詰まった。
「ここも赤毛で可愛い」
「……っは……ばっかやろ……」
唇ではさむようにしてクリトリスを攻め上げればとろとろと零れだす愛液。
わざと音を立てて啜り上げれば嫌だと小さく顔を横に振った。
ぐちゅぐちゅと内部で動く指が二本から三本に変わる。
「ここ押されんの好きだもんね、火渡は」
耳の後ろに残したキスマーク。髪を結べば一番わかる場所。
「…ふ……ア!!……」
「イッちゃっても良いよ。随分やわらかくなってるからもうそろそろだよね」
何度も出入りする女の指に感じる眩暈と焦燥。
早くなる鼓動を察するように心臓の上の皮膚に触れる唇。
「ん!!あアアっっ!!」
ぎゅっと瞳を閉じて震える身体。
迎えた絶頂に力なく投げ出される四肢とシーツを濡らす体液。
「かーわいい。今年もいっぱい夢中にさせてあげる」
「……とんでもねぇ自信家だな……防人……」
ちゅ、と甘いキスを繰り返す。
「照星さんには負けない」
もう一度脚を開かせて身体を割り込ませる。
「そういや、ロートルはどうした?」
黒髪に差し込まれる女の指先。
「千歳と一緒にベッドに放り込んできちゃった」
「マジで!?さっすが防人!!千歳きっと美味いもんおごってくれるぜ」
「ね。友達の恋は応援してあげなきゃ」
寄せられる頬の柔らかさにうっとりとして、微かな匂いに首を傾げた。
「ああ、これ?シークレットウィッシュ。千歳に借りたの」
「んー……お前の匂いじゃないのはわかったけど……」
防人の頬を両手で包んで視線を合わせる。
「今年は浮気すんなよ」
「……猛省しております……女は火渡だけだってばぁ……」
「約束しろよ」
「する」
気持ちを伝えるように重ねた真摯なキス。
「大好き。それはわかって?」
重なり合った柔らかな乳房。
「……んなこと……知ってんもん……」
赤くなる頬とそらされる視線。
腰を摺り寄せれば秘所同士が擦れ合う。
「ひ…ぅ……」
ぐちぐちゅと陰唇が触れ合うたびに生まれる水音。
「あ、ア……!!……」
「ね……気持ちいい……?」
太腿に手をかけて目一杯開かせた脚さえも眩しいと嫉妬する唇。
乱れた赤毛と卑猥な長い睫。
「新しいの買ったから、コレ使おう」
「……ア?……」
妙に明るい声に増幅していく不安。
防人衛がこんなときにそんな声音を使うときは決まって火渡にはいい結果が出ない。
「更にモーター力がアップした……」
言い終わる前にべしん、と頭を叩く。
「もうちょっとロマンティックに決めろ!!てめーは即物的すぎんだよ!!」
「だってぇ」
防人が手にした双頭のディルドは一見しただけで凶悪な形だった。
雁首部分もそうだが全体に浮き出たびっしりとした大き目のイボと突起。
その形もさることながら太さも今までのものとは比べ物にならない。
「お正月だから特別にしたっかたのにぃ……」
座り込んで涙ぐむ姿を見てしまえば胸が痛まないわけではないのに。
「火渡が私のこと嫌いって言ってる〜〜〜っっ!!」
「言ってねぇ!!」
「じゃあ、好き?」
「あったりめぇだろ!!てめぇ、俺を何だと思ってんだよ!!わーったよ、何でも使え!!」
その言葉に女の瞳が輝く。
「本当!?」
「……お、おう……」
「じゃあ、中にローター入れてから挿入しても良いよね?やーん、超嬉しいーー!!」
「待て待て待て!!なに考えてやがんだ!!」
抵抗しようとした瞬間に発動されるシルバースキン。
四肢の拘束はもちろんだが見事に部分解除された姿。
「防人ーーーーっ!!」
手足を動かそうにもストレイトジャケット状態ではさすがの火渡の能力も封じられてしまう。
振動する小型のローターが焦らす様にクリトリスに触れた。
「んんぅ!!」
掠めるように触れたそれが今度は内側へと飲み込まれていく。
最奥にねじ込まれてじんわりとした振動にもどかしげに腰が揺れた。
「…ぁ……っは……」
微弱な動きさえも逃がさないように始まる収縮。
「あ、ア……ん!……ッ…」
入り込んでくるバイブに仰け反る肢体が艶かしくて愛しいと目を細める女の姿。
もう一方を自分の膣口に当てて同じように飲み込ませる。
「…っん……結構……キク……かも……」
挿入が深くなるたびに奥で蠢くローターが子宮口に直接触れて暴れだす。
それだけでも全身を甘い快楽が走り抜けるのに。
荒い息とぼんやりとして潤んだ赤い瞳。
「動かすね……」
ボタンを押せば勢い良く回転するバイブに悲鳴が上がる。
「ひゃ…あああああんっ!!」
動きの封じられた指先がきつくシーツを握り締めた。
ごつごつとした無機質な亀頭がローターをより奥に奥に追い込んでいく。
膣壁を突起が蹂躙して声さえ上がらずに口をただ何度も開閉するだけ。
見開かれた大きな瞳。
全神経が一点に集中したかのような刺激に耳の裏で何かが弾けるような感触。
「っは……赤馬…ぁ……」
押さえつけるようにして腰を動かされてぼろぼろと零れ落ちる涙。
それを舐めとる唇の甘さに胸が苦しくなる。
「あ……まも……!!……」
ぐしょぐしょになった体が二つ終わらない快楽のままに絡まりあう。
「あ、あああああんんっっ!!」
ごりごりと突き動かす動きがランダムになりびくびくと痙攣する細い身体。
あふれ出した二人分の愛液が絡まってバイブの動きを滑らかにしてしまう。
「ひ…ア!!やだ、やだ……ア!!」
指先で彼女の拘束を緩めればゆがるようにきつく抱きしめてくる腕。
「ヤっだ……衛……ッ!!も…や……」
背中に食い込む小さな爪。
同時に迎える絶頂に飛び散る意識。
投げ出された体の内側でまだ蠢く淫具に無意識に軽い快楽を再び迎えた。
「あー、良かった。死んでない」
ぺたぺたと頬を打つ手に目を覚ます。
心配そうに覗き込む彼女の顔にぼんやりと火渡は記憶を手繰り寄せた。
「イキすぎて、失神してたの。ごめん、お正月だからってちょっとやりすぎた」
「……あー……ったく……」
呆れたように皮肉っぽく笑ういつもの彼女に安心したのか、防人はぐったりとした
火渡をそっと抱きしめる。
「今年も一年、いっぱい愛し合おうね。色んなところ行こうね。いっぱいキスして、
デートして……仕事もがんばって……うん……」
寝そべる女の上に覆いかぶさるようにして抱きしめあう。
「火渡は細いのにおっぱいが柔らかくておっきい」
「おめーのほうがでかいだろ」
「腰も細いし、お尻もちっちゃい。すっごく可愛い」
「……あんまり言うな……馬鹿……」
耳まで赤く染めて顔を背ける。
「お……お前だって綺麗だぜ……」
顎先に下から触れる唇に目を閉じて。
「……どーした?」
「……背中が超痛い……ちょっと見て……」
言われるままに女をひっくり返して背中に視線を移す。
壮大に走る爪痕と蚯蚓腫れになってしまったより深いそれに思わずため息をついた。
(……やっちまった……)
「ねー、やっぱり腫れてる?」
「……んー……悪ぃ……」
水にぬれた猫のようにしゅんとする姿。
「べ、別に大丈夫だから!!気にしなくて良いから!!」
「だって、そんだけ派手についてりゃ……」
「私だって火渡に噛み付いたし、だから……」
しどろもどろになりながら何とか取り繕って。
泣き顔よりも笑い顔のほうを多く見たいから。
「今年も、一緒にいようね」
「しょうがねぇから居てやるよ」
向かい合って交わした約束のキス。
窓の外で静かに降る雪だけが知る二人だけの秘密。
0:22 2009/01/15