◆結婚しましたープロローグ―◆






ことの発端はどうやら火渡だったらしい。
まあ、簡単にいえば己の恋人を守るための最終手段だったというわけだ。
確かにあいつは年齢の割には若いところがある。
経済的に立派に自立した一人の女だ。
この先、ひとりで生きることだって可能だっただろう。






「火渡、聞いてくれ……」
火渡が言うにはその時の防人戦士長はこの世の終わりが来たってそんな顔しない!というほど
酷い有様だったらしい。
「照星さんが……結婚したいって言うんだ……」
「ほえ?誰と」
「それが……」
まあ、大戦士長でもある女だ。
それなりの立場や強さのある男じゃなければ釣りあいも取れなければ今後の職務においても何かとあるだろう。
「……俺……」
「はぁ!?なんで!?」
まあ、妥当な線だろう。
立場としても強さとしても防人戦士長ならば誰もが納得はする。
この再殺部隊の隊長を除いた人間が。
「戦士長だし、そこそこ強いし……って……」
「待てって!!照星さん俺らのこと知ってんじゃん!!」
「ああ……大戦士長の言うことが聞けませんか……って……火渡!!俺まだ人生捨てたくないんだ!!
 このさきお前とつつましいかわからないがそこそこあったかくて暴力的な家庭を……」
がっくりと膝を着き涙にくれる様は見てられなかったらしい。
出来ることはその涙を払って抱きしめてやることだけだった、と。
「んなの絶対に嫌だッ!!」
「俺だって嫌だ!!」
見ようによっては感動的で悲劇的なワンシーンだっただろう。
長身の精悍な男と小柄ではあるがどこかかわいらしい女の抱擁。
「俺のこと、お嫁さんにしてくれって言ったじゃん!!」
二十数年前に防人戦士長の最初のプロポーズだったらしい。
「可愛いとか……言ってくれたじゃんか!!」
今でも毎日言ってるぞ!!も本人の言だ。どうでもいいが。
「ヤダヤダヤダ!!衛と離れんのもうヤダ!!」
七年間はべったりじゃなかったから……とか言ったのは火渡だったかな。
できればそういうことは俺に関係のないところでやってほしいもんだ。
「なんでお前なんだよ……ッ……」
そりゃ、順当に考えても仕方のないことだろう。
「うん……もっと照星さんには違う男のほうがいいと思うんだ。正直……俺、無理」
「でも……誰か代理になるような目立ったことやった男とか……ああもう!!なんで犬飼の
 じーさん死にやがったんだよ!!遺産何か残さなくて良いから連れてけよ!!」
「そりゃ無茶な言い分だ、火渡。犬飼大戦士長だって世間にあの人を放つくらいなら責任として
 余程連れて行きたかったとは思うぞ……」
元々坂口照星は犬飼大戦士長の愛人だった女だ。
世間知らずの良いとこのお嬢ちゃんをどう間違ったか最強クラスの戦士に育て上げた。
バスターバロンなんて物騒な武装錬金まで生成する文字通り最強の女だ。
「立場……か……」
縋りつく火渡は本当に可愛かったらしい。
だがそれは俺にはまったく関係のない話だ。
「……なあ……いるだろ……一人、俺らよりも記録もってるのが……」
「……え……?」
涙で潤んだ目で見つめられてホテル行きたくなったとか言ってたな。
勝手に行ってくれ。そういう報告は必要もないんだが。
「誰?」
「戦部。ホムンクルス撃破数は俺らでも負けてる」
「!!」
「俺より背もでかいし、面倒見も(多分)良いし……いいじゃないか。戦部で」
何ともハタ迷惑極まりない話だな、防人戦士長。
「そうだ!!それが良い!!先に俺らが婚姻届出しちゃえば照星さんだって考え直す!!」
そこで少しは諌めるのが上司の役割だろうが、火渡戦士長。
いや、上司とかもとめちゃ駄目だなこの女には。
「行こう!!防人、今すぐ役所に!!」
「もっとロマンチックに指輪渡したかったんだが……受け取れ火渡ッ!!」
「もらう!!絶対ぇ誰にも渡さねぇ!!」






「まあ……入籍ですか……」
「はい。でも、仕事上は今までと同じように別姓でお願いします。な、火渡」
防人戦士長の腕にしっかりと抱きついていたと言ってたのは犬飼だったかな。
孫なら孫らしく大人しく照星と結婚すりゃいいものを……負け犬が。
「困りましたね。では私は誰と結婚すればいいのか」
諦めの速さは決断力に繋がる。
心底、行動が遅かったと照星は深い溜息を吐いたそうな。
「それでなんですが、照星さん」
「はい」
「戦部はどうでしょうか?ホムンクルスの撃破に関しては世界規模で見てもレコードホルダー
 だと思います。それに俺よりも背も高いですよ」
坂口照星は意外と高身長の女だ。
そのせいか男を選ぶ基準の一つに自分よりもでかいという条件がある。
「戦部、ですか……」
「そうだよ。面倒見も良いし、照星サンの言うことだってきくと思うぜ」
戦士長が二人揃って俺を売ったというのがまさしく正しい言い方だ。
「すっごい似合うと思うな、俺」
「そうですか?」
「ほら、ぎゅーっとしたときに衛よりも抱きつき甲斐あるし力いっぱいでも死なないし」
お前ら俺を何だと思ってるんだ?
「お勧め物件です!!今ならもれなくハワイ旅行つけちゃいますよ!!」
俺はバーゲン品か何かなのか?防人戦士長……。
「でも私、あまり戦部のことを知りませんよ?」
「結婚してから理解しあっても良いと思いますよ。役所はまだ開いてますから」
もし、しまってたとしてもあんたらなら権力で開けさせるだろ?
「そーだよ。二人で行ってくればいいよ」
そうだな。あんたらは二人で行ったんだったな。
「そうですね。じゃあ、戦部にします」





あの時、心底振り向かなきゃよかったと思う。
まさに後悔は先に立たずだ。
「戦部」
「ああ。なんだ照星か」
「その呼び方も嫌いではないのですが、これでも一応大戦士長なんでそう呼んでくださいね」
金髪に碧眼のくせに思い切り日本人の名前ってのが滑稽だ。
黙って座ってりゃ綺麗な女なんだがな。
「で、ですね。戦部」
「なんだ?」
「結婚しましょう」
「は?」
「異論はありませんね?」
その時に見た照星の笑顔がやけに輝いていたのだけははっきりと覚えてる。
次の瞬間に俺の意識は完全に途切れた。
どうやら鳩尾に貫手を決めてそのまま俺を引き摺って役所に行ったらしい。
あちこち痛いのと血だらけだったのはそのせいだ。
目が覚めたらベッドの上ってのは戦闘以外では嫌なもんだな。
「お。戦部起きた。照星さーん、戦部起きたー」
「あ、良かったです。手続きも終わりましたからね」
「なんのだ?」
「はい。あなた、今日から坂口厳至ですから」
待て待て待て。俺がお前の籍なのか?
「だって、私、大戦士長ですし。亜細亜代表ですから簡単に名字変えられないんですよ」
「何か良い響きじゃん♪でも、一応別姓で仕事んときは呼んでも良いぜ?」
自分たちの幸せが確保されたからか火渡は本当に良い笑顔だった。
ああ、もうどうにでもなりやがれ。




おいおい、神様ってのは本当にひどい仕打ちをしてくれるもんだな。
こうして俺は厄介な女と結婚しちまったってわけだ。





15:49 2009/10/29

PC用眼鏡【管理人も使ってますがマジで疲れません】 解約手数料0円【あしたでんき】 Yahoo 楽天 NTT-X Store

無料ホームページ 無料のクレジットカード 海外格安航空券 ふるさと納税 海外旅行保険が無料! 海外ホテル