◆閑話03―晴れたる青空、漂うきもち―◆




素敵な恋は何時だって夜語の中だけで。
現実は過酷で夢すら見れない。
「師叔、何してるさ?」
「天化。これを見よ」
少女が指すのは小さな花。
「あ、これ知ってるさ。おふくろが好きだった」
「御母堂が?そうか、わしもこの花が好きでのう」
少年の手がそれを詰もうとするのを、少女の指がそっと諌める。
「ここにあってこそ、美しいもの。また此処で見れば良い」
「……そっか……」
「命あるものを、簡単に絶ってはならぬ」
天化の手を取って、彼女は野路を行く。
昼前の空にある、白い月。
「昼は普賢のところでご馳走になるかのう」
羊雲は静かに流れて、昔の懐かしい匂いをつれてくる。
まだまだ時間はたっぷりあるから。
二人で小高い丘でのんびりと過ごすことに決めた。
春風は、優しく髪を撫でて眠りを誘う。
「望」
「何じゃ?」
「あれやって欲しいさ。コーチが普賢さんにしてもらうの」
「膝枕か?」
横座りした彼女の腿に、天化の頭がそっと降りる。
「気持ちいーさ……」
頬に触れる優しい指先に、うとうとと目を閉じる。
今日だけは軍師も剣士も休日を決め込んで、早々に西周を抜けてきた。
霊穴でのんびり、こうして二人で過ごしていたい。
「ずっと働き詰めだったからのう……疲れたか?天化」
頬に触れる手を取って、唇を押し当てる。
「んー……平気さね……望のほうがずっと疲れてるさ」
「わしはいいのだ。望んだことだからな」
西周を国家とし、武王を即位させ殷を討つ。
それが愛した人との約束だった。
聞仲が殷の父ならば、太公望は西周の母たる存在。
いまや、欠くことのできない軍師としてその名を知らしめている。
その隣に座する二人の男。
文と智がヨウゼンならば、天化は武と勇。
凛として空を睨む少女を守護する二人。
「俺っちも望んだことさ……望の隣にいること……」
うとうと、閉じる瞼。
「だから、平気」
「……そうか……」
細い指は、母のようで。そして、子供のようで。
不安定の作り出す美しさが、彼女にはあった。
いや、彼女の存在そのものがふとしたきっかけで消えてしまいそうに思えて。
傍にいなければ、不安に駆られてしまうのだ。
「天化……」
「んー?」
向きなおして、寝そべりながら腰を抱くようにしてその柔らかい腹に顔を埋める。
「今日はこうしてたいさー。俺っちも望を独占したいさー」
「わしも……こうしていたいよ……」
「帰らなきゃなんねーのはわかってけど、帰りたくないさー」
互いに十七で、時間を止めた。
今だけは少年と少女に戻ってこの陽だまりの中で目を閉じよう。
「いっそカバっちが腹壊したら、帰んなくて済むのにさ」
くすくすと笑って、太公望は天化の頭を抱いた。
上手くはいかないことが多すぎる日々の中で。
二人で居られる時間は少なすぎて。
こうして逃げ出すことを選べるのも、また。
この二人だからできること。
「わしも……帰りたくないのう……」
「紫陽洞戻っても、コーチいるしさぁ……望と二人っきりで居たい……」
「白鶴洞に留まらせるか……虚玉宮のわしの部屋に行くかどちらかだのう……」
太公望の自室となれば、崑崙でも奥まった場所。
流石の天化でもそれは気が退けた。
「普賢さんとこに、コーチが泊まればいいさね」
「そうなるのう。普賢が困ることも無かろうて」





昼下がりの温かさは、心まで穏やかにしてくれる。
「え?紫陽洞で二人だけで過ごしたい?」
梨を剥きながら普賢は天化に視線を投げた。
「普賢さん、お願いさ〜〜。俺っちもたまには師叔独り占めしたいさ」
「んー……本人に聞いてみるね」
二つの球体は、果実に早変わり。
長椅子で熟睡する恋人を、優しく揺すって。
傍らの卓台にそれを乗せる。
「道徳、今夜泊まって行く?」
「あー……?」
「道徳の好きなもの、一杯作るよ。春野菜がたくさん取れたの」
「ん…………」
薄い上掛けを直して、少女は振り返る。
「良いって。ここのところ徹夜続きだったから、ゆっくりさせたいって思ってたしね」
封神計画の報告書は、参戦中の弟子がいればそれだけ増えていく。
書類が苦手な道徳真君にとっては通常業務だけでも大変な量だ。
加えて、天化の功績。
纏めれば夜を徹することも当たり前だった。
「洗濯物もたくさん、でも、楽しいんだよね」
「主婦ができるぞ、普賢」
「無理だよ。そこまで従順じゃないし」
それでも声はどこか嬉し気で。
「喧嘩もするし、たまにひっぱたいちゃうこともあるもん」
「それでも、道徳はおぬしには手を上げぬだろう?」
「うん……甘やかされるからなぁ……ボク……」
「天化も同じじゃ。一度も手を上げられたことが無い」
梨を摘みながら、天化は視線を二人に向けた。
「女に手を上げんのは、最低の男だって親父とコーチに言われてるさ」
師であり、父であり、兄でもあるそんな存在。
「だらしなく涎垂らしてても、普賢さんコーチのこと好きさ?」
「うん。好きだよ」
臆面も無く出される言葉。
「望ちゃんは?天化がだらしなく涎垂らしてお腹出してても天化のこと好き?」
「うーむ……」
「何で悩むさ!?師叔!?しかも普賢さん、一個増やしてるさ!!」
泣きそうな声が訴えてくる。
「変わらんな。おぬしと、そうは」
「だって。良かったね、天化」
灰白の瞳が、悪戯気にぱちんと瞬く。
(さっすがコーチと一緒にいれるだけの女さねぇ……可愛い顔してんのに
 きつーいこと言ってくれるさ……)
「待ってて。御夕飯の支度するから」
「いや、向こうでわしが作るよ。そう長居するつもりもなかったしな」
「四不像が来たら?」
「休暇は一日延長だと伝えてくれ」
「了解」
女二人は目線で全てを分かり合える魔法を持つ。
気付かぬは、男ばかり。





厨房で動く太公望の背を見つめながら、天化は笑いを噛み殺す。
それでも、押さえ切れない嬉しさ。
(二人っきりさね……なんか、俺っちと望が一緒になったらこんな感じさ?)
理想とするのは自分の父と母。
手際よく調理されたものが運ばれてくる。
「もう少しだけ、待ってくれるか?」
「あ、うん……」
少しだけ伸びて、肩に掛かる髪を結わえて留めた姿。
後れ毛と白いうなじが目に眩しい。
(もっと、くっつきたいさ……)
後ろから抱きしめて、頬を寄せる。
「天化?そんなに腹が空いたか?」
「そうじゃないさ。ただ、こうやって望と一緒に居たい」
「後で、好きなだけ……もう少しだけ待てぬか?」
「ん……待つ……」
視線一つで全てを甘くしてしまうその力。
一国の王をも誑し込む悪女といわれても、彼女はどこか凛として清々しい。
その瞳が、唇が、指先が。
全てを絡め取って、離さないのだ。
「物好きだのう。余程普賢のほうがおぬしの好みであろう?」
「俺っち、ちょっと悪女のほうが好きさ。それに、コーチみたいに頑丈じゃないし」
品行方正よりも、歪なほうが愛しさが増す。
「わしも、真面目だけの男よりも野性味があるほうが好きじゃよ」
意味深に閉じられる片目。
自惚れて、溺れてしまいたい甘い月夜。
今夜、彼女は自分だけのものなのだから。





「俺っちも一緒に入る」
「構わんよ。天化」
互いの衣服を脱がしあって、その肌を確かめる。
銀色に染まった足の爪。
「あ!!」
抱き上げて、浴室の扉を蹴り上げて。
「一度、やってみたかった。邪魔者無しで、二人っきりのときに」
床に触れた場所から伝わるひんやりとした感触。
「冷た……」
「すぐ温めるさ」
指先で唇を割って、咥えさせる。
ぷるん、と上を向く乳房にしゃぶりついて、小さな乳首を口腔で転がして。
「…っ…ふ…!!」
指で声は塞がれて、もどかしげに腰が震えた。
ちゅ…と指を引き抜いて両手で円を描くように張りのある乳房を揉み抱く。
舌先がちろちろとその先端を掠めるたびに、びくんと肩が揺れる。
「あ!!…っは……」
「んー……こんだけで濡れちゃうさ?こんなにぬるぬるになってる……」
かり…歯先が乳首を捕らえる。
「!!」
執拗に胸を攻められて、荒い息が交差して。
「あ!!天化…ッ!!」
そっと身体を倒させて、膝を開く。
ひくつく花弁と、濡れてとろとろになった入り口。
薄い茂みの下の小さな突起を指先で剥きだして接吻する。
「ひ…ぅ!!!」
びりびりと、背筋を走る甘い痺れ。
裂け目を下から掬い上げるように舐め上げて、ぶちゅ…とそこに唇を当てて。
ぐりぐりと動かすたびに、甘い悲鳴が上がる。
「や!!やぁ!!ふあ…あああぁっ!!」
びくん!と大きく仰け反るのと、入り口からごぽり、と音を立てて愛液が溢れるのと。
どちらが先だっただろう。
それを指で掬って、ぺろ…と舐め上げる。
「もうイっちゃったさ?」
「……馬鹿者……」
真っ赤に染まる頬。
(か、可愛いさ……っ……なんか……苛めたいって感じさね……)
ひくつく肢体は扇情的。
反り勃ったそれを濡れた箇所に当てて、ゆっくりと上下させる。
太茎と、亀頭の先端が押しつぶしたようになった赤い突起を。擦り上げていく
「は…ア……ッ!!あんっ!!」
焦らしながら、どうしても自分を求める声が欲しくて。
「……望、どーして欲しいさ?」
「……早く……ッ……」
片手で腰を抱かれて、空いた手が乳房をぎゅっと掴む。
「あぁんッッ!!」
「ちゃんとイって……どーして欲しいさ?」
腰をすり寄せれば、その度にぬるぬると幹を愛液が濡らしてしまう。
頭を振っても、止まらない。
「……天化の……を……!!」
塞ぐように絡まってくる舌先。
ぴちゃぴちゃと体液交換の音が響き渡る。
「俺っちの何……?」
耳朶を噛んで、湿った息を吹き掛ける。
「ひゃ…ア……ッ!!」
震える手が、それに触れて。
「……コレを……望の…中に…ッ…挿入れて……」
「……うん……」
ぐりゅ…抉るように入り込んでくるそれに目を閉じる。
「ふぁ…んんぅ…!…」
根元まで沈めて、腰を押し当てるようにぐちゅ、ぬぢゅ、と結合部を突き動かす。
腰骨に手をかけて、隙間無く繋がって獣染みた喘ぎをこぼして。
「あぁっっ!!!」
ぬちゅぬちゅと聞こえてくる水音は本能を呼び覚ます。
くりゅ…乳首を親指で変形するほど強く押し上げて口にする。
「!!!」
硬くなったそこを甘噛して、強く吸い嬲って。
その間にも休まることなく腰はぐいぐいと進む。
「アあっ!!て、天化…ァ!!」
細い身体を折って、何度も何度も抜き差しを繰り返して追い込んでいく。
うねる様に絡む肉襞と体液。
「んんんっ!!!!あ!!アァンッ!!」
肉がぶつかって、乾いた音が響き渡る。
追いかけるように、ぐちゅ、ちゅぐ…湿って濡れた音も。
「ふぁ……ああああぁぁんっっ!!」
きゅん、ときつく絡まる感触。
生まれる震えを感じて、引き抜く。
「…ぁ……」
勢い良く迸る白濁が、頬を、唇を、胸を濡らす。
どろりとした体液に染められた身体は今まで見た彼女のどの姿よりもはるかに淫靡。
ほんのりと染まった肌に散った白。
「…っは……望……」
ひくつく少女の身体を抱きしめる。
「……天化……」
濡れた男のそれを手にして、唇を当ててちろ…と舌が這う。
「ぼ、望ッ!?」
「……んぅ……」
口中であっという間に硬さを取り戻し、もう一度と。
亀頭に舌を絡ませて、その鈴口に差し込む。
細い指が幹を上下して、やんわりと茎を扱く。
「…ぁ……ん…」
「…っは……すっげ……気持ち…さ……」
ちらりと見上げてくる蕩けた瞳。
唇が下がって、ぱくり、と幹に甘く噛み付く。
火照った肌にはまだとろとろと残滓が絡まる。
「何回できるか……試すさ?」
「ん……構わんよ……」
ちゅぷるん…離れる口唇。
互いの匂いの篭った浴室から出るのは、甘い声だけ。
何時果てるともない情事。
骨まで溶かして、混ざり合いたいから。







「そんで結果報告にきたと?」
欠伸を噛み殺して、道徳は天化のほうを向く。
「人の家で何をやらかしてくれんだ、お前は。なんつー弟子もっちまったんだよ、俺」
「そんなこといわないの。はい、お茶」
「ん」
幸せこの上ないといった表情の天化に、普賢は盆を渡す。
その上には小さな瓶と、玻璃。
瓶の中には琥珀色の薬湯が。
「何さ?コレ」
「腰が痛い、背中が痛いって望ちゃんがうめいてるでしょ?飲ませてあげて」
「分かったさ。あんがと、普賢さん」
ぱたん、と閉じる扉。
「親友想いだな、お前」
「望ちゃんのことは気遣えるけど、天化の保障はしないよ?」
「どういうことだ?」
薬湯は、太公望の最も苦手とする苦味のあるもの。
しかも、効果を高めるために飛び切りの味に濃縮してある。
糖衣錠で無ければ飲まないと豪語する女にそれを飲ませて。
無事である保障は無い。
「こんな苦いものが飲めるか!!たわけーーーーーっっ!!!」
炸裂する爆音をものともせずに、普賢は二杯目の茶を注ぐ。
「部屋の修理、天化にさせてね」
「……つくづく恐ろしい女だな、お前って……」
あんぐりと口を開いて呟く言葉。
「そう?女の心は深いからね、闇よりもずっと」
「へいへい」





結局太公望が口にしたのは甘い甘い糖衣錠。
いくつになっても、苦手なものは変わらない。
青い空は今日も凛と澄んで。
羊雲は変わらずに今日も流れる。




              BACK



14:35 2004/11/10


               

楽天モバイル[UNLIMITが今なら1円] ECナビでポインと Yahoo 楽天 LINEがデータ消費ゼロで月額500円〜!


無料ホームページ 無料のクレジットカード 海外格安航空券 解約手数料0円【あしたでんき】 海外旅行保険が無料! 海外ホテル