◆閑話02――オンナノコ――◆




「最近、こう……身体がのう……」
九功山白鶴洞、ため息を先についたのは太公望だった。
「だるいのだ」
「妊娠した?望ちゃん」
「するわけなかろう。第一……」
葡萄を摘んで、口に含む。
「誰の子か、分からん」
「産んで大きくならないと、判定は出来ないよねぇ」
普通の女の会話としては逸脱したものなのだろうが、この二人にとっては極々普通のことである。
ほんのりと香る薄荷茶は、この二人のお気に入り。
硝子の器もそれように、誂えた物。
「マンネリ化しておる。これは由々しき問題じゃ」
「食生活と性生活の不一致は、離別の原因としては十分だけど……一杯いれば飽きるとか
 ないんじゃないのかな?」
何もかもを知り得る親友は、首を捻った。
「そうだのう。しばらくはあやつらにも指でも咥えさせてやるか」
「あはは。少し身体も休めなきゃね」
「男はしばらく止める」
天化から拝借してきたと、太公望は煙草に火を点けた。
立ち込める紫煙。
どうだ?と勧めると、親友も一本取り出してそれを口に。
少女二人の喫煙姿は、どこか艶やかで。
「じゃあ、ボクと試してみる?前みたいに」
「道徳からろくでもないことでも教わったか?不道徳が」
けらけらと笑って、二本目に手を付ける。
「色々とね。望ちゃんほどじゃないけど」
重なってくる手。
「おいで、望ちゃん。前みたいに遊ぼう」





窓の光を消し去って、薄暗がりの中。
二つの身体が絡み合う。
「待て……普賢!!」
太公望の上着を落としながら、首筋にそっと唇を当てる。
柔らかい唇と、細い指。
「ダァメ。待ってたら日が暮れちゃうよ?」
さらしを解けば、ぷるんと上向きの乳房が顔を出す。
ふにゅりと指先が食い込んで、その先端をちゅぷ…と舐め嬲っていく。
「ふぁ…あんっ!」
口中で転がして、時折甘噛するように歯が立てられる。
痛みとすれすれのその強さ。
その度に、もじもじと揺れる括れた腰。
「望ちゃん、胸……おっきくなったね」
乳房にかじりつくように触れる歯先。
小さな噛み跡が一つ、二つ、花を咲かせる。
乳房の内側をちろちろと這い回る舌。
その持ち主が異性ではなく同性で、親友であることが余計に神経を昂らせた。
左右を交互に、ねっとりと嬲ってくる舌先。
「…ふ…ぁ!あ、あん…っ…」
「こっちも濡れてる……」
腰をするりとなでた手は、そのまま下がって秘所に掛かる。
ちゅく…くちゅ…白い指先が半透明の体液で濡れて。
「力抜いて……望ちゃん……」
悪戯に何度かそうしたときよりもずっと、普賢の指は甘く身体を疼かせる。
爪の先で、突起をむき出してそこにふ…と掛かる吐息。
「あぁんっっ!!」
ちゅ…触れては離れる唇は、肝心な強さを与えずに彼女を追い詰めていく。
膝を開かされて、ぐっしょりと濡れたそこに普賢の唇が這う。
薄く柔らかい口唇は、男のそれよりもずっと鋭敏に身体を刺激してくれる。
「望ちゃんのココ……凄く濡れてる。そんなに気持ちいい?」
頬に触れるだけの接吻。
「は…!ぁん!!…普賢……!!」
ぬるぬると濡れた指が、尖った突起を軽く捻った。
親指で転がして、きゅん、と押し上げる。
「ふ…ぁ…ああああんっっ!!!」
だらりと投げ出される四肢。とろとろとこぼれた愛液が、敷布に沈んでいく。
「もうイっちゃった?前よりも感じやすくなったんだぁ……誰のせい?」
「おぬしが性悪になったのは、道徳の影響か?」
胸を両手で隠して、脚を閉じる。
「んー……どうなんだろう。でも……」
それを取り払って、視線を重ねて。
「道徳も、結構優しいよ。意地悪なときもあるけどね」
甘い、甘い、接吻をした。
絡ませた舌先は、まるで別の生き物用に動いて意識を混濁させる。
「あん!!」
不意に乳房を掴まれて声を上げたのは普賢のほう。
「おぬしも随分と成長したのではないか?」
「やぁん……道徳と同じこと言うんだから……」
少し気に障ったのか、普賢は太公望の脚を抱えて、斜めに身体を倒した。
くちゅ…濡れた秘所が重なり合って淫靡に音色を奏で始める。
「あ!!あ、く…ぅんっ!!」
ちゅ、ぢゅく…擦りあわせるたびに互いの体液が混ざり合っていく。
熟れた突起が触れ合って、そのたびに零れる甘い息。
「あ、ああんっっ!!やぁ……普賢…っ!」
「まだ、大丈夫……ね?」
ぐりぐりと押し付けて、花弁が触れ合って熱くなってしまう。
敷布をぎゅっと握る太公望の手を取って、その指を舐めあげる。
一本、一本、丹念に。
まるで、男の陽根にでもするかのように、普賢の舌先が上下していく。
ちゅるん、と離して腰を抱き寄せた。
「ひ…ア!!あァンっ!!」
乳首がこすれあうだけで、奥のほうがずきんと疼く。
女同士は、終わることの無い愛撫と同じ。
満たされない何かを補うほどに、何度も何度も絶頂を迎えられる。
「……ね、試してみる?」
太公望の唇を、普賢の指先がなぞる。
「……?……」
「コレ」
ごそごそと取り出したのは、男根を模倣した物体。
御丁寧にそれは双方に亀頭が伸びているものだった。
「……おぬし、道徳から一体何をされとるのじゃ!!」
「だぁって……自分でして見せろとか言うんだもん!あの人!!」
不満があるのは自分だけではなく、この穏やか顔をした親友もまた同じ。
「これ、使って見せろとかいうんだもん」
「……あんの不道徳の極みが!!」
怒り心頭の太公望をぎゅっと抱きしめて、その頭を優しくなでる。
「ありがと。でも、望ちゃんとなら使ってもいいかな……って」
自分のそこに、それを挿入する。
まるで、両性具有のような不思議さ。
「覚悟決めてね、望ちゃん」
「……う……覚悟……!!」
ずん!と奥まで突かれて、白い喉が仰け反る。
「あ!!あああっっ!!!」
「……でね……ここ、押すとね……」
真ん中にある小さな点を、普賢は押した。
「!!!!!!!!」
くぐもった音がして、その先端が互いの膣内でぐるぐると抉るように回りだす。
「あ!!やぁ…あぁんッッ!望…ちゃ…ぁんっ!!」
互いの腰を抱いて、もっと奥まで導きたくて。
「んんんっっ!!あ!!ふ…あああぁんっっ!!」
相手が男ならば、射精されれば終わる行為も。
女同士は、終わりが無いから性質が悪い。
「やぁんっ!!…ぅん…!!あ!!」
あふれ出した愛液は互いの腿を濡らして、身体をより密着させる。
とろとろに、くちゅくちゅに溶け合って。
「あぁんぅ!!!あ!!きゃ…あ!望…ちゃぁ…ん…!」
発情期の雌猫二匹。腰をくねらせてその身体を貪りあう。
何度も、何度も。
重なる嬌声。ぐったりとした体の中で尚も動き続けるそれが、何度も火を点けてしまう。
止まらない熱を、放出するために、濡れきった秘裂を擦り合わせた。




(たまには菓子でも持って行ってやるか。そんで、この間の喧嘩を帳消しに……)
岩場を飛んで、軽快に道徳真君は進み行く。
目的は白鶴洞。数日前に大喧嘩をしてしまった恋人の洞府だ。
(さて…と。普賢は昼寝でもしてるか?)
庭先に姿が無いと、彼は邸宅へと足を踏み入れる。
そのまま寝室の前に進んで、はたと足を止めた。
(……何、やってんだ?)
中から聞こえてくるのは、甘い女の声が二人分。
少しだけ扉をずらして、気配を殺して中を覗く。
(!?乱交中か!?……って、普賢の下に居るのは……太公望!?)
夢中になっているのか、二人揃って男の存在には気付かない。
静かに扉を開く。
「雌猫二匹、何やってんだ?欲求不満か?」
その声に、二人が振り向く。
「ど、道徳!?」
後ろから普賢を抱きしめて、唇を吸ってくる。
「おぬしが普賢を余計に開発するから、わしに被害が及ぶのじゃ!!こんの不道徳!!」
「この状態で言われてもなぁ。余程お前らのほうが不道徳な上に倫理に反してるぞ」
言い逃れの出来ないこの状況。
やんわりと普賢の乳房を揉んで、耳元で囁く。
「折角だから、俺も混ぜてもらうかと。太公望相手にこんなことするくらい、欲求不満みたいだしな」
「あ!やぁん!!」
力の抜けきった身体を四つ這の格好のまま、起こさせる。
太公望と、繋がったままに。
「何もしなくたって、こっちまでびしょびしょだ」
後ろの窄まりまでしっかりと濡らして、男の指を難なく咥えてしまう。
「あ!!やぁんっっ!!」
先端が触れて、ゆっくりと貫いていく。
「ああぁん!!やぁ……道徳…んっ!!」
「あ!!普賢…っ!!」
負荷がかかって、ずい!と奥まで二人の身体が繋がる。
内側で動くそれは、依然としてその動きは休まらない。
掻き回す様に動いて、二人の身体をとろとろに蕩かす。
「や…っは!!道徳…っ…」
半開きの唇から零れる涎。
とろ…と太公望の乳首にこぼれ落ちる。
「ああっ!!あ!!あんんっっ!!」
ただ、それだけでも感じすぎた身体には強い刺激となってしまう。
「どっちもされてると、気持ちいいだろ?普賢……」
伸びた腕が、ぐい、と太公望の腰を抱き寄せる。
普賢を中央にして、三人の身体が重なった。
「んんんんっっ!!!」
隙間無く密着させられて、ぼろぼろと零れる涙。
くちゃくちゃになった花芯が、擦れ合ってじゅくじゅくと全身を甘い痺れが走り抜ける。
「ん!!あぁん!!や、ダメ…ぇ!!あぁんっっ!!」
前後を貫かれて、崩落寸前の意識。
「あ!!あ…ッッ!!!望ちゃ…あ!!」
「イク時は、俺の名前呼んで……」
耳朶に触れる唇。
細い腕が太公望の背中を抱きしめる。
柔らかい乳房が触れ合って、汗と女の匂いが本能を刺激して止まらない。
「ああんっぅ!!あ!!道徳…っっ!!」
「ああああぁんっっ!!!」
びくん!と少女二人の身体が跳ねて、重なり合う。
ぐったりと四肢と意識を投げ出して、甘い疼きの中に身を沈めた。





太公望を別室に移して、向かい合わせで恋人同士。
言葉を見つけられないまま、時間だけが優しく流れる。
「そのな、いくら喧嘩中でもあーゆーことするのは問題ありだろ?俺、そんなにお前のこと
 ほったらかしにしてたか?」
ぷい、とあらぬ方向を見て普賢は頬を膨らます。
「ボクが、下山したいって言ったら、すごく怒ったじゃない」
「そりゃそうだろ。なんで狼の群れに極上の羊投げ込まなきゃならないんだ」
「ボクだってこれでも仙人だよ。そんなにひ弱じゃない」
どうやら、不機嫌なのはそれが原因だったらしい。
たまには二人でのんびりと、西周を歩きたいのだと普賢は言うのだ。
「今度な、今度」
「今度って何時?道徳はいつだってそうじゃない」
不安げな瞳は、男心を翻弄する魅惑的な宝石。
「次に下山するときは、一緒に連れて行くから」
「本当に?」
「約束するよ。ただし、俺の側から離れないこと。敵が一人増えたからな」
「敵?」
「お前の大親友様だよ。女に寝取られるのは勘弁してくれ」
着込んだばかりの服に掛かる指。
「じっくりと……満足させてあげる」
「やだ……もう、ダメ……」
重なっていく唇。
覆い被さってくる男の背中を抱きしめて、普賢は目を閉じた。




「太公望師叔!!」
書間片手に軍師殿に入るのはモクタク。
東伯からの書状を手渡して、あれこれと報告を兼ねて話し込む。
「のう、モクタク。道徳と普賢が房中だった場合、おぬしはどうしておるのだ?」
「間合いみて、入りますけどね。もう、十分なくらい修行時代から見させてもらってますから」
「……おぬしも苦労症だのう……」
ひらひらと手を振って、モクタクはどこかへと行ってしまった。
(さて……わしもその間合いとやらを学習せねばな……)




空の上でくしゃみが二つ。
恋人たちの狂想曲。




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1:22 2004/10/01

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