◆魔家四将◆






まだ、空には明けの明星が輝いている。
太公望は空気の冷たさにヨウゼンの胸に顔を埋めた。
「……ん……」
そのままうとうとしているのが好きなのだが、空気の震えが身体に伝わる。
「…?…」
ぴりぴりとした感触。
「師叔?」
「…ヨウゼン、何かおかしくはないか?」
太公望は風使いの仙人。普通ならば分からない微妙な空気を読むことが出来る。
身体を起こして手際よく髪を結う。
長く伸びた黒髪は頭頂部で二つに纏められて丸く紐でくくられた。
「師叔」
「これ、ヨウゼン、離れぬか」
名残惜しいとばかりに手が身体を弄る。まだ、深夜の情事の感触が仄かに残る体に。
首の匂いに引き寄せられる。
甘えたいならば、ここまで来いと。
少し強く吸い上げると、首筋に赤く唇の後が残った。
「ヨウゼン!」
「少し悪戯が過ぎましたね」
確信犯の笑みでヨウゼンは笑う。
怒った太公望がヨウゼンの髪を掴んで引っ張ってた時のことだった。
「!!」
何かが崩れる音と衝撃波。
「…遊んでもおれんのぅ…」
静かに身体を離して床に散った道服を拾い集める。
さらしで胸を包む手。
「手伝いますか?」
「…そーゆー冗談は好かん」
二人、ほぼ同時に着替えが終わり、外に出る。
「……なんじゃあれは……」
城壁を丸ごと飲み込んでいく不思議な宝貝。
まるで玩具のようなその外面とは反する能力。
「御主人〜〜〜〜〜〜!!!大変っす!!」
「そのようじゃのう」
四不象の背に乗る。
「ヨウゼン、兵のほうは任せた。わしは発のところに行ってくる!」




魔家四将はその名の通り四人一体で攻め入る。
剣術の礼青、精神攻撃の礼海、打撃の礼紅、そして件の玩具使いの礼寿。
「お前が武王姫発か。一緒に来てもらうぞ」
「な、なんだ!?俺は男には興味はねぇ!!」
二人の間に割って入るのは天化。
「そうはさせねぇさ。王様守るのは俺っちの役目って師叔に言われてるさね」
剣士二人。
「ここは俺っちに任せて早く逃げるさ」
(それまでなんとか足止めしておかねぇと…)
星雲剣と莫夜の宝剣。二つが打ち合う音が周辺に響き渡る。
「若いがいい太刀筋だ。黄天化」
星雲剣を構え直す。
「だが、この剣はただ切れるだけではないぞ」
「!!」




太公望は姫発を探し回る。
「お師匠様〜〜〜〜!!!」
「おお!武吉!発を探してくれぬか!」
武吉は屋根瓦の上を飛びながら武王を探す。
「あっちです!!!」
武吉の指すほうに目を向ける。
囚われた姫発と魔家四将の姿。
「発!!!!」
「すまねぇ太公望」
「…天化は!!??」
発に護衛としてつけたはずの天化の姿がない。
必死になって天化の姿を探す。
「天化!!??」
全身を抉られたように切り裂かれ、虫の息の天化の姿。
「お前が太公望か…そこの天然道士を含めて崑崙の道士は投降してもらおうか」
「………」
今ここで天化を失うわけにはいかない。
それは軍師としての想い。
ここで天化を失いたくはない。天化にはまだ未来がある。
それは呂望としての想い。
「わかった…だが、これ以上民を傷つけるのは止めるのだ。それができないなのならば
発と天化を犠牲にしてでもわしはおぬしらを殺す」
それは太公望が初めて「殺す」と言う単語を発した瞬間だった。
(天化……どうか無事で……)
守られるだけではなく、守るだけでもなく、対等な関係。
それは二人にしかわからない繋がりだった。





天化は哮天犬によって仙人界へ。
雷震子とナタクが援軍に。
どうにか発を連れて武成王は魔家四将から離れるが、今度は太公望が礼青と対峙していた。
星雲剣の刃を打風で相殺するが、封じきれない刃が太公望の道衣を裂いていく。
「!!」
赤く染まった布の端から、ぼたぼたと血液が零れていく。
「貴様だけでも人質としての価値は十分あるな」
「…くっ…」
礼青が星雲剣を構え直す。
「お師匠様!!!!」
一瞬の隙を見て武吉が太公望を抱きかかえ、星雲剣の刃をかわす。
「天然道士か…うるさいやつだ」
星雲剣が容赦なく武吉の身体に降り注ぐ。
「武吉!わしを置いて逃げろ!!」
「駄目です!!!お師匠様は居なくなっちゃ駄目なんです!!!」
ぼろぼろになりながら武吉は太公望を離さない。
「お師匠様は中心なんです!!お師匠様が居なくなったらみんなばらばらになってしまいます!」
どこでもいい、あの刃が届かない場所へ。
武吉は走ることを止めない。
「僕もお師匠様がいなくなるのは嫌です!!お師匠様が大好きだから、絶対に嫌です!!」
壁際に二人、傷ついた身体で座り込む。
「師叔」
「ヨウゼン……」
ヨウゼンは自分の外套を裂いて、包帯代わりに太公望の腹部に巻きつけていく。
それでもとめどなく溢れてくる血液がヨウゼンの手を赤く染めていった。
(礼青……許さないよ……)
「わしの代わりに指揮をとってくれ。このままでは民が危ない」
「ええ、しかし……」
「聞仲が来るものだとばかり思っていたからのう…まぁ何にしろ何とかせねばならんのだ。
あの二人であのクジラを。その間にわしは次のことを考えるよ……」
ぐったりとして、額に浮いた汗が傷の深さを容易に想像させる。
「あなたの手足になって動くこと位はできますから……」
そっと手を取ると太公望はいつもの顔で笑ってみせる。
「頼んだぞ、ヨウゼン」




ナタク、雷震子の連係プレーで一つの玩具は撃墜するも、次々に出てくるという理不尽さ。
「…まぁ、よい。一度敗れたならば次も同じじゃ……」
腹を押さえながら、太公望は空を見る。
「ヨウゼン、武成王、頼んだぞ……」
太公望は言った。
連係プレーが得意ならば各個攻撃に持ち込むのが望ましいと。
しかし、その強さの前にナタク、雷震子が打ち倒されてしまう。
「ナタク!雷震子!!」
礼青と彼に変化していたヨウゼンも二人の姿を見て怒りに震える。
「たいしたことないな…崑崙の道士も」
「…これ以上僕を怒らせるな…お前たちは僕の大事な人を傷つけて、悲しませた」
声は低く低く、耳に響いていく。
三尖刀と星雲剣。
双方に大打撃があるのは目に見えている。
(いかん…ヨウゼン…!!)
痛む身体を引きずりながら、足を踏み出す。
「!!!」
「天化!!」
「俺っちこう見えても負けず嫌いでね……再戦さ!!」
戦士の意地と男心。
礼青と天化。
礼海と礼紅はヨウゼン。
礼寿を封じるのは武成王。
結果として太公望が狙った各個攻撃の形になったのである。
(しかし……あれほど早く傷が癒えるものか……?)
「太公望」
「道徳!?」
降り立ったのは道徳真人。天化の師匠であり師表十二仙の一人である。
「道徳、天化は……」
「痛み止めを与えて、傷の縫合をしただけだよ。さすがに短時間で全回復は不可能だ」
天化は莫夜の宝剣の二刀流で礼青と向かい合う。
気力だけで戦う戦士の姿。
「しかし……天化の内にあれほど激しいものがあったとはのう……」
「君が知る天化はどうかしらないけれど、あの子は元々闘争本能が激しい子だよ。生まれ付いての
戦士といってもいいほどにね。たとえ勝ち目がなくても戦おうとする
だけど…あの子のあの性格が、いつか命取りにならないかと心配だよ…」
祈るような気持ちで太公望は天化を見やった。
(……天化……)
贔屓目に見て互角。冷静に見れば天化のほうが押されている。
礼青の剣術は完璧だ。
(……死ぬな…天化……)
必死に応戦するものの、防ぎきれない星雲剣の刃は天下の傷口を的確に抉っていく。
「!!」
宝剣をはじき、礼青が不遜に笑った。
「一本では防ぎきれないのは知っておるだろう?」
「…防ぐ必要はないさ…今度は俺っちが攻める番だから!」
鑚心釘を掴み天下は笑った。
(絶対に負けねぇ!!!)
鑚心釘は礼青の身体に深々と刺さり、内部への侵入を試みる。
星雲剣同様、肉を抉り取るのに長けた宝貝。
「まだ、勝負は決まらないさ」




魔家四将は太公望の狙い通りに各個攻撃で人間形態を保っているのが限界に近かった。
太公望の狙いは人間形態のうちに弱らせることだった。
石琵琶の貴人同様、魔家四将にも原型がある。
ただ違うのはおそらく原型になったときこそ彼らは真価を出すであろうということ。
「師叔!」
「おお、ヨウゼン……」
武吉に抱きかかえられながら太公望は笑った。
「仰せの通りにやってきましたよ…その智謀、妲己以上に思えます」
いいや、と太公望は頭を振った。
「それよりも、やつら原型に戻るぞ……空気が動いておるからのう……」
円陣を組み、呪文の詠唱があたりに響く。
(来る……!!)
ヨウゼンは太公望の護衛よろしく三尖刀を構えた。
深手を負った太公望を倒すのは容易な事だからだ。
そして、太公望を生かしておけば後々に面倒なことになるのは明白だった。
(師叔だけは…僕が守る!)
四人全ての能力を取り込んだのは四つ首の幻獣。
琵琶の音が神経をざくざくと刺す。加えて礼青の剣術。
「ヨウゼン!!!」
「ええ、分かってますよ師叔」
三尖刀が幻獣の首を一つずつ刎ねていく。
どろどろとした腐蝕液を流しながらその身体がゆっくりと崩れ落ちた。
「みんなから攻撃で君たちは弱っていたのを忘れたのかい?それと…最後の手段で
巨大化した悪者は絶対に勝てないもんなんだよ」
体液は尚も大地を侵食していく。
「!!」
『腐ってしまえ…なにもかも……憎きや崑崙の道士め……』
ぎょろりとした目玉がヨウゼンを睨み付けている。
「師叔、立てますか?」
「うむ……」
ヨウゼンの肩を借りて太公望は腐蝕の中心を見つめた。
「この戦いに幕を引くのはあなたです。初めて僕たちは力を合わせることができました。
これはとても大事なことです……だから、指揮をとったあなたが最後を締めるべきです」
言われて太公望は打神鞭を構える。
目を閉じ、意識を集中させ、風を生み出す。
「疾!!!」
封神台に飛ぶ四つの魂魄を見ながら太公望はほっとしたような笑みを浮かべた。




この一戦で俄かに西岐では好戦が高まっていくことになる。
それはそれでまた太公望を悩ませるのだ。
「……考えてもどうにもならぬか……」
机に突っ伏して太公望は一人考えていた。
「太公望」
「発……」
「具合どうだ?まだ、どっか痛いか?」
「いや…もう平気だよ……」
だが、どう見ても包帯だらけの姿は平気な様には思えなかった。
「あの…その…さ…一人でなんでもかんでも背負い込むなよ…な…?」
言葉を選びながら発はゆっくりと話した。
「お前にはさ、味方が一杯いるんだしよ。多分…殷は人間だって送ってくるんだろ?
そんときには俺らががんばっからさ」
「…これはわしの奢りかも知れぬ…それでも…犠牲は出したくないのだよ……発……」
子供の頭を撫でるように発は太公望の頭を撫でる。
「難しいことは俺にはわかんねぇ。でも…気楽に考えようぜ。な?」
「そうじゃな…わしにはこんなに味方がおる」
立ち上がろうとして、勢いあまって発を巻き込んで床に倒れこむ。
形としては太公望が発を押し倒すような格好だ。
「…俺やっぱしお前のこと好きだわ…他に男居るって知っててもさ…」
「……………」
「な、だから…そんなに深くかんが……」
「発!!」
何かが崩壊したように太公望の瞳から涙がぼろぼろと零れる。
あまつさえ、ここに居るのは心で思うただ一人の人間に似ているのだ。
「おわっ!!太公望…」
「発……発……」
子供が親に甘えるように発の身体に抱きつく。
その背中をあやす様に、発も抱きしめた。
(よく考えりゃ……こいつだってまだ子供なんだよな……なのに色んなこと背負い込んで……)
普段は道士として凛とした姿。
それが今は一人の幼い少女。
「泣くなよ、太公望」
「いつぞや、胸を貸すといった…ならば…今、貸してくれ……」
発の額に口付ける。
鼻筋、頬、そして口唇に。
発の衣服を一枚ずつ落としてくと、同じように発の手が太公望の寝衣を落とした。
「………!………」
蚯蚓腫れのような傷跡。魔家四将との戦の傷。
普通の男だったならば目を背けるであろう。
腫れあがった裂傷のあちらこちらが膿んで、巻かれた包帯に血が滲んでいる。
「痛かったろ?」
筋肉疲労で少し硬く、腫れた乳房。
ざっくりと裂かれた腹部。
「…っ……」
唇が傷に触れるたびに太公望は眉間に皺を寄せた。
指先が秘裂に触れて、撫でるように上下する。
逃げようとする腰を抱いて、舌先をそろそろと下げていく。
「!!」
舌を内部に侵入させて、軽く吸い上げた。
肉芽を嬲られ、太公望の身体が弓なりになる。
「あああっ…!…発…っ!!」
あぶれてくる体液を舌で掬い、尚も発は肉芽を攻める。
「…ひぅ…っ…い…ああっ…!!……」
軽い痙攣と共に、太公望の身体から力が抜けていく。
脚を割って、発は太公望の内部に己を沈める。
「んぅっ…!!」
最奥まで突かれたかと思えば浅いところでの注入。
「あああっ…いや…ぁ…っ!……」
付かれる度に体液が溢れる。
「…っ…きつ……」
締め付けてくる熱さと感触は街の女とは比べ物にならない。
(これって…俗にいう男を狂わす身体ってやつか?)
唇を割って指を咥えさせると、まるで愛撫するように舌を絡ませてきた。
親指を根元から舐め上げる小さな舌先はまるで娼婦のようで。
今ここで乱れるのが周の軍師だと、誰が信じようか。
「…んぅ……発……」
(可愛いよな……こーゆーとこって……)
「…呂望……」
耳朶に噛み付くと身体が震える。
太公望の弱点の一つ。
「あぁんっ!!」
奥深くまで繋がって、外聞も何もかも投げ打って。
「…呂望…っ……」
軍師とか、王族とか、そんなことも全部捨てて。
「…ああああっ!!!発……発……っ!!」
今は一組の雄と雌になろう。
きつく締められて白濁を内部に迸らせる。
胎の奥底、余すことなく太公望は受け入れた。





眠る姿はまだまだ本当に子供で、自分が何となく犯罪を犯したような気分にすら陥る。
実際は自分よりも遥かに年上で、機知に長け、それなりの力もある道士。
(なぁ、親父。俺はどーすりゃいーんだ?)
太公望は今も胸の奥、姫昌を思っている。
「……発?」
「起きたのか?」
身体を起こして、発のほうを見る。
膝を軽く立てる姿はそれはそれでどこか妖しげだ。
「髪……伸びたな」
「邪魔になってきたからのう……じきに切るよ」
「いや、そのままでいいと思うけどよ」
手にした黒髪に口付ける。
「発、わしが死んでも大丈夫か?」
「な…なんだよ急に」
「……聞いてみただけじゃ。気にするな」
少し震える肩。
少女は少し笑って、そして泣いた。
運命を甘受したはずなのに、どこかで何かが囁くのだ。
『なぜ、自分なのだ』と………。
想い人に似ているこの男は自分の弱さを抉り出す。
決して、他人に見せることのないはずの部分を。
「わしは死なんよ……おぬしが王になるのを見届けるまでは死ねん」
自分に言い聞かせるように、太公望は言葉を紡いだ。
「…俺もさ、呂望って呼んでもいいか?」
「……………」
「嫌だったら……」
「嫌ではないよ……発……」




どろどろとした情念は捨てたはずだった。
それなのに、抱かれるたびに思い出すのはなぜ?
ほしかったもの、あんなにおいかけたずだったのに。
いつも、この手からこぼれていくのは………
………どうして?





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