◆宮中孤軍◆



皇后の妹を人質に太公望は朝歌に降りる。
はじめてみるその凄惨な有様は思わず目を覆うほど。
石琵琶の貴人を抱え王宮の扉の前に。
「何用だ、子供」「いえ、皇后様に謁見を」
押し問答を聞きつけたわけでもなく、静かに扉は開く。
「あなたが太公望?」
「皇后……」

目の前にいるのは自分の家族を奪った女。
そして、自分が倒すべき女。
皇后が一歩進むたびに兵士たちはみな傅く。
「はじめして、太公望」
太公望はそっと膝を突く。
「こちらこそ、皇后陛下」
「李氏さまに会いたいのでしょう?わらわに付いてくるといいわ」


申公豹に聞いていたよりもずっと幼い容姿。
しかしながら、自分の忠実な配下とそしてーーーーーー
妹を討ち取った導師。
油断はならない。同じ策士。
静かに背後を歩く少女に皇后は策を巡らせた。
「李氏様、太公望という導師が来ておりますわ」
殷王李氏はそう言われ、太公望のほうを見る。
「ほぅ…これは…」
皇后までは行かないが後宮の女たちよりもずっと整った顔立ち。
知性と同居するあどけなさに李氏は目を奪われた。
「太公望というのか?」
「はい、李氏様」
「望みはなんだ?」
「ここに珍しい石琵琶が御座います。なんでも妖怪が宿っているようなのです」
太公望は流々と石琵琶の話をする。
その声と話の面白さに李氏は吸い込まれていく。
「わたくしを李氏様の下で働かせていただきたいのです」
宮中に太公望がいるのならば皇后の目を盗むこともできる。
李氏は快諾する。
「宮廷音楽家として…ここにおいてくださいませ」
しっとりと見つめられ、引ける様な男はいないだろう。
そう、太公望は好色な李氏の弱点を突いたのだ。かつて皇后がしたように。
それは皮肉にも申公豹に抱かれたからこそ、得たことでもあった。


与えられた一室には必要最低限のものは揃っていた。
「御主人、うまく行ったっすね」
「スープー、まだまだやることがたくさんありすぎる。皇后はわしを…泳がせるだろう」
太公望とて、馬鹿ではない。
皇后の裏をかかなければ確実に自分が死ぬことを知っている。
入り込むのは簡単だ。だが、宮中には誰一人仲間はいない。
「今夜は寝るとしよう、スープー。明日のことは明日考えよう」
寝巻きに着替え、褥に入る。
窓の外から漏れる月明かりはいつもと変わらない。

うとうとと眠りについて半刻ほど過ぎた頃。
「…太公望」
「!」
口を押さえられ声が塞がれる。
「申公豹、何しにきた」
四不象を起こさないような小声。
「私は宮中の客ですからね。ここにいてもおかしくはないでしょう?」
にこにこと笑う。
「ならば自分の部屋に戻ればよい。わしは眠いのじゃ」
布団を被り直すと太公望は申公豹に背を向ける。
「おや、冷たいですね。あんなに愛し合ったのに」
「なっ…あれは勝負の時の約束を守っただけじゃ!」
「大きな声を出すと四不象が起きてしまいますよ?」
太公望を組み敷き、申公豹は不適に笑う。
この状況を他に解釈できるほど四不象は愚鈍ではない。
「なんのつもりじゃ」
「あなたに皇后のことを話そうと思いまして」
「ならば、茶を酌み交わしながらでもいいのではないのか」
「ただでは教えられませんよ、太公望」
耳元に息を掛けられ身を捩る。
「なんの情報もなしに動けるほどここは甘いところではありませんよ…彼女は
千年以上生きてますからね……仙気もあなたではかなわないでしょう」
そう言いながら寝巻きの紐を解いていく。
「あなたにあってから人恋しいと思うようになったのですよ」
手をとり、自分の着衣に掛けさせる。
そして、脱がせるように、そっと促す。
「私の寂しさを埋めてくれませんか?代償としてあなたに悪い情報は与えませんよ」
これは取引だと太公望は自分に言い聞かせる。
仙道が肉欲に溺れるなど醜聞にもできないことだ。
「……皇后は……」
「後でゆっくりと教えてあげますよ…」


月光の下の肢体は劣情を誘うには十分すぎる代物。
二つの体が絡みあう。
しかし、違うのは今度は決して声を上げることができないということ。
いくら勝手知ったる四不象でも、己の痴態を晒すことは出来ない。
「…どこまで耐えられますかね、太公望」
首筋から舌を這わせ、浮き出ている鎖骨を軽く噛む。
「…んっ…っ…」
初めてのあの夜よりもずっと鋭敏になった身体。
攻め立てる男の指をしっかりと絡めとろうと妖しく締め舐る。
「随分と、濡れる様になりましたね…呂望…」
開発したのは自分だと、申公豹は心で呟く。
言えば太公望は烈火の如く怒るのが想像に容易い。
(それはそれで楽しいのですが…あまり虐め過ぎても可愛そうですしね…)
唇を噛みすぎて、滲む赤い雫。
それを舌で舐め取り、歯列を割って舌を絡ませる。
まるで別の生き物のようにお互いを貪り合う。
(まぁ、彼女には見えてるんでしょうね…私のこんな行動さえも)
忘れるように申公豹は太公望の身体を愛撫する。
何度か抱いた体とはいえ、まだまだ未開発なものだ。
「呂望…口を開けてください…」
自分の指を咥えさせると太公望は強く吸い上げてくる。
声の代わりに。
(なら、見せつけてあげますよ。人間の営みを…妖怪には無い、行為を…)
太公望に気づかれないように申公豹は笑う。
くちゃくちゃと音を上げる秘部を攻める指。
そのたびに太公望は強く指を吸う。
上気した顔。とろんとした目。
口腔を弄ぶ指を引き抜くと、申公豹は己の分身を太公望の中に予告無く埋め込んだ。
「!!!!!」
必死に声を殺す。
二人分の重みを受けた褥がぎしぎしと音を立てる。
「…ひ…ぅ…!…」
塞ぎきれず漏れる声。
「…呂望…気持ちいいのなら、声を出してもいいのですよ?」
ぶんぶんと首を横に振る。
そんなことになれば傍で熟睡している四不象が起きてしまう。
申公豹が動くたびに結合した部分が音を立てる。
声を出せない太公望の代わりとばかりに。
「…ん…くぅ…ふ……っ…」
今、自分に抱かれているのは仙人でも道士でもない、一人の少女。
たった一人で宮中に乗り込み、女狐を探す。
「…し…申公豹…っ……」
荒い息。爛れた感情。熟れた月。
人間はどんなものにでも欲情を感じる業の生き物。
「…呂望……」
耳に舌を挿し込み、息をかける。
太公望の最大の弱点だ。
「あぁっ!!!」
それに合わせて動きを早める。
「ひぁっ…や…あ…っ!!」
身体は感情とは裏腹に「もっと」と男を求め、締め付ける。
答えるように突き上げ、胎の底を目指す。
「…っ…呂望……」
「…!!…ああああああっ…!!!!」
受け止めきれずに零れる体液が腿を伝う。
どろりとした感触に太公望は呻いた。
「…呂望…?」
「スープーは……?」
ぼんやりとした瞳。
それでも気にかかるのは四不象のことらしい。
これには申公豹も少しばかり面白くない。
「四不象なら朝まで起きませんよ」
「?」
「あなたがいない間に一服盛りましたからね」
「なっ!!」
「でも、よかったでしょう?いつ起きられるかとどきどきして…」
「騙したな!申公豹!」
「言わなかっただけです」
怒り心頭の太公望を宥めすかして、申公豹は皇后のことを話し始めた。
皇后は狐の妖怪仙人。
体中を覆う宝貝。
宮中には人間形態の妖怪仙人がそこかしこに配置されている。
まさに、宮中孤軍の状態だ。
「ううむ…さすがのわしでも動きが取れぬのう…どうしたものか…」
身体を起こし、月を見上げる。
(父上、母上、兄弟たち…)
全てを奪った憎き女。
「呂望?」
「申公豹…」
「なんです?」
「人恋しいというのはなぜ生まれる?」
5000年前から月は人の営みを、命の繰り返しを見てきた。
そして今も素知らぬふりをしながら、自分たちを照らしている。
「父も、母も、兄弟も、一族も…皇后に殺された」
「………」
「この気持ちは…なんなのじゃうな…」
長い睫が憂いを帯びる。
「寂しいという、気持ちですよ…呂望」
「そうか…」
後ろから抱きすくめられて胸元に回る手に、自分のそれを重ねる。
「あなたに会うまで私も…自分にこんな気持ちがあるとは思いませんでしたよ」
「………」
「私も寂しいのです。あなたと同じように」
「…いずれわしはお前を討つ」
「楽しみにしてますよ。あなたが私を殺しに来る日を」


夜明け前に申公豹は宮中の自室へと戻っていった。
この国は少し壊れている。
そして、おそらくは自分も。
「んん〜〜〜、よく寝たっす!御主人、おはようっす!」
「おはよう、スープー」
「御主人、なんか朝から色っぽいっすね〜」
「な…なに言うかスープー。わしはそういう冗談は好かん」
道衣に身を包み、宮中を散策する。
朝の光がまぶしい。
「どこに行くっすか?」
「この国の武成王に会いに行くのじゃよ、スープー」
太公望の横を、四不象はふわふわと飛んでいる。
「御主人、虫にでも刺されたっすか?」
「虫?」
「ここんとこっすよ」
首筋を突付かれ、思わず夕べのことを思い出してしまう。
「ああ…確かに虫じゃな。しつこい虫がおるのだよ」
太公望は笑う。

朝日が、一日の始まりを告げていた。



             BACK



Gポイントポイ活 Amazon Yahoo 楽天

無料ホームページ 楽天モバイル[UNLIMITが今なら1円] 海外格安航空券 海外旅行保険が無料!