◆残像◆







音も無く、光も無い世界。ただ、一人でぼんやりと瞳を開ける。
瞬きをするたびに変わる世界の破片。
(音も光も、時間の概念もない世界……これが死なのか……?)
ただ、その目を閉じて胎児のように身体を抱く。
閉鎖された空間で、彼女は意識をそっと手離した。






宮中を歩く一人の少女。
姜族の頭領の娘としてこの禁城へ連れてこられたその姿。
「紂王陛下、あれが姜族が和睦のために差し出してきた娘で御座います」
「ほう……なかなかに美しいではないか。まぁ、姜妃ほどではないがな」
賢君といわれる紂王の唯一の欠点は好色。
和睦という名目で美女を後宮に呼び込むのが彼の楽しみの一つだった。
「まだ、十二だそうです」
「ほう……ならその初物。近いうちに味わわせてもらうとするか。準備だけしておけ」
娘の名は呂望。
先日十二になったばかりだった。
一族の命運を背負って禁城に入ってきた哀れな子供。
同じように幼くして後宮入りさせられた娘たちが遠くからちらちらとこちらに視線を投げてくる。
後宮入りしても、一生紂王に触れられることなく終わるものも居る。
途中で気まぐれに帰される事もあるが、彼女にそれは期待できなかった。
結い上げた黒髪。後れ毛が幼いうなじに艶かしい。
育てば確実に傾国の美女になるのは誰の眼から見ても明らかだった。
「こんにちは。あなたもここに?」
「はい……和睦の証として」
鈴を転がしたような声が二人。
真白な指先が彼女の頬に触れる。
「私も、この後宮に住まうものです。あなたの教育係になります」
灰白の髪の少女の頭上には官僚であることの証明の冠。
「こちらへ。お部屋に案内しますね」
その手を引いて、ゆっくりと歩き出す。
「あの、あなたは……」
「普賢娘々とでも及びください。姜族頭領のご息女……望さま」
この地には存在し得ないはずの灰白の髪と瞳。
普賢と名乗る少女は酔狂な紂王に貢物として差し出された少女だった。
彼女も同じように一族の命運を背負って後宮に身を置いていた。
ただ、違ったのはその才覚ゆえに後宮を管理する官僚としての地位を得たこと。
そして、紂王の好みにはそぐわなかったという事だった。
「私は……これからどうなるのですか?」
「紂王陛下には正妃がいらっしゃいます。運がよければ第二妃か三妃になれるかもしれません。くれぐれも褥の
 中では陛下に抵抗はなさらない様に……あなたの動きが姜族の存亡に関わるのですから」
くすくすと笑いながら、案内された室内。
小奇麗で遊牧の民の姜族には縁の無いようなものだった。
数え切れないほどの衣類と、宝石。
それは全て彼女を飾り立てるものだ。
「ここで、これからあなたは暮らすことになります。要望は私に。可能な限りに対応いたします」
「その……普賢」
「どうかなさいましたか?望さま?」
「私のことも、望と呼んで……私、友達がここには居ないから」
おびえた羊のように、縋る瞳。
「じゃあ、望ちゃん」
嬉しそうに綻ぶ顔。
ぱたんと閉じる扉。それは外界との遮断を表していた。





翌日から、後宮での生活と教育が始まった。
王室での立ち振る舞い、後宮の在り方、そして、夜伽の心構え。
男性経験などまったく無い呂望にとってはそれは恐怖にも似ていた。
「私も、紂王様とそのようなことをしなければならないのですか?」
「……多分ね。望ちゃんは陛下の好みの容姿だから……」
困ったものだと普賢はため息をつく。
「普賢も紂王様と?」
彼女は静かに首を横に振る。
忌み嫌われる灰白の髪は結果として紂王をも退けることなり、彼女を守った。
美女とはいえ、呪いが掛かるといわれればさすがの紂王でも彼女を抱く気にはなれなかったのだ。
「じゃあ、そこに横になって」
言われるままに、寝台に身体を横たえる。
「力を抜いて」
そっと重なってくる柔らかい唇。
それは彼女にとって初めての接吻だった。
「!!」
歯列を割って絡んでくる舌先。
逃げようにも優しく頭を押さえられて、逃げられない。
「……私の役目は……望ちゃんに夜伽を教えることもはいってるから……」
袷を解いて、膨らみ始めた乳房に唇を這わせる。
後宮に入るもので、明らかにその知識が無いものに対する教育係。
それが彼女の役目だった。
「や……ッ…!!」
初めて触れる他人の身体。それも同性にされるなどとは考えてもみなかった。
小さな乳首をぴちゃ…と舐め上げられ、擽ったそうに身をよじる。
そのまま舌先は柔らかな腹部を舐めて、幼い秘裂へと。
「あ!!やだッ!!そんな所……!!」
「慣れて……でないと辛いのは望ちゃんだから……」
柔らかい腿の内側を噛んで、舌先は入口をゆっくりと上下する。
初めて味わう奇妙な感覚に呂望は頭を振った。
細い指先が肉芽を剥いて、薄い唇がそれに接吻する。
びりびりとした感覚にぎゅっと敷布を握る指。
「あ、や……ぁ…ッ…!!」
ぴちゃぴちゃと舐め上げる音と、慣れてきた体がこぼすぬるりとした体液。
かりり、と噛まれてびくんと弓なりに小さな身体が反れる。
「でも、気持ち良いでしょう?それが女の身体だから……」
休まることなく、舌と唇は敏感になった突起を攻め上げていく。
ちゅる…と吸い上げる度に上がる嬌声。
「やだ、やだ!止めて、普賢……ッ!!」
「どうして?もっとして欲しいでしょう?だって……」
濡れた入口に指を添わせて、優しく内側に滑り込ませる。
「こんなに濡れてるから……もっとして欲しいって言ってる……」
唇を重ねて、互いの呼吸を貪りあう。
慣れた動きで指先は、彼女を傷つけないようにしながらゆっくりと追い込んでいく。
幼い手を取って、普賢は自分の乳房へとそれを導いた。
「他人に触られるとね、女の子の身体はこんな風になるの」
自分よりも大きく、柔らかい乳房。
そのまま指先は下げられて、同じように濡れた入口へと。
「気持ち良いって思えば……こうなるの。ちゃんと覚えて」
そのまま指先を内側に入り込ませる。
「熱いでしょ?望ちゃんの中も同じ……」
「私も……?」
「そう。触ってみて」
その手を彼女自身の中へとそっと滑らせる。
「こうならないとね、男の人を受け入れるのが辛いから。ちゃんと気持ち良いって思えないと、こんなに風に
 なれないの……」
そのまま呂望の腿を自分の腿で跨ぐようにして、普賢は衣服を落とす。
「本当は、ここまではしなくても良いんだけれど」
互いの濡れた秘所が、ちゅぷ…と擦りあい濡れた音を室内に響かせる。
「教えてあげる……女同士でしか分からないことも」
ぢゅく…じゅぷ…腰を進めて擦りあうたびにそこからは愛液同士が絡みあう音。
その度に呂望は小さな肩を震わせて嬌声を上げた。
「あ、あッ!!……んんぅ!!」
半開きの唇からこぼれる涎を舐めとる小さな舌先。
重なった部分が熱くて、ぬるつく感覚が呂望の意識をじんわりと支配していく。
こぼれた体液が混ざり合って違いの中へと入り込む。
甘さと、熱さ。
柔らかい体を絡ませて、雌猫のように腰を動かす。
「……っは……ああッ!!」
「気持ち良いでしょ?こうされると……」
絡まる舌先に、同じように応える。
「そう……上手だね」
細い指が背中を滑って、小さな臀部を優しく揉み抱く。
愛液は溢れて後ろの窄まりまで濡らすほど。
それを確かめて、普賢はゆっくりと指先を忍び込ませる。
「!!」
「力を抜いてて。いい子だから……」
その間にも何度も腰を進められて、濡れそぼった秘所と突起が擦りあう。
「あ、ああッ!!!や、やだ……そんなとこ…ッ!!」
ぽろぽろとこぼれる涙。
二つの乳房が重なって触れ合う。
敏感になった乳首が触れ合うだけで、幼い身体は追い込まれていく。
「でも、気持ち良いでしょ?望ちゃん……」
くちゅ…と指先が動くたびに、きゅんと締め付けてくる肉。
どこから犯されるか分からない後宮住まいの女の身分。
「……ンッ!!ああんッ!!」
かり。と乳首を噛まれてあられもなく濡れる秘部。
溢れて止まらない体液は敷布に沈んで染みを作っていく。
「今……イかせてあげるからね……」
腰の動きが加速して、後ろにくわえ込ませた指もより奥へと入り込む。
「あああああッッッ!!!!」
初めて味わう甘く長い絶頂に、呂望は静かに意識を手離した。




欄干に凭れて煙草を口にしながらちらつき始めた星を見上げる。
「普賢、また新しい子が後宮に入ったんだろ?」
「うん。教育係として忙しくなってる」
煙を吐き出して、自嘲気味に笑う。
「もう……やだ。こんな仕事……」
呂望のみならず、幾人もの少女に彼女は後宮の教育を施してきた。
煙草を口にしはじめたのは教育係になってから。
消毒だと小さく笑って、二本目に火をつける。
「おいで」
官僚の一人に手を取られて、彼女は闇の中に消える。
紂王が触れることの無かった身体は、他の男によって開花させられた。
その結果、教育もより高度になったために、二人の間柄は公然の秘密として処理される。
数ある後宮の美女。その中の一人が減ってもそう差はない。
ましてそれが呪われていると称される少女ならば渡りに船だった。
表立ったところでは目線すら交わさない関係。
「…ん……やだ…ぁ……」
「もうこんなに濡れてるのに?」
「……さっきまで、指導してたから……」
男の指を咥え込んで、とろとろとこぼれる体液。
「それだけじゃないだろ?好きなクセに」
「あ!!やんッ!!」
男の腰を跨いで、促されるままにゆっくりと腰を落としていく。
「あ!!!あ……っは…んんッ!!!」
じゅく…じゅぷ…と打ち付けられるたびに響く音。
貫かれて知る快感。
奥を打たれて痺れるような感覚は、才ある彼女ですら虜にした。
(望ちゃん……君も同じように思うのかもしれない……)
細い腰を抱く、無骨な手。
「あンッ!!!…っは……あ!!!」
咥え込んだ濡れたそこに、無理やりに指を入り込ませる。
「やだ……抜いて…ッ!!!そんなの……ッ!!」
いやいやと首を横に振る。
「でも、イイだろ?」
とろりと溢れる体液は、指も一緒に飲み込んでしまう。
「あ、ああぅ…!!!でも……あ!!!」
ぷるぷると揺れる乳房。
(でも、哀しいね……これが女の性……)
腰を振る数を数えて、悪戯に自分を被虐してみても逃れられない性。
「ああああっっ!!!」
びくんと揺れる身体が男を絞り上げる。
注ぎ込まれる感触にこぼれたのは小さな涙。
同じように哀しい運命を抱きながら少女は熱い身体を自分で抱きしめた。




「今夜、ですか?」
紂王直属の官僚に呼び止められ、普賢は眉を寄せた。
呂望はまだ十二になったばかり。
いくら教育を施されてはいるとはいえ、男を受け入れるにはまだ幼すぎる。
「紂王様からだ」
「……分かりました」
踵を返して回廊を歩く姿。
男はその手を取って引き止める。
「……俺だってこんな仕事は嫌だ。お前が嫌だと思うように」
「あなたは、男だから私たちの気持ちなんて分からない……どれだけ恐いかなんて……」
「それでも、命令だ。拒めばあの子の一族にも……」
「だから、嫌なの。分かってるから……分かりすぎてるから……」
そっと手を解いて、ゆっくりと振り返る。
「続きは夜にでも話しましょう」
その手を自分の胸に。
「あなたが同じように痛むというのならば」
「ああ………」
するりと抜け出して彼女は呂望の部屋へと向かった。
そっと扉を叩いて中へと入る。
「望ちゃん」
「普賢。あのね。これ見て……さっき作ってみたの」
小さなガラスに穴の空いたものを連鎖にして糸に通して作られた首飾り。
「普賢にあげたくて」
「ありがとう。嬉しいな」
彼女に映えるようにと、官僚の一人に頼んで手に入れた西洋渡りの碧色の硝子球。
「望ちゃん、今夜……紂王様のお部屋に行くことになったよ」
「え……」
「くれぐれも、紂王様に逆らうようなことはしないでね」
眼に涙を溜めて呂望は普賢にしがみ付く。
小さな肩が震えて、布越しに彼女の恐怖が伝わってくる。
「……普賢、私……恐い…っ…」
頭では理解していても、男に抱かれるのだと思えば恐怖が湧き上がって来る。
「望ちゃん、恐がらないで……大丈夫、何度も練習したでしょう?」
身体が覚えたのは優しく甘い女の指先と舌使い。
蕩けるような快感は幼い身体をうずかせるには十分だった。
「ね、恐がらなくていいから」
そっと重なる甘い唇。
自分が知っているのはこの唇なのだ。
浴室に手を引かれ、丹念に全身を洗われる。
胸も、背も、幼い秘所も余すことなく細く白い指が確かめるように洗い清めていった。
髪には甘い香油を吸わせ、肌にはきらめく粉を。
薄絹の夜着の結び目は触れるだけで解ける様に。
小さな手を男に渡し、普賢はそっと来た道を戻っていく。
その背を見送りながら覚えた不安を打ち消そうと首を振る。
「あれは、優しい女だ。君の事を心配していた」
「……………」
「困ったことがあったら、何でも言ってくれ」
手を引かれて通された寝室。
そこから先は一人で進まなければならない。
一歩一歩、震える気持ちを叱咤しながら彼女は寝台のほうへと向かった。
「紂王陛下……呂望で御座います……」
深々と頭を下げて、彼女はいわれるままに寝台にその身を置く。
触れて来る男の唇に目を閉じて、教えられたことを反芻する。
「余が、恐いか?」
「いいえ……私にとっては陛下が最初の御方で御座います……」
這うように動く舌先。
教えられたものとは違う感触に幼い肢体が震える。
膨らみ始めた乳房をやんわりと揉まれ、走る痛みにぎゅっと閉じる瞳。
「あ!!っは……」
脚を開かせて、舐めるように幼い秘裂を男は見つめた。
誰もまだ知ることの無いその花芯。
柔らかな恥丘に申し訳程度の茂み。
女になる手前の少女の身体。
くちゅり、と指先で開かれて桃色の柔肉を舌が嬲っていく。
内壁を吸い上げるように唇が動き、その度に呂望は唇を噛んでぎゅっと敷布を握り締めた。
意思とは裏腹に教え込まれた身体は従順に反応して、とろとろと愛液が腿を伝う。
「……っふ……ぅ…ッ…!!」
親指で唇を拭って顎を取られる。
男と交わす初めての接吻は、生臭くどことなく血の混ざった味がした。
「余にも、同じ事を」
促されてそそりたつ男のそれに手を掛ける。
たどたどしく触れる小さな舌の赤さ。
息の詰まりそうな男特有の匂いに呂望は目を閉じた。
下から上に丹念に為上げて、時折その先端を甘く吸い上げる。
太茎にやんわりと歯を立てて、その下の二つの袋を擦り合わせるように揉む。
「――――ッ…、もっと奥まで……」
ぐい、と頭を押されて喉の奥までくわえ込ませられ咳き込みそうになるのを必死に堪える。
吐き出しそうな感覚と、息苦しさ。
拒めば一族は滅亡する。幼い身体に全てを背負ってここに来たのだ。
ちゅる…ぴちゃ…舌と唇が触れる音が響く。
ちゅぷ、と吸い上げると予告も無く男の体液が口中へと吐き出された。
生臭くどろりとしたそれをぎゅっと目を瞑って喉の奥へと押し込み、吐き気を堪える。
「…っは……かはっ……」
それでも完全に押さえきれずに、こぼれる咳。
白濁に濡れたそれはもう出す前と同じようにそそり立っている。
今からそれに貫かれるのだ―――――。
(いや……あんなの入らない……っ……)
恐怖に竦む四肢。少女のみならず、女を竦ませるには十分すぎるその大きさ。
「あ……ああ……ッ……」
くちゅ…と押し当てられて、引き裂くように入り込んでくる。
「!!!!!!!」
割けるような感覚と、貫かれる痛みが前進を走って行く。
ずきずきと痛み結合箇所からは濡れた体液と混ざった破瓜の涙。
散らされて、女であることを知らされる儀式。
悲鳴は唇を噛んで殺した。
男の肌に傷をつけてしまわないように、ぎゅっと握った手からは食い込んだ爪で血が流れていた。
(いや……父様……母様……助けて……ッ…)
脳裏に過ぎるのは送り出してくれた父母と一族の顔。
こぼれる涙は堪えられずに、敷布へと沈んでいく。
抉るような男の動きに、幼い腰がぎりぎりと悲鳴を上げる。
「良い体だ……望……気に入ったぞ……」
じゅく、じゅぷ、と腰を打ちつけられるたびに淫猥な音が耳を支配していく。
「あ!!ああああっっんんん!!!!」
経血も迎えた事の無い子宮にそそがれる男の体液。
受け止めきれずにこぼれたそれは、血と混ざり合い薄桃色になって彼女の白い腿を汚していった。




同じころ、もう一人の少女はいつものように咥え煙草で欄干に肘を置いて空を見つめていた。
月も光も無い、闇だけの新月の夜。
「普賢」
「触んないで。そんな気じゃない」
「俺もだ。こんな思いになったのは久しぶりだよ」
女の口から煙草をとって、男も同じように口にする。
「……帰りたいな……父様と、母様の所に……」
涙がこぼれないように上を向いて。
小さく小さく、彼女は呟いた。
それはこの後宮に幽閉された少女全ての気持ち。
ただ、抱かれて朽ちて行くだけの運命。
「無理だって、分かってるけれども」
二本目に火を点けて、深く吸い込む。
「お互い良い死に方は出来ないね」
「そうだな」
痛む胸と、持て余す身体。
後宮という名の牢獄は出ることの出来ない閉鎖された空間。
重なったため息が二つ、闇に溶けていった。






痛む下腹部と隣で眠る男の寝息。
そっと腿に触れ見れば血と混ざり合った男のそれがこびり付いていた。
(ああ……私……)
ぽろぽろとこぼれる涙。
この先ずっとこの男に蹂躙されて行くのが自分の運命なのだと彼女は悟った。
重い身体を引きずって置かれた姿見の鏡に全身を映す。
酷く疲れた顔と、犯されて腫れた肢体。
『これがわらわのいない世界……あなたの望んだ平和な世界よ……』
耳に響く、女の甘い声。
「…妲……己……」
鏡の中に浮かぶ姿。
『でも、この世界でも可哀相ね……太公望ちゃん……』
無い筈の何かを手にしようと、彼女は自分の腰に手を当てる。
(そうだ……わしの名前は……太公望……崑崙の道士……)
その瞬間に今までいたはずの部屋が一瞬にして変わっていく。
『わらわを倒すんでしょう?ほら……』
伸びてくる手。
逃がすまいとその手を掴む。
「!!」
手には壊れたはずの打神鞭。
ゆっくりと身体を起こして、空気を吸い込む。
「お師匠様!!!」
「……武吉」
半泣きの顔で抱きついてくる愛弟子の頭を撫でる。
「師叔」
「ヨウゼン……」
振り向くと、破けた道衣からこぼれる乳房。
自分の上着を差し出すと、頬を染めながら彼女はそれを着込んだ。
『太公望』
低く沈む声に、太公望は首を傾げる。
「スープー……!?」
ヨウゼンと四不象の簡単な説明に彼女はため息をついた。
「そんなことがあったのか……さて、スープーよ」
道衣の金具をきゅっと締めて太公望は天を仰ぐ。
「上に行くぞ。全てを終わらせるのじゃ」
見上げた空はこんなにも青く、美しい。
(迷いはもうない……わしは今この世界に生きているのだから……)
閉じた瞳をゆっくりと開く。
「さぁ、行こうぞ」








                     BACK





楽天モバイル[UNLIMITが今なら1円] ECナビでポインと Yahoo 楽天 LINEがデータ消費ゼロで月額500円〜!


無料ホームページ 無料のクレジットカード 海外格安航空券 解約手数料0円【あしたでんき】 海外旅行保険が無料! 海外ホテル