「ねぇ、ヨウゼンたらなんであんな一方的にやられてたのよ」
蝉玉が大公望に詰め寄る。
「おそらくヨウゼンは幻術にでも掛かったのだ。あの光を受けてから」
宝剣を構え、天化が前に進む。
「今ならこの膜……破れそうさ」
「頼む。ヨウゼンの様子がおかしいからのう」
腕組みをしながら大公望はヨウゼンの背中を見つめた。
宝剣が膜を裂くとまるで女の叫びのような音が上がる。
「気持ち悪っ……」
思わず蝉玉は耳を塞いだ。
何もなかったように大公望は前に進み、ヨウゼンの腕を取った。
「ヨウゼン、そうびびらせるでない……そやつはわしの元同僚だ」
「師叔……」
「おぬし、宮廷画家の楊任ではないか?」
大公望は宮廷音楽家。鮮やかな手つきで石琵琶の貴人を掻き鳴らしていた。
部門は違えども、一時は同じように仕えた身。
「いかにも……」
「それに、好きで戦っているわけでもなさそうじゃ。おぬしは妲己ではなく趙公明に仕えておるのだろう?」
楊任の話を聞きながら大公望は辺りを窺う。
巨大な砂時計の中、方まで埋まった姫発の姿。
「天化」
「はいよ」
宝剣を一振り。がちんと音を立てて硝子が割れる。
「死ぬかと思ったぜ……」
ざらざらと砂を蒔きながら発は太公望に駆け寄った。
砂にまみれた頭髪を指で摩って、無事を確かめる。
「ヨウゼン、発を連れて行ってくれ。ここは人間には危険すぎる」
「ええ……そうですね……」
少し疲れたような表情と疲労感。
「ヨウゼン、おぬしらしくないのう。どうかしたのか?」
「……口も悪いし、気も強いけれども……」
「ヨウゼン?」
「やっぱり……本物のあなたがいいです。僕は」
小さく首をかしげて大公望はヨウゼンを見つめた。
「何が言いたいのだ」
「気をつけて、師叔。敵は予想以上に危険ですよ」
発を哮天犬に乗せてヨウゼンは太公望の方をもう一度見た。
「しばらくこれは借りてていいですか?」
「構わんよ」
「すぐに戻ります。天化くん、それまで師叔を頼みましたよ」



宝剣が壁を砕き、現れた二階への道。
「太公望、私を封神しないのか?」
「かつての同僚に無礼はできんよ。それに……好きで戦っておったのでもないのだろう?」
振り返らずに、小さな背中は闇に消えとうとする。
「なら、その命を無駄にすることは無い。楊任、おぬしの道はおぬしが決めよ」
かつんかつんと靴を鳴らして、三人は進み行く。
「なんで敵をやらないさ、師叔」
「無駄な犠牲はだしたくない。これがわしのやり方じゃ」
階段を一段ずつ、登って。
「妲己と同じことをわしにしろというのか?天化」
自分を待つ者の元へ。
「生きることは死ぬよりも辛いことじゃ」
力無き正義は正義には成らず、有りすぎることもまた正義にはならない。
「生き抜くことが使命ならばそうするしかあるまい。天化」
「そう……さね。難しいことは苦手だけど、なんとなくなら分かるさ」
「最後まで生き抜いて、それから死ねばよい」
「…………」
自分一人が生き延びてしまった過去。それは本当に正しかったのだろうか。
繰り返す疑問符は消えることを知らず、毎晩この身を苛む。
「さぁいくぞ。スープーが待っておる」
伸ばした手を掴んで。
「待つさ、師叔!!」
前へ、前へ。

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