◆苺◆




背中に感じる体温と自分を抱く腕の優しさで目を覚ます。
「……ん……もう、朝……?」
前髪をたくし上げて、普賢は身体を起こす。
まだ少しだけ朝は遠くて、空は紫と薄紅の混ざり合った色合いだ。
「……起きたのか?寒いだろ……おいで」
「うん……でも空が綺麗な色……」
くしゃくしゃと頭を撫でてくる手に目を閉じる。
小さく腕を伸ばして、そっと窓を開く。春は暖かくも残酷な季節だと男は笑うのだ。






庭先に咲く木蓮を一枝切り、花瓶に挿す。
花を育てるのは苦手だと道徳真君は言うが、眺めるのは好きなのかその光景に目を細める。
正確には花ではなく、その花に触れる恋人の姿。
「青峯山でだって、こんなに綺麗な花が咲くのに」
「俺の専門外だ。それに女の弟子なんて取ったことも無いしな」
ゆるりと着込んだ長衣。茜色の羽衣を絡ませて普賢は道徳の隣に座った。
互いに普段の道衣とは違い、くつろげるようにとした服装。
「でも、誰かは来たでしょう?」
それは他意もなにもない言葉だった。
自分が知らない長い時間。その間に誰かとの恋があってもおかしくはないのだから。
「まぁ……それなりには…けど時効だろ?」
膝の上に乗せれば、じっと見つめてくる大きな瞳。
銀の月を写し取ったその色は、彼女を構成する大切な色素。
忌み嫌われる色も、彼にとってはこの上なく美しい色なのだから。
「木蓮も、花水木も……そんなに難しいものじゃないよ」
「手入れなんか出来ないほうが良いんだ。だって、余計なことが出来なきゃお前がここに来るのが
 増えるだろ?花は見るのは好きだし」
料理、洗濯、掃除といったいわゆる家事ごとの雑事は道徳真君にとっては苦手とする分野だ。
三日も逢わずに置けば洞府は荒れ放題。
飽きれながらも恋人はあれこれと自分の身の回りのことをしてくれるのだ。
「そうなのかなぁ……でも、道徳ちょっとだらしないとこあるもの。玉鼎とかちゃんとしてるよ?」
「……あれは昔からあーゆーことが好きなんだよ」
細い背中を抱き寄せて、じゃれあうように唇を重ねる。
長椅子に寝そべって、自分の上に恋人を乗せた状態だ。
そのまま手を滑らせて腰を締め付ける細帯をぱらり、と解く。
耳に、首に。揺れる飾り。
「こんな時間から……ダメ……」
上着の組みひもに手をかけて、言葉は無視してそのまま脱がせていく。
白い肩口は、太陽の存在など知らないかのようにその色を誇示する。
前垂れの隙間から入り込む手は、そのまま下着の中に。
「……あ……っ…ダメ……ッ…」
片手はさわさわと小さな尻を触ってくる。
互いの衣類を落としながら、身体を絡ませていく。
ちゅ…と額に唇が触れてそのまま静かに下がってくる。
「…ん……あったかくて……気持ち良いよね……」
覆い被さってくる少しだけ幼さの残る身体を抱きしめながらその唇を受け止めた。
半裸の身体はどこかしら全裸よりも艶かしい。
抱きしめながら、そちらこちらを這い回る手に普賢の息が甘く変わる。
「そうだな。人肌って……あったかくて気持ちいいよな……」
背中の線をつ…となぞられてぎゅっと閉じられる瞼。
「いっつも……道徳はボクに意地悪をするよね……」
「そんなこと無いだろ?」
「たまに……ボクも意地悪なこと、しよっかな……」
男の手を取り上げて指を組ませる。
そのまま手首にちゅ…と接吻してその動きを封じた。
「おい……本気か?」
仙気で作られた糸は、やんわりと手首を締め上げる。
「時間はたっぷりあるし、たまにボクだって……君を追い詰めてみたい」






細い指先が男のそれにかかり、薄い唇が触れる。
飴でも舐めるかのように舌先は上下して、時折その先端を咥え込む。
ちゅるん、と吸っては離れる口唇。
「な、これ解いてくれよ」
「ダメ」
時折、太茎を嬲るように唇が挟み込む。
ぴちゃ…ちゅる…濡れた音と、そこに掛かる息の甘さが脊髄に直接流れ込むよう。
(……久々……こいつに舐められんの……っ……)
ほんのりと染まった頬と切なげに閉じられた瞳。
舌先が離れるとつ…と糸が繋ぐ。
悦楽とも拷問ともどれる時間は、半時ほど続いていた。
始めのうちは純粋に楽しめたが、流石の彼でもそろそろ我慢の限界に近い。
それでも普賢は一向にこの戒めを解こうとはしてくれないのだ。
「…っふ……ぅ……」
耳に入るのは甘えたような声。
小首を傾げながら舌先は遊ぶ様に追い込んでいく。
(……口ン中……出すわけにも行かないしな……)
あれこれと考えてはなんとか気をそらそうとする。
「……………………」
唇が離れて、指先も同時に離れて。
「!!??」
今度は柔らかい乳房をぐぐ、と寄せてそれを包み込んでいく。
(ちょっと待て!!!それはっ!!)
道徳の焦りなど知らずに、普賢は再び唇を使い始める。
「……詰まんない……かなぁ……?」
上目で見上げられれば、心拍数は倍になって緊張感さえ生まれてしまう有様。
(いやいやいや、全っっ然、詰まってる!!)
ぷるん、と乳房が離れて外気に晒される。
「な〜〜……もういいだろ?」
「だぁめ。いっつもボクに意地悪するでしょ?たまにはボクも……」
ごそごそと卓台の上の小篭から取り出したのは小さな瓶。
蓋を外して、中の液体をとろとろとこぼしていく。
「……ん……甘ぁい……」
(何かけたんだよ!お前……っ……!……)
ぷわん、と甘い香り。どうやら緩めの蜂蜜らしい。
ちゅぷん、と丹念に舐め上げてくる舌先。一滴もこぼさぬように唇が上下する。
忌々しい封印は解けず、荒い息と甘い声だけが響く室内。
「もういいだろ……?」
「……ん……」
よじ登る様にして、普賢は道徳の上に。
「どうしようかなぁ……」
灰白の目がくすくすと笑う。頬に手をかけて、鼻先に触れる唇。
(泣かす!!この喧嘩……買ってやろうじゃねぇか)
それでも、否応無しに身体は追い込まれて。彼女を泣かせたいと思っても、逆に自分が泣かされてる状態だ。
「俺の負け。いいだろ?もう……」
入り口に先端を当てて、ゆっくりと腰を下ろして行く。
ぬるぬるとした粘膜に包まれる感覚は、互いに待ちわびていたもの。
「んんんっっ!」
受け入れるだけで精一杯の小さな身体は、腰を動かす余裕など無く。
(って……動いてもらえると嬉しいんだけど……無理だよなぁ……)
腹筋に手をついて、浅く上下する腰。
その括れに手を添えて、追い込んで泣かせたくとも肝心の手は封じられているまま。
「あ…ぅん!!」
わずかに腰を振るだけでも、生まれる喘ぎと痺れ。
「な……頼むから解いてくれ……っ……」
ふるふると小さく振られる首が「ダメ」と囁く。
「焦らされるのは得意じゃないんだ。頼むから……」
喉元を舐め上げる舌と、そのまま下がって鎖骨に触れる唇。
普段自分がされていることをそのまま返しているだけなのに。
「……っ……普賢、ちょっと、待て……っ…」
かり…と鎖骨を噛まれて、飛びそうになる意識を繋ぎとめる。
(お前より先には……っ……)
絡まる舌先と、吸い合う唇。何度も何度も繰り返して。
内襞はきゅん、と絡みつき、うねるような感覚で締め付けてくる。
(遊びに付き合うのも……ここまででいいよな……?)
仙気を込めて手首の封印を解く。
その気になれば何時だって解けるように彼女は最初から策を講じていたのだ。
「あ!!」
ぐい!と引き寄せると、ぷるんと丸く柔らかな乳房が揺れる。
少しだけ上体を起こして、そのまま下から突き上げていく。
「きゃ…んっ!!あ!!ああっ!」
びくびくと震える肩と、開いた唇。端から零れる涎とそまった目尻。
ぐちゅ、ずぢゅ…体液の絡まる音は耳を刺激して自分の状況を知らしめる。
「……こっちまで、濡れるくらいこぼして……」
手をそろりと下げて溢れた愛液で濡れた後ろに指先をつぷ…と沈めていく。
「や!ダメ……ッ……」
前後から犯されて、喘ぎ声しか出せない。
「あ!!ああああっっ!!」
仰け反って崩れる身体を抱きしめる。それでも、まだ彼の心は満たさないまま。
(反撃させてもらいます……ってな。苛めるのは俺の特権だろ?普賢)
引き抜いて、普賢の身体を敷布に倒してそのまま繋ぎなおす。
身体を横倒しにさせて片足を担ぐ。いつもよりも奥まで貫かれて声さえも上がらない。
「…ひ……ぁ!!」
「さっき、たっぷり苛められたから……今度は俺が苛める番」
先刻に使われた薄蜜を普賢の鎖骨から腹部にかけて垂らしていく。
「あ!ダメッ!!」
くりゅ…と小さ目の乳首を捻り上げるとそれだけで締め付けはきつくなる。
舌先でそこを舐めれば牽制するように伸びてくる手。
(さっきの仕返し……するかな……)
両手を掴んで同じように封をする。
「やん!!解いて…ぇ……ッ!」
違うのは、その封を解けるのは道徳真君だけということ。
決して自力では解けない仙気の枷。
「ああっ!!」
薄蜜を指に絡めて、体液で濡れきった突起を擦り上げる。
「!!」
顎先をぺろ…と舐められて上がる嬌声。
「……道徳…っ……意地悪しないで…ぇ……」
ぼろぼろと零れる涙。それでももう少しだけ苛めたいと思ってしまうのが男心。
「ダメ。俺もさっき同じこといったろ?」
くちゅくちゅとそこを弄るたびに産まれる淫音。耳を塞ぐにも肝心の手は封じられたまま。
「あ!!っは……ああんっっ!!!」
「何回イケるか……試してみるか?」
耳元で囁く声。半分とろけた瞳がぼんやりと見上げてくる。
(うわ……そういう顔は反則だろ……)
何度も引き抜いては貫く。その度に甘く鳴く声とこぼれる吐息。
発情した身体が二つ。本能だけで感じるままに絡まって溶け合う。
「……あ!!そ…こ……ダメ…ぇ…!!」
指先が敏感になりすぎた突起に触れるたびに内側は容赦なく絡みつく。
「気持ちいいだろ?こうされると……」
開かせた口に、指を咥えさせる。従順に絡む舌先に、満足気に笑う唇。
腰を抱いて、今度は己の本能を満たすために突き動かしていく。
「あ!!ああんっ!!」
もどかしげに宙を掴む指先。
(解いて……やるか……)
その手首を取って、唇を当てる。その瞬間に解かれる封印。
「あ!!」
しがみつくように回される腕。抱き合って噛み合う様な接吻を重ねて。
「!!!!」
「――――――ッ!!」
騙しあいは互角の勝負。溢れた体液が腿を濡らした。




はぁはぁと荒い息は治まらないまま。
ぐったりとして目を閉じる普賢の背中を摩る大きな手。
「……夕方、なっちゃったな……」
「……うん……本当はもっと……」
「もっと?」
言い掛けて飲み込まれた言葉。
「……花の手入れとか、したかったの……」
宵闇の気配には逆らえないと、彼女は男に頬を寄せる。
「……花……か……」
身体を起こして、恋人と向き合う。花を愛でる彼女に取っておきの花を見せたいから。
「普賢。花、見に行こう。お前が好きそうなのがある」
「え……?」




手を引いて連れ出したのは竹林を抜けた小さな丘。
青峯山は他の場所よりも少しだけ星空に近い場所に位置する。
それぞれの洞府にそれぞれの特色。崑崙は数多の洞府で構築される山脈だ。
「ね、どこ行くの?」
「いいから。おいで」
手を繋いだまま、二人で見上げる星空。
「もう少しだから」
さわさわと青草が足を撫でる。その感触に普賢は目を閉じて道徳の肩にそっと凭れた。
程なくして流れ始める星たち。
「あ……」
まるで大輪の花のようにそれらが描く軌跡。
「な、綺麗な花だろ?」
恋人は時折、予想もつかないものを贈ってくれる。
きららと零れる星の瞬きは、年に一度だけ咲く光の華。
「うん……っ…」
「でも、俺は……」
両手で頬を包んで、重なる目線。
「こっちの花の方が好きだ。どの花よりも」
咲かせた花は銀色で、未だ盛りと咲き乱れるから。
「……馬鹿……」
「自覚してるよ」
広がる夜空に咲いた華。それよりも大事に育て上げた想いが、ここにあった。
まだ咲き誇るこの花を。
手放さぬように、枯らさぬ様に絶えず水(愛)を注ぐと決めたから。






抜けるような青空の下、今日も彼女は庭先に水をまく。
育てた花は実を付けて、季節の気配を運んでくる。
「今度は……何を育てようかな……」
あれこれと悩んで決めたのは季節外れの苺。
赤と緑の美しい均衡は自然が作り出した美貌の果実。
(苺で……道徳の好きなもの作ろうかな)
甘い甘い苺よりも、ずっと甘い恋は。
今も自分を掴んで離そうとはしない。
「普賢、何してるんだ?」
「苺でも作ろうかと思って。好きでしょ?」
「好きだよ。果物の中じゃ特に」
くすくすと笑う唇。
「ボクも、好き」
「桃のほうが好きなんじゃないのか?」
「苺も、あなたも。大好き」




甘い甘い恋の果実。
お気に召すままに。



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2:07 2004/05/22

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