◆四面楚歌チャーミング◆






「どうして玉鼎と道徳はいつも命がけの喧嘩をするのかな?」
恋人の腕に包帯を巻き終えて、丹薬を手にして少女はため息をついた。
八角形の瓶を開ければ中からは軟膏特有の薬臭が鼻を衝く。
園遊会のためにと新しい服を縫い上げていたところに聞こえてきた怒号音。
仕方なく外に出ればこの寒さのなか岩場を蹴りながら斬り合いをしている男二人の姿が目に入った。
面倒だからと理由を付けて遠隔操作の核融合を仕掛ける。
発動するまでのんびりと彼女は前垂に陰陽玉の刺繍を施していた。
「ほとんどお前の爆発……って!!」
頬の傷に触れる指先。
ぺたん、と小さく切った湿布を貼りつけて薬箱を閉じる。
「馬鹿なことしないで、道徳もちょっとは大人しくしてて」
ぱしん、と丹薬の入った小袋を投げつけて。
薬箱を抱えて普賢はそのまま扉を閉じてしまった。
(大人しくったって……普賢が一番危険じゃねぇか……核融合でどーん!!だし)
頬を擦りながら邸宅の中を歩けば、そこには縫いかけの冬服。
緋色と紫で染め上げた一枚着は、金具と革帯で前後を繋ぐ作りだ。
この中にもう一枚を着込む形が本来の姿だろう。
「普賢、この服面白いな」
「え?」
焼きあがった餅と摩り下ろした胡桃を携えて少女がのんびりと戻って来る。
甘い匂いとこんがりとした焼餅特有の香りが心地よい。
「染め方をちょっと変えたんだけどね、こっから紫に変わるように」
「着てみてくれよ」
「後でね。お餅焼いたからあったかいうちに食べて」
胡桃、黄粉、小豆、黒胡麻。それぞれを小鉢に作って好きに合わせる。
箸を付けながら向かいの恋人を見れば少しは機嫌はよくなったようだ。
「まだ痛い?」
小さな蝋燭に灯る明かりの優しさ。
「あ……もう大丈夫だけど……」
銀色の髪は相変わらず優しい色だとぼんやりと眺めてしまう。
どこにいても間違えることなく見つけられるその色。
ふわふわの肩あてが首を包んで柔らかな線をより強調した。
「どうしていっつも喧嘩になるの?少しくらい仲良くしたっていいと思うんだけども」
完食してそんなことを聞いてくる。
その唇さえ甘いと思えるから恋は厄介だ。
「昔からだ。それこそお前が生まれるよりもずっと前から」
「もう少しだけでも仲良くしてくれたらなぁって」
「そんなに玉鼎が良いか?」
食器を片付けながら少女が振り返る。
「そんなこと言うと、玉鼎のところ行っちゃうよ」
「待て待て待て!!」
思わず両手を掴む。
「ちょっと一緒に過ごしてみるよ。大丈夫、何もできない様にはしておくから」
「そういう問題じゃない!!」
宥め賺して抱き締めればそれでも少し困った顔つき。
触れる唇に瞳を閉じる。
「あんな酒癖悪いやつに俺の普賢は渡さねぇ」





後ろから抱き締めてくるような恰好で眠りについて。
無意識に頬に触れた手に、どきん、としてしまうのに。
(何だかね……何もかも当たり前でありきたりになってるよね……)
それは安定という名の怠惰。
磨いた爪にも気付いてくれないような関係。
自分を抱くこの腕さえもそこにあってもないようにさえ感じてしまう。
胸の中で渦巻く黒い焔を沈めてくれるはずの優しい声。
それすらもう、忘れてしまいそうなほど。
(どうしたら、あなたはずっとボクのことを思ってくれるのかな……)
簡単な答えを見つけるためには単純な回路が動く。
(どうしたら……ずっと一緒に居られるのかな……)
眠る彼の首を切り落としたらずっと一緒に居られるだろうか?
その足の腱を斬り付ければずっと自分を抱いていてくれるだろうか?
どうにもならない感情だけが渦巻いて眠れない夜を運んでくる。
「……普賢……?」
後ろから抱きしめてくる腕。
うなじに触れた唇の熱さに胸が苦しくなるほど、まだ恋は終わらないのに。
「……どうしたの?」
「そんなぬるい殺気でてりゃ、俺だって起きるさ」
体を起こして少女を抱き起こす。
「本気で殺しにかかるなら受けてたつぞ」
「別に、あなたに死んでほしいわけじゃない」
不安なときには指を組んで唇に触れる癖が彼女にはあった。
乾いた口唇に触れる指の合わせ目。
「どうしたんだ?」
願いはひとつだけ、叶いそうで叶わないだけ。
「どうやったらあなたとずっと一緒に居られるか考えてたの」
自分以外に彼を思うものが居なくなれば、彼は自分だけを見つめるしかなくなる。
「気があうな。俺もどうしたらお前が俺のことだけ見てくれるのか考えてた」
胸に抱けばそのまま体を預けてくる。
ため息交じりのこんな夜は無性に誰かの暖かさが恋しい。
「お互い馬鹿なこと考えてんだ」
夜着を剥ぎ取れば少女の裸体が露となる。
柔らかな曲線が織り成す体と弾けそうな乳房。
「余計な事を考えるくらいに、俺はお前をほったらかしにしたのかもな」
「そういうわけじゃないけど……」
額に触れる唇に目を閉じてしまう癖。
胸が苦しくて、視線を重ねるのが怖いと首を振る。
「いっそ心中でもするか。莫邪で一突きだったら一緒に逝けるぞ」
「本当に二人一緒に逝けたら良いのにね」
「どうにもならねぇことだな。くだねぇって解っててもさ……」
さわさわと耳を触る指。
鼓膜に響く彼の心音がざわめく気持ちを少しだけ溶かしてくれる気がした。
「……酒呑むか?少し寝やすくなるぞ」
「うん」
透き通る硝子瓶に入った果実酒は彼女の込むような甘めのそれ。
盃に注げば従順に口を付ける姿。
それを肘をつきながら男は静かに見守るだけ。
その眼光の奥に隠した思惑など欠片も見せずに。
「呑まないの?」
「寝つけないのは普賢だけだろ?俺はお前を運ばなきゃならないからつぶれるわけにはいかない」
呑み進めるうちに熱くなり始める身体と違和感。
「……?……」
指を折るだけで感じるぼんやりとした眩暈。
「一服盛った。気持の疲れに体が追いついてないからそういう考えになるんだ」
「え?」
「だから、体を目一杯疲れさせりゃいいってこと。最近、別居生活だったしな!!」
唇が重なるだけで走る甘い痺れ。
力が抜けてその場に座りこめば手を取って抱きあげられる。
舌先を絡ませた接吻を繰り返せばその度にうっとりと瞳を閉じて。
「んー……」
寝台に横たえればう布が擦れるだけで吐息がこぼれ出す。
やんわりと乳房を掴んで夜着越しに乳首を吸いあげる。
「ふ、ア!!」
少しきつく吸い舐めてその先端を噛めば切なげな声が響きだす。
(太乙と俺の共同開発の新薬……効果は確かに絶大だ!!さすが俺!!)
そのまま重点的に乳首を攻めあげればそれだけでびくびくともどかしげに震える脚。
布地の上からでもわかる形のいい乳房とその柔らかさ。
(ため込んで鉈で首なんぞ斬られたらいくら俺でも死ぬっつーの。まだ俺はお前と幸せに暮したいんだよ)
ちゅくちゅくと吸い上げる度に黒髪に掛かる指の力が抜けていく。
夜着の合わせを解いて、乳房が半分隠れるようにして開かせた。
形の良い窪んだ臍に接吻して舌をねじ込む。
「や、あ……!!……」
腰を抱いてそのままその周辺を舐める動きに悶えだす。
下着越しに入口をさわさわと撫でる指先。
「こんだけでぐっしょり濡れてんのな」
つ…と指で裂け目をなぞってその上の突起を軽く捻る。
「ひゃんっ!!」
生地をぬらぬらと濡らした体液を絡ませて何度も摘み上げればその度に呼吸が短くなっていく。
少しだけ強く捻りあげた瞬間に上がる甲高い矯正。
「はは、そんな簡単にイッてると今からが持たないぞ?」
そのまま内腿に手を掛けて脚を開かせる。
下着に舌先が触れてそのまま上下するように動く。
「や、ヤダ!!や……ッ!!」
「脱がす必要ないくらい濡れてんだろ?」
滑らせるようにして指先だけでの愛撫を繰り返す。
敷布の上に乱れる銀色の髪と唇の端から零れる涎。
右耳に口付けてそのまま耳朶を噛む。
「…や……ん……」
左手で顔を覆って隠そうとするのを制して視線を重ねた。
呼吸を分け合うようにして唇を重ねて、噛みつくように肌に痣を残す。
下着はその役割などもはや果たさない状態となり、引きはがそうとすればべたべたに
溢れた愛液がいやらしく膣口と布地を繋いだ。
「胸の形とか綺麗だよな。上向きだし」
絡まっていた夜着も剥ぎ取ればそこには火照った裸体の少女が一人。
「きゃ……アんッッ!!」
内側を抉るように動く指に絡まる襞肉。
ぐちゅぐちゅと曇った音が嫌でも耳に入る。
添い寝でもするようにして顔をのぞきこめばぼんやりとした銀色の眼。
「ほら、口開けて」
ぬるつく指を咥えさせる。
絡まる舌先と根元まで咥えこんだ薄い口唇。
濡れた睫毛が卑猥で指を引き抜こうとすれば嫌だ、と横に振られる首。
「俺の手……好きか?」
「……うん……」
肉棒でも舐めるかのように手首を両手で掴んで舌と唇が従順に動く。
「自分で開いて挿入た方が良いだろ?」
脇腹に手を滑らせれればそれだけでぎゅっと目を閉じる。
彼の体に跨って肉棒に片手を添えて、陰唇を開く少女の指先。
亀頭が入口に触れただけでぐちゅ…と上がる音。
ゆっくりと飲み込まれていく男根と仰け反る身体。
「んー…!!…アアっ!!……」
小刻みに震える肩を確かめてから両手をぐい、と引き寄せる。
「!!!!!」
ねじ込むようにして突き上げられ、見開かれた銀眼。
膝をつく形はそのまま彼女の動きを封じる。
「あ、ア…っは……!!……」
心臓が痛いほど脈打つ。
「ヤ……アアあああっっ!!」
迎える絶頂と途切れそうな意識。
「……?……」
ぬる…と引き抜かれるだけで体が震える。
うつ伏せにさせられて腰だけを高くかかえられる格好。
「……!!……」
後穴を押し広げて入って来るものに息が詰まる。
ごりごりと裏側から抉られる感触と背筋を走る何か。
「ん、ア!!や……っく……!……」
耳に掛かる息と腰を掴む手。
「すっげ……こっちもやっぱ良い?」
「ち…が……んぅ!!…」
糸を引くように零れる愛液と打ちつけてくる腰の動きが加速していく。
「あ、あ……っああああんっ!!」
吐き出される体液にさえ四肢が震えた。
崩れる身体とぼんやりとする視界。
頬に触れる唇に感じる至福感。
さわさわと髪を撫でてくる指先に目を閉じた。





「効果絶大だったぜ」
胡桃餅を齧りながら道徳は太乙に向かって親指を立てた。
「こっちも効果絶大だったよ。さっすが僕たちの共同開発だよね」
普通の媚薬の倍以上の効力を発揮するそれを使っての結果は双方満足のいくものだった。
余計なことを考えすぎる恋人を持つ二人が考え出した作戦。
精神と肉体の疲労を同じすればいいという結論の下に作りだした新薬だった。
「でも、あのあと俺も腰がくがくになってさ」
「そう。自分にも疲労が来るのはあれだよね。ま、その分楽しませてもらってるけど」
内緒話は聞こえない場所でするからこそ。
被害者の一人である道行天尊はその会話をそのまま文書にして、白鶴洞へと送り飛ばした。
受け取って読みだせばその事細かな内容に普賢の顔色が見る間に変わって行く。
そんなことなど知らずにのんびりと白鶴洞を目指すのは件の彼。
「普賢」
「こんにちは、待ってたよ」
手には磨かれた大ぶりの鉈。
その光り方が尋常じゃないのはすぐに見て取れた。
「やっぱり君をボクだけのものにしたいなぁ」
「待て待て待て!!暴力反対!!」
一振りすれば星さえも斬り裂けそうなその刃の輝き。
「変な薬使う人なんか知らない!!」







その後、土下座して彼が許しを乞いたのはまた別の話。
彼女が彼のために焼き林檎を作っていたのはおまけのお話。





17:48 2009/01/16

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