◆恋情―dragtreatment―◆







隆起した体躯に踊る黒龍の姿。
問題の多い弟は相変わらず何の断りも無く背中に刺青を入れてきた。
「いいっしょ、コレ」
出来栄えが余程気に入っているのか珍しく上機嫌で饒舌だ。
その風貌によく似合う翔龍に姉は眉を寄せた。
「そうだな」
「棒読みかよ、雲子ちゃーん。もっとこうさ、トキメクとかねぇの?ン?」
「ヤクザみたいな弟が、ますますヤクザになった」
ラグの上に広げた雑誌。ぼんやりと眺めるだけで大したことなど考えもしない。
「あー、いいんじゃね?このスカートとかさ。雲子ちゃん脚綺麗だし、見せればいいじゃん」
「部活ばっかりで何時着るんだ、まったく」
「俺と居る時。俺を誘う時。俺が襲う時。俺とデートするとき。汎用性ありすぎ」
「お前の中だけの汎用性だ。ともかく、見苦しいから上に何か着ろ」
グラビアの上に置かれた手に、彼のそれが重なった。
「何か一つお揃いにしてよ、雲子ちゃん」
「ドレッド(ソレ)は無理だ」
「じゃあさ、雲子ちゃんも入れようよ。お揃いで」
猫なで声に首を横に振る。普通に考えれば高校生が背中一面に刺青ということ自体が間違いだ。
それでなくともドレッドヘアにサングラスの阿含は敵は多いが味方は少ない。
喧嘩を売られる身に覚えはありすぎるのが実情だ。
「んじゃピアス?可愛いのプレゼントするよォ?」
「暇だったら課題やってくれ。提出してないだろ?」
そっけない返事もいつものことで、視線が自分に向く方が珍しい。
顎先までの黒髪のボブウイッグが影を落として、伏せた瞳が神経を掻き毟る。
悪戯に指先を撫でて絡ませても眉一つ瞬き一つ変わらない。
「俺たち一個もお揃いって無いじゃん」
「ある」
「え?何?お揃いとかあんの?」
嬉しそうに笑う唇。答えは確実に彼を不機嫌にさせるものと決まっているのに。
「遺伝子」
「あああああッ!?ンなもん一緒でも嬉しくも何ともねぇよ!!」
そのまま手を掴んで抱き寄せる。相変わらず表情は乏しい彼女と激昂しているのが当たり前の彼。
双子の姉と弟は何もかもを違えて生まれ何もかもを共有してきた。
右手と左手。異なる血の形。男と女。
舌先が柔らかな唇を舐め上げてそのまま口腔に入りこませて。
ディープキスにも慣れ切ったくらいの回数と時間の浪費。
抑えつけた手首と目も閉じない彼女との甘くて苦いキス。
「気が済んだか?」
「済むわけねぇだろッ」
シャツの襟から覗く肩に噛みついて歯形を残す。柔らかな筋肉とほんのりとした匂い。
「阿含。痛いんだが」
またいつものことと溜息も一つ。じめじめとしたこの湿気と同じような心模様。
「痛くしてんだよッ!!痛いの好きだろうが……」
「好きじゃない。痛いのは苦手だ」
クオーターバックは最も潰され易いポジションの一つだ。いくら鍛えてあるとはいえまともなタックルでの打撲や
脱臼は日常的ほど慢性的になってきている。
神龍寺ナーガの正投手を護るラインの一つが実弟の阿含だった。
ポジジョンだけではない動機とその超反応で何人ものプレイヤーを沈めてきた。
「そのシャツ俺んじゃんか」
「着るものがなかったから借りた。帰ってくるとも思わなかったし」
「雲子ちゃんが毎日ヤらせてくれんなら外で遊ぶ必要ねぇんだけどな」
「外で遊んで来い」
この上ない極上の笑みは大概彼にとっては不満な結末に対してが多い。
「それがコイビトに対する言葉ァ?雲子ちゃんひっどーぉい。俺、泣いちゃうよ?」
「誰が誰の恋人だ」
げんなりとした表情に、額にキスを一つ。
「あと、私は明日出かけるけどもお前はどうするんだ?」
それは他の女のところにでも行けばいいという問いかけ。
持てあます体をどこかで発散すれば帰らない夜が続く。それで嫉妬してくれるような女ではないから性質が悪い。
弟がいなければ安眠と安全は保障されるとさえ言い切る女が相手なのだ。
「どこ行くの?雲子ちゃん」
「プロテクターを取りに東京まで行く」
男子とは異なる筋肉をガードするために雲水のプロテクターはセミオーダーのものだ。
「んじゃ、たまに雲子ちゃんの脚になりますかぁ。バイクあんだし」
狙うのはその小さな一部分。
どうしても刻みこんで二人で共有したいと焦がれる想い。
「……悪くはないな。たまに甘えてみるか」
「マジで?」
「ああ。電車の匂いが苦手なんだ、この季節は特に」
「オッケ……しぃっかりと俺の腰に抱きついて乗っかってりゃ良いから、雲子ちゃんは」
「事故るなよ。私はともかくお前がかけたらチームの勝敗が一気に変わる」
ぺろ。生温かい舌先が頬を舐め上げた。
「馬鹿言え。お前が居なきゃ試合なんかでねぇよ、俺」







「口を開けろ、阿含」
フォークの先に突き刺したカットフルーツ。偏食の激しい弟の体調と栄養管理も彼女の仕事の一つだった。
驚異的な身体能力を支えるのは地道な管理もある。
「はぁ〜い」
「気持ち悪いぞ……お前……」
「だぁってぇ、雲子ちゃんがあーんして♪なんて言うからぁ」
「言って無い」
努力など無くと天性の素質を持つこの身体は構築されていく。
水のように流し込むアルコールも煙草の匂いも彼にとって毒など存在しないかのように。
「それにィ、明日は雲子ちゃんとデートだしィ」
放り込まれる苺のような甘さもなければ、姉はどこまでも己の願望も欲求も飲み込んでしまう体質だ。
「食わねぇの?」
グラスの中の苺を拾い上げる指。
「食わせてやるよ」
唇に押し当てられてそのまま飲み込む。
「もう十分だ」
空になった食器を片付けて定位置のクッションの上に座りこんで、読みかけの本を開く。
文字は追うだけでも心に平穏をくれる大事なドラッグだ。
緩やかな眠りの侵入を許してしまうまいと何回か首を振る。
「眠いんだろ?寝ろよ」
肩を両手で支えられても今日の睡魔は彼女を離してはくれないらしい。
「……ん……風呂……」
言う間にも瞼はどんどん重くなる。読みかけの小説は落下してページに乱暴な痕を付けた。
閉じたままの瞳に覚える恋心。自覚したのはいつからだっただろうか。
「入ったら死ぬって」
きっと溺死体になったとしても。その肉片を散らばらせて腐乱したとしても彼女は綺麗だろう。
魚にでもなれればその肉を噛みちぎって一つになれるのかもしれない。
秋大会へ向けての練習量は日々増えていくばかり。
男子でさえ根を上げる神龍寺のトレーニングを雲水は全てこなしてきた。
天才の弟の足元には及ばなくとも最強の凡人を目指して。
「おい、雲子ちゃんってば」
珍しく阿含に凭れたまま聞こえてくる寝息。
顔には出さなくとも疲労は確実に溜まっているのだ。
彼にとっては何でもない量でも彼女にしてみれば限度を超えていることもしばしば。
大人しく腕の中で眠る一番大事な存在の暖かさ。
「……雲水……」
出来ることはこのまま抱きしめていることだけ。
その心に触れたいのに掠めるだけで触れられない。抱きたいのは身体だけじゃないのに。
互いの身体に流れる血が引き寄せて拒む。
「…ん、ぅ……」
なぞるような悪戯のキスと柔らかな抱擁。
お互いに育った身体はしっかりと男女になっているのに、根底にあるものは変わらないまま。
「うん、すい……好きだよ……愛してるよ……お姉ちゃん……」
手を取って自分の頬に当てさせる。
当たり前の行為を姉は酷く嫌がるのだ。
『好き』だけでは許されない恋。それでも彼女以外への関心など持てない。
柔らかな胸も唇も閉じ込めて自分だけのものにしたいだけ。
「……阿含……」
きゅ、と上着を握る指先。
細かった爪は繰り返し割れて大分硬くなってしまった。
「何?」
薄く開いた唇。彼女を見つめる彼の視線はきっと彼女以外には見せない優しいもの。
「もっと、名前呼んで、雲水」
愛しくて恋しくてどうしても欲しくて。
「俺の事だけ見てて。他なんか見なくていいから」
このまま時間が止まってしまえばいいのに。けれども、止まってしまえば彼女の瞳は閉じたまま。
自分を見つめて自分だけを感じて肌に触れて絡まったままに止まりたい。
「あごん」
「うん」
同じように愛してほしいだけ。同じように見つめてほしいだけ。
ただ恋人になりたいだけなのにと繰り返しても変わらない。
「もっと呼んで。俺を」
止められないのでも止まらないのでもなく、止め方を忘れてしまった。
覚えている必要なんて無く誰も近付けないように強さを望んだ。
狂っているのは彼なのか彼女なのかはたまた二人なのか。
そんなつまらない些細なこともどうでもいいともう一度抱きしめた。








肌に触れる何かの感触が毛布だと分かるまでに掛かったのは大凡にして二秒程度。
クオーターバックとしての反応としては些か足りないと自嘲する。
(いつのまに部屋に……)
それが自力では無く運ばれてきたのだということは隣に眠る存在だとすぐに気がつく。
「………………」
眠っている時だけは凶悪さは影を潜めて昔のような顔に戻る。
そっと髪を撫でればあのころとは随分と違う質感になってしまった。
「……うん、すい……」
自分の名前を呼ぶ声。
同じ遺伝子を持つ双子の弟。
「阿含」
いつの間にか背も高くなった弟は自分よりも随分と遠い世界を見つめるようになってしまった。
繋いだ手も意味合いを変えてしまったように。
(……ご丁寧に裸にしてくれて……そのままで良いのに……)
しっかりと腰を抱いて安心しきって眠る姿。
形のよい額、整った顔立ち、均整のとれた筋肉質の身体。
「あごん」
昔もこうして眠る弟の隣にずっといた。あの頃と彼はおそらく何も変わってはいない。
変わってしまったのはきっと自分。姉として存在することを選んでしまったから。
左利きの彼はその手に花束を、右利きの彼女は約束を携えて。
幼いころのように抱きしめあって眠ればあのころの夢が見れるだろうか?
星降る夜を待って願いをかけたあのころのように。
(そういえば……あの頃から阿含はそんなことを言っていたんだな……)
手をつないで見上げた流れ星。消えてしまう前に小さな声で願い事を三回。
『大きくなったらお姉ちゃんをお嫁さんにする』
「………………………」
手のひらに、肌に、胸に、背中に。包まれることの安定と切なさが脊髄を浸食する。
あの時は確かこう答えたはずだ。『大きくなったら阿含のお嫁さんになるね』と。
ただスキであればずっと一緒に居られると考えていた幼い日。
(何時の間にこんな男に育ったんだか……こんな面倒で我儘で駄々っ子で甘えてばっかりで……)
凶暴を絵に描いたような男が穏やかな寝息を立てている姿。
「……ん……?うん……すい……?」
まだ眠いと片手で目を抑えながら顔を上げる。
「寝てろ」
「あー……雲子ちゃん起きてんだもん……ヤダ……」
右手がそっと彼の左手を捕えた。
「おやすみのキスしてやるから」
「あ、本当?してして」
苦しくて息ができなくて。
裸の身体が触れ合っておおいかぶさるような形のキス。
普段彼がするような形で。
「おやすみ、阿含」
変わってしまったのは彼ではなかった。彼はまだ幼いまま力を手にしてしまっただけ。
純粋でも暴力的な彼に与えられた才能。引き換えに大事な何かを失ってしまったのかもしれない。
ただ折り重なって眠れば胎児の夢の中に戻れるだろうか。
一つであったものが二つに別れてしまったように。
瞼の裏で生まれる紫と緑の光は花火に似ていた。







閉じたままの瞳はまだ開く気配がない。
(なんか……俺こっち向いて寝てなかったよな?しかも、雲水が俺に乗っかってるって……どういうことだ?)
頬に掛かる寝息と胸板に重なる柔らかな乳房。
心音が二つ同じようにゆっくりと。肌と肌が溶けあうように触れ合って。
そのまま腕を伸ばして薄い背中を抱きしめる。
(あー……ヤバい……幸せ……いっつもこうだと良いのに……)
思わず零れた笑みはきっと、普段の自分からは違うものだろう。
(うわー……駄目だ、ニヤケ止まんぇよ……だって雲水が俺にこんなん……)
どんな女を抱いても雲水に勝てるものは無い。
触れられない分だけ他で帳尻を合わせているというのが阿含の言い分だった。
それに対して雲水も咎めることは特にはしない。面倒事と裁判沙汰だけは起こすなというくらいだ。
(……んぁ?なんだよ、この肩の傷……)
何気に落とした視線の先には真新しい鬱血痕。
普段は隠されたままの肌に散った赤紫のそれに感じる憎しみ。
彼女の身体に傷を付けていいのは自分だけ。試合でも攻撃面には出撃するが、怪我や乱闘の多い防御面に雲水は出ては来ない。
必要が無いという理由をつけてはいるものの、本音としてはうっかりと顔に傷でも残ったり歯でも欠けたりしたら大変な事になるからだ。
試合終了後に、相手の選手が無事である確率は恐らくあのヒルマですら『ゼロだ』と言い切るだろう。
「……痛……ッ……阿含……?」
がりがりと肩のあたりを噛まれ、ちりちりとした痛みで目を覚ます。
「阿含、何をしている」
「あァ?雲子ちゃんの肩噛んでるトコ」
「見ればわかる……痛いからやめてくれ」
痣の周辺を全て噛みつけて、最後に一度だけそこにキスをした。
「なんでんなトコに痣できてんだよ」
両腕をぎゅっと掴んで視線も反らせずに逃げられないように。
「ゴクウと一休とちょっとした手遊びをしてたんだが、その時にすっぽ抜けて直撃しただけだ。言っておくが故意ではないし、
 私のミスだからあの二人には責も咎もないからな」
「ほーう……調子付いたサルとホクロが俺の雲水と手遊びだと?」
弟の無意味な嫉妬にも慣れてしまった。こんな時にどんな行動をとればいいかも分かり切っている。
「お前が部活にでてくるなら、お前と手遊びをしたんだが」
にこり、と一つ笑って。
「お前は部活には来ないだろう?トレーニングしろとは言わないが、模擬戦くらいは出てほしいんだ」
右腕を掴んでいた左腕が離れて今度は頬に触れた。
「俺が出れば、俺だけ見てる?」
「確約はできないが、お前が一番私のパスを取るだろ?」
「そりゃねぇ……レシーバーだから」
駄目押しに鼻筋に降る唇。
「お前が相手なら痣なんてできない」
「……ぅん……」
暴れまわる龍を押さえつけるのは同じ血を持つもう一匹。神龍寺ナーガにおける金剛雲水の二つ名は猛獣使いでもある。
さわさわと髪を撫でてくる右手。
「まだ起きるには少し早いかな」
薄白い朝はもう少しだけ遠くに居て、今は朝と夜の隙間にたたずむだけ。
こんな風に穏やかな彼女はいつぶりなのだろう。
組み敷くことも無く、薬の力もなく笑ってくれて自分の名前を呼んでくれる。
「雲水」
「?」
「勝手に刺青入れてごめん。ちょっとでも、お前が好きって思ってくれりゃいいかなーって……」
「物が物だけにあんまり感心はしないけどな……消せないものだし」
指は通らなくとも彼女の指先が触れるだけで良い。こんな時にしかお互いに素直にはなれないから。
しなやかな筋肉と完璧に作り上げられた身体。
「プロテクター買ったら、デートしよ、雲水」
「時間があればな」
「んじゃ、限界速度ぶっちぎって飛ばす」
そのまま抱き寄せて額が触れて目を閉じた。
煩い携帯はそっとベッドの下に投げ捨てて時間などここで止めてしまえばいい。
心までそわそわするような笑みを浮かべた彼女が隣に居る。
愛しくてたまらない存在とその右手。
「阿含?」
指の一つ一つに唇を押し当てて関節に舌を這わせていく。
「昔より太くなってんのな……」
快活だった彼女はいつの間にか物憂げな表情の似合う少女に育っていた。
曇らせる原因は自分だと分かっている。この思いが世間一般的に認められないことも分かっている。
無意識の中に生まれた恋は胎児の時に感じたもの。
「でもまだ、俺より小せぇの」
底知れぬ執着と恋は彼を支配して暴力的なカウンターを生み出す。
守るべき者に対して奪う物が来るならば粉砕するだけだと。
無敗の神は悪鬼を手にしてその強さをより強固にし、王の追撃など簡単に打ち砕いてしまう。
しかしその実、悪鬼は彼では無く彼女だったのだ。
完全なまでに無意識での支配を完了させた本物の悪魔。不完全ゆえに天才を支配できる才。
「阿含、もう少し寝てろ」
「ヤダ。こんなに雲水が優しいのに寝てんのなんかヤダ」
すり、と頬を寄せれば僅かに曇る瞳。
「雲水?」
「髭、伸びてるぞ……痛い……」
顎先を撫でれば確かにざらつく。そんなに濃い方ではなくとも肌の作りが二人は根本的に違うのだ。
「んじゃ……髭ごと愛して。俺の事もっと好きになって。俺だけ好きでいて」
背中に刻んだのも丸ごと全部。
「好き。大好き。雲水」
欲しがる答えを与えてしまえば何かが壊れてしまう。
今はその覚悟も無くて、どうしたらいいのかもわからない。
「俺、雲水から嫌われたら死ぬ。生きていけない」
「馬鹿なこと言うな」
「馬鹿なことじゃねぇもん……雲水が俺の事愛してくれれば他の女要らねーもん……」
「そのうち考えてやるから、馬鹿な事は言うな」
「そのうち考える?」
完全な否定でもなく肯定でも無い。それでもその言葉は胸の中の何かを壊すには十分だった。
「あー、もう……こんなに身も心もヤバいってのに……」
今日は距離まで近すぎる。真に気まぐれなのは弟ではなく姉だ。
「だらしない顔だな……阿含」
「そりゃ緩むなっつーほうが無理じゃんかよぉ……ああヤベ、もうダメ……雲水大好き」
額に、鼻先に、頬に、唇に。ちゅ、ちゅっ…と音を立てて執拗なキスの雨。
いつの間にかすっぽりと抱き包まれて逃げることも叶わない。
「あーもう……勃ちそう……てか、勃った……雲水ぃ……」
「絶対ダメだ。足腰立たない状態でお前の暴走バイクの後ろになんか乗れるか」
「なにそれ生殺し。酷い。鬼。悪魔。大好き、雲水っ」
「頭と文末が繋がって無いぞ」
かぷかぷと耳を甘噛して身体を擦り寄せる。
「今ヤリたい。シたい。いっぱい」
「断固拒否」
「焦らされるの好きじゃねぇもん……あーもう……止まんね……」
愛しくてどうにもならないという表情と明け方手前の空の色。
「イッ!?」
「折るぞ」
じんわりとした痛みと本気の凄味。滑らせた手はしっかりと問題の場所を握っている。
神龍寺の正クオーターバックの握力とコントロールは伊達では無い。
「待って!!タンマ!!いくら俺でもそこは鍛えられねぇって!!」
「寝ろ」
「……はぃ……」
しゅん、とうなだれる姿。こんな二人はお互いの前でだけ。
さわさわと擽る髪と吐息交じりの溜息。
「……買い物がちゃんと終わったら……」
小さな呟きにぱち、と開く双眸。
「うわやっぱ雲水だって俺のこと好きなんじゃんか!!うんす……痛ッだ!!」
「千切るぞ」
「俺だって男だもん……目の前に好きな女がいて優しくされたら当たり前の事じゃんか……」
神に愛された百年に一度の天才は意外と鬱陶しく女々しくそして暴力的だ。
曲者の弟のはるか上を行く曲者がこの姉。
外見などはかざりでしかないと坊主頭での生活。
「……お願いだから手ぇ離して……治まんねぇよ……雲水が触ってるだけでヤバいっての……」
「寝ろ」
「じゃあさ……もっとくっついて。俺の事抱いてて」
これ以上追いつめれば問題は恐らく悪化する方に転がるだろう。
相手を上手に宥めるにも慣れと経験則は必要だった。
触れた肌が暖かくて重なる心音が心地よい。
幸せそうに目を閉じる阿含の唇にそっと同じように重ねて。
「あ」
神速のインパルスとは厄介なもの。こんなときにも反応してしまう。
「雲水ぃ……」
「分かった……責任をもって……」
「うんっ」
「寝かせてやるッ!!」
脇腹に決まる華麗な貫手。見様見真似でも使いこなせるのは一種の才能だ。
一足先に仮眠状態の弟の頭を抱き直して目を閉じて。
ゆっくりと意識を手放した。






18:54 2010/07/11

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