◆羞恥心◆




「んじゃ、雲子ちゃん、着替えて♪」
「…………この悪趣味モジャモジャ男が……ッ!!」
 神龍寺特有の道着を脱ぎ捨ててインナーにしている黒いシャツも脱ぎ捨てる。
「こっちむいて脱いでぇ」
「断る!!」
「はい、んじゃこれ着て」
 手渡されたのは阿含の道着。これを彼女が着用すれば体格差からどうしてもだぶついてしまう。
 素肌に道着一枚だけを羽織って黒帯を軽く締める。
「おお〜〜〜、いいねぇ、裸エプロンならぬ裸道着!!神龍寺入って良かったわぁ」
 裾から露わになった太腿と帯が魅せる腰の括れ。
「今、心底神龍寺入ったこと後悔したぞ!!」
「あぁん、ほら、ンな顔しねぇの。今からオタノシミタイムなんだからさぁ……」
 頬に触れた左手。
「んじゃイッてもらいましょうか、罰ゲームの公開一人エッチ」
「……お前、明日の朝生きてると思うなよ!!」





 事の発端は退屈なミーティングだった。もう飽きたと言わんばかりにだれだれにだれきった
 ナーガメンバーは床に転がったり携帯を眺めたりと千差万別だった。
「みんなー、もう飽きたかー?」
 作戦を説明する山伏など一瞥もくれずに雲水の腰に抱きついているのは神龍寺ナーガが誇る
百年に一度の天才、神速のインパルスを持つ金剛阿含。
 そして抱きつかれながら単語帳を眺めるのはその実姉の金剛雲水だ。
「雲子ちゃーん、俺もう飽きちゃったぁ」
「だったらナンパでもなんでもしてきたらどうだ?」
「やぁだぁ、俺は雲子ちゃんとセックスしてぇんだよ」
 試験前のミーティングは流石の雲水もこうである。普段ならば周囲を纏めて山伏の補助に廻るのだが
今回はそうではない気分らしい。
「阿含、阿含ッ」
 だらりと床に寝そべって抱きつく阿含に声をかけたのはゴクウ。
「あんだよ、カス猿」
「王様ゲームしようぜ!!」
 十七歳男子としては些か面白味は足りないかもしれないが、遊びようによっては面白くなる。
「乗った」
「後は、俺とお前と一休とサンゾーと弥勒と千里と、ああ、山伏先輩も」
 右手に握られた割り箸には番号と王冠マークが振られていた。
 完全に運任せのゲームに各々の特殊能力をいかに発揮させるか。
 勝負はそこになってくる。
「雲子ちゃんも王様ゲームしようぜ」
「うん、ああ……ア?」
 すりすりと道着越しに腰に頬を擦り寄せる。その個所には龍の刺青。
 じんわりと身体の中が熱くなるのを抑えて弟の頭を床に落下させる。
「山伏先輩、連絡事項だけ終わらせてしまいませんか?流石に皆、集中力が……」
 起き上がろうとするのをぎりぎりと押さえつけて。
「ん、そうだな。あとは各自プリント読んでくれ。解散!!」




 結局はいつもの面子が王様ゲームのターゲットになった。
「王様の言うことはーーーーー♪」
「絶対ッ!!」
 一斉にゴクウの手から割り箸を引き抜く。
 神龍寺ナーガの王様ゲームは特殊だ。何番が何番には基本であり、一人に対して複数を言い渡す行為も
認められているある意味王様次第では地獄を見る事になる。
「王様誰だ?」
「あ、俺っす!!」
 勢いよく手を上げたのは細川一休。バック走の達人としてよりもチームの中ではマスコット的に
扱われる事が多いのも事実なある意味不遇な天才だ。
「二番が山伏先輩背負ってジャンピングスクワット三分間!!」
「うわー酷ぇ!!」
「一休悪魔だな!!最低だ!!」
 相変わらず雲水はのんびりと単語帳を眺めながらスペルの確認に余念が無い。
 その隣に陣取った天才はこれまた姉の膝枕で転寝までする始末だ。
「で、誰よ二番」
 すい、と手が上がった。
「俺」
「う、雲水さんッ!?」
 わたわたとする一休など無かったことのようにして雲水は山伏を背負った。
「弥勒、ストップウォッチ」
「おう」
「じゃ、頼んだぞ」
 努力は時に天才を凌駕するを地で行く雲水にとって、山伏権太夫を背負ってのジャンピングスクワットは
通常のメニューよりも若干負荷がきつい程度だ。
 きっちり三分で山伏を下ろして、再び単語帳を手にする。
「雲水……顔色一つ変えねぇのな……」
「いや、流石にアレ以上は無理だ。ちょっと脚も痛いし」
 再度ゴクウの手から割り箸を引き抜く。
「王様今度誰だ?」
「俺だな」
 弥勒が手を上げてあたりをじろり、と一周見回した。
「ま、ベタなところで一番と五番がキス……って言いたいとこだけど、一番が
阿含にキスで良いぜ」
「馬鹿野郎!!そっちの方が酷いっつーの!!」
「死ねって言われた方がまだいいっすよ!!」
「で、誰が一番だ?」
 言い終わる前に雲水が勢いよく阿含に締め技を掛ける。
「雲子ぢゃ……苦じ……い……」
「さあ、殺るなら今だぞ」
 白眼をむいた不甲斐無い天才の額にそっと千里が小さなキスをした。流石に相手が相手だけに
唇にやれとは言えないのが実状だ。起きていたならば額でも即死は覚悟だろう。
 失神したままの阿含は放置してその後もどんどんと卑猥で非情な王様ゲームは進んでいく。すでに人間の
尊厳も尊重もへったくれもない有様だ。そして相変わらず雲水は単語帳を熟読している。
「んじゃラストいっぱあぁぁあ〜〜〜っつ!!」
一斉に割り箸に手をかけた。そして一本余るはずが余らない。
「あ?」
 人数分きっちりの割りばしが無くなったということは、そういうことなのである。
「あ"?もう終わりかよ……」
 阿含の左手の中にしっかりと握られた割り箸。アンゴルモアの大王も土下座しそうな寝起きの阿含に
睨まれて耐えられるのも神龍寺ナーガの一員になる条件になりつつあった。
「王様だーれだ!?」
 にやり。厭らしい笑みを浮かべたのはサングラスにドレッドの彼。
「オ・レ」
「いいいいいいいいいいいッッ!?」
「あ、阿含クンッッ!!」
「ぎゃあああああああ終わったああああああっっ!!」
 阿鼻叫喚とはまさにこのこと。寄りにも寄って一番引いていけない男がフィナーレを飾る。
 まさしく神に愛された男、金剛阿含。本人が邪神に昇格する日も遠くはない。
 相変わらず雲水は今度は参考書を見ながら模擬問題を読み解いている。相手が神であれ邪神であれ
きっと阿含には変わらないで終わらせてしまうのも双子ならではかもしれない。
「決ぃめた」
 阿含の声に一同は固唾を飲んだ。
「二番がぁ、公開オナニーショー」
「てめぇ最低だな!!」
「嫌だこんな天才!!」
「変態!!」
 喧々囂々非難轟々、そんな言葉は馬耳東風。天才の耳には届かない。
「で、誰ぇ?ン?俺の番号引いちゃったのは」
 ぺしん!投げつけられる割り箸。
 コメカミに青筋を浮かべながら腕組みをして阿含の前に仁王立ちする実の姉。
「ああ、俺が引いた。お前の番号だったな。へし折っておくべきだった」
「うううううう雲水さんっ!?」
「雲水クン!!」
「う……雲水ぃぃぃいいい……」
 今の雲水ならば素手で熊を殺せると思った者、素手でミサイルの一つくらいなら簡単にへし折れると
思った者、そして確実にこの暴君な天才に引導を渡せると確信する。
「ここで、やればいいのか?」
 びきびきと掌には血管が浮かび阿含を見下ろす目は全く笑っていない。
 帯に手が掛かりしゅるり、と抜き取る。均整のとれた筋肉質の身体。
「訂正、俺の前で公開プレイでいいや」
「うわ!!きったねぇ!!」
「あ"ーーーーーー?」
「いえ……なんでもないです」





 素肌に道着一枚を羽織った姿はいつもよりも余計に扇情的だ。それでなくとも形の良い乳房が強調される
作り。谷間もくっきりと拝めるのはまさに裸に道着でなければ成しえない。
「あ"ー……神龍寺サイッコ……」
「にやつくな。気持ち悪い」
 阿含の肩に手を付いて額に小さなキスを一つ。本来だったらこのまま一撃を食らわせてやりたいところだが
ゲームでも負けは負けだと自分に言い聞かせた。どの道、明日の朝に阿含が無事である保証はゼロだ。
「口(こっち)には?オネエチャン」
 促されて薄い唇が肉厚な彼のそれに重なった。入り込む舌先が絡まり合って彼の手が彼女の腰に落ちる。
離れたくないと繋がった糸がぬらぬらと光る。
 膝立ちにさせて自分に跨るような格好を取らせればそれだけで眉間に皺が寄った。
「悪趣味の極みだ」
 焼けることの無い肌は色素が薄い。日に当たっても赤くなるばかりでそれも夜には退いてしまう。
 その雲水の肌が色を持つのは彼の手が触れる時だけ。
「んー……ぅ……」
 左手を取って指先に舌を這わせていく。形を確かめるようにして口腔に含んで軽く吸い上げた。
 爪に当たる歯先と絡まる暖かな舌の感触。親指から唇が離れて今度は第二指へ。
(あ"ーー……指舐められんのも悪くねぇけど、フェラのが良いよなぁ……)
 がり。爪に走る柔らかな痛み。無意識の挑発が不意打ちするから性質が悪い。
 指を引き抜いて頬に当てる。
 半開きの口唇から覗く舌の赤さ。
(……ったまんね……っての……)
 禁欲的な人間が魅せる誘惑は簡単に人間の心を狂わせてしまう。
 躊躇いがちに指先が内腿に触れて、まだ濡れ始めたばかりの膣口に入り込んだ。
 指先が浅く出入りするたびに聞こえてくる音。
 左手を彼の肩に置いたまま、僅かに身体を折り曲げて右手の指がぬるぬると飲み込まれていく。
「……ァ……っ……」
 ふるん。柔らかな乳房が揺れる。布地が擦れるだけでも漏れだす喘ぎ。
 ぐちゅぐちゅと零れだした音と指先に絡まりだす半透明の体液。
(おー……エロい顔しちゃって……)
 愛用のオークリーはサイドテーブルに転がした。木製のそれの上には折りたたまれた彼女の道着と帯もある。
真円のテーブルと漆黒のリネン。滅多に使われることの無い彼の部屋のベッド。
「あ、ぅ……ッ!……」
 ぬらぬらと出入りする指先が速度を増してく。内腿をべたべたに濡らしていくさまをじっくりと視姦しながら
次はどんなことをしてやろうと考えるのだ。
 折られた指先が内側を小突いてその度に肩先がびく、と震える。
 袷を銜えて声を殺そうとする姿に湧きあがるのは加虐心。
「あーあ……オネエチャンってばこんなにべったべたに濡らしちゃってぇ」
 唐突な声に雲水の意識が引き戻される。
「ヤラシイのな、雲子ちゃんってば。もうぐちょぐちょじゃん」
 耳に吹きかけられる息。
 ちゅ、と阿含の唇が鎖骨に触れてそこを噛む。
「ア、や、だ……ッ!!……」
 両腕を掴まれて態勢も固定されていく。
「んー?ヤじゃないっしょ。大好きでしょ。俺とセックスすんの……指、とめちゃダメ」
 首筋に舌が這う。生温かさとぬめりに小さく腰が震えた。
「ちょっと手伝っちゃおうかな♪」
 ぐちゅ。左手の中指が躊躇することなく膣内に入り込む。そのまま彼女の指先をも巻き込んで
内側の肉壁を抉る様にして押し上げる。
「ンあ!!や!!……ア!……」
 予測不能に加えられる刺激。愛液を絡ませた親指がひくついて赤くなったクリトリスを擦った。
「!!」
「だよねぇ。ココ、好きだもんね、雲子ちゃんは」
 唇の端から零れた涎を舌先が舐め取って。肌蹴た合わせから零れた乳房に歯型が滲んだ。
「あ、ヤ……ん!!あご……ッ!……」
 とぎれとぎれに呼ばれる名前。生温かな体液はとめどなく溢れて阿含の指を根元まで汚していく。
「俺の入れて三本。やっぱ気持ちイイ?」
 ごり。肉の硬めの部分を押し上げれば見開かれる瞳。声すら上がらずに唇がただ、ぱくぱくと開くばかり。
「あ、ちょっときつかった?ごめんねェ?」
 口先だけの言葉と繰り返し攻められる肉壁。まるで生き物のように襞が指を絡め取ろうと蠢いた。
 楽しむような視線と相反する痴態。
 細切れの呼吸が室内をぐるぐると廻る。
「あ、ア……っは……!……」
 染まった頬も潤んだ瞳も自分しか知らない。だからもっと攻め立ててその心を壊してしまいたいだけ。
 誰も聞けない甘い鼻に掛った甲高い声。冷静沈着の蓮眠の少女の姿は欠片もない。
「あ、ごん……ッ」
「なあ。俺のこと考えてオナニーしてんの?オネエチャン」
 ぐち。隙間無く銜えこませた指が抉る。
「ア!!」
 きつく閉じた瞳。
「…ち、違……ッん!!」
 微細な動きさえも逃がしたくないと締め上げてくる肉襞と歪んだ笑み。
「あ"?違う?んじゃ誰だよ」
 低くなる声と腕を掴む力が強くなる。ぎりぎりとねじられるような感触に雲水が首を振った。
「痛……った……あ、う……」
「誰だよ。俺じゃねぇのかよ。あ"?誰だよ、言えよ、誰だっつの!!」
 落ちる汗が肌で弾けるだけで震え悶える様に作り上げられた肢体。
「あ、ごんっ」
 泣きそうな顔は見られたくないと、くったりと彼の肩に顎を乗せた。
 射抜くような鋭い眼光と身体に走る痺れ。逃げる力などもうとっくに奪われている。
「一休?山伏?誰なんだよ?言えっつってんだろ!!」
 喉の奥よりももっと深いところがからからに乾いてるのはどちらも同じ。
「……の、事……えて……」
 苦しくてどうしようもない縺れた感情。
「…………雲水?」
「……お前の、こと……考え、って……」
 分かっているのに。おそらく彼女はほかのだれもしることなどないと。閉じたままの恋の瞳は
たった一度だけ胎内で開いた。その時に決まってしまったのだ、捕えるべき相手は。
「……………………」
 右手がその形の良い頭をそっと抱いた。
 もう少しだけお互いに優しくなれればいいのに、と。
 縋るように背中にまわされた左腕。互いの利き腕ではないそれが距離を縮めようとする。
「雲水」
 鼻先にかすめるようなキス。
「ん、ぅっ!!」
「俺のこと考えてヤラしいことしてんだぁ……うーれしぃっ」
 根元まで入り込んだ指が動くたびにじんじんと痺れる腰と張り詰める乳房。
 腰に触れた手が帯を解いた。
「あ"ーー……やっぱコレ、見てぇもん」
 右腰に刻まれた龍の姿。大きな掌が底を包み込むように撫で上げた。
 そのまま胸に顔を埋めるような位置から震える乳首を甘噛する。
「ヤ、あ!!」
 柔らかな肌も耳を犯すその声も、縋る腕も。
「雲水、キスして」
 ちゅ、ちゅっ…と何度も唇がぶつかりあう。沈ませた指先は手首までべとべとに濡れてしまった。
「…ぅ、ふ……ッ!!……」
 生温かい身体がゆっくりと熱くなっていく様は、理性の皮が溶けることと引き換えだ。
 突き動かすたびに零れる湿った音ともどかしげに揺れる腰。
(臍とか……ピアス開けてぇな……絶対似合うし……)
 舌先が肌を舐めあげる度に上がる声の甘さが増していく。
 汗の染みた布地の色が余計に肌を白く浮かばせて感情を煽る。
(道着……ダセェって思ってたけど……これはアリだ……)
「あご、ん……」
「んー?指だけじゃ物足りねぇって?」
 ずる…引き抜かれた指先とぼたぼたとシーツに零れる愛液。力の抜けきった身体は彼に掴まる
事でようやく支えられていて。
 両腕が広い背中に回されてぎゅっと抱きついた。
「俺も、雲子ちゃんの中、挿入れたい」
 濡れそぼった身体と絡まった視線。
 左手首を包むように掴んで、その指先に舌を這わせる。
「……ん…ッ……」
 根元から丹念に舐めあげて爪をやんわりと噛む。一本ずつ確かめるようなその動き。
「指じゃねぇほうがイイ」
 引き抜けば名残惜しいとばかりに伝う糸。さわさわと頭を撫でて促せば徐に胸を押されて倒される。
 クッション代わりの枕と馬乗り状態の姉の姿。
「……お前……明日の朝生きてると思うなよ……?」
 ベルトに手が掛かり引き抜く。
「やっべ……喜びで死にそ……」
「噛み千切られたくなかったら黙ってろ」
 心底嬉しそうな笑みを浮かべる阿含など無視して、勃ち上がったペニスに舌を絡ませた。
口腔全体を犯されるような質量に眉を潜めながら飲み込むようにしてその先端を銜える。
形を確かめながら太幹を唇が挟み込む。
 そのままゆっくりと上下させて再度亀頭にキスをした。
(何回やっても……好きになれない……)
 べたべたに絡まる唾液と鈴口を這う舌先。与えられる刺激も柔らかな快楽も実際の
所、阿含にとっては重要なものではなかった。
 苦しそうに、それでいて切なげに頬張り飲み込もうとするその表情が見たい。
 普段はまず見せない仕草も息使いも、何もかもが『女』である雲水。
「久々にフェラしてんだから、挟んでくれても良くね?」
 さらしでがちがちに押さえつけられるふんわりとした胸。
「…………二時間後に無事で居られると思うなよ…………阿含…………」
「そりゃ、こっちの台詞。腰立たなくしてやるよ」
 寄せた乳房の包まれる奇妙な暖かさ。行為自体が良いと思ったことはそんなに無いと耳の裏で考える。
大事なのはそれを実行するのが雲水だということだけ。
 白目の肌はほんわりと染まってそれだけでも普段よりもずっと淫靡だというのに。
 とろとろと零れだす愛液がゆっくりと腿を濡らす感触に身震いする。
「…っは……ぁ……」
 ぴちゃぴちゃと舌が舐め嬲るたびに聞こえる声がやけに甘い。
 人間の理性など簡単にはぎとってしまえることを彼は分かり切っていた。
「舐めてるだけで興奮しちゃった?」
 頭を撫でていた手が背中を滑り落ちて、内腿に触れる。
 違う、と蕩けきった視線交じりに首を横に振る仕草。
「違わねぇって。いつもよりも濡れてんじゃん」
 リミッターを外してしまえばこの手のタイプは簡単に陥落できるはすだった。
あらゆる手段の効力が最も薄い相手が最愛のこの姉なのだ。
「早く欲しいって、こんなひくついてンのに?」
 ぬるついた指先が膣口をやんわりと摩るだけなのに。それだけで喘ぎは零れて。
 途切れながらにうわ言のように呼ばれる自分の名前。
「もう中……とろっとろだしさ……いーじゃん?」





 男子生徒の腰を回るに十分な長さの黒帯は、目隠しをしてしまえばまるで長鉢巻のような
影を肌に落とした。
「……あ、阿含……」
 昔からこの手の事には及び腰で、いつも彼が手を引いていた。
「んー?怖くねぇって、大丈夫だから。そのまま腰下ろして」
 見る、ということと視る、は似ていて全く別物だ。投手として視る能力に長けている
雲水にしてみれば視覚が奪われることの恐怖は計り知れない物になる。
「んー……っふ……」
 肉壁を押し広げながら入り込んでくる熱さ。待っていたかのように全身の細胞がざわめき立つ。
 隙間なく埋め込まれていくその感触に意識が薄くなる。
「あ"ーー……やっぱナカのが気持ちイイわ……」
 絡みつく襞は別の生き物のような錯覚さえも見せてしまう。
「ヤ……ダ……外……し、てっ……」
「ダメ」
 両手で腰を掴んで一気に引き寄せる。
「あ、ッアああ!!」
 仰け反る身体を悲鳴交じりの嬌声。身体を支えようと腕が腹筋に触れた。
「……っと、これで全部挿入ったっと……」
 唇から覗く歯先。零れる涎。浮き上がった汗。張り詰めた乳房。
「んぅ!!」
 目の前で揺れるたわわな乳房を掴んで齧りつく。刻まれる歯型と小さな鬱血痕。
その先端を嬲る様にして吸い上げればその度にきゅん、と締め付けてくる内襞。
 ぐちゅぐちゅと籠る音がいつもよりも余計に耳を支配した。
「やーべ……俺のが先に殺ラれそ……なのでぇ……せっかくだしコッチも使っとこうってことで」
「…………あ、阿含……?」
「ダイジョーブ、ダイジョーブ、心配いらないから」
 視界の無い分気配には敏感になれる。伸びた右腕が彼の左手を捕えようとして逆に掴まれた。
「邪魔な腕はしばっちまおうな」
 後ろ手に縛り上げてもまだ帯は十分に余ってしまう。折角だと、そのまま乳房をこうさせるようにして
結び目を丁度首筋に来るように。
 天才は無駄に能力を発揮することもある。
「おー!!さっすが俺!!」
「阿含!!」
 肌の色をかえって強調するその帯の黒さ。荒縄などとは全く別物の緊縛姿は禁欲的な人間の
淫欲的な身体を艶やかに色付かせた。
「……っあ」
 かり。乳首を噛まれてそのまま吸い上げらる。竦む肩と一切の抵抗手段を封じられた柔らかな肉体。
舌先が這いまわるたびにもどかしげに縛らされた指先が宙を掴もうとするのが余計に彼を煽ってしまう。
 汗ばんだ太腿と結合部が上げる湿った音。
(おー、いい眺め……一枚撮っとくか……)
 投げ出していた携帯を掴んで照準を合わせる。目隠しはしているものの見る者が見ればそれは
雲水だと一目でわかる。
 右手で腰を支えて携帯を構える。
『パシャ!』シャッター音が連続で響いた。
「……嫌だ!!止め……ッ!!……」
 言い終わる前に突き上げられて声が詰まる。振りほどこうにも腕の自由は奪われたまま。
 その間にも聞こえてくるシャッター音とどこか嬉しそうな笑い声。
(……明日、絶対に携帯へし折ってやる……ッ!!)
 苛立ち紛れに唇をきつく噛んで声を殺せば、道着の裾を徐に引っ張られる。
「ひゃ……う!」
 布地が肌を擦るだけでも殺したはずの声が零れて。
「ん。こんくらいで良いかな?」
 今度は彼の両手がぎゅっと布地ごと胸を掴む。
 そのまま吸い上げられて喉が掠れ声を上げた。
「俺しか見ねぇよ」
「嫌だ!!今すぐ消せっ!!」
 心臓の真上に触れる唇。このまま皮膚を食い破ってしまいたいのに。彼女の生命を維持するその器官を
噛み砕いて飲み込んでしまえば少しは一つになれるのだろかと笑っても。
「嫌だね。絶対に。大丈夫だって、俺しか見ねぇし。あ、もしかして記念撮影よりもメモリアル動画の方が
好みだった?だったら……」
「阿含!!」
「ごちゃごちゃうるせぇな」
 雲水を抱えるように抱いてキスを一つ。背中に回していた手をそのまま滑らせる。
「!?」
 強引に膣口に指先を入れて掻きまわすようにして愛液を絡ませてそのまま後ろへと塗り込む。
「察しいいねぇ。さっすが俺のオネエチャン」
 くちゅくちゅと擽る様にして後穴を押し広げていく。折る様にして指先が入り込む度に
小さな喘ぎ声が断片的に零れる。
「んー……ぅ……」
 不快感と快感が交差して入れ替われば理性を縛る鎖は外れてしまう。
「ア、あ……っく……」
「しばらくコッチ使ってねーからさ。たまにヤッとかねーと」
 濡れた指が根元まで沈んでゆるゆると注入を繰り返す。
 ごつごつとした指はそれだけで馴らされた身体を熱くして。
 いくら嫌だと言っても彼に勝つことなど不可能だと改めて知らされる。
 内壁を擦られる奇妙な感覚と肩口に与えられた小さな痛み。
 ぐちゅぐちゅと零れだした音に、見えないはずの弟の唇が歪んで笑うのが分かった。
「!」
 冷たい何かが触れて、ゆっくりと飲みこませられる。
「二本挿しは、俺がもう一人いたらヤれんのにな。ああ、でもダメだな。俺一人で全部ヤりてーもん」
 ぼこぼことした球体が繋がったそれが一つ入るたびに胎の奥が熱く痺れた。
 ひゅるひゅると喉が鳴って、懇願するように身体が強張る。
(……や…だ……っ……こんな……)
「あー良いね、その顔。やべーわ、マジで」
 ぐち。何かが繋がる様に埋め込まれた玩具の指先に掛かる彼の指。
「ほんっと良い身体してるよな。無駄肉ねーし。俺がそうしたんだけどな」
「あ、ご、ん……ッ!!」
「はぁい。雲子ちゃんと遊ぼうと思って買っといたんだぜ、このアナルビーズ。気に入ってくれ
たっしょ?すっごい可愛い顔してっしさあ」
 突き上げられるたびに内側で肉壁を隔てて擦りあう感触に支配される。
「んじゃ、イきますか」
 中指に引っ掛けられたリング。軽く引き抜けば、こぷ…と一つ引き抜かれた。
 それを合図にゆっくりと一つ一つ引き抜く。その度に絡まった体液がボールをぬらぬらと濡らして
雲水の声を甲高くしてしまう。
 半分ほど引き抜いて、もう一度今度は勢いを付けて一気に残り全部を引き摺りだす。
「あアアアアッッ!!」
 びくびくと激しい痙攣とぎゅっと絡まって来る肉襞。
 崩れる身体を抱きとめて唇に舌を這わせた。
「激しくイッちゃうくらう気持ちよかった?だったら俺、すっごい嬉しい」
「…ふ……ぁ……」
「あー、もう声なんねぇってな。やらしー顔、かーわいい」
 顎先を取って口腔に舌をねじ込む。角度を変える時だけに許される呼吸。
 小刻みに震える腰で踊る龍。
 ちょうど彼の左手が全部覆えるほどの大きさ。
(まあ……雲水がこんなもん彫れてるなんざ誰もおもわねぇだろうしな……ククク……)
 親指が捻る様にして充血したクリトリスを擦れば一層きつくなる締め付けと喘ぎ。
 奪った視界が他で気配を感じるために神経をより過敏にするのだ。
 見えない事の恐怖よりも強いのは、今自分を抱いている男が本当に阿含なのかということ。
 だから雲水は視覚を奪われることを極端に恐れる。
「あ…ご、ん……外して……ッ!!お、願が……」
 ずきずきとした疼きを殺せるのは彼だけ。この胸に閉じ込めたどす黒い思いを飲み込めるのも彼だけ。
 欲しくて狂いそうになる感情を押さえ込む神の左腕。
「えー……いーじゃん。一回そのままイッたら外したげる。ほら、もっとヤラしく腰振って」
 刺青をなぞる様に掌が蠢く。
 言われるままに腰を振れば余計に強い刺激が神経を支配するだけ。
「あ、あ……ン!!」
 向い合せで抱きしめあえば彼女の腕が彼の背の龍を抱いた。
 肩口に埋められた顔と絡まる脚。
「……訂正、俺がイカせてあげる」
 一度引き抜いて雲水の身体を押し倒す。黒いシーツが余計に火照った肌を強調して
劣情に火を付けた。
 膝に手を掛けて脚を開かせてどろどろになった入口からの繰り返される注入。
「ん。ふ……あご、ん……」
 雲水の手が頬に触れて引き寄せるようなキスと呼吸の交換。
 柔らかな乳房と筋肉質の胸板が隙間なく重なって心音までも同じ速度に変わった。
 道着の袖を噛んで殺す声。
「あー……声聞かしてくんねぇの?オネエチャン」
 ぎち。身体が軋むような深い挿入に声が消える。
「……あ……っか……は……ッ……」
「あ"?一番オクまでイッちゃった?」
 こくん。素直に頷くことしかできない。この身体を支配しているのは阿含なのだ。
「やー……ぁ……」
 帯をくしゃくしゃに濡らす涙。唇でそれをずらせば潤み切った瞳が阿含を捕えた。
「……阿含……ッ……!!」
 ぎゅっとしがみつく腕が知る安心感。どんなに近い声も吐息も、不安に消えてしまうから。
 キスが甘いと思えるのはこんな時くらいで。
 もう少しだけお互いに優しくなりたい。
「……雲水……」
 肉のぶつかり合う音と肌が融合したいと熱くなる感触だけが真実で。
 自分の腕の中で感情を隠さずに喘ぐさまが愛しくて。
「……き……雲水、好き……ッ……」
 だれにもわたしたくないから、とじこめてしまおう。
 だからほかのだれもあいさないで、じぶんだけをあいして、おねがい。
「…っは、あ、ごんっ……」
 押しつぶすような抱擁と繰り返すキス。
 泣きそうな顔の天才は十七歳になったばかりの少年だった。
「あ、あ、あ……イッ……!!……」
 ぐちゅぐちゅと湿った音がこれが夢ではないと告げるから。
「あ、気持ちイイ?雲水」
 開いた唇と汗ばんで張り付いた道着。背中を抱えるようにして彼女の身体を少し折って
そのままきつく抱いて突き上げていく。
「俺も、イキそ。雲水ン中が一番気持ちーの」
 額に瞼に頬に唇に。全部自分だけのものだとキスの雨。
 肌をくすぐるドレッドをきゅ、と掴む指先。
「雲水?」
 その黒髪が作り出す柔らかで優しい闇を、彼女は大層大事にしていた。
 この閉鎖された空間でだけならば、流れる血を忘れることができる、と。
「……好き……」
 その言葉は、胸に閉じ込めなければならない。だから彼はいつも苦しむことになる。
彼女の言葉の支配から抜けられないと、抜けることさえも忘れてしまって。
 胸が痛いのも同じなのだと感情を殺し合った。
「……んー……ね、もっと言って……」
 繋がっている時だけに感じられるこの安息と安定。
 二つになんて別れたくなかったと歯軋りして。
「雲水」
 ぐち。開かせた脚と絡まる肉襞の暖かさ。ぬるついた膣内の感触と耳を支配する彼女の声。
突き動かすたびに背に回された腕がきつく抱きついてくる。
「あ、ごん」
「もっと」
 足りないから。もっと声を聞かせて欲しい。
「あごん」
「もっと、呼んで」
 このまま二人で絡まったままに串刺しになれればそれこそが無上の幸福。
「…ア!!や…も、ヤ……!!」
「うんすい」
 押さえ込んでそのまま強引に腰を動かす。
「すき」
 絶頂の声は唇で封じて、そのまま膣内に体液を吐き出した。
 腕の中でぐったりとした彼女をどうにかして取り込みたくて、首筋にきつく吸い付く。
「ア、ぅ!!」
 引き抜こうと捩る身体を押さえつけてこの上ないような笑みを浮かべる。
「もう一回ヤろうぜ、雲水」
「馬鹿!!もう十分……!!」
 膣内で硬さを取り戻して行く様が一番に分かってしまう柔らかな身体・
「大丈夫、大丈夫。俺、回復早いっしょ?ほら、もう……」
 肌を髪が擽るだけでも甘い声が上がってしまう。
「ハードにイッたほうが、もっとキモチよくなれるってしってるくせに」
 離れたくないから、もっともっと奥で絡まって縺れたい。
 身体中に付けたキスマークでもまだ足りない。
「あ、ヤダ……っ!……」
 乳房を左手が掴んでその先を噛む。ちろちろと這う舌先。
「ぅー……あ……」
「ね、もっとシよ?いっぱい、俺とヤラしーこと」
 柔軟な身体はこんな時に厄介で、どんな体位でもこなせてしまう。加えて鍛え上げた産物の
はずの体力が裏目に出て意識を手放すこともできないというありさま。
 何回目かの射精を受け入れた子宮と腰は流石に悲鳴を上げ始めた。
「あー……もう飲めねぇって零れてきてんの。俺と雲子ちゃんのぐっちゃぐちゃに混ざってエロくてたまんね」
「あ、っふ……!!」
 引き抜かれたペニスから迸った精液が赤く火照った腹部を汚していく。
「外にかけられんの好きだろ」
「……べたついて好きじゃない……ッ……」
 ぎりぎりと右手がドレッドを引っ掴んだ。
「アイデデデデデデ!!もうちっと愛は優しく表現しろよっ!!」
「お前にはこれで十分だ馬鹿!!」
「この体勢で良く言ったな。雲子ちゃぁん」
 べたつきを道着が余計に煽ってしまうから。
「んじゃ続けっぞ、オラ」
「馬鹿!!止めろ!!」
「雲子ちゃんが妊娠したらねっ!!あー俺、早めに親父になりたーい」
「するわけないだろ!!棒読みで言ってんじゃないっ!!」




 明け方と夜の間の時間の空は黒紫で、何処となく彼の瞳に似ていると思った。
「あー……充実ぅ♪」
「死ね。本気で死ね」
「あぁん、そんな雲子ちゃんも大好きっ」
 身体中に飛び散った二人分の体液と汗。目隠しに使われた帯はいつの間にか手首や脚を縛るものに
変わっていて回数を数えるのは途中で投げ出した。
 どうあっても最初に体力の底が付くのは彼女なのだ。
「明日お肌つやつやになるぜ?」
「寝不足でそれどころじゃないだろうな……」
「なんだよ。俺の事愛してるくせに」
「馬鹿も休み休み言え」
仰向けに投げ出された身体は混ざりあった体液でべとべとに汚されている。
「……腹の上が気持ち悪い……力いっぱい射精しやがって……」
 毒のある言葉は雲水にしては珍しい。それだけ表面を覆うものは剥がれてしまっているということ。
 汗と体液でべたべたになってしまった道着をはぎ取って投げ捨てたこともあまり思い出せない。
 フローリングに転がった道着を拾い上げてなだらかな腹部を拭う。
「一眠りしたら風呂入ろうぜ」
「……そうしたいのは山々だけどな。あいにく身体の自由が利かない」
「そ・こ・は、俺が全部くまなく洗ってやるからっ」
 重なろうとする唇を雲水に指先が止めた。
「なんだよ。ちゅーさせろよ」
「……なあ、阿含。お前一つ大事なこと忘れてないか?」
 ドレッドの束を軽く引く。
「えー?雲子ちゃんがエッチでかわいくて俺のこと愛してるってのは忘れてねぇよ」
 その言葉に雲水が深いため息を吐いた。
「あの、どろっどろの道着……お前のだぞ……」
「え"……あ"……あ"ーーーーーッッ!?」
「アレじゃ洗濯してもクリーニングしても無意味だな。買いおなしだ。それまでお前、どうするつもりだ?
一応あれを着てないと部活関連は出席できないぞ」
 雲水のサイズは当然着ることはできない。汚してしまった帯も含めてフルセットで準備するには阿含の嫌いな
フィッティングをもう一度やらねばらないのだ。一年時よりも肩幅と身長もサイズアウトしていたのはともかくと
して採寸を同性にされるのは一度で十分らしい。
「ちゃんと準備しろよ。あと、風呂が沸いたら起こしてくれ。腰が痛くて死にそうだから少し寝る」
「ちょ、雲子ちゃんっ!!俺またサイズはかんのやなんけど!!」
「お前が道着汚したのがわるいんだぞ馬鹿。練習と試合で私は付き合えないからな」
「雲子ちゃんッ!!」
「じゃあな、おやすみ」






 その後、練習試合の出席を餌にして採寸を雲水が全部行うことになるのだが、それはまた別のお話。










 16:34 2010/09/05

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