◆キミのために、ボクのために◆





いつ死んでもおかしくない、そんな戦いの中を生き抜いてきた。
いつも、傍に居てくれた。
手をつないだあの日が、なにもかもが今は愛しくて。
いま、ここにいることを。
キミと手を繋いでいられることを感謝して。





「なんでこんなにすぐに死ぬのっ!!!」
ジェシカは銀髪を振り乱す。
パーティーの二人が相次いで棺の中に封印されたのだ。
「俺、回復系魔法からっきしだからねぇ」
煙管で煙草を燻らせて笑うのは魔法使いのエース。
黒髪に鷲色の目の青年だ。
「あたしも駄目。そこまで勉強してない」
僧侶のホーリィと武道家のレンはマーマンダインの痛恨の一撃を受けてあえなく棺行き。
満身創痍ながらもジェシカとエースは船の上で身を横たえていた。
「むしろ俺はお前みたいな女が勇者ってのも疑問だが」
「なんですって!?ごちゃごちゃ言わない!!」
自分のマントを引き裂いて包帯代わりにエースの腕に巻きつける。
「まぁ、辛気臭いよりはいーんだけどよ」
少し皮肉屋で口の悪いエース。
まだあどけなさをたっぷり残した女勇者。
先に旅立った父親を探しながら、気のいい仲間と世界中を飛び回る。
波音だけが響く船内。
眠れずにエースは隣を見た。
「なぁ……起きてるか?」
「うん……」
なんとなく気まずくて、二人で外にでる。
風が、そっとジェシカの髪を撫でていく。
誰にも邪魔されないで二人きりになれる機会はまず無い。
この魔法使いは密かに女勇者を思っていた。
喧嘩腰でルイーダの酒場で誘われて、勢いに乗ってこのパーティに参加した。
肝心な時に勇気の出ない自分には嫌気がさすが、不謹慎ながら今夜はまたとない好機。
(あいつにゃ悪ぃが……このチャンス逃したらあとはねぇよな)
後ろから抱きしめようと手を伸ばす。
「ねぇ、エース。あんたなんであたしとパーティ組んだの?」
伸ばした手が、空を掴む。
「なんでって言われてもよ……その……」
「あたしなんで勇者なんだろ……なんであたしだけ……」
風が、銀の髪を散らしていく。
ウエーブのかかった豊かな銀髪が月光を浴びてきらきらと輝く様はまさに戦の女神だった。
「もっと、普通の女の子みたいに生きたかったな」
くすんと少し涙声。
「でも、誰かがやらなきゃいけない訳で……それがたまたまあたしだったんだよね」
かける声も見つからなくて。
「あたしががんばればいいんだよね。そしたら……あたしみたいな思いをする子が居なくなる……
それに、いつかあたしだって普通の女の子に戻れるよね?」
居たたまれずに駆け出して。
「あたしにはこんなに素敵な仲間がいるんだし」
手を伸ばして。身体だけじゃなくて、その心まで。
「ジェシカ!!」
後ろからきつく抱きしめる。
「エース?!」
「もう言うな!言わなくていいから!俺が居るから!ずっと一緒に居るから!
もっともっと強くなって大魔導師になるから!!」
叫ぶような声。
「俺といるときは勇者なんてやらなくていい……ジェシカでいてくれりゃ、それでいいから……」
エースの手に、その手を重ねる。
「ありがと……エース」
「俺がパーティに入ったのは…すっげー不安そうにて酒場うろついてる姿見たからだよ……
こりゃだれかにやられんなって……だったら俺がもらってやろーって下心で……でも、いつの
間にか本気でお前に惚れてて……あー、なんでこんな時に言ってんだよ、俺!!」
剣を取ることが出来ない自分を守るために、盾となって倒れることも在った。
魔法の契約のためにこっそりと抜け出して、朝日の下で儀式を行う姿も見た。
朝一の光を浴びながら、魔法陣の中で呪文を詠唱することで契約は敢行される。
炎の魔法は火神と、氷の魔法は氷女神と。
必死になって契約呪詛を書き込む姿は、勇者というよりも見習い魔道士。
心配をかけまいとする姿が、気付けば恋心を生んでいたのだ。
「エース………」
「本当はもっとちゃんとしたところで言って、泣かせてやろうって思ってのによ!」
思いがけない告白にジェシカの身体がかすかに震える。
「ジェシカ?」
「ごめん、泣いちゃった……」
ぽろぽろと涙をこぼし、ジェシカは無理やりに笑う。
「エース……大好き」
頬にちゅっと口付けられて、今度はエースが少し震えた。
甘い甘いキスは、疲れなんて一瞬で吹き飛ばしてしまう。
「ゴメンネ、もっと可愛い女の子だったら良かったのに……」
青玉のティアラにエースの手が触れる。
君はまだ十六の少女。
少し不器用なだけの女の子。
「凄く可愛い。お世辞じゃなくて、本気で」
重ねた唇の熱さは、今までしらなかった世界。
抱きしめあった生まれたての恋人たちを、月だけが笑ってみていた。




ベッドの上でお互い裸のまま向き合う。
月光に照らされたジェシカの肌。少しに日に焼けて、傷だらけの身体。
「傷だらけだよな…」
その傷の一つ一つにキスをする。
「賢者にでもなれりゃ…治してやれんだよな…」
なだらかな身体の線をなぞりながら、その手を下ろしていく。
掌に包み込めるほどの乳房。
小さく歯形をつけるとジェシカがくすぐったそうに身を捩った。
「……やん…っ……」
恥ずかしそうに手で顔を覆う。
その手を取って、戦闘の連続で少し腫れた指に舌を這わせた。
少し骨ばった手がジェシカの秘裂をなぞる。
確かめるようにそっと内部に指をしのばせると、身体が強張ったのが伝わってきた。
「……や…怖いよ……」
これから何が起きるか位はいくら彼女でも分かっている。
勇者といわれても、年相応の少女なのだ。
「俺が相手でも怖いか…?」
「…ん……多分……怖くない……よ……」
笑った顔はまだ十七歳の少女。
勇者ではなく、ジェシカという名の一人の少女だった。
恐怖心を取り除くためにエースはジェシカの体中を愛撫する。
ほのかに膨らんだ胸も、細い腰も、柔らかい唇も、小さな耳も。
そのたびにジェシカは少しずつ嬌声を上げてった。
傷だらけの身体を抱きしめあって、何回も確かめ合うようにキスをして。
「……エース、あたし……っ……」
耳の裏側を舐め上げる舌先。
「可愛い」と囁かれてぎゅっと目を瞑る姿。
「あ!!や…ァ…!」
舌先が濡れ始めた秘所を舐め上げていく。
じゅる…と吸い上げて、薄い茂みの中の小さな突起を軽く噛む。
「!!!」
びくん!と腰が刎ねて、あがる甘い声。
「あ!!ああァっ!!」
口中で嬲るように舐めると、そのたびに細い腰が切なげに揺れる。
他人に身体を許すなど、初めて事で。
じんじんとした痺れと、初めて知る快楽は一瞬で彼女をとりこにしてしまう。
指先にとろりとした体液を絡ませて、エースはジェシカの耳元に軽く噛み付く。
「ジェシカ…いいか…?」
その言葉が何を意味するかは分かっている。
「…うん……」
濡れた秘所にエースは自分自身をあてがう。
「……息、吐いて力抜け……」
言われるままに大きめに息を吐いたところを見計らってエースはジェシカの内部に 己を沈めた。
「や…ッ!!ああ!!」
声にならない悲鳴をジェシカは必死にかみ殺す。
ぼろぼろと零れる涙がシーツを濡らして行く。
背中に回された手。ぎりり、と爪が彼女の痛みを伝えた。
それでも、どうにか受け入れたいとしがみつく姿が愛しくて。
額にキスをして、何度も何度も抱きしめあった。
「……っ……ジェシ…俺に掴まって……」
はぁはぁと苦しそうに肩で息をする。
「……エース…っ……痛いよぉ……」
真っ赤に泣き顔でさえも、愛しくて、その身体も心も全部欲しくなってしまうから。
まるで無様な火傷の様に心が醜く、欲するから。
魔物にも、人にも愛されるたった一つの存在。
腕の中に居るこの恋人を守るために強くなろうと心に決めた。
「…泣かせるつもりは無かったんだけどよ……ごめんな……」
繋がった箇所がじんじんと痛み、破瓜の証がシーツを染めた。
想像していた初体験はもっと夢のようなものだった。
甘い甘いキスと、優しい王子様。
現実は過酷で、隣には棺に眠る仲間たち。
それでも、御伽噺の王子などよりもずっとずっと誇れる魔法使い。
誰よりも大事な恋人(ひと)だから。
「……泣いてなんて…ないよぉ…」
無理して笑った顔。
「嘘付け……」
「……大好き、エース……」
きらきらと、今まで見たどんな宝石よりも綺麗な涙。
腰を抱き寄せて、幾度と無く突き上げる。
「や!!あ!!」
「……ジェシ……良い子だから……もうちょっと力抜いて……」
浮かぶ汗と、絡まる互いの匂い。
血と汗、絡まった身体。
その顔が苦しそうに少しゆがんで、ほんの少しだけ嬉しそうに果てるのを見た。





自分の隣で眠る少女の身体は傷だらけ。
飾り気なしで、耳飾の一つも付けない。
ティアラも魔よけにとアリアハンの国王から渡されたものだった。
(こんどどっかの街でなんか買ってやっか…)
銀の髪に映えるように美しい宝玉を、笑ったときにゆれるように可憐な耳飾を。
意外に細い手首に腕輪を、そして一度くらい見てみたい優美なドレスも。
何もかもを、捧げたいと思ってしまう。
一度触れてしまえば、もっと触れたくなって。
離れるのが怖くなってしまう。
(綺麗な顔してるんだよな……こいつ……)
さわさわと頭を撫でるととろんとした目が見つめてくる。
海を写し取った、深い深い蒼の瞳。
「悪ぃ、起こしたか?」
「……んーん……平気……」
まだ眠たげにジェシカは笑う。
腕の中で甘える姿が剣を手にするときとまったく違って、エースは目を細める。
「なぁ、一つ提案があんだけどよ」
「?」
「もう少しだけ、あいつらには棺の中で眠っててもらうってのは……駄目か?」
少し照れくさそうにエースも笑う。
「ようやく邪魔がはいんねぇようになったんだしよ」
「……少しだけだよ」
鼓膜に染み込むのは波の音。遠くで誰かが歌っているような気がした。
「エース……あたしね、旅にでてよかったって思う」
まだ、少しはれた背中の傷をなぞる男の指先。
蚯蚓腫れになったそれは、他人が見たら眼を背けたくなるようなものだった。
グリズリーに剣を持って向かう少女は、傷を負うことを厭わない。
世界に愛されてしまった、ほんの少し不器用な少女。
「エースと、一緒にいられるんだもん……」
何時の日か、彼女は伝説の勇者と呼ばれるようになる。
まだ、その日は遠くにはあるが世界が彼女を欲するのだから。
「俺、大魔道士になるよ。そんで、勇者様もの隣に居るって寸法さ」
「やだぁ」
首から下げたオーヴのペンダント。
魔法使いがひとり立ちするときに与えられるいわば卒業証書のようなものだった。
「綺麗ね……」
「今度、おそろいの買おうな。恋人らしく」
伝説の勇者も、大魔道士もまだまだ今はただの少女と青年。
「うん。可愛いの、見つけてね」
ちゅ…と額に触れる唇。
「任せとけ。めっちゃくちゃに可愛いのみつけて……って、おれも可愛いのつけることになるんだよな」
「あはははは。お揃いのにしよぉね……」
閉じた瞼、伏せた睫。
朝の気配はまだ感じられない。
抱きしめあって、確かめ合って。
幸せという名の毛布に包まれて、ふたりで甘い夢に落ちていくことを選んで目を閉じた。





その後教会で見事復帰を遂げた二人が恋人たちに首を捻ったのはまた別のお話。
世界は今日も回っている。



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20:57 2004/04/09


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