◆darkside of the moon◆






水面ぎりぎりを飛ぶようにして箒に二人乗り。
「凄いねー!!これだったらすぐに着くね!!」
「ルーラのほうが早い。でも……箒で高速だっていけんだぜ?」
魔法使いのトレードマークはマントと黒帽子。
しがみ付く銀髪の恋人の体温を感じながら背後の面子を誘導していく。
魔法結界に封じられた島は船を遠ざけてしまう。
「俺とジェシでまずはラーミアを叩き起す」
箒を操縦する彼に片手でしがみ付いて襲いかかるガーゴイルを剣が切り裂く。
赤の映える銀はどこにいても彼女を証明した。
背後を飛ぶのは彼の兄が竜に変化した姿。
流石に兄の背中には乗れないと箒の二人乗りを選んだ。






魔法の契約は深夜と決まっており、それに従い彼も陣を敷いていた。
七色の魔法陣の中央に立ちグリモワールの詠唱が始まる。
虹色の光が螺旋を描いて彼を包み込みその黒髪が一斉に逆立った。
「……ふぅ……まだまだ未契約と未完成が多いな……なんつったって危険な古代魔法♪」
掌に光る契約完了の印。
「ねえ、それ何の魔法なの?」
切り株に座り込んだ少女が首を傾げた。
「ん?いつでもどこでも枝一本で箒を作れる魔法だぜ!!」
得意げに親指を立てて笑う姿。
「ま、移動手段としては役には立たない。ただ、人生は楽しくなるってことさ」
「うん。あたしもそんな魔法欲しいな!!」
その声にエースは首を振った。
「ダメ。それじゃ俺がすることがなくなるだろ」
ちゅ、と軽いキスをして森を抜け出す。
明日の朝にはレイアムランドを目指さなければならない。
「そうだ、これやるよ」
ピンクの花の付いたピンを取り出して銀色の前髪を留める。
「可愛い?」
「うん。世界一可愛いぜ!!」
並んで座れば小さな二人だけの空間。
両手の中で生まれる星はまるで銀河のような愛らしさ。
触れ合うのは肩よりも唇、それよりも肌という年頃の二人。
「あー……さっさと面倒事は片付けてジェシと二人旅に出たいぜ!!」
「そうだねー」
魔王の城まであと少し、世界はゆっくりと朝を迎えようとしていた。









人形たちの軍隊を前に、少女は意気揚々と左腕を掲げた。
「良いこと?あたしたちがバラモス様をお守りするのよ!!」
指揮する少女もまた、素体を球体間接人形とするものだった。
この世界は幾重にも絡まり合い、バラモスは別の世界からやってきたのだ。
「王の間には誰も入れちゃダメなんだから!!」
片眼だけがいびつな赤。
小さくも最強の軍隊がここには存在していた。
たったひとりこの城に住む青年は寂しさから少女を作り上げて。
人間が愛したであろうその人形に命を吹き込んだのだ。
「第一部隊は門を、あとはこの間に言った通りに」
物言わぬ人形たちはその拝見にそぐわぬ凶悪さを秘める。
一体一体の攻撃力もさることながら自爆装置まで付けられた兵士たち。
全ての少女人形たちを指揮する毒人形。
「リト、そんなにあわてなくても大丈夫だよ。お茶でもどうだい?」
「バラモスさまは呑気すぎます!!それに……お茶なら私が淹れましたのに……」
忠実な従者は少しだけ俯く。
赤い月に掛かる雲はどことなく心地よい胸騒ぎを呼び起こしてくれた。
こんな夜には無性に誰かを殺したくなる。
「私はお茶を入れるのもクッキーを作るのも苦じゃないよ。君が居てくれるからね」
彼女を稼働させるために必要な栄養素など本来ありはしない。
人形の身体は彼の魔力で動いているのだから。
埋め込まれた核が破壊されるか彼が機能停止するかのいずれかで彼女は消滅するだけ。
「アレフガルドとはどんな国なのですか?」
カップを優雅に持って、男は視線を向けた。
その柔らかさは魔王などとは思えないほど。
「そうだねぇ……今はずっと夜だけでさぞ住みやすいだろうね。ずっと夜会を開いてられるよ。
 ここもそうしちゃって、死蝶とか飛ばしたら最高だね」
少し高めの声と耳の横で結ばれた紫紺の髪。
黒装束ではあるものの、耳飾りや指輪は紅玉を基調としたものが多い。
「今度は真っ赤なドレスが良いね」
「似合いますかね?」
「白でも良いね。血が映える……もうすぐ楽しいパーティが始まるからね。そうだ、
 リトは白いドレス。君の軍隊は真っ赤なドレス。どこよりも美しく禍々しい」
薄い唇から覗く鋭利な牙。
手を組んでバラモスは目を細めた。
「そのメイド服も可愛いけれども、お客さんをお迎えするんだからね」
金色の髪を結ぶ真っ赤なリボン。
琥珀のそれは無残に焼き焦げたのを機に彼はより鮮やかなものを準備したのだ。
「良いね、赤と緑の瞳が綺麗だ」
二杯目の紅茶を入れる少女の姿。
「もうそろそろ死ぬころかなぁ……」
魔王の呟きに少女が首を傾げた。
「何がですか?」
「ここからあっちに行ったところに住む女王さ。同じ魔族なのに合わなくてねぇ……
 面倒だから辺りに瘴気結界張ってみたんだ。そろそろ死ぬかなって」
「おっしゃってくだされば私が始末してきましたのに……」
「んー……その時リトは私のためにタルトを作ってくれてただろう?たまには自分で
 やらないと忘れちゃいそうだしね」
魔王の城といったおどろおどろしさはここにはない。
中には噴水が置かれその周辺は花壇で埋め尽くされている。
夥しい数の少女人形たちが城内を整備し下手な城下よりもずっと立派だった。
美しいものに対してバラモスは寛容だった。
その美意識に対して人間は美しくないものとして認識された。
故に、殲滅を選んだのだ。
「またあのタルトが食べたいなぁ」
「お任せください!!このリト、バラモス様のために世界一のタルトをおつくりします!!」
悪とは何を基準とするのだろうか?
この世界はまだ生まれたての卵にも似ている。
「できればベリーの紅茶も欲しいね」
「はいっ!!」
揺れるエプロンドレス。
魔王は穏やかに笑うばかり。




瘴気渦巻く城内で咳き込むのは黒髪の美女。
腕にうっすらと浮かぶ鱗がもはや人の形を保つことが難しいことを告げた。
「御館様!!」
咳き込めば白磁の肌に血が零れるありさま。
漆黒の美しいドレスに咲いた花はあまりにも無残な赤だった。
「まだ大丈夫。卵を産むまで私は死ねない……」
拳で唇を拭ってにい、と笑う。
窓の外には人形の大群が弓矢を構えている。
僅かなホビットの従者たちはみな女王の傍を離れようとはしない。
「我らホビットも御館さまと運命を共にします」
「馬鹿な事を考えちゃいけない。死ぬのは私一人で十分だ」
年のころは二十も半ばだろうか。
「運命なんて紅茶の葉よりも軽いもんさ」
手を翳せば生まれる光が人形たちを殲滅する。
魔王の力を受けてきた精鋭たちは一瞬で女王の前で灰も残さずに消えうせた。
「あたしは自分の死にざまは自分で決める。くだらない魔王になんか従わない」
三叉の鉾を手にして女王はホビットたちを見つめた。
迫害されてきた精霊たちを受け入れたのは竜の女王。
切り立った山頂に築いた城は魔法使いや精霊たちが詰め寄せる賑やかな場所だ。
「御館様、我らもここに残ります」
精霊使いたちが一斉に頷く。
みな、初めて受け入れられた種族ばかりだった。
「御館様!!お客人です!!」
「入れな」
程なくして現れたのは一人の老女。
義眼を瞬かせて女王の前に酒瓶を突きつけた。
「久々だねぇ……なんだい、死にかけか?」
エルフと人間の間に生まれた女は陽気に笑う。
悲しむだけでは前に進めないと知っているからだ。
「ああ。もうじき死ぬだろうよ」
「だろうな。助からない瘴気だ」
老女は一瞬で少女に姿を変え再度結界を貼り直す。
精霊族にのみ許された陣を魔族には破ることが出来ないからだ。
「あんたが卵を産むまでは持つさ。そのころにはあたしの娘がここに来る。あんたが望む
 子供たちを連れてね」
「……………………」
「情けない顔をしやがって。それでも誇り高き竜族かい!?」
「そうだな……私は誇りを持って死んでやる。魔王などには屈しない」
全てを受け入れてしまうまでに必要だった時間。
その思いはきっと卵の中に閉じ込められるのだろう。
悲しいのはその成長を見ることができないことだと笑う唇。
瘴気はたどれば人が生み出す。
人は人ならざるものには無慈悲で、同じ人にも時として無慈悲になる。
魔王は世界が望んだ具現化なのだと。





のんびりと月を見ながら紅茶を口にする。
足元には疲れて眠りについた少女人形。
そっと抱きあげて腕の中に。
(銀色の眼と髪も綺麗でいいね。君に似合うように加工してあげる)
殺戮も嫌いではないがこんな風に紅茶を飲む日々の方がもっと好ましい。
魔王らしからぬ青年は欠伸を噛み殺す。
月に掛かる蝙蝠は美しい。
(白いドレスは赤く染まる。なんて素敵なんだろう)
溶けだした赤をもっと赤にしたい。
背筋に走る奇妙な喜び。
(さあおいで。とっておきのお茶を準備してあげるよ)
まるで夢のようなこの美しい城内。
殺戮にはもってこいの場所と位置付けた。





月に踊るは誰の思いか?
欠けた小指の人形が時を刻んだ。





18:30 2009/04/11

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