◆三日月パラノイア◆







三日月に願いを掛けるのも星に誓うのも不埒で不道徳だと誰かが言っていた。
俺は星屑を捕まえて魔力を注ぎ込む。
小さなことから夢は魔導師になることだった。
だから黒い帽子に黒い外套。手にはスタールビーの付いた長い杖。
成都ランシールで神官夫婦の間に生まれた俺にとって魔法ってのもは当たり前のようなものだった。
「エースは筋が良いから修業をちゃんと積めば立派な神官になれるよ」
俺にとって尊敬対象の兄貴がそんなことを言う。
兄貴は二人の血をしっかり継いでるせいか神官としてもとんでもない強さだ。
俺や妹の面倒だって見てくれる。
「俺、魔導師になるんだ!!かっこいい魔法ガンガン使うんだぜ!!」
派手な魔法を使いこなし精霊たちを従える。
そのための契約も欠かさなかったし、地球の臍にも行った。
腕試しによく魔物だって退治した。
極楽鳥の羽根で作った扇は高く売れたし、金もある程度たまった頃合い。
俺はこの島を出て旅に出ることを決めた。
もっともっと強くなるためにゃいつまでも燻ってらんねーだろ?





止められるかと思いきやオヤジたちはあっさりしたもんで。
行きたければ行けばいい。ただし、定期的に連絡は入れるようにって条件が付いた。
確かに、大神官としてランシールに残るオヤジたちは滅多なことじゃ動けない。
兄貴も妹も神官になったから、魔導師になった俺は正直じゃまだったんだろう。
島に停泊してる海賊船に乗せてくれって頼んだら護衛として乗ってくれって。
二つ返事で引き受けて明日は出港だ。
荷物は魔導師の杖だけでいい。
金は少しあれば十分だし、俺だったらどこだって稼げる。
それなりに盛大な飯食って一人でベッドで寝て。
朝なんてあっという間に来ていつもみたいにおふくろに起こされた。
「おはよう。出発にはすごく良い日よ」
「……んー……」
ばりばりと頭を掻いて服を着込む。
魔除けの香水を少しだけ吹きつけて。
「エース」
「兄貴」
「これは俺からの餞別だよ。魔導師は黒い帽子なんだろう?」
馬鹿みたいに腕に巻かれた包帯。
少し離れた山脈で魔物とやりあって俺にぴったりの帽子をとってきてくれたらしい。
ぎょろりと動く目玉がチャームになった魔法族の黒い帽子。
「……怪我してんじゃんか……」
「ちょーっと崖から落っこちただけです」
そしておふくろがくれたのは真新しい黒いマントだった。
裏地の赤は妹が染めたらしい。
「お兄ちゃんが居なくなるのは嫌」って泣きながら。
でも「お兄ちゃんがつまらなさそうにしてるのはもっと嫌」って……。
「あら素敵!!お父さんの若いころそっくり!!」
「俺の方が良い男だったでしょう、奥さん」
「そうね!!うふふ」
神官にならなずに魔導師になるって突っぱねて。
だから俺は回復魔法なんてものは全然使えなかった。
それでも精霊契約だけは全部できたのはきっと両親の血の力。
この世界の魔法はそれぞれの精霊たちと属性契約を結ばなければ成立しない。
神官はあらゆる魔法を使いこなす者たちを指すのだから。
「行ってらっしゃい。世界は広いわよ」
そういえば、おふくろも海賊船に乗っててオヤジに出会ったんだった。
見たいならば世界を見なさい、そう言ってくれた。
「大きな街に着いたら連絡するのよ」
三人兄弟の真ん中で、俺はずっと過ごしてきた。
今日からは一人で旅に出る。






それから何年たっただろう。
俺はいろんな船を乗り換えしてきた。
商用船、海賊船、王族の警護の船。
でも性にあってるは海賊船だったな。
ある時乗り込んだ海賊船は不思議なくらい連日魔物に襲われた。
属性魔法のほとんどを使える俺にとって怖いのは魔法が効かないやつだけ。
一仕事終えて煙草に火を点ける。
五臓六腑にしみわたるってのはこういうのを言うんだろうな……美味いぜ。
「おっさん、この船はどこまで行くんだ?」
「アリアハンだな。あそこは南の大陸だから美味い酒が飲めるぞ。酒場にはルイーダって
 女が居るんだがこれがまた良い女でな……」
この船は面白い用心棒を何人か雇っている。
ジパングから乗り込んだのは格闘の専門家の男。
名前はレンって人でうでっぷりもすげーし、ライオンキング何か一撃でぶったおす。
筋骨隆々だし隣に並ぶと俺が貧相に見えちまう。
「俺にも一本くれや」
言われて指先で火を点ける。
レンは深く吸い込んでしみじみと空を見上げた。
「労働のあとはこれに限るよなぁ……昼は肉体労働で汗を流し、夜はおねぇちゃんと汗を流す。
 これが正しい男の生活だ、解ったか?」
くだらねぇとことか含めて俺はこのおっさんが好きだ。
そんなおっさんがちょっかい出してんのが神官の女。
「あんた……そんなんだから汗臭いのよ……生臭いってか……」
ぐるっと回った不夜城アッサラームから乗り込んできた神官。
殺生大好き、酒大好き。ギャンブルに関しちゃ敵なし。
ロマリアで富豪から巻き上げてきたって大笑いしてやがる。
「一仕事して気分良いんだぜ?」
「アタシ、高いわよ?とりあえずあんたが持ってるあのネックレスはよこしなさいよ」
「へいへいへい。相手しくれりゃなんぼでも」
肩を抱いて絡まる男の姿。
「俺、年上趣味じゃねぇからなあ」
甲板長が笑う。
「エース、お前の好みってのはどんな女だよ?」
俺の好み……うーん、そんなに狂暴じゃなくて武器とか持てない感じ?
俺が守ってやりたいって思う感じでちょっと可愛いのがいいな。
お菓子なんか作ってくれたり、ちょっとした回復魔法なんか使っちゃったり。
「案外望み低いんだな、お前さん」
どうなんだろう?素手で魔物たたき割るような子じゃないほうが良いな。
だって俺までたたき割られそうじゃんか。
「あはははは!!あんたは強ーい女じゃないと無理!!なんたってひ弱な魔法使い!!」
「うっせーな!!ゴリラみたいな女なんか嫌に決まってんだろ!!」
アリアハンでは絶対に彼女作って船に乗るんだ。
乗れなくても絶対に可愛い彼女作ってやんだからな!!






噂に聞いてたルイーダは年は食ってるけども確かに美人だった。
おっさんと姐さんは相変わらず飲んだくれてる。
次の船の契約のために動いたり、もらった金で遊びまわったり。
用心棒ってのは強さが証明されれば仕事には困らない。
「はいよ、いつもの」
「あんがと」
いつもの席について同じ酒飲んで。
「そういや、パーティ組みたいんだけど断られっぱなしの子がいるのよね。なじみの
 お客さんの娘さんでさあ……しょんぼりしちゃってて」
「へぇ……その子も用心棒とかになりたいわけ?」
「んー……ちょっとした家の子なんだけど……本人に聞いた方がいいわね。会うだけ会ってみない?」
ルイーダが階段を指す。
言われた二階の隅の席、やけにきらきらした髪の女の子が一人で座っていた。
自分の身長ぐらいのでかい剣を壁に立てて。
「お嬢さん一人?」
「……え、あ……」
「ここ、席空いてる?」
こくん、とうなずく姿。
キラッキラの銀色の髪を留めるティアラ。
その宝石と同じ青い瞳。柔らかそうなほっぺたとか、そんなに悪くない。悪くないぞ。
「十六歳になったから旅に出ようと思ったの。お父さんを探しに行こうと思って」
ミルク入りのウイスキーと剥かれた果物。
じっとみればこいつの剣にはアリアハンの王家の印が付いてる。
王族のお姫さまか?んでも、だったらこんな場所にゃ来ないだろうし。
「お父さんはバラモスを倒しに行ったの。だからあたしもバラモスを倒しに行く」
おいおいおいおい、お嬢さん。そりゃ無理ってもんだぜ。
そんなひょろっちい身体で闘おうってのが間違いだ。
「ロマリアから船に乗せてもらって……」
十六は俺もランシールを出た年だ。
最初はやっぱり俺も頼りなかったんだろうな。
まあ、俺は天才魔導師さまだから良いんだけど。
「お嬢さん、名前は?」
「ジェシカ」
そだったらもっと可愛くなるんだろうな。
ああ、でも剣とか使うんだからこいつは剣士とか戦士とか希望なのか。
「闘ったことあんの?」
横に振られる首。宮廷戦士たちの訓練には混ざっても実践は無ってこと。
「うーん、そりゃパーティ組んでくれっても厳しいよな」
見た目も可愛いから下手したら売り飛ばされたっておかしくはない。
外出て一撃で死ぬかもしれないし。
「…………………」
なあ、だからってそんな困った顔するなよ。
誰だって最初は初心者なんだぜ?
ただちょっと……お嬢さんは望みが高すぎっていうか……。
「解ったよ。ロマリアまで一緒に行ってやる。俺の仲間もいるから安全は保障されるぜ?」
キラッキラの笑顔がやけに胸に残って。
「わあ!!ありがとう……えーと……」
「俺、エースってんだ。お嬢さん」
「ありがとうエースさん!!」
「エースで良いよ、ジェシ」
やたらめったらまぶしい笑顔。
俺は運命の出会いをした。





気がつけばグリズリーなんか素手で殴り飛ばすし、軍隊蟹の大群だって剣で叩き割る。
おかしい。俺はそういう女は好みじゃなかったはずなんだけど……。
「お前、アリアハン行くときに聞いた女の好みからずいぶん外してんなあ」
銜え煙草でおっさんが笑う。
相変わらず危なかっしい闘い方でもこの数カ月で大分形にはなってきたらしい。
「きゃーーーっっ!!」
ああ、だからもう。
ちょっと目を離すとすぐに囲まれるから!!
だから俺がいなきゃダメなんじゃねぇか。
何が船の上なら一人でも大丈夫なんだか……。
「んじゃ呼ばれたんでちょっと行ってくる」
ジェシカに張り付く痺れクラゲを引っぺがして。
面倒だからまとめてベギラマで焼きクラゲにしてやった。
あー!!だからそれは食えねぇから!!
酒の肴にもなんねー不味さだってこの間教えただろ!!
「エース、ほっぺた」
触手がぶつかったのか確かに少し痛い。
まあ、でもこんなくらいだったら舐めときゃ治る。
って言ったからってお前が舐めんなよ……確かに届かねえけどさ……。
「食べれたらいいのにねぇ」
「食っても不味いな。ま、このクラゲよりは美味い飯ができてるみたいだぞガキども」
先に行ってるとおっさんは俺らを残していった。
「ご飯だって」
「おー、姐さんのメシか……何入ってっかこえーな……」
アリアハンでできた俺の彼女は。
半端なく強くなり今じゃ戦闘の達人になりつつある。
でも、やっぱり俺が守ってやんなきゃいけないのはかわんねぇから。
俺の好みだってことなんだよな、うん。
「大きな烏賊の脚が焼かれてると思う」
「まじかよ……海賊料理にもほどがあるっての」
どんなに強くなっても俺のお姫様。
だからどんな時でも助けるからずっと俺を頼ってな。





「あー……もう少し筋力つけてぇな……」
「大丈夫。私、大きな武器も持てるよ」
「じゃねぇんだよ。俺だってなあ……」
「?」
「まあ、いっか……」
「うん」



逆さまのお月さま、ばらばらのお月さま。
どこまでも、どこまでも。
君の手を引いて進もう。











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