◆God's internal organs◆
「ここかムーンペタなりか!綺麗な街そなねー」
水の都は、緑に囲まれた美しい場所。しかし、今現在も熾烈な戦いを繰り広げている
激戦区の一つでもあった。
「紋章は、どこにあるぞえ?」
陸地に上がるときは商談のときくらいしかないと、ベレッタは辺りを見回す。
王都ムーンブルクの名を持つ街は、未だその加護を受けている。
他の地より戻ったムーンブルクの騎士団と魔道士達は、先頭にたって街を護るのだ。
「アスリア皇大使さま!!」
「アスリア様!!御無事で……」
駆け寄って跪く騎士達の姿に、一瞬で視線がアスリアに向けられる。
「みんな久しぶりだな。みんなも無事なようでよかったよ」
正統なるムーンブルク皇国のただ一人の王族。
ロトの血を引き、この世界を救うべく戦う青年。
「あれがロト?」
「あんな子供達が……?」
かつてのムーンブルクは今や焼け野が原と化している。
皇大使と言われても、国が無ければ名前だけの物なのだから。
「アスリア様、こちらへ……」
忠臣たちは、君主をこの忌まわしいざわめきから救おうとする。
青年は静かに首を振って、それを制した。
「うるさいぞな!!文句があるならみんなで戦えばよいぞな!!アスリアが
どれだけ頑張ってるかみんなわかって無いなりぞ!!」
腕組みをして、ベレッタが大声で叫ぶ。
「ムーンペタの民は、恩義を忘れるものなりか?あちきたちメルキドの民はロトの恩義を
忘れないぞな!!」
「ベレッタ、良いんだ。俺の問題だし」
「悪霊の神なんていないぞな!!作り出してるのはあちきたち人間ぞな!!」
彼女を止めたのは、賢者モハメだった。
「己の国を信じられぬものたちは、いずれ滅び行く。ムーンブルクの騎士達はここを守りつづけて
いるのだろう?君主を亡くし、それでも自らの意思で」
一個人となっても、忠義をつくす騎士団と国を失っても希望を捨てない王族。
「まぁ、グダグダ言ってる暇は無いみたいだぜ?オカマ」
レイが親指で示す方向に見えるのは、夥しい魔物の群れ。
フレイアとブイリザードの大群がムーンペタ上空で渦巻いてるのが見える。
「あちきがなんとかするぞな。ロト達は紋章を探すぞな!!」
光の剣を手に、ベレッタは上空を睨む。
相反する二つの魔物。それが一斉に攻撃を仕掛けてくるのだ。
(一掃するしかないか……あちきにどこまでできるか……)
「ベレッタ、僕も手伝うよ。ここはムーンペタ……どのみち、サマルトリアの僕じゃ
水の紋章は受け付けてはくれないだろうし」
魔法剣士が二人、背中合わせで天を仰ぐ。
「ベレッタ様、私もお供します」
「御頭!!俺たちもいまっさぁ!!」
「リトル、行こうぞ!!」
いつも、傍らには信頼できる仲間がいた。
共にこの道を歩き、同じ未来を見つめる。
そして気が付けば仲間は数え切れないほどの数になっていた。
それすら気付かず、ただ、目を閉じてきた日々。
「アスリア!!みんなを避難させて!!」
「御爺様!!船ごと浮かべて欲しいぞな!足場にする!!」
「船浮かべたらお前、集中攻撃喰らうぞ。それに、上だけじゃないだろう」
弓矢を構えて、モハメは上空のブリザードの集団を一掃する。
魔法力の込められた矢は、一体を討ちぬいてその核を利用して大爆発を引き起こすのだ。
「なーんだ、ドン・モハメまでいるんだ」
「……バズズ……」
「久しぶりだな、ネブラスカ。今度はロトに肩入れしたか?」
目深に被った帽子を指で押し上げて。バズズはリトルを見つめた。
翠色の瞳が小さく輝いて、外套が風に靡く。
「ネブラスカ、あんな男の言うことなんかきにしなくていいぞな!!あきちがちゃーんと
面倒みてやるなり!!」
焔を切り裂き、ベレッタは宙を舞う。
同じように剣を手に、リトルも次々にフレイムの群れを切り倒していく。
「ペットは、多けりゃ多いだけ楽しいだろ?お嬢ちゃん」
「そういう楽しい事は、俺も混ざる〜〜〜♪」
空間が歪み、姿を現したのはアトラス。足場代わりにドラゴンフライに腰掛けて辺りを見回す。
「アトラス、相変わらず暇人なんだな」
「酷いいい方だねぇ。いっぱいおもちゃ持ってきたのに」
首に下げた水晶の笛に触れる薄い唇。
先日とは打って変わってローブに身を纏った姿。
「オカマ、紋章は任せたぜ。俺もあっちだ」
稲妻の剣を鞘から抜いて、レイはアトラスの方へと走り出す。
「あ、俺のロトも来た。バズズはあっちで、俺はこっちね」
二つに結わえた深緑の髪。ゆるりと解いてそれを泳がせる。
何も知らなければ、彼女が魔族だとは誰も思わないだろう。
まして、ハーゴンを守る騎士だとは。
「いざ参る、ロト」
「うあっぁああああっっ!!」
ゆらめく剣先は少年のそれを狙い、アトラスは大地を蹴る。
「ネブラスカ!!」
シルバーデビルの臓物を引き出しながら、ベレッタ男を呼び耳打ちをした。
「あちきたちは大丈夫。アスリアは剣が使えぬ、あっちも守ってたも」
「しかし、ベレッタさまを置いて……」
「命令だ。早くするぞよ!!それに……あちきはそんなに弱くない」
鋭い爪を柄で防いで、女は道をつくる。早く行けと言わんばかりに。
その背中に一例をして、男はアスリアの手を取って走り出した。
「僕はお前なんかに負けない!!」
「小童が!!」
ベギラマがぶつかり合って、巨大な熱波に変貌して行く。
同等の呪文をぶつけ合えば、あとは魔法力の強いほうが勝利を得る。
双方互角の場合は互いにその呪文が跳ね返ってくるのだ。
(押されてる……この俺が……!!)
ぎりりと歯軋りをして、バズズは更に魔力を込める。
(……互角……でも、それじゃ勝てない……どうにかしなきゃ……)
互いに力を弱めることなく続く牽制。それを動かしたのは飛び出してきた女だった。
「!!」
バズズの横から体当たりをして、ベレッタは後ろからその首に剣をつきつける。
「親父様を殺したのもお前ぞな?」
「だったらどうした」
「あちきもお前を殺す。それだけぞな」
今まで見せた事の無いベレッタの表情に、背筋が凍りつく。
彼女は、殺意を殺意として見せずに誰かを殺すことができるのだ。
「バズズさま、御手伝いいたしますわ」
甘い匂いの霧があたりに充満して、一人の少女の姿を生み出す。
それは、かつて竜神が打ち砕いたはずの人形だった。
「アトラス様!!」
投げつけられた剣を受け取って、アトラスは印を結ぶ。
刀身が青い光を帯びて、何かに共鳴するかのように耳の奥に直接流れ込む悲鳴に似た音色。
「!?」
「破壊の剣っていうのさ、ロト!!」
振り上げると同時に生まれる衝撃波。
「!!!!」
何とか剣で受け止めようとしても、アトラスは魔法剣士。
剣武だけでは防ぎきれない。
「……また、邪魔するかモハメ!!」
半円球の光の膜が、例の周辺を包み衝撃波を弾き返す。
魔法には魔法を。ならば、賢者モハメの方が魔力だけならばアトラスより上回る。
「行け!!ロト!!」
「助かったぜ!!おっさん!!」
アトラス目掛けて切りつけていく左手。大地を蹴り上げて、全体重を掛けて頭上を狙う。
(リトルは……)
バズズ相手に熾烈な魔法合戦を繰り広げる姿。
サマルトリアの威信を掛けて、彼女は決して退く事はしない。
右手に熱波を、左手に剣を構えて爆音と硝煙をものともせずに戦う。
「いらいらずるぞな!!」
ザラキでブリザードとフレイムを片付けて、少女の髪をベギラマで焼き千切る。
「頭にくる女ね!!死ね!!」
数では圧倒的に上回っていても、彼らはその数さえも粉砕する。
それが、『絆』という力なのだから。
「こっちだ」
地下階段を全速力で駆け下りて、二人は封鎖された牢を目指す。
ムーンペタの中で、たった一つだけの異質な空間。
それがこの地下牢だった。
「ここか……」
古びてはいるものの、魔力の込められた柵はそう簡単には砕けない。
アスリアを後ろに、ネブラスカは剣でそれを切り砕いた。
「あなたでは、剣は使えないとベレッタ様が」
「たいした女だ。確かに俺じゃ剣は持てねぇ」
漆喰の剥げた壁と黴の匂いが鼻を吐く。
誇りを払いながら瓦礫を分けていくと、小さな宝箱が顔を覗かせた。
「これか……」
封印しているのは確かにルビスの紋章。
静かにそれを払って、箱を開けた。
「……間違いねぇ……俺んちの家紋と一緒だ……」
おそらくは、近衛兵の誰かが落城の際に持ち出し、ここに隠したのだろう。
いずれ、その血が見つけ出すことを信じて。
「早く戻りましょう、邪気が強くなってきてる」
「ああ……ちょっと待て……」
壁に刻まれた小さな文字。古の言葉を目で負いながら、彼はその意味を必死で繋いだ。
「……なんてこった……」
「?」
「敵は、ハーゴンだけじゃねぇってこった。しかも、そのハーゴンも一人じゃねぇ」
ロンダルキアの神殿で見た大神官ハーゴン。
その姿を思い出して、ネブラスカは首を振った。
「いや、ハーゴンは確かに一人だけのはず」
「双子なんだとさ……男と女の。ガキまでいるらしい」
魔族道士の近親婚。生まれた子供は強大な魔力を備えてその腹から這い出してくる。
「行くぜ、嫁が待ってる」
「きゃあああああ!!!」
シルバーデビルを盾に、少女はベレッタの剣を受け止める。
それでも女は飛び散る内臓など気にも止めずに少女の首だけを狙う。
ぼろぼろの道衣と、傷だらけの身体。
「!!」
ベリアルの火球がリトルの腹部を直撃して、後ろにはじきとばす。
「リトル!!」
「大……丈夫……この程度でなんか……」
剣を構えなおして、呪文を詠唱する唇。
その端から零れ落ちる血液と、肉の焼ける匂い。
「死んでられないから!!」
肉体も精神も、もうとっくに限界を越えていた。
それでも、一歩も退かないのは彼女が本当の強さを得ているから。
(不思議だね……何も怖くない……)
ローブを染め上げていく夥しい血液。
レイもベレッタもモハメも、みな同じように立っていることさえ不思議な状態だった。
『騒がしいぞ……神の前でなんたることか』
鼓膜に直接染み込んでくる女の声。
それはどこか慈愛さえも感じられるほど柔らかで穏やかなものだった。
「ハ、ハーゴン様!!」
「やば、ハーゴン様だっ!!」
頭上高くに生まれる光に向かって、バズズとアトラスは臣下の礼を取り膝をついた。
「……あれが、ハーゴン……」
腕に子供抱いて、黒衣に身を纏った美女。
年の頃は二十を少し越しようにしか見えない姿。
『我が名はハーゴン。ロンダルキアの主……おまえたち、退くが良い』
「し、しかし……!!」
『我の命令が聞けぬか?バズズ』
「は……はい……ッ……」
ハーゴンの命令で、魔物達は次々に姿を消していく。
まるで、夢でも見ていたかのように。
『お前達がロトか……うふふ……』
薄紅の唇が微笑む。
『その血は、ロンダルキアの祭壇に必要な物……我が神殿へ来るが良い』
指先から生まれる閃光。
爆風と共に消える女の姿に、動くことすらできない身体。
瓦礫と硝煙、そして残った魔物の骸の山。
それが、これが夢ではないと告げた。
「まずは、リトルとベレッタの治療だな……」
医務室に運び込み、二人の衣類を剥ぎ取る。
無残に刻まれた傷と、止まる予感さえも感じられない体液。
船はゆっくりと南下して、ロンダルキアにもっとも近いとされるペルポイを目指していた。
そこに、件のラゴスがいるのだから。
「酷えな……内臓までいってんだろ……」
腕に巻かれた包帯が痛々しい己の姿は省みず、レイが呟く。
魔法で出来た傷を治すのは容易ではない。
高等神官でさえもこの傷を見れば逃げ出したくなるだろう。
「オカマ、なんとかなりそうか?」
「わからん……お前の見解はどうだ?ネブラスカ」
傷口を消毒する手を休める事無く、男は口を開いた。
「死にますね。このままなら」
「俺も同意だ。おっさんは?」
「ハーゴンの光を受けた傷は、人間では治癒できぬ……」
悔しげに唇を噛んで、モハメはベレッタの手を取った。
「……おっさん、人間じゃなき治せんだな?」
この世界に住まう、人とは違う大事な仲間。
竜の血脈を引く一人の女。
「ああ……」
「だったら、死なねぇ。二人とも、生き残る」
サマルトリアから駆けつけたのは、銀の髪を持つ竜神。
対岸のムーンペタの炎を見つめながら、三人の安否を案じていたらしい。
「儂の血で良いのか?賢者よ」
リラの言葉に、モハメは静かに跪いた。
「竜神よ、我らメルキド族……ロトの意思によって……」
「堅苦しい言葉は嫌いだ。簡単にしてくれ。長話をする間に人間は死んでしまう」
その言葉に、モハメは小さなナイフをリラに手渡した。
「傷に、血を」
「分かった」
躊躇う事無く、花びらを切り裂くように女はその指先を切りつける。
赤と銀が混ざり合い、光加減によっては宝石を砕いたかのようにさえ見える血液。
「呪ったはずの血が……誰かを救おうとはな……」
流れ落ちる血液が、傷口へと触れた。
腐食を止める、偉大なる竜の血脈。
「レイ、これからどこへ向かうのだ?」
「ペルポイって街にいるラゴスって男を引きずり出す」
「ペルポイ……ロンダルキアの麓の地下都市か」
ぼんやりとした光が二人の身体を包み込み、夥しく流れていた血が止まる。
ここから先に必要なのは腕のいい医者と、気のいい仲間の言葉。
ネブラスカを筆頭にして、医療班が二人に治療を施していく。
「地下都市?」
ロンダルキアの麓の街は、その全てを地下に閉じ込めた。
魔物達の襲撃にも耐えうるように、その扉に魔法を掛けて。
「面倒な場所だもんな。しょーがねぇ」
刀傷の残る頬に、指先が触れる。
「消せぬか…………」
「消えなくても良いんだよ。傷は男の勲章だ」
いたむ傷口を癒してくれる誰かがいる。
そして、痛みを痛みとして認識できること。
それはきっと、何にも代えられないものだろう。
「一緒に行くか?ペルポイ」
「良いのか?」
壁に凭れたままのアスリアに視線を向ける。
「かまわねぇよ。仲間は何人いたっていいもんだろ?」
「そうか。儂も仲間か……」
この旅の終わりに待つものが、絶対的な幸せで無いとしても。
きっとそれを受け入れることに後悔など無い。
ペルポイの手前に停泊して三日。
まだ二人の目が覚める気配は無い。
悪戯に過ぎる時間を苛立ちと一緒に噛み砕いて、青年は空を仰いだ。
「すげぇなねーちゃん。こんな大物釣り上げるたぁな」
「そうか?釣りなど初めてしたのだが……面白いものだな」
鱗の模様が美しい魚を釣り上げて、竜神は至極満悦の表情。
海面から顔を覗かせるレイの手には、貝がきっしりと詰まった網が見える。
「こっちも大漁だぜーーー!!!」
「ロトってのは、貝取りも上手いのかねぇ」
甲板の騒がしさは相変わらずで、意識の戻らない人間が二人居るとは思えない状態だ。
「竜神でも、釣りは初めてか?」
「ああ。魚も肉も滅多に口にしないからな。こんな風に大人数で何かをすることも無かった。
ロトは、儂にも希望をくれたのだよ」
甲斐甲斐しく二人の介護をするのは、船医のネブラスカ。
アスリアはここ三日ばかり、一人で居ることが多かった。
(俺の決定的な弱点……それは、魔法が通じない相手には手も足も出ないってことだ……)
ナイフ一つ満足に使えないこの手。
誰かを守れるだけの絶対的な力も無い。
「浮かない顔だな、ロト」
「……なんで、俺はこんなに弱いんだって考えてた……」
それは何度も何度も繰り返し繰り返し、答えの出ない問題。
剣を持つことができれば、もっと力を得る事も出来る。
パーティの中でも攻撃を前面に出すことができるのだと。
「弱いと思える事は、強さの一つだぞ」
「ナイフ一つ満足に持てねぇ……もっと力があれば俺だって……」
「魔道士としてのその力、不満か?」
三人の中では最も体力的に低く、絶えず誰かに守られるこの状態。
女に守られ、また彼女を盾とする。
「武器など無くとも、攻撃はできる。ベレッタ(あれ)もバズズに体当たりをかましていた」
「あ……?」
「形振り構わずにいけばいい。ロト」
くしゃくしゃと頭を撫でてくる手。それはどこか父親のそれにも似ていた。
今、自分を見たら父はどんな言葉を掛けてくれるだろうか。
どんな風に思ってくれるのだろうか。
「モハメさま、ベレッタさまを起こしに掛かろうと思いますが……」
「三日も寝たんだ、大分良いだろう」
あたりに漂う甘い香り。
「もうじき準備も整います」
小一時間もしただろうか。次々に作られる料理と、準備される上等なぶどう酒。
主役はリラの釣り上げた魚をマリネにしたものとレイの取ってきた貝を蒸したもの。
「ベレッタさま!!御食事の時間ですよ!!!」
耳元で紡がれる言葉。
「大好きなクッキーも、パイも、ケーキもたくさんありますよ!!起きてください!!」
それでも、指先一つ動く事は無い。
静かな呼吸音だけが、響き渡って耳が痛い。
「ベレッタさま……起きてください……」
「リトル、起きねえと襲うぞー」
傷は大分癒えている、後は二人の生命力次第。
意識を揺さぶることができれば、奇跡だって起せるのだから。
「こうなりゃ、実力行使だ」
上着に手を掛けても、瞼一つ動かない。
「どけ、甘いんだよやり方が」
レイを退けて、アスリアはリトルの顔を覗きこむ。
まだ少し冷たい頬に手を当てて、徐に唇を重ねた。
歯列を割って舌先が入り込んで、同じように返してはくれないそれに絡みつく。
「………ん………」
ゆっくりと開く瞳。
「!!??」
わなわなと拳が震えて、青年の顎を下から殴り飛ばす。
「何やってんだっっ!!!!!」
「ほらな、目、覚めたろ?」
ずきずきと痛む顎を擦りながら、アスリアは小さく笑った。
守られるだけではなく、今度は守れるように。
一緒に笑って、苦痛を分け合えるようにありたいと。
「うるさいぞなねー……お腹すいたぞな……」
むくり、と身体を起して目を擦る姿。
「ベレッタさま!!」
「おー……ご飯の匂いぞな!!お腹空いたぞなー」
「御頭!!御客人の釣った魚で快気祝いでさぁ!!」
この騒がしい船に乗れたことは、この先の人生での宝物の一つ。
忘れる事の無い女海賊と仲間たちが其処にいた。
「そんなことがあったぞなねー。リラ、ありがとうぞな」
焼きたてのパイに口をつけてベレッタは女に深々と頭を下げた。
「いや、メルキド族に逢えるとも思わなかったからな」
「海底神殿にも一緒に行くぞな?リラ」
もう一欠けと手を伸ばすのを、船医に止められてその手を下げる。
「いや、儂は入れぬだろう。あそこには」
「どうして?」
腕の包帯を交換してもらいながら、リトルが呟く。
「ハーゴンの力が強すぎる」
「あちきの御袋様が人柱になってらっしゃる。だから、大丈夫ぞな」
「リラがいてくれれば、心強いよ。僕もこの通りだし」
満身創痍の身体を引きずって、リトルは笑みを浮かべる。
明朝にはペルポイに到着する予定だ。
「そうか……なら、儂も同行させてもらおう」
女三人が過ごす船長室。話は尽きる事も無い。
「どんどん敵も強くなってきてる……このまま無事になんか終らないよね」
リトルの言葉にリラが笑う。
「そのときは儂も、ベレッタも力を貸すだけじゃ」
「そうぞよ。あきちたちは仲間ぞよ、リトル」
浅い眠りは、目覚めを誘う。
目指す街はロンダルキアに抱かれた迷宮。
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23:00 2005/07/08