◆close by dune――ゆびきり――◆




「んで、俺に何の用だ?お姫様」
ロトの剣を磨きながら、その刀身にレイは息を吹きかける。
その仕草は先代のロトと同じ。
「お前は、あの二人と違って変わらぬ男なのだな」
「ああ、オカマとリトルのことか?最初はちょっとびっくりしたけど慣れれば気になんねーし」
レイの腕の中、剣は気高く笑う。
「ロト、この旅が終わったら儂と一緒になってはくれぬか?」
竜の血と、ロトの血脈をあわせることが出来るならば。
この監獄の中から魂だけは出られるのかもしれない。
「早急な求婚だな、お姫様」
日に焼けた手は、何かを確かめるように銀色の髪に触れる。
「でもさ、俺……隠し事されんの好きじゃないんだ。どれだけ綺麗だって綺麗じゃなくなるしな」
男の言葉は残酷だ。
無意識だからこそ、心に突き刺さる。
「選民意識っていうんだぜ?竜族のお姫様」
腕は干からびてうっすらと鱗が浮いてきて、金髪に褐色の肌は彼女が人外であることを語った。
伸びた爪。この爪で何人かの人間を殺してきた。
みな一様に彼女のことを『化け物』と罵ったからだ。
それでも、あの光の中の世界に触れたくて、手を伸ばしてしまう。
その光が本物かどうかなどとは、考えることも出来ないままに。
「お前も私のことを、化け物と思うか?」
「いや。ちょっとヒス気味だがまだマシだ。キレたときのリトルなんざ多分、ハーゴンも真っ青だ。 
まぁ、キレっぷりはオカマのほうが上だけどな。あいつには我慢って言葉がないからさ」
腕に巻かれた包帯に、滲む血の色。
それは魔族も竜族も人間も同じ同じ忌まわしく美しい『赫』で。
この身体にも流れるもの。
「金髪の女は好きだぜ。アレフガルドには美人が多いって本当だな。お姫様」
自分の隣をぽふぽふと叩いて、レイは彼女を座らせる。
鱗の浮いた腕、伸びた耳。
「泣きそうな顔してんな、お姫様。俺ぁ、女兄弟も女であったことも無いからどーしたら
 いいかわかんねぇんだ」
頬に触れる掌は、傷と皸だらけ。
がさがさのそれは、酷くやさしくて涙がこぼれそうになる。
唇を噛んで、それを飲み込む。
この感情を抱いてしまえば、人間を食らうことなど出来なくなってしまう。
「リラ。俺の国に咲く花の名前だ」
「え…………」
「ロトがこの地より持ち帰りし赤き光の華。そう、聞いた」
銀の髪を持つ女勇者は、竜神を切り裂き英雄となった。
そして、彼女は剣を置き静かに余生を過ごしたと言う。
神殺しをしたものが、何故に勇者と謳われるの?彼女はそれを繰り返した。
遥か離れた大地、彼女と王子、そして、その子供たち。
やがて血は分かれて三つの国を作る。
それが、彼らの祖国なのだ。
後悔と、懺悔に苛まれた勇者。それを担ぎ上げる人間。
『一つの幸せな家庭を、壊してしまった。神様、私をお許しください』
それが、ロトと名付けられた少女の最後の言葉だった。
「リラ。俺が死ななかったら」
頬を包む手。
「俺の国にある、お前の花を見に来いよ」
「……私は、醜い化け物だ。男にも、女にもなれぬ……」
レイの手を取って、リラはそれを自分の胸に当てた。
上向きで張りの在る乳房。それは布地越しでもはっきりと分かる美しさ。
「おぞましい身体だ。男であって女でもある。私は竜族の出来損ないだ」
「得したと思えよ。人生二倍楽しめるんだ。オカマだって二倍以上楽しんでんぞ。
 そんなことくらいで悩むな」
ぽたり。こぼれる涙。
そのあたたかさは、人間も竜も同じなのだ。
「……私を、抱けるか?ロト」
「ロトなんてたいそうなもんじゃねぇよ。俺はレイアルド。ローレシアの出来損ないさ」
黒髪にそっと触れた指先。ゆっくり、ゆっくり、距離が縮まっていく。
「俺の名前はレイ、ロトじゃない」
「……レイ……」
目を閉じて、息が掛かる距離まで顔を近づけて。
そっと、触れるだけのキスをした。
「……続けても、いいか?お姫様」
こくん、と小さく頷くのを見て、今度はもう少しだけ深いキスを。
唇を挟むように重ねて、そっと舌を入り込ませる。
分け合える体液と、その甘さ。
同じように彼女も舌を絡ませて、吸い合う。
「……キスだって、ちゃんとできる。何が不安だ?」
「この手も、身体も、何もせずとも皆が私を異形の目で見る……っ!!ただ、私たちは
 静かに暮らしたいだけなのに……どうして、どうすれば…っ!?」
胸に顔を埋めて、小さく震える竜神を、彼はそっと抱きしめた。
誰かを殺すのは、剣ではなく、無神経な言葉。
刺さって抜けない永劫なるその棘。
「ごめんな……馬鹿ばっかしでよ。悲しい思い一杯させちまった」
さらり、と指をその髪に通す。金はゆっくり光に溶けて眩い銀に変わっていく。
「傲慢な人間ばっかじゃないんだ。リトルとかオカマとか。ちょっと頭悪いけど俺とかさ」
「……人と、共存したいと願うことは愚考か?」
「すっげぇ、いい考えだ。俺もそう思うよ、リラ」
互いの上着を落として、その身体を抱きしめあう。
「……ぁ……」
耳に触れる唇に、震える肩口。
静かにベッドに身体を倒して、覆い被さる。
傷一つ無いその肌は、触れることを躊躇う色合いで。
鼓動が、早まるのが分かった。
「あ……っん!!」
両手で柔らかい乳房を揉みながら、その先端を舐め嬲る。
ぬるりと舌が這い回り、くりゅ…指先がそこを捻って。
その度に生まれる疼きに、彼女は頭を振った。
下着に手を掛けて、そっと引き落としていく。
「待って!!嫌!!」
「まぁ、きっちり責任は取るから」
すらりと伸びた脚、なだらかな腹部。そして――――本来あるはずはない生殖器。
唇を噛んで、リラは嗚咽を殺した。
性を選ばぬままに卵は割れ、この世界へと身体は這い出てしまったのだ。
その結果がこの身体だ。
「両性具有か……初めて見たぜ」
そり勃つものは、無視してその下にある入り口へと指をしのばせる。
「醜いとは……思わぬのか?」
「あー…ちょっとびっくりしたけど、こっちも修羅場潜ってきてっから」
「!!」
入り込んでくる異物の感触に、声が掠れる。
「大丈夫だ。ちゃん濡れてるし」
喉元に触れる唇。誰も触れたことの無かった肌に、咲き始める赤い花。
曇った音と、湿った空気。
感じる体温の熱さに、自分の身体が女でありたいと叫ぶのを感じた。
誰かの魂を抱き、癒せるからだが欲しいと。
「ふぁ……ぁあ、んっっ!!」
くちゅ、ちゅぷ。指先が動くたびに零れてくる水音。
それは半分だけの女の喘ぎ。
(さーて、普通に挿れんのは難しいよな……)
つぷ…指を引き抜いて、そのまま腰骨を撫で摩る。
「力抜いて……そう……んな感じ」
膝を抱えるようにして座らせて、そのまま抱き上げて。
とろりと零れる愛液が、光る糸のようにシーツを濡らした。
前に手を付かせて、後ろからゆっくりとその先端を沈めていく。
「……ぁ……く…ぅ…ッ!!」
腰に手を掛けて、牛から抱きしめるようにして一気に置くまで沈めた。
「!!!!」
ずきん、と走る最初の痛み。それに付随するように鈍い痛みが子宮を中心にして
全身に走り抜けていく。
動くことさえ儘ならないのに、それでも反り勃つ陽根。
己の痴態に、リラは顔を覆った。
「……悪ぃ……初めてだったか……?」
耳朶を噛む唇の優しさ。
「……気に……病むな……ん!!」
「もっと別のとこ弄って、気持ちよくさせてやりたかったんだけどよ、見つかんねぇから……」
レイの手にすっぽりと包まれたそれは、びくびくと脈打つ。
やんわりと扱きながら上下させると、その度に膣内がきゅんと絡んでくる。
「あぁ……!!や…ぁん!!」
「痛いの……少しは消えたか?」
「あ…うん……!!」
繋がった箇所はじんじんと痛むのに、与えられる快楽で身体は溶けそうに熱い。
背中に掛かる男の湿った息にさえ、胸が震えた。
「あ…ア!!あぁっっ!!」
ずく、ぢゅく。腰が動くたびに、赤と白の混じりあった体液が二人の腿を濡らしていく。
「こっち向いて」
向かい合わせで抱きしめあって噛み付くようなキスを重ねた。
憎かったはずの『人間』は、詰まらない維持を取り払うキスをくれる。
竜と、人の血が混ざり合う。
絡まって、この世界に新しい血を起こすために。
「……レイ……」
震える指が、胸板に走る傷に触れる。
「ああ。これか?ちょっとな」
「……酷い……」
「酷かない。俺たちがお前らにしてきたことのほうがよほど……」
この思いが、もしも叶うのならば。
気高い竜族の王として、ロトの血にその加護を。
自分を抱くこの腕が、贖罪ならば。
この半端で忌まわしい身体を贄にして、男を守りたいと思った。
「ああんっっ!!」
痛みと、甘いうずき。何度も揺さぶられて、レイの手の中でそれはとろとろと涙をこぼす。
「俺も……イキそう……」
「……?……ふ…ああんっっ!!」
ぎゅっとしがみついて、引き離されないように必死に腰を振る姿。
室内に響くのは喘ぎ声と、荒い息だけ。
絡まった影が二つ、壁で淫靡な絵を描く。
「あ……あああっっん!!!」
振り乱れた銀の髪と、重なる黒髪。
飛び散った飛沫と、内側ではじけた男の精に、この身体の不条理さを感じた。
それでも、満たされたことと、開放されたことの幸福感。
そして、受け入れられたことに至福感に、リラは涙をこぼした。




繋いだ手を離すのは、嫌だと彼女は小さく笑う。
この手を離したら、二度と会えなくなるからと。
「全部終わったらまた来る。リラの花見せてやるからよ」
わさわさと髪をなでられて、彼女はくすくすと笑った。
「その方がいい。リラ、笑ってろ。俺とゆびきり」
小指を絡ませて、そっと離す。
「あの二人にひどいことを言った……取り返しのつかない言葉を……」
「人間も、リラに酷いこと言ったろ?その人間に俺らも色々言われてきた。名ばかりの
 勇者とか、偽善者とか。まぁ、事実だけどな。俺らの場合は」
それでも、その人間を守るために彼らはその命を差し出すのだ。
どれだけ、言葉の刃を向けられても。
「魂には響かない。ご先祖様の言葉さ」
「魂……」
「リラの魂も、そんな罵詈雑言には汚されないだろ?」
一つ一つの言葉が、優しく光りながら心の海に沈み行く。
それは、ちいさな宝石だった。
きらきらと沈む、蒼い輝石。
「竜は、ロトの道を守る。この先に何があろうとも」
「もっと簡単な言葉で言ってくれ。俺、肉体労働専門なんだ」
「お前に惚れた。それではダメか?」
ちゅ、と喉仏に触れる薄い唇。
「了解。意地でも死なずに帰って来るぜ」
「私も、本物の姫になれるように……待つよ、レイ」
それぞれの思いは、一筋の光になる。
この世界を、救うことになる強い光に。
守るべき『約束』は、戦場でこの先彼を示唆することとなり、その命を何度も救う。
それは、二つの血が混ざり合って生まれた新しい命のように。





「もう行っちゃうのかい?ロト」
ドラキーはくるくると、リトルの肩に止まって声を上げる。
「レイ」
手を取って、握らせたのは小さな宝玉。
「どうにもならないときは、これを大地に打て。援軍を送れる」
「遠慮なく使わせてもらうわ、リラ」
まっすぐ、逃げずに彼女は後ろの二人に視線を向けて。
深く深く、その頭を下げた。
「非礼を、許してくれ。ロトよ」
「あ……いや、いいんだ。俺は……」
意外すぎる行動に、アスリアはおろおろとリトルに視線を返した。
「こっちこそ、ごめんね。必ず人と竜の間に光を繋げるようにするから」
「リトリア王子」
「はい」
「サマルトリアのことは心配するな。竜の騎士団を遣わそう」
ハーゴン軍と熾烈な攻防をしている祖国に。
彼女は力を貸すというのだ。
「人間は、かようにも優しいのだな……光は対岸の物のみに在らず、大いなるものと……」
「ありがとう。リラ王女」
少女二人の手が、ゆっくりと触れ合う。
小さな、小さな、融和は。
この世界を変える大きな一歩だった。
「約束は守るよ。ねぇ、レイ、アスリア」
「ああ。女との約束は特にな」
「それは俺の台詞だ。オカマ」
ぎゃあぎゃあと言い合う姿に、笑い出すのも女二人。
「リトル、おぬしが国王になったら竜と和平を結ばぬか?ここと、おぬしの国は近い」
「いいね。それ。そしたら毎日みたいに騒げるよ」




小指は、約束を描く。
離れても、心はいつも側にいると。






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18:13 2004/09/30        

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