◆レディオ・ヘッド◆
「お前が次ぎの防人か?」
炎を纏う護神像が少年を見据える。
「私の名は。アシャ炎の護神像」
ふわり、ふわり、とアシャは少年の頭上に。
「レオナルド・エディアール」
「何で俺の名前を!?」
「お前の記憶を覗かせて貰ったよ、レオナルド」
無機質な瞳はそれでも何処か優しく見える。
「さて、お前には私の扱い方を憶えてもら……逃げるな!!レオナルド!!」
脱兎のごとく走り去るレオの前に、アシャは降り立つ。
「面倒な子供だね。レオナルド」
「不気味な護神像に習うことなんて無い!!」
「なら、これでどうだい?」
アシャの体を薄い炎が包み、ゆっくりとその姿を変えていく。
褐色の肌に、顎線で切りそろえられた黒髪。
腕には護神像03の文字。
「ア、アシャ!?」
「これなら不気味でもないだろう?レオナルド」
「お、お前女だったのかーーーーっっ!!??」
「おや、そうみたいだね。まぁ、いい。おいで、レオナルド」
アシャの手がレオの頭に触れる。
「まずは先の防人たちの願いを、受け入れろ」
ゆっくりと重なる唇。
絡まる舌先に抵抗する力が抜けていく。
「!?」
何かが直接脳内に流れ込んでくる。
苦痛に逃げようとしても、アシャの手がそれを許さないのだ。
塞がれた唇に感じる熱さ。
「……ッ!!」
「次は……」
「もういい!!止めろ!!」
ずきずきと痛むこめかみを押さえて、レオは叫ぶ。
「まだだよ、レオナルド。お前は私が選んだ防人だ。他のものでは務まらない。
いいかい、お前はこのアシャが選んだ炎の防人なんだよ」
その名のごとく、赤い瞳と真っ赤な爪。
「レオナルド。手を」
唇が妖艶に笑う。
少年の手が震えながら、女のそれに触れた。
「うわぁああああああっっっ!!!!」
体中を支配する激痛。眩暈と吐き気、そして襲い来る頭痛。
頭を抱えながらのた打ち回る姿に、流石のアシャも目を細めた。
「それを乗り越えたら、お前は私を使う防人になる。レオナルド、お前はたった一人、
このアシャを扱うことが出来るんだ」
「ああああぁああああっっ!!!」
「炎の防人、レオナルド・エディアール」
耳に入り込んでくるアシャの声だけが酷く優しくて。
薄れ行く意識の中でレオはその手を必死に伸ばした。
最初に聞いたのは小さな歌声。
気が付けばアシャに膝枕される形になっていた。
「気が付いたかい?レオナルド」
「……アシャ……」
「いい子だね。ちゃんと全ての引継ぎを完了できた」
髪を撫でる指先。それは不思議と痛みを取り去ってくれる。
「お前の剣に、私の命を封じよう。お前の両親が残してくれた大切なものだ。
折られる訳には行かないからね」
よく見れば、随分と整った顔をアシャはしていた。
薄い唇と小さな鼻。
少しだけつりあがってはいるが大きな真紅の瞳。
癖のない黒髪は指を通せばさらら…と流れる。
筋肉質だが、柔らかい線で作られた身体。
「……アシャ、何故俺を?」
「お前は、ずっと前から私の傍に居ただろう?いつか大人になったら自分が防人に
なると。臆することなく私に触れただろう?レオナルド」
伍の村には、常に防人が常駐しなければ村は滅んでしまうような過酷な環境だった。
防人は常に子供たちの羨望を集める。
年老いてはいたが、先代の防人は立派な男だった。
アシャを従えて、機械を追い払う姿。
いつか、彼のようにアシャを従えるのが村の子供たちの夢だった。
「お前くらいだよ、『アシャ、俺が次ぎの防人になるんだ』などと私に話しかけてきたのは」
「そんなこといったか?俺……」
「忘れたのかい?酷い子だ」
アシャの指先を取って、そっと唇を当てる。
「ガキじゃない、もう」
「私から見ればまだまだ子供だよ、レオナルド」
「キスだってできる。アシャ」
静かに女の唇が近付いて、少年のそれに重なる。
最初のキスよりも、ずっとずっと甘くて優しいキス。
ちゅ…と離れると今度は少年の手がアシャの頭を抱き寄せた。
「俺……強くなれるのか?アシャ……」
「何を言ってるのかしらね。このアシャが選んだ男がそんな腑抜けのはずかないだろう?」
少年の体を抱きしめて、その背を優しく摩る手。
布地越しに感じる柔らかさと、温かさ。
「おいで、レオナルド。今度は私のことをしって貰いたいから」
朽ちた部屋の中、縺れる様にベッドに沈む二つの身体。
上着と外套を止める金具を外して、並んだボタンに焦る指先が触れる。
首筋に触れる唇。そのまま下げて、乱暴に乳房を引き出す。
「…ぁん……そんなに焦らずとも……逃げやしないよ……」
レオの手を取って、その指を下から舐め上げる舌先。
ぴちゃり…零れる音。
這い回る舌先の温かさに、ぎゅっと目を閉じた。
震えに頭を振って、張りのある乳房に接吻して。
その頂を丹念に確かめるように舐め嬲る。
「…ふ…ぁ……!!」
「いつも……こんなこんなコトするのか?アシャ……」
かり、と乳首を甘噛して、そのまま指を下げていく。
「っは……!まさか……いくら私でもそんなに暇じゃないよ……」
気持ちばかり焦るレオの不安が分かるのか、アシャはゆっくりと身体を起こした。
改めて見ても、美しい裸体だ。
「なっ!?アシャ…っ!?」
勃ち上がったレオのそれに手を掛けると、アシャはその先端を咥え込んだ。
挟み込むようにその幹に薄い唇が触れる。
指先はやんわりと扱きながら上下し、ちろちろと亀頭を唇が転がす。
「…っは…ア、アシャ……ッ…」
ちらり、と見上げてくる瞳。
悪戯気に細まって、強くそこを吸い上げて鈴口に舌を捻じ込む。
ぢゅく…ぢゅぷ…体液と唇が交差する音色。
「!?」
不意に離れる唇に、身体が追いかけようとする。
それを制して、アシャはレオの上に覆い被さった。
「おいで、レオナルド……」
額に小さなキスをして、レオの手を自分の腰に回させる。
腰骨の細さに驚きながら、そっとその身体を抱き寄せた。
「…っは…あ……」
こぼれる吐息と、くちゅ…と漏れる水音。
先端が入り口に触れて、ゆっくりと飲み込まれていく。
「……っ…アシャ…ッ…」
ぢゅぷ、と根元まで飲み込んでアシャは少しだけゆがんだ笑みを浮かべた。
本来、護神像が人間と交わることは無い。
悪戯にその姿をみせても、ただそれだけで終わらせてきた。
けれども、この少年は何かを支えにしなければ崩壊してしまう。
守るべき目的も、肉親も、何もかもを失ってしまったのだから。
「ぁあ!!っは…アんっ!!」
少年の腹筋に手を付いて、腰を振る姿。
落ちる汗さえ、神経を支配して狂わせる。
ぬらぬらと零れる体液が、互いの肌を汚していく。
「あ!!…ふ…ぁん!!」
最後に人と交わったのはどれくらい前だろう。
この身体さえも、覚えていない。
「…レオナルド……」
ぴちゃぴちゃと何度も押し当てるようなキスを繰り返して、互いの身体を抱きしめあう。
今、彼に必要なのはぬくもり。
寄りかかることの出来る存在。
「…っは……アシャ…ッ…」
荒い息は、彼の限界が近いことを告げる。
それを促がすように寄りいっそう激しく腰を使う。
「あ!!っく…あ!!あああっっ!!」
「――――ッ!!アシャ…ッ!!」
自分の下でびくつく少年を抱きしめて、彼女はもう一度その唇を重ねた。
「目が、覚めたのかい?」
同じように、彼女の膝に抱かれて目を覚ます。
「……アシャ、お前もずっと一人だったのか?」
朧気ながら伝わってきた彼女の記憶。
どんな防人と居ても、彼女の孤独は満たされることは無かった。
「そうね。けれども、レオナルド。今の私にはお前が居るよ?」
今だけ、この瞬間だけ。
嘘でも幻でも、二人だけで何かを確かめたかった。
「これから、お前には剣術や私の使い方を教えて行く。ちゃんと憶えるんだよ」
「……わかってる……」
そっと、髪を撫でる指先。
「いい子だね、レオナルド。私の大事な子……」
正義と真実の名を持つ護神像アシャ。
二つの手が重なり、何かを掴んだ瞬間だった。
「待て!!アシャ!!何故勝手に合体を解く!!」
レオの身体から分離し、アシャは必死に距離を離す。
防人であるレオと融合したままでは彼まで巻き添えにしてしまうからだ。
護神像は他のそれを飲み込むことでより強い力を手にする。
(レオナルド……お前を巻き添えにするわけにはいかないから……)
彼女は、確かに彼を認め愛した。
他のものに使われるくらいならばと、消滅を選んだように。
「アシャ!!」
最後に振り返る。
確かめたかった互いの気持ち。
「アールマティー!!」
小さな悲鳴と共に、飲み込まれていく一体の護神像。
「アシャ!!!!!!」
(レオナルド。お前は私が選んだ防人だ。このアシャガね……)
耳に残る彼女の声。
(さぁ、お行き。私が無くとも、お前はれっきとした防人なのだから)
形は無くとも。
彼女は常に少年を抱きしめる。
何度も、何度も。
彼がこの道をまっすぐに進めるようにと。
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16:56 2004/11/15