◆Metamorphose◆






「何だか今ひとつ、意味は分からないけれども……お前にもこれをあげるよ。レオナルド」
小さな包みを少年の手に渡す。
「何だ?コレ」
訝しがりながらも、包装紙を剥がして中身を取り出す。
「チョコレートだ」
「だな。甘ぇ……」
「チョコレートを贈る日らしいからね。お前もずっと働き通しだっただろう?」
それが、どんなものであれ誰かの贈り物は心を穏やかにする。
まして思う相手ならば殊更に。
「アシャも食えよ」
「私は要らないよ。レオナルド、疲労回復にも良いから、お前がお食べ」
あたりの機械を一掃して、少年は笑顔でチョコレートに齧り付く。
口中で蕩けて、広がるほのかな甘さ。
「何で、チョコレートなんだ?」
「さぁね。昔の記憶だから」
「まぁ。いいか……美味いしな」
唇の端に触れる指先。
「付いてるよ、レオナルド」
その指先を取って、唇を押し当てる。
「そういや、この間あった防人と護神像……変わった二人だったよな」
「マナフのことかい?末っ子はどうも甘やかされるのが好きみたいだからね」
黒髪を風に泳がせて、女はくすくすと笑う。
「私も、甘やかすのは好きだよ?レオナルド」
「……ガキ扱いすんな」
「おやおや。もっとチョコレートが必要かい?」
ふわふわのあの雲よりも。
もっと、もっと、心は高い所に。





「その手を離しなさい」
小さな身体を抱きしめて、青年は眼鏡を中指で押し上げる。
「マナフ、良い子だからおいで」
「嫌!!キクなんか大嫌い!!」
左手には小さな箱。
「今日だけで良いから、戻って来なさい」
「絶対に嫌!!」
噛付く様に、少女は男の方を睨んだ。
「嫌がってますね。お引取りを願いたいのですが」
「それは、私の子供のようなもの。返してもらおうか」
「明らかに嫌がってますし、帰すつもりは毛頭ありません。お引取りを」
男の後ろに回って、大切そうに少女は箱を抱える。
「大体……毎晩毎晩男の顔ばかり見せられてこっちだってたまったものじゃない。
 お前だけではなく、昨今の防人は皆、護神像に溺れる傾向だ」
「恋愛は、自由ですからね」
男の存在など無視して、アランは少女の頭を優しく撫でていく。
「キクになんかあげないもん。これは、アランにあげるんだもん」
ぷい、と顔を背けてしまう。
機械の賢者は七体の護神像のうち、二体目の少女にどうやら熱心らしい。
「そうですか、今後も毎晩拝ませる自信はありますよ」
「それが苦痛だと言ってるんだ」
「先日会った防人にも、同じ事を?炎の護神像アシャとその護り人」
青年の上着の裾を引いて、少女はその瞳を見上げる。
「アラン、あっち行こうよ。キクなんか放って置けばいいのー」
ピンクのリボンで飾られた小さな箱。
「マナフ、いいからこっちに来なさい」
手が伸びて、マナフの腕を掴みあげる。
「やだ!!離して!!」
「他の防人を見つけてあげるよ。マナフ」
「そんなの……やだっっ!!」
「同感ですね」
ばちばちと雷火を放つコードの先端を、男の喉元にアランは突き付けた。
その名の通りに機械の賢者ならば、理論上はその機能を停止させることが出来るはずだ。
「誰であろうと、邪魔はさせません。他をあたってください」
「気に食わない男だ。アラン・イームズ」
「アル・イドリーシではなく、私ですか?」
彼にして見ればどちらも同じ。
前者は愛しい娘を。後者はそれともう一人、大切な相手を奪った男。
「どっちも……気に要らん!!!!」




「いやぁ。俺って……人気者?」
右腕をしっかりと抱くのは銀髪の美少女。
左腕を取るのは、黒髪の美女。
両手に花と、アルは一人呑気に笑う。
「その手を離せ。アールマティ」
「ヨキこそ、アルから離れたら?」
視線はぶつかり合って、熾烈な火花を散らしまくる。
「子供はもう寝る時間だよ?アールマティ」
「御老体を引きずるのも辛いでしょう?アルは私が面倒を見るから大丈夫よ」
柔らかい胸が、男の腕に触れる。
「マティ、お前、おっぱいおっきくなった?」
「アルのおかげよ」
その言葉に、アルの手を取って女は自分の左胸にそれを当てた。
「揉み応えのあるおっぱいだよなー。なんつーか、これって正義でしょう。もう」
睨みあいは収まる気配無し。
男を挟んでの一騎打ちでも、アルは笑みを浮かべたまま。
「はいはい、喧嘩しない。どっちも愛してっから♪」
両腕で、二人を抱き寄せて。
「だから、ヨキもマティも俺の事愛して♪」





女の肌に触れる指先も、だいぶ慣れてきた。
「アシャの肌も……チョコみたいだ……」
舌先が鎖骨をなぞると、くすくすと笑い声に耳に響く。
「そんなに甘いかい?レオナルド……」
柔らかい唇に、自分のそれを押し付ける。
少年の頭を抱いて、同じように絡まってくる舌先。
「あ……っん」
乳房を掴んで、その先端を忙しなく吸い上げる唇と舐め嬲る舌。
両手でぎゅっと揉み抱いて、その谷間に顔を埋める。
「……アシャ……」
何度も何度も唇を押し付けて、その体を抱きしめた。
「……レオ、いい子だね……」
少年の身体を組み敷いて、その額にちゅ、と接吻する。
唇はそのまま下がって、喉仏に触れて。
鎖骨、薄い胸板と静かに下がっていく。
「……ん…っ……」
反り勃ったそれに、指が掛かって上下する。
剥き出しの亀頭の先端を飲み込むように唇が包み、口中でやんわりと転がして。
「…っは…ア……シャ…っ……」
つ…と唇が離れて、今度はそれを寄せられた乳房が挟み込む。
「ア、アシャっ!?」
「こういうのも……悪くは無いだろう?レオナルド」
包まれたそこから覗く亀頭をちろちろと舌先が嬲る。
時折、ちゅぶ…と吸い上げては焦らすように離れるのだ。
「…っ……ぅ……」
抱いているのは自分のはずなのに、まるで抱かれているかのような感覚。
ぷるぷると柔らかく張りのある乳房が揺れては攻める。
「……我慢しなくても……良いんだよ?レオナルド……」
ふ…と掛かる吐息に、レオの身体がびくんと揺れて。
「だ、誰が……」
「たまには、私がお前を抱いてみるのも面白いかもしれないね……」
レオの上に、覆い被さる褐色の身体。
ぬるつく入り口に先端を当てて、ゆっくりと腰を沈めていく。
「…ア……っ!!……」
もどかしいとばかりに、腰に手が掛かって一息に抱き寄せられる。
「ああっ!!!」
ずい!と奥まで押し上げられて、女の身体がびくんと揺れた。
両手を絡ませるようにして腰を抱きしめて、もっと、と動きを促す。
「……の……が、する……」
「…アシャ…っ…?」
耳朶を噛んで、その耳元に囁く声。
「チョコレートの味がするよ……レオナルド……」






ぐすぐすと涙を零す少女を、必死にあやして。
小さな身体をぎゅっと抱きしめる。
「……割れちゃった……」
「割れても、味は変わらないでしょう?」
片手で顔を覆って、マナフは首を振った。
「割れちゃったら、ダメだもん……」
一年に一度、いつもの『好き』に違う意味合いを込められる魔法があるから。
「甘いものは好きですよ。チョコレートも、君も。どっちも甘い」
「んーん……」
髪留めを外せば、さらら…と亜麻色の髪が流れる。
「大事な人の気持がこもったプレゼントは、どんなものだって嬉しいですよ」
彼女の目線に高さをあわせて。
片膝をついて、触れるだけのキス。
「これ……貰って……」
泣き腫らした目が伺うように見つめる。
「ありがとう。マナ」
「……うん……」
「マナ?」
人間形態から護神像に姿を変えて、彼女は宙に浮かぶ。
「やっぱり……キクに仕返ししてくる……」
「マナ!!もう十分ですよ!!」
「だって。キクはチョコレート割ったもん」
ご機嫌斜めの小さなお姫様は、騎士の言葉に耳を貸す余裕も無い。
「さっきの衝撃波と部分爆破で十分ですよ。あちこちから煙も出てたことですし……」
感情の爆発は、思わぬ威力を発揮する。
ショート寸前の状態で、キクは蜘蛛の糸への帰還を余儀なくされたのだ。
「んー……」
おいで、と手を伸ばして。
「ほら、丁度二人で分けられますよ。マナも甘いものは好きでしょう?」
ピンク色の甘い甘いチョコレート味のキス。
「うん……」
指先で確かめて、この気持を。
(仕返しは毎晩こっちからさせていただきますよ……その目を閉じたくなるほどにね……)






素肌に書かれた文字に、男は笑みを浮かべる。
「うん、良い出来だ♪」
「アル!!」
後手に縛られて、女は男を睨み付ける。
「ヨキ、俺思うんだけどさ、やっぱり……こーいうのは三人で仲良く楽しむのが大事なんだよ」
腕組みをして、一人で何度も頷く。
つん、と上を向いた乳房から腹部。そして、その下。
書かれた文字の元は甘い甘いチョコレート。
「せっかくアールマティを寝かしつけてきたのに〜、ヨキさんってば照れ屋さん♪」
「私にも一服盛ったろうが!!」
「しっ……寝た子が起きちまう」
神妙な面持ちで、アルは唇に指を当てる。
眠らせたのは、愛息と護神像。
「嬉しいなーーーぁ……ヨキからのチョコレート」
「誰がやるか!!」
「遠慮なく、いただきますっ!!俺は、出されたものは残さない男だからさ」
舌先が肌に触れて、文字をゆっくりとなぞって行く。
一文字、一文字。じっくりと味わいながら。
「…ぅ……ァ……」
唇を噛んで、上がりそうになる声を噛み殺す。
乳房をやんわりと掴んで、その先端を歯先が軽く引っかく。
「あ!!」
「我慢すると、身体に悪いぞ?」
ねっとりと動き回るそれが、そろそろと肋骨に触れて。
窪んだ臍に、ちゅ…と接吻する。
震える膝を割って、じんわりと濡れだした入り口を視姦する瞳。
「あー……一文字足りね……」
「や……ッ!!」
秘裂にとろり…と甘い液体。
「おっしゃ、完成♪俺ってもしかして才能あるかも」
「アルっ!!」
軽く息を吹きかけて、ぢゅる…と吸い上げる。
腰を抱えるようにして、アルはそこに顔を埋めた。
抵抗しようにも、動きは封じられて男の為すがまま。
「ん、ア…ッ!!や…め……」
「やめなーい。バレンタインのチョコは味わって食わなきゃ。特に、本命からのはさ」
入り込んでくる指先に、身体が大きく跳ねる。
そう変えたのも、この男の指。
愛しさも何もかもを織り込んだ、長い長い時間。
「!!」
ちゅっ、と唇が踝に触れて、そのまま指先に下がる。
確かめるように一本、一本に触れて。
愛しくて敵わないと、甘いキスが降り注ぐ。
「ふ…ぁ……あ!!」
「あ、ココ弱い?」
びくびくと震える肩先。
「かーわいい♪そういうとこ、大好きよ」
かりり…と踝を噛んでそのまま足をk多に書けるようにして折る。
「チョコレート、好きだろ?ヨキ……」
ハート型の小さなそれを咥えて、口移しでヨキの口中へと。
「!!」
ぐ…と入り込んでくる男に、ぎゅっと目を閉じる。
あご先から落ちる汗が、乳房で弾けて。
ただ、それだけなのに、鋭敏に身体は反応してしまう。
「あ…んんっ!!やぅ……ッ!」
しっかりと腰を抱かれて、何度も何度も揺さぶるように貫かれる。
ぎりぎりまで引き抜いて、一気に最奥まで。
その度に、絡んでくる肉襞にアルは満足毛に笑みを浮かべるのだ。
「……ヨキ……」
ぱちん…拘束する金具の外れる音。
手を伸ばして、男の頬に手を当てる。
「キスしてくれよ……とびきりやらしーやつ……」
その頭を掻き抱いて、舌を絡ませて吸い合う。
ぴちゃぴちゃと互いの体液を交換する音が、耳に響く。
それに合わせるかのようにアルは腰を進める。
「っは…あ!!アル……!ア…ル…っ……」
ぎゅっとしがみつく身体をきつく抱きしめて、耳元で何度も囁く声。
「来年もチョコレートくれよな……ヨキ……」
素直になれないのは互いの性分。
もてあます感情と身体を抱きしめあって、何度も何度も蕩けそうなキスを繰り返した。





「な、お返しやんなきゃなんーんだろ?アシャ、何が欲しい?」
「そうだねぇ……立派な男になっておくれ。レオナルド」
その言葉に、レオは枕に顔を埋める。
「ガキ扱いすんな」
「おや?そんなに不機嫌になるようなことかい?」
少年の髪を撫でる指先は、どことなく母親にも似ていて時々物悲しくもなる。
けれど、自分を支え護る女が傍にいる事の安心。
まっすぐに進むための、一条の光。
「じゃあ、世界一の防人になっておくれ」
「任せとけ……って、それじゃお返しになんねーだろ……」
「私はそれが一番嬉しいよ。レオナルド」
プラスティックの星は、きらきらと優しい魔法を掛けてくれる。
例え、その光が偽物だとしても。
その暖かさに、虚飾はないのだから。






腕の中でくすくすとこぼれる笑い声。
「んーとね、丸くて可愛いのが良いな」
「次の村で、探しましょう。コーラルピンクが良いですね」
世界中を飛び回って、一番素敵なプレゼントを探そう。
君が笑ってくれるのならば、どんな事でも出来るから。
「もう、おやすみなさい。明日も沢山歩きますから」
「うん……おやすみ、アラン」
聞こえてくる寝息に目を細める。
(しかしながら、意外に過激な事も考える子だったのですね……)
賢者が去った後、宥めるのに要した時間は、真夜中過ぎまでの殆ど。
(それも込みで愛しますよ。君の隣にいるには、それくらいの度量がなければいけませんからね)
朝はきっと、幸せの空。
手を繋いで、この砂の大地をどこまでも行けると信じているから。







「あーあ……結局、アルはヨキを選ぶのよね……」
隣でぐっすりと眠るシオの頬を指で突いて、少女は大きなため息を付く。
「ね、シオ。早く大きくなってね。アルよりもいい男になって、遊ぼうね」
この先の運命など、まだ微塵も感じないまま。
「一人で食べても、美味しくないよー……」
かりり、と齧り付く一枚のチョコレート。
甘いはずなのに、どこか少しだけ苦い気がした。
(来年は、絶対に負けないもん)
ぎゅっと拳を握り締めて。
目を閉じて、そっと宇宙(そら)を思った。




中身がいっぱいつまった、甘い甘いチョコレート。
二人で分け合って、確かめ合おう。






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1:09 2005/02/16

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