◆Darling Call Me―子供が寝た後で―◆





「そんなわけで、息子共々しばらく世話になります」
子供の頭も下げさせて、防人は深く頭を下げた。
「部屋ならあっちに準備した。シオ、おいで」
「うい」
子供手を引いて、ヨキは二人を割り当てた部屋へと案内する。
長旅で疲れたのか、子供は欠伸をしながら。
「シオ、ヨキ先生にありがとうは?」
「ありらとす。ヨキちぇんちぇー」
「ふふ、シオはいい子だね」
歩きながらもうとうとしてしまっている、子供を抱き上げる。
「また少し重くなったな」
「あー、成長期なんだろうなー」
その後ろをてくてくとアルが付いていく。
「助かったよ。私一人では流石にあの機械の群れはどうにも出来なかった」
「しばらくはここで、掃除していくよ。少しは楽になるだろ?」
七の村は、救援信号は出しては居ない。
だが、決して機械に襲撃されることが少ないわけでもないのだ。
本業は医師であるが、ヨキが此村の警護と自衛団の指揮をとっているから、
まだこの程度で済んでいるという結果なだけで。
怪我人が絶えないことに、変わりは無いのだ。
「おや、もう寝付いちゃったね、寝つきがいいのもアルの血だ」
「そうか?俺、そんなに寝つきいいか?先生」
夫婦には、なれなくとも。
心は繋がっていて。
それは、例えこの子供に自分の血が混ざってなくとも愛しいと思えるように。
「おやすみ、シオ」
子供を寝かしつけて、額に張り付いた前髪を指でそっと払う。
「可愛いものだね。子供は」
「ああ。俺の宝物だ」
肩に、優しく触れる手。
「ヨキも、俺の宝物だよ。それは今も変わらない」
「……お前も、休んだほうがいい。アル」
ぱたん、とドアを閉めて。ため息が一つ。
離れても何も変わらない、そう言い聞かせてきたのに。
それでも、この血を混ぜることの出来なかった思い、悲しさ。
言い聞かせても、心がもがく。
(私も、早めに休もう……考えても仕方のないことだ)
この心は、押さえ込めないから。
ただ、自分が女なのだと痛感させられた。





腕組みをして、ため息をついたのは女のほうだった。
「アル、何故ここに居る?」
浴室から出てきて、自室のドアを開ける。
ベッドに腰掛けてのんびりと地図を広げる男の姿。
「先生、眠れないんです。シオは寝ついたんだけど、俺の息子が眠れないって言うんですよ」
「だったらどうした」
「眠れるようにしてください。先生」
「お前は他に考えてないのかっ!?アルッッ!!」
「考えてるよ、お前の手を離しちまったことを。ずっと……」
隣に座っているのに、ずっと離れているよう。
手を触れるのも、怖く感じてしまう。
「俺、やっぱりヨキのことが好きだ。それは死ぬまで変わらない」
「…………子供を大事にしてやれ」
「してる。シオも、お前のことを嫌ってない。母親を重ねてるのかもしれないけど」
どこか寂しげな笑顔が、胸に刺さる。
「母親、欲しいのかなーって思うよ。俺じゃ全部は補えない」
「お前は立派に父親だと思うよ、アル」
「ああ……そうありたいと思うよ……」
大地の護神像を引き継ぎ、この世界を守るたった七人の一人として。
男は世界中を飛び回るのだ。
「それよりも、先生。息子もなんとか……ぐわっ!!」
顎下から入る拳。
「相変わらずいいパンチしてるじゃねーか、ヨキさん」
「進歩がない男は嫌いだ」
後ろから抱きついて、アルはそのままヨキの身体を倒す。
「ぅあ!!」
「隙だらけなのも、変わってないねぇ、先生」
白衣を剥ぎ取って、その肌を外気に晒す。
「あは、寒いときは生肌であっためあうのが鉄則だよなぁ、先生」
すり寄せられる頬に、感じる暖かさと幸福感。
諦め半分に、男の背中に手を回した。
重なる肌の暖かさは、あのときと何も変わりなど無く。
まるで、時計の針を逆に回したかのように思えた。
「……ん…ふ……」
舐めるようなキスと、入り込んでくる舌先。
吸いあって、貪るように絡ませた。
生暖かい体液を交換して、そのまま男の鎖骨に唇を移動させる。
「おわ、びっくりした」
「そうか?男はお前一人ではないからな」
くすくすと笑う唇が、やけに魅惑的。
手首を押さえつけて、組み敷くと上向きの胸がつんと誘う。
「あ…ん!!」
ぢゅ…吸い上げて舐める音が耳を刺激する。
そのまま指を滑らせて、さわさわと入り口を上下させていく。
つぷ、とその先だけを沈ませて、乳房を噛んでそこを重点的に嬲って。
にゅぐ…両手で揉み抱いてぐっと寄せた。
「なんか……お前おっぱいおっきくなってないか?」
「知るか!!」
「浮気か!?それだけは認めんっ!!この乳は俺のもんだっ!!」
ぎゅっと掴まれて、甘い喘ぎが零れてしまう。
「ふぁ…んん!!」
「ちっきしょ……なんか腹立ってきた」
膝を割って、脚を大きく開かせる。
「や……待て!アル……んっっ!!」
ねっとりと熱い舌が、ぴちゃ…と捻じ込まれていく。
まるで違う生き物のように、内側で暴れるそれ。
口唇全体が、張り付くように濡れた秘所を覆う。
「あ!!ああんっっ!!ゃあ!!」
アルの頭を押しやろうとしても、力では勝てない。
勝つつもりも、本当は無いのだ。
「…ふ…ぁ!!…アル…ぅ…!!」
舌先がくちゅくちゅと動くたびに、ひくん、と震える腰。
そのまま唇は、赤く震える突起に触れる。
「ひぁ…!!あ!!ああんっっ!!!」
腰を抱えるように、女の股間に顔を埋めて。
じゅる…ちゅく…舐め上げて吸い上げる水温が甘く理性をとろかしてくれる。
指先にぬるついた愛液を絡めて、そのままヨキの口腔を嬲るように。
「俺じゃない男とも寝た?誰と?どんな風に?」
「…ふ……ぁ!!」
「言えよ。誰とだよ。カーフかよ」
小さく横に振られる首。
苛立ち紛れに指を引き抜いて、力任せに挿入した。
「!!…痛っ…ぁ…!」
涙ぐむ瞳を、無視しきれるほど彼は冷たくなれなくて。
悲しげにシーツを握る彼女の手を自分の背中に回させた。
「ごめ。そんなつもりじゃない」
「……カーフは、此処には来た事も……」
鼻先に触れる唇の熱さ。
「ん……わかってる。ごめ。俺が悪かった、ヨキ」
大事なものほど、壊したくなってしまうこの感情を。
どうにかしたくて肌を重ねる。
鼓動、体温、そして――――恋心。
「!!」
腰を抱きなおして、力を入れて奥まで突き上げる。
ぎりぎりまで引き抜いて、繰り返される挿入。
ぬらぬらと絡む愛液が、太杭を濡らす。
「ああっ!!あ、ア…ル…っ!!」
小刻みの呼吸と、ぐちゅぐちゅという淫音。
身体を折って、屈位さながらに打ち込んでいく。
その度にきゅん!と絡む襞と肉壁。
「…っは…アル……アル…っっ!」
背中に食い込む細い爪。
追い込んで溶かしたくて、無我夢中で腰を使った。
上り詰めて、壊れる瞬間の顔が綺麗で、その甘い悲鳴が心地よすぎて。
女の身体を、貪るように抱いてしまう。
「あ!!!ああぁぁんっっ!!アル!!アル…っっ!!」
びくん!と弓なりに仰け反って、だらりと四肢から力が抜けていく。
ひくひくと震える身体をぎゅっと抱きしめて、その形の良い額にキスをした。
「今度は……俺もイカせて……ヨキ……」
蕩けきったそこに、再び与えられる刺激に、甘い疼きが生まれてしまう。
「あ、あ!!ふぁ…ん!!」
「甘えた声、かーわいい」
絡ませた腕も、脚も、何もかも。
自分のだけのものだと、思いたい。
「もっと、いい声聞かせて。ヨキ」
ずく、ぐちゅ、繰り返される抽入に意識が薄れそうになるのを繋ぎとめる。
「あ!!アル!!アル…あああんっっ!!」
「あー……もうちょっとで俺もイケそ……」
そして、唐突にそれは訪れた。
「とーちゃん、おしっこー……」
眠たげに目を擦りながら、ドアを開けたのは小さな愛息。
「おわ!!シ、シオっっ!!」
「アル!!どけっっ!!」
どけといわれても、しっかりと繋がったままでそれもままならない。
「……とーちゃん、ヨキちぇんちぇー…いじてるす?」
シオの問いに、アルは少し考えて言葉を発した。
「いじめてないぞ。先生、喜んでんだ。それに、運が良かったらお前の兄弟ができ…あがっ!?」
腹部に入ったパンチと、男のうめき声。
「とーちゃん、おしっこー……」
「分かった分かった、今連れて行くから」
ばたばたと服を着こんで、シオの手を引く。
二人の足音が遠くなるのを聞きながら、ヨキは大声で笑った。





「ヨキちゃんちぇーと、寝るすー。もれも、寝るすー」
三人仲良く川の字になって、シオはヨキの胸に顔を埋めた。
「あったかーい」
「ふふふ。やっぱり子供だね」
「かーちゃんって、こんなふうなのかなぁ……」
髪を撫でる指先も、暖かさも、父親のそれしか知らない。
優しく抱きしめて、眠りを促がす。
「寝ちゃった。やっぱり寝つきがいいのはお前の血だ」
「ヨキさん、自分だけイって俺だけ置いてけぼりですか?」
「子供のほうを大事にしろ。父親だろう?」
「俺の息子はどうしてくれんですか?俺、このままじゃマジで眠れないんですけど」
「自分でどうにかしろ。私はシオと寝る」
「あ!!ずりーぞ!!ちょっと待て!!せめて触って抜いてくれたっていーじゃねーか!!」
「何故私がお前にそんなことをせねばならんのだ!!」
言い合う声に、ぱちりと開く瞳。
「ちぇんちぇー……とーちゃん……喧嘩す?」
「いや、その、違うぞ、シオ。な?ヨキ」
「そ、そうだよ。シオ」
「本当す?」
不安そうに見上げてくる子供に、アルは本当だよと笑った。
そして、おもむろにヨキの顎を取ってキスを。
「ほら、こんなに仲良しだぞ。シオ。だから、もう寝なさい」
「うん……」
再びヨキの腕の中で、聞こえ始める寝息。
「あーあ、ヨキのおっぱい俺のもんだったのに……取られた」
「馬鹿なこと言ってないで、アルもおやすみ」
不貞腐れたように目を閉じる。
「!」
不意に触れた柔らかい唇。
「こんなに仲良し。もう、おやすみ」
子供を抱いて眠る姿は、母親のように見えた。
(……ヨキ、今のは反則……ますます寝れねーだろ……)



更け行く夜。
眠れないのは一人だけ。




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1:10 2004/10/05

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