◆もう一度夜を止めて◆
「さて問題はどうやってあそこに行くかだな」
古代遺産蜘蛛の糸は、空中に浮かぶ要塞。
外部からの入り口は無いようにさえ思えた。
「それは、俺の役目だな」
「遅かったな、寝癖」
「誰が寝癖だ!!」
カーフが従えて来たのは天空の護神像クシャスラ。
大地の護神像と対になるものだ。
「貴様のためじゃない。ヨキのためだ」
「んじゃ、コレやるよ。俺はもう一個あるから」
革鞄の中からアルは次々と手榴弾を取り出す。
改良型の小型銃とナイフ。オートマティックタイプのそれは、軽量の割りに破壊力は大きい。
「一時休戦ってことで」
「貴様のためじゃない。ヨキのためだ」
憎まれ口も文句も、思いのたけは同じだから。
ぱちん!と掌がぶつかって、離れた。
「さて、どうやってあそこに行くかだな」
「クシャスラ、飛行形態だ」
カーフの声に従うように、護神像はその形を変え、一対の翼を持った。
女の肩を抱いて、そこに乗り込み三人は上空の蜘蛛の糸に向かって旋回していく。
天空の護神像と大地の護神像。
防人二人が揃う確立は、ゼロではないが限りなくそれに近い。
まだ若い防人になりたての青年が、一人の女のためにその力を使うというのだ。
「便利だな、カーフの」
風を受けて、アルの前髪が揺れる。
「お前の護神像よりも、強いから当然だ」
「馬鹿言ってんじゃないよぉ〜♪俺のマティに勝てるって本気で思ってんなら、医者行ったほうが
いいぜ?あ、医者ならここにいるか。な、ヨキ」
円柱形の古代遺跡には、外側から侵入できる形跡は無い。
それを確認して、男は手榴弾のピンを抜いた。
「んじゃ、行きますか」
「そうだな」
爆発音と硝煙。本の僅かだけ出来た隙間を、抉るようにして内部へと入り込む。
物音一つ無い内部は、陶器のような冷たさ。
(……懐かしい……?どうして……)
かつん、かつん、と足音だけが響き渡る。
螺旋階段と光の羅列に、ヨキは懐かしさを感じていた。
初めて入ったはずのこの古代遺跡。
それなのに、次はどこに行けば良いのかが手に取るようにわかるのだ。
「ヨキ?大丈夫か?顔、真っ青だぞ」
「少し休んだほうがいい」
男二人の声に、大丈夫とだけ答えて手で顔を覆う。
乱れ髪がうなじを撫でる感触に、寒気を覚えた。
「ようこそ、蜘蛛の糸へ」
「……歓迎、ありがてぇな。機械の賢者さまよ」
男二人に睨まれても、キクは眉一つ動かさない。
「さて、これで参賢者が揃った。ヨキ、こっちに来るが良い」
「………………」
この男の手を取れば、何もかもを知る事が出来る。
けれども、この男の手を取る事は恋人を裏切ることだということを彼女は本能で感じていた。
「……嫌……だ……」
「黒き血の賢者、ヨキ」
「その言葉は間違ってんなぁ……こいつは俺の恋人のヨキだ」
女を背後に隠して、アルはキクと視線を重ねた。
「まだ、お前の恋人と決まったわけじゃない。ヨキは、俺が守る」
護神像を纏い、二人は男目掛けて拳を突きだす。
大地の護神像はその左手で、機械の心臓を抉り出す。
天空の護神像は、風の刃でアや揺るものを切り裂き破壊する能力。
「いくら私でも、お前たち二人を相手にするつもりは無いよ」
キクの右手が光り、指先から幾重もの輪が生まれだす。
「!!」
その光の輪は女を縛り上げて、遥か上空へと消え去ってしまった。
「ヨキ!!」
「人間に、賢者は渡さない。神の意思だ」
光を追いかけて行く男の姿を、必死に捕らえようとするものの、勝手の違う蜘蛛の糸では勘が効かない。
螺旋階段を昇りに昇っても、まだ天井は見えない。
「カーフ。二手に分かれようぜ。先にあいつを見つけたほうがぶちのめす。ヨキの件はそのあとに
決着つけよう」
「一時休戦か」
「そういうこった」
ばちん!と手を打ちあって、結ばれた協定。
二手に分かれて、男達は蜘蛛の糸内部を走り出した。
(……ここは……)
四肢を拘束する機械の触手に、女は頭を振った。
「懐かしいだろう?ヨキ。ここは私たちの家だ」
「……家……?」
「そう。二千年よりもわずかばかり前、私たちはここから全てを始めた。まだ、眠ってる影と共にね」
鼓膜を超えて、直接脳裏に響く声。
「思い出せないなら、思い出させてあげよう。君が、何なのかを」
「!!」
ぎり…手首を、足首をきつく閉め上げられて悲鳴が上がる。
上着を剥ぎ取られて、瞬く間にその肌が露にされた。
「何のつもりだ!!」
「散々黒い血の人間と関わったせいか、君の身体に異物が混入してるんだ」
人間の男性器に似たそれが、女の唇を開かせる。
「嫌だぁあっっ!!!」
「少し、掃除をしなければならない。汚れた身体では祭壇に登れないからね」
その声を合図に、触手はヨキの肌の上を愛撫するかのように這い回り始めた。
「ころあいを見て、迎えに来るよ。それまで君はそのままでいればいい」
瞬時に消える男の姿。
「……う……ああ……」
冷たく、血の流れの無いものが乳房を掴んで、その先端に擦り寄ってくる。
触手の先端部が開いて、唇のように変化を伴う。
「!!!!」
乳首に吸い付き、ちゅるちゅると絡み付く。舌先で舐め回されるのに告示した感覚に
背筋に何かが走った。
夥しい数の触手が腿の内側を撫で回って、膝に絡み付いて脚を開かせていく。
剥き出しになった秘部の入り口に幹元が摩り寄った。
醜い疣と襞がびっしりと刻まれたおぞましい形状。
亀頭に良く似た先端にも、数え切れない疣がこびりついて女の恐怖をいっそう強くしていった。
「ああっっ!!!嫌ぁあああっっ!!!」
細い繊毛のような物が伸びてきて、花弁を開かせる。
その間にも休む事無く、乳房への刺激は続いていた。
「嫌だっ!!嫌だァアア!!!!」
ひくつく包皮をめくり上げて、赤く熟れたクリトリスにそれが触れた。
「ひっ!!」
まるで羽虫が蠢くように、繊毛がそこを這い回る。
その度にとめどなく滴り落ちる愛液が腿を濡らしては、これが夢ではない事をと告げた。
楽器の弦でも爪弾くかのように、楽しむような動きで繊毛はクリトリスを刺激する。
「んぁ!!ああっっ!!!あ……ッッ!!!」
びくびくと腰がもどかしげに動けば、応える様にその刺激は甘く強くなっていく。
「!!」
唇を割って、一本の触手が入り込む。
びくん!と震えて、喉の奥に何かを吐き出した。
「んんんんっっぅ!!!」
喉を焼くかのような痺れと、力が奪われていく確かな感覚。
だらり、と腕が下がるのを合図に、待ち構えていた太い触手が女の内部へと侵入を始めた。
「!!!!!!」
先端が、疣が、抉るような動きが。今まで味わった事の無いような快楽がヨキを襲う。
ただ、目を見開いて、声すらあげる事も出来ずにその動きを受け入れるしかないこの状態。
触手が動くたびに生まれる快楽に、身体は従順に反応する。
そして、花弁が熱くなればなるほど、涙がこぼれて止まらなかった。
「あああっ!!!う、んんっっ!!んぁ……ッ!!!」
じゅぷ、じゅく……繰り返させる挿入に何度も何度も高みへと突き上げられていく。
「!!」
愛液で濡れそぼった後穴に、争うそうに触手が入り込む。
「ああああああッッ!!!!!」
薄膜一枚を隔てて、ごりごりと擦れ合うそれに、手足が痙攣する。
愛液を絡ませて、細い触手がさらに膣内への進入を開始した。
「嫌!!!嫌ぁああっ!!助け……ぅあ!!」
舌先を引きずり出して、絡まってくる繊毛。
誰かとのキスのように、口中を犯された。
(……アル……っ……)
休む事無く繰り返される注入。触手の先端部から吐き出される液体で、子宮内が次第に満たされていく。
「ひ……っあああ!!!」
指先で引っかくように剥き出しになったクリトリスに触手が群がる。
「ふあ!!!!ああああああっっ!!!!」
悲鳴にも似た声が、不規則な機械音と共鳴した。
前後を犯されて、消えそうになる意識を必死に繋ぎ止める。
だからこそ、この悦楽がこの上なく苦しい。
膣内では、太い一本を中心にそれに絡まるように細い触手が繊毛を必死に蠢かせてる。
襞を、子宮口を、絶えず刺激しては分泌液を吐き出し続けた。
「いやあああぁああっっ!!!」
止む事の無い、終わり無き陵辱。
自分が無力なのだと、犯されるままに感じた。
「ったくどこまで続くんだよ!!!この階段はっっ!!!」
男の焦りに、護神像が反応する。
『アル。掴まって』
「アールマティ?」
『クシャみたいじゃないけれど、私も飛べるよ。手を伸ばして』
アールマティの手が男に触れて、抱き上げるようにして急上昇していく。
「どこに行くんだ?」
『祭壇の間。私達が生まれ、全てが始まった場所。きっと賢者は其処に居る』
銀の光を放ちながら、どこまでもどこまでも昇り行く。
「アールマティ。護神像は七つなんだろう?俺が知ってるのは六つまでだ。最後の一つは……」
『それも、わかるよ。アル。覚悟だけ、決めて』
不安な心を写し取るように、昇り来る赤い月。
熟れた苺のような不吉な色は、全てを作り出したという神の血と同じ色。
ステンドグラスのように、球状の天井に映る満月。
(……ヨキ……)
どくん。心臓が鼓動を刻む。
体中の血液がざわめいて、何かを告げた。
「……ここが、祭壇の間……?」
六つの宝玉が、蜘蛛の巣の上で光を放つ。
「……俺……?っと、カーフ!!」
機械の群れと必死に応戦する青年の姿。
そして、自分の後姿がそれぞれ別の宝玉に映し出されていた。
「それは、護神像の目だよ。アル・イドリーシ」
「……キク……」
そして、その後ろに従うのは恋人の姿。
「ヨキ!!」
違うのはその瞳に浮かぶ光り。どこか覚悟と、そして殺意を抱いたもの。
「アル……」
「……なんだよ、それ……」
女が従えたのは、自分たちとは一線を画した護神像。
人を意味する最後の一体。
「私はヨキ。護神像スプンタ・マンユを駆る者」
女の指先が光り、護神像との融合が始まる。
「ヨキ!!」
「アル。これが私だ」
「……アールマティ……合体だ!!」
同等の力を持つもの同士ならば、どちらも砕け散る結末しか待ちうけては居ない。
女はまだ、羽化したばかりの蝶と同じ。
この瞬間をだけをみれば、男が勝つのが決められた未来だった。
「……っく!!流石に強ぇや。手、抜けねぇ……マティ!!硬化だ!!」
繰り出される千手を防いで、男は左手で掴みかかる。
生まれ持った特性と、野戦で鍛えられた感性。
女の手を砕いて、その右肩に喰らい付いた。
「うああああっっ!!!」
傷口を押さえる手が、黒く染まっていく。
「どけ!!ヨキッッ!!!!」
「!!!!」
彼の狙いは、最初から彼女ではなかった。
ただ一人、機械の賢者だけだったのだ。
「お前さえ現れなきゃ、ヨキがこんな思いしなくても良かったんだっ!!!」
「アル!!止めろっっ!!」
キクの手から迸る閃光。
「ヨキ。反逆者に鉄槌を」
「………………」
「ヨキ!!」
「…………出来ない……私も……人間だ!!!」
二千年余り、ずっと待っていた。自分の心を満たしてくれる何かを。
安心した眠りをくれる誰かを。
全てを忘れて、全てを思い出して。
それでもなお、彼を愛しいと思うのだから。
「…………スプンタ・マンユ!!アールマティ!!防人から分離せよ!!」
男の声に反応して、護神像が離れる。
「防人ヨキ、お前の願いを叶えるのにその男は最大の障害だ」
からからと、転がるナイフ。
震える指がそれに触れて、握り締める。
「願いを叶える事が出来るのはたった一人。お前か、その男か」
二千年間、ずっと抱えてきた孤独。
そして、散っていった仲間の思い。
「決断を、黒き血の賢者よ」
「逃がすかぁぁあああ!!!マティ!!」
護神像が大きく震えて、男の体と融合を融合を始める。
同じように、女の身体も護神像に包まれた。
「アル、お前の相手は……私だ」
「……ヨキ……」
たった一度だけの夜。
その夜が、酷く怖かった―――――――。
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22:18 2005/05/04