戦略アセスメントの基礎となる生態系評価
増山哲男1,2・原慶太郎1・安田嘉純1
1:東京情報大学大学院経営情報学研究科
2:パシフィックコンサルタンツ株式会社
戦略アセスメント(SEA)は、事業計画の計画立案の可能な限り早い段階から広域的な開発計画等における複合的・累積的な環境影響に適切に対応することを目的とし、複数案の比較、望ましい環境の提示、広域的な視点からの環境の改善効果を含めた評価を行うこととなっている。このためには、あらかじめ広域的な範囲で、環境に関する種々の情報を蓄積・整備し、それらをもとにして生態系の評価などを実施する必要がある。ここでは、個々の生態系の評価にとどまらず、スケールを変えた生態系相互の関係性など景観生態学の観点からの評価が不可欠であるのはいうまでもない。
我が国では、国土空間データ基盤整備に基づく様々なデジタル空間情報の整備が進み、また、環境省の自然環境基礎調査における植生図をはじめとし、各都道府県や市町村レベルでの自然環境調査に基づく環境情報がデジタルデータとして整備されつつある。これらの環境要素をGISによって重層的にとらえることは容易になってきている。一方で、生態系の評価に関しては、いまだ様々な議論がある。本報では、生態系の概念を整理し、既存の研究や筆者らの検討を基に生態系のモデルを作成して生態系の評価を試み、さらに、隣接関係解析によってその検証を行った。
生態系の単位として流域が用いられることが多い(Lotspeich,1980;Mongomery
et.al., 1995;や岸,1999)は、流域の境界は比較的明瞭で、気候(エネルギーと水)と地形(土壌と植物)によりその形状が決まることから広い範囲の空間スケールにおける結果を比較することも可能である。流域も生態系の特徴である階層構造をとり、多様な空間スケールを有しており、構成要素が地形、水、植生と等しく、研究の目的や手法に応じてそのサイズや範囲を決定できる。本報では、小流域を生態系のユニットとして考え、県域スケールで解析した事例を報告する。宮城県におけるツキノワグマに関する既往調査結果(生息確認位置)を用いて、植生指標、森林率、傾斜度、平均標高、道路影響率のハビタット要因を指数化して、その評価指標毎の適応性を判断するとともに、それぞれをオーバーレイし、ハビタットとしての評価を行った。さらに、隣接関係の評価を行い、ハビタット評価の検証を試みた(Masuyama
et al., 2003)。
生態系間の隣接関係は生態系全体にとって重要な要素である。現存する生息地の水平的な多様性を測定するためにIS
(Interspersion:点在度) 及び Jx (Juxtaposition:並列度) (Mead et al.,1981)を用いて評価した。この手法における計測は、元来、ラスターを用いて行われているものである
(Clevenger et al. 1997, Clark et al. 1993)
図 生態系デイスク
が、本報では、自然界は多様な形をしたポリゴン状の形状をとることからポリゴンによる解析手法を試みた。評価結果を見ると、本種の生息に適したハビタットの中心域(「評価1」の小流域)は、奥羽山脈の尾根に沿った形で分布していること、さらに、ハビタットの「評価2」の小流域が、「評価1」の小流域と連続する丘陵斜面に広がっていることが示された。さらに、点在度が高い流域は孤立した小流域であり、評価値が高い状態で連続している南北の山脈地域においても、その小流域間の環境の相違や接し方により低い評価となった。さらに並列度では評価結果の評価1の中でも連続性が良い状態である流域の存在が明らかとなった。
以上のことから、本手法の結果から得られる広域レベルでの生態系評価結果は、戦略的アセスメントにおける複数案の比較検討及び望ましい環境の提示、広域レベルでの環境評価に対して有効であると判断された。