自然再生事業において保護区・再生優先区の抽出をいかに実施するか

 

北海道大学大学院農学研究科 中村太士

 

平成14516日朝日新聞1面トップに自然再生推進法案に関する記事が掲載された。与党案の概要を述べたものである。自然再生事業がこうした注目を集めることは結構なことと思うが,問題は11面に掲載されたその記事の続きの部分である。ここには「公共事業肥大懸念も」「予算確保の道具に」といった見出しが目を引いた。再生事業の批判の多くは、「一方で現存する生態系を土地開発によって破壊しておいて、一方で再生事業を実施している」という点である。いくら最新の注意を払い、高度技術を行使したとしても、人間が創る自然はもともとそこにあった自然とくらべれば、必ず劣る。再生事業を考える前に、まず考えなければならないことは、現存する貴重な生態系をさらなる開発から保護保存することである。また、その方が必ず費用コストも削減できる。「看板のかけ直し」と批判されないためにも、きわめて重要な原則である。本論では、自然再生の最初の段階として保護区抽出の考え方を釧路湿原達古武沼の事例から紹介する(中村ほか 2003)。

  生態系の劣化原因にもとづいた再生事業を提案することは、きわめて当たり前のことであるが、残念ながらこの当然のことがしっかり実施されていないように思われる。これまでの調査は、対象河川に生息・生育する生物種の記載や水文・地形・地質情報などの内容に限られており、対象とする河川の物理、生物、化学的プロセスにどんな問題が起きているのか、さらに生物相に与える影響は何かを、掘り下げて調査した例はほとんどない。そのため、「事業ありき」、「調査をしてもしなくても、すでに設計・計画はできている」といった批判を受けることになる。次に北海道の支庁レベルを網羅する広域スケール解析とモニタリングによる問題点の抽出をGIS、リモートセンシング技術の応用から紹介する(Nakamura et al. 2003)。ここでは、劣化原因にもとづいて再生優先順位をいかに決定するかについても述べたい。

 最後に、上記批判の根本にある不信感を拭うために、支庁レベルの地域(regional)、流域(catchment)、地区(local site)スケールで何を実施しなければならないか、「スケール」と「生態系の時間的変化」、さらに「診断」「目標」「原因の解明」「対策」をキーワードに持論を展開してみたい。

 

参考文献

中村太士・中村隆俊・渡辺修・山田浩之・仲川泰則・金子正美・吉村暢彦・渡辺綱男(2003)釧路湿原の現状と自然再生事業の概要.保全生態学研究 8: 129-143.

Nakamura, F., Kameyama, S. and Mizugaki, S. (2004) Rapid shrinkage of Kushiro Mire, the largest mire in Japan, due to increased sedimentation associated with land-use development in the catchment. Catena 55: 213-229.

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