「戦略アセスにおけるミティゲーション」
森本幸裕(京都大・院・地球環境学堂)
日本の環境影響評価法では自然環境へのインパクトの緩和(ミティゲーション)を検討することが義務づけられている。しかし個々の事業ごとに、事業者が事業実施段階に入ってから許認可を得るためのアセス、いわゆる事業アセスである。事業実施にあたっては、既に全体計画のなかでの位置づけや、資金調達や土地の取得などについての努力が先行しているため、大筋での変更はきわめて困難なことが多いのは当然である。もし影響があるとして、事業が中止になればたいへんだから、アセスメントでなくアワスメントだと揶揄される評価書もこれまでになかったとはいえない。
しかし事業に関する実現可能性(計画の熟度)が高ければ高いほどアセスメントも正確にできて、ミティゲーションの効果も評価しやすいが、一方で事業そのものの変更可能性が低下するのは致し方ないことでもある。実現するかどうかわからない事業に多大の労力をかけてアセスすることは現実的ではない。また、複数の事業がもたらすインパクトに関するアセスも必要であり、そうしたことが事前にわかっているなら、連携も必要である。さらに狭義の事業だけでなく、自然環境へインパクトを与える政策プログラムもアセスの対象とすべきである。こうした反省のうえに立って、より柔軟な計画変更も可能な段階で評価しようというのが戦略的環境アセスメントである。
戦略アセスでは事業アセスのような評価項目に対する精度は要求できないが、計画やプログラムについて、いくつかの代替案を評価するのが原則である。単にインパクトの大きさだけでなく、その計画やプログラムのメリットも含めて検討する余裕があるのが特徴といえよう。この複数案を評価選択するということの意味はたいへん大きく、これまで選挙でしか反映できなかった政策に関する民意が戦略アセスの本格導入によってプロジェクトごとに反映できるということを意味する。
戦略アセスにおけるミティゲーションについてもこれまでの事業アセスのさまざまな限界を克服することが可能となる。たとえば、ひとつの事業アセスではまず限られた土地である対象地に保全すべき生態系や動植物が生息するかどうかから出発せざるを得ない。しかし戦略的に、つまり時間的、地理的に広範囲の複数事業も含めた視点がはいるということは、現在危機に瀕している生態系や動植物の保全を戦略的に保全する視点を持って、戦略的なミティゲーション、たとえばミティゲーションバンキングなどにつなげていくことが可能ということでもある。2、3事例をふまえて報告する。