の  難 









「亮ちゃん。ママはやっぱり寂しいの」

「………だから何?」

「その! その態度がつまらないのよう! なんでこんな無愛想で乱暴でがさつな子に育っちゃたのかしら。顔は女の子に負けないくらい可愛く産んであげたのに」

「だから…」

「ああーん、やっぱりつまらない! あっちゃんならここでニコニコ笑ってありがとうのひとつくら云ってくれるのに!」

「オレ、淳じゃないから」

「わかりきってるわよう!」

「……そんなに淳がいいなら、寮になんか入らせなきゃ良かったじゃないか」

「だってぇ〜。息子の未来を束縛する権利なんて親にもないもの。せっかくイイ学校に選ばれたんだから、応援してあげたいじゃない!」

「単に母さんがカソリック系の学校に夢を持ってただけだろう」

「そうなのよね〜。教会に溢れる光のステンドガラス! その下でブレザー姿で十字架を持ち祈りを捧げる美少年。いいわあ〜絵になるわ〜」

「息子を美少年とか言うなよ、おばはん」

「ママです! ママと呼びなさい! ああんもう、あっちゃんだったらキラキラ〜って感じで、きっと上級生に妹になってとか、お姉さまとか呼ばれたりするのよね!」

「どこの世界に息子をお姉さまと呼ばれて喜ぶ親がいるんだ」

「ステキ! ママも若かったら紫の薔薇の君とか呼ばれたかった!」

「何気に色々混ざってるぞ」

「だから〜、あっちゃんの意思を尊重したんじゃないの。でも二人がひとりになってママ寂しいの」

「意思? 尊重? 今の会話でどこのどこが?」

「ママ、亮ちゃんの云っていることがわからない。ちゃんと会話してよ、もう!」

「悪いのはオレのせいかよ。むしろここまで我慢して付き合ってやっている孝行息子を褒めてくれよ」

「亮ちゃんは悲しくないの!? たったひとりの弟でしょう。昔はあんなに仲がよくて、年がら年中ひっついてたクセに」

「むーかーしーの話を持ち出すな!」

「あーん。亮ちゃんが怒鳴った。第57回反抗期!? 盗んだバイクで窓ガラス割だけは勘弁よ! あと数年もすりゃ支配から卒業できるんだから!」

「オレはどこの尾崎豊だ。ってかもう頭痛くなってきた。よく淳は母さんにニコニコ付き合ってたよな。そこだけは尊敬するぜ」

「それだけじゃないわよ。買い物も付き合ってくれるし、ママが買って来たお洋服も着てくれるし、学校のことだってちゃんと話してくれたのよ。あっちゃん、ママは寂しい。毎日陰膳備えてあげるからね!」

「やめろ。なんか不吉だからやめてくれ」

「なによう、古式ゆかしい儀式じゃないの!」

「わかるけど、写真立ての前に置くな。しかもそれ、オレも一緒の写真だし」

「大きくなるのよ〜」

「ボンレスハムを丸ごと備えるな」

「男の子って本当にすぐにひとりで生きてきたって顔するから嫌なのよね! やっぱり女の子産んでおくんだったわ、どちくしょう」

「今更云われてもな」

「双子産んだときはラッキー、一粒で二度おいしい。って思ったんだけど、なんか次が面倒になっちゃったのよね。二人いるからまあいいかって。しかも手間も金も一気に二倍かかるし。っていうか、双子なら双子らしく不思議発見はいつ見れるのかしら。こう、離れたらピンとくるものとかないわけ? ママつまんない」

「ねぇよ!」

「とりあえずつまんないから、このワンピースでも着てくれないかしら」

「そろそろ飯にしてくれませんか、お母さん」

「もう本当につまんなーい!」

「淳でも着ないだろうが!」

「ええー、あっちゃんはお小遣いあげれば着てくれたもん」

「淳……、オレは今はじめてお前が遠くに感じるよ。寮に送ってやれば。きっと卒業するまで家に帰ってこなくなると思うけど」

「今までずっと二人だったのに、やっぱりひとり減ると寂しいわ。亮ちゃん、二分割できないの?」

「お前の息子はアメーバーかよ」

「ママ! お前なんて呼ぶ子に育てた覚えないわよ!」

「目の前に居る結果はなんだと思ってる」

「…昔はママ、ママって後ろについてきてくれて。ご近所さんでも有名な可愛い女の子の双子で。見知らぬオジサンに連れ去れたり、友人の家に拉致監禁された挙句に『ひとりくれ』とか云われたり。双子のクセに離れ離れにされてても爆笑の絶えない子供だったけど、とっても可愛かったのに」

「え、ちょっと待て。なんか途中で聞き捨てならない箇所がひとつふたつあったぞ」

「双子って大変なのよ。だって未熟児で産まれるやすいんだもの。あなた達も結局帝王切開で産まれたし。夜泣きだって一緒にすむわけじゃないんだけど、あなた達は夜中に一緒にすーすー寝てたわね。とりあえず二人だから、目を離しても二人で遊んでたし、双子は成長が途中まで遅いって云われてるけどそうでもなかったし。あまりに手がかからないから、世の中で大変そうにしている双子のお母さん達に申し訳なく…って、あら、なんか話がずれたわね」

「だから飯…」

「亮ちゃんは戸島のおじさん。あっちゃんは目黒のおじさんに育てられたようなものだし」

「誰だそれは! ってか他人に育てさせるなよ」

「途中で本気で返して貰えなくて焦ったわ〜」

「隠された過去は隠したままでいてください!」

「子供がひとり減るというのは寂しいものなよ。ということで、サエくんをレンタルしてみました」

「やあ、お帰り亮」

「何故お前が人んちのリビングでくつろいでやがるんだ!」

「ママ、今日も多めに夕食作ってしまったの。サエくん、いっぱい食べていってね」

「ありがとうございます。お母さんの料理は上手だから楽しみだな」

「まー! サエくんってば、褒めてもデザートくらいしか出ないわよう!」

「サエ! いちいちウチの母親の我儘につきあうなよ!」

「や、マジでオレ亮ん家に婿入りしてもいいくらいだし。真理子さんは美人だしね」

「まー! もう、サエくんにはお銚子もつけちゃうんだから!」

「つけるな!」

「お銚子、つけられてオチョウシモノ…プっ」

「ダビデー!」

「ぎゃふ!」

「なんでお前までウチにいるんだ!」

「んと、真理子さんにさっき拾われたの」

「拾うなよ! 母さん!」

「だってー。ダビデくんも可愛いんだもん。こうなったら息子のひとりやふたりやさんにん増えたって」

「どう考えても一緒じゃないだろう!?」

「ダビデ――、オレのライバルになる気かい」

「んーんー、サエさんには逆らっちゃいけないって、バネさんに云われてる…」

「ふ、賢い子は好きだよ!」

「爽やかに後輩脅してんじゃねーよ、サエ!」

「こんなイケ面兄弟だったら、ママは毎日天国ね!」

「…ってかいつそのワンピース着てくれるの、亮」

「そういう冗談は嫌いだって云ってるだろうが!」

「おお…見事な延髄切り…。亮ちゃん凄い。バネさん仕込み?」

「ふ、亮の愛は痛いね! ってかダビデ、亮ちゃんって呼ぶのはどうだろうね…」

「淳ー! お兄ちゃんが悪かった! だから帰ってきてくれー! こんな奴等にひとりで立ち向かえねーよ!」

「とりあえずあっちゃんにワンピース送っておくわね。ちなみ色違いでこんなのもあります」




















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