人魚姫 〜君と戦(と書いて出逢いと読め)えてよかった〜





 ――あーあー。マイクテスト、マイクテスト。うむ、大丈夫のようだな。…ん? それはとっくにやっている?

 まあ、いい。始めよう。

 

 むかしむかし、とある海の底にそれは美しい人魚姫がおりました。人魚姫の名前は精市――なんだか男のような名だが気にしないで頂きたい。

 海王の数多くいる娘達の末っ子にして、最も美しい姫であり、
そして最も好奇心旺盛な姫君でもあった。

 精市姫は、今、嵐に波立つ海面近くまで来ていた。

 実際姫たちは海の底から出ることを、王である父から禁じられていた。何故なら海の上には大陸があり、そこは人が住まう地であるからである。
 人とは凶暴で、恐ろしい生き物だと、王国の者達は嫌悪していた。
 見つかり、魚人とわかれば最後。捉えられ、見世物にされかねない。

 海の中では生きていられないくせに、えらそうな顔をする。海王は人間が嫌いであった。

 娘達にも厳しく言い聞かせていたのだが、それが世情に疎い姫たちの好奇心をかえって増長させてしまった。
 娘達はそれぞれ想像を逞しくさせ、地の国を夢想する。
 地の国にもやはり、王や王子が存在するらしいのだが、それは細かく分かれ、たくさんの王国が存在するのだという。
 海の底とはまるで違う。

 ――どんな風になっているのかしら。遠くから垣間見る、森の中はどうなっているのかしら。

 王は言う。

 ここ以上に美しい所などないのだよ、姫たちよ。と――。

 しかし、そんな姫たちにも生涯にたった一度だけ、海面に出ることを許される日があった。

 十五歳の誕生日を迎えた時である。
 精市姫の誕生日。それが、この嵐の日であった。

 本来ならば、人間を間近で見ることなどできない。だが、海の上には嵐が吹き荒れ、雷が怒号を撒き散らし落ちる。そこで、

『人間の船が沈没したぞ』
 と、いう魚たちの噂が姫の下にも届いた。

「――そんな風に恐ろしい人間というのは、どういうものなんだろうか」

 なにやら男らしい口調ではあるが、精市姫は好奇心負け。倒壊した船の近くまで出てきてしまった――という所で冒頭に戻るのだ。

 海の上は荒れているようだが、海中ともなれば穏やかなものだ。幸村姫は見事な泳ぎっぷりで、崩れ落ちた船の残骸を避けつつ人間を捜してみた。
 お子様には聞かせたくないが、それはまあ酷い状況だったとしよう。

「――うーん。人間って、変な形しているなあ」

 間違った感想を述べた姫の…と、いうか生々しいこと言うな精市。そんな姫の視界に、まともな人間。いや、五体満足な人間が海底へと落ちていくのが見えたのです。

「…あれは?」

 すいっと寄って見て、姫は驚きに目を丸くした。

「なんて…ステキな男性なんでしょう」

 ぶふっ! …いや、失礼。海中を漂っていたのは、地の国の王子であった。なんでわかったか? そんなものは作者に問うてくれ。とにかく、王子であった。むしろ見た目は王だが、年齢的には王子だ。ここ、主張しておく。

「まだ生きているようだな。このようなステキな男性を見殺しにするには忍びない。助けよう」

 容姿が気に食わなかったら見殺しにする気満々な台詞を口にして、姫は王子を片手に海上へと急いだ。

 海の上は未だ荒れ狂い、折れたマストが無情にも波間にもまれている。姫は意外にも体力勝負上等な性格だったので、根性で岸まで王子を運んだ。ちなみに王子の体重は68kg

「さすがに重い…」

 岸まで辿りつき、姫はドスコイと王子を陸に投げ出した。

「――まだ、生きているかな」

 ぴくりとも動かない王子に不安を感じ、姫は口元に耳を寄せた。
 あー別に人工呼吸は必要ないからな。ないからな!

 
 するなっ!!

 ――まあ、なんとか無事を確かめて、姫は安堵の息をついた。

「名残惜しいが…オレは海の住人…。名も知らぬ君よ…さらばだ」

 どこまでも漢らしい姫は、そうして海へと戻ろうとした。

「おや? あんな所にドラえもんが…」

 それを言うなら土左衛門だ。

 人の気配に驚いた姫は、間違った単語を聞きながら、岩場の影に逃げ、その様子を眺めた。

「ま…まあ! まだ生きてますね! ってか顔が真っ赤ですよ。別の意味で大丈夫ですか?」

 恐る恐る王子の生死を確かめたは、女性…デカイが気にするな――は、慌てて人を呼んだ。

「これで、王子は助かるな」

 大勢の人間が集まる前に、姫は海底へと帰っていった。







 それから数日。
 姫は嵐の夜を思い出しては、溜め息をつく日々が続いた。

「――あのステキな人が忘れられない。これがホール・イン・ラブ? 運命の出会い?」

 夢見がちなことを言い、そしてそれが似合っているように見受けられるが、騙されてはいけない。
 姫の頭の中では、どうやってあの王子をモノにしようかと、狙った獲物は逃さない狩猟のごとくギラギラであった。

「ああ、恋しくておかしくなりそうだ。オレがあの人と結ばれるというのは無理なことなのか? いや、諦めたらそこで終わりだ。何か良い手はないだろうか。そうだ…オレが人間になれればいいんだ」

 京都に行くが如くの安易さで、姫は思い立つと速攻行動に出た。
 海の王国一番の物知りでもあり、唯一の魔女。
 ジャッカルの洞窟へと殴りこみ…もとい、相談に出向いたのである。

「――お、落ち着け、精市姫。話あおう! まずは穏便に話しあおうぜ!」

「穏便に話あおうとしているじゃないか。一体何をそんなに怯えているんだ、ジャッカル」

 出刃包丁を突き出しながら、姫はシレっと言い放つ。

「――ああ、これはアクセサリーだ。気にするな」
「ああアクセサリーで…出刃包丁は…無理があるんじゃ…ない」
「細かいこと抜かすんじゃない! それでも男か!? キン〇マついてのんかっ? ああ?」
「魔女! 今は、魔女! お前は、姫。アンダスターン?」
「…それは失礼した。単なるジョークだ。気にするな」

 こともなげに、包丁をぽいっと投げれば、それは魔女の足元にズブリと刺さった。

「ぎゃーっ! 刺身はいやぁっ!」
「安心しろ。お前なんぞ誰が好き好んで食うか。それよりもだ、お願いがあってきたんだが」
「ジャッカルショッキーング! ううう…もうヤダ。だから、こんな役嫌だって言ったのに…」

 某青学と被っているぞ。なんなら、今から隣国の姫になるか?

「――なんの用かな? 精市姫よ」
「時間が勿体無い。率直に言おう。実は、先だって人間の男に恋情を抱いたのだ。結婚したいので、とりあえず人間になりたい」
「いや、そんな無理難題をあっさり言われても……」
「できるか、できないか。二者択一だ。グダグダ抜かすな」
「で…できないって言ったら?」
「お前の生命も二者択一だ。デッド・オア・アライブ」
「いきなり生命の危機!?」
「どっちだ?」

 まるでどこぞの料理ショーのごとく、迫られ。魔女ジャッカルは額に汗した。

「あ…あるには、ある」
「だったら最初からそう言え」
「だが、それには条件があるぜ」
「条件?」

 剣呑な眼差しに、怯まず…だが、及び腰でジャッカル魔女は続けた。

「お前の声と引き換えだ」
「声だと?」
「そうだ、タダでやるわけにはいかないんだ」
「――ケツの穴の小さいことを言うな」
「タ…ダではできないんですう」

 舌打ちをしながらも、姫は怯える魔女を睥睨して「仕方ない」と諦めた。まあ、そこで早々に諦めてくれないと、話が進まないんだな。

「では、この薬を持っていくがいい。尾が消え、二本の足となるだろう」
「わかった。――これで、王子と晴れて夫婦になれるというものだ」
「そして、もう一つ約束がある」
「――これ以上?」

 姫は驚きながらも、魔女の襟首を掴み上げた。

「ひー! 仕方ないんだってば! 王子と結婚ができなかった場合。精市姫は泡となって消えてしまうんだよ!」
「…泡となって?」
「そうだ、それが――契約だ。今は流行の等価交換ってヤツだ! しかも期限は陽が落ちるまで」

 あんまりにも、あんまりな条件に、さすがの豪腕姫も青くなった。

「陽が落ちるまでだあ? 何ムチャ言ってくれるんだ、ハゲ茶ビン。もうちょっとマケロよ」
「ムチャはどっちだっつの! あーあー! もうだから、包丁拾わないで下さい! 大出血サービス! 0時でいいよ、もう!」
「どこぞの童話と混じってないか? まあ、いいや。とりあえず、王子コマせばいいんだろう?」
「身も蓋もねえー」

 逞しくも言い放つと、姫は薬を持ち。

 その夜、こっそりと海の王国を出たのだった。

 

 

 





 一方、王子は朝焼けの中。
 海を見ては、物思いに耽っておりました。

「…この間は大変な目にあった。しかし、丁度隣国の姫に助けられ九死に一生を得た。喜ばしいことだ」

 棒読み過ぎるぞ、弦一郎。

 王子は、自分の墓場になっていたかもしれない、海を眺めながら散策していた。

「…むっ。あそこに見うるは人間か? まさか、オレと同じように嵐に遭い流れついたか」

 だから棒読み過ぎると言っている。王子は、浜辺に倒れる人影を発見すると、急いで駆け寄った。

 だが、そこに倒れていたのは、全裸の女性――ということにしといてくれ――だったので…。

「ぬ…ぬぬぬ! これは近づけんっ! し…しかし人命第一だ!」

 顔を茹でたタコよりも真っ赤に染め上げながら、弦一郎王子は倒れている女人へと近づいた。

「――…」

 海水のために張り付いた髪を掻き揚げれば、美しい顔が苦しそうに少しだけ歪む。

「生きている…」

 ほっと胸を撫で下ろし、王子は着ていた上着をかけてやった。

「人を呼ばねばいかんな」

 立ち上がった時、その女性の瞼がぴくりと動くと、うっすらと開く。

「―――………」

 唇だけがかすかに動いた。

「もう大丈夫だ。オレが助けるからな」
「――……」

 口をぱくぱくとする。が、声は出ない。

「お前…もしかして、声が……」

 まさか遭難の衝撃で…。そう、憶測した王子は、可哀想にと上着でくるんだ躰を持ち上げた。
 その女性とは言わずもがな、精市姫である。ちなみに体重61kg。よくもまあ、持ち上げるものだ。

「今すぐ城に招待しよう。心配するな、これも何かの縁だ。おまえの面倒はオレが見よう」
「―――……」

 姫はぎゅっと、その首に手を回した。…って台本に無いぞ。

「は…裸なのだから、もうちょっと自重してくれえ」

 首まで紅潮して、ロボットのごとくギクシャクしながら、王子は城へと姫を連れて行ったのだった。

 

 

城に到着した姫は、そこで手厚い看護を受け、綺麗に身支度を整えられた。

 初めて使う二本の足というものに、最初はよたったものの。運動神経は抜群な姫である。すぐに慣れ、テニスでもランニングでもどんとこい、な勢いで復活した。

「執事の仁王じゃ。なんか不備があったなら、言ってたもうせ」
「――――」

 メイドに髪を整えられながら、背後で見守るようにしていた仁王に申し出され、こくりと、姫は頷いた。

「ああ、オレは実はお庭番も兼ねておってのう。唇読めるから、動かせば会話はできるがぞ」
『それはありがたい。よろしく頼むよ』

 長いものには巻かれろ主義の仁王は、即座に強い者には尻尾を振って見せた。これぞ処世術。弱肉強食の世界では、よく見られる光景である。

『実は、相談だが…。王子の好みとはどのようなものかな?』
「王子の好み? それは、隣国の姫と思うがぞ」
『…隣国の?』
「ウチの王子もついておらんでのう。先月海で嵐にあって死にかけたんじゃ。そこを、たまたま通りかかった隣国の姫君に助けられてのう。それにえらく感謝した王子が、結婚を申し込んだっつー経緯じゃ」

 バキっ!

 足元の床にヒビが入った音である。

「―――美しさは無論、あなた様には敵いません」

 見事、仁王。旗色見るのは、野生の王国並。

『結婚式はいつだい?』
「…今日、お披露目パーティーじゃ」

『今日か……』

 主人公のはずなのに思いっきり企み笑顔で、姫は立ち上がった。

『戦闘開始と行こうじゃないか。愛とは戦って勝ち取るもの』

 まさしく生死をかけた、愛憎劇が今始まろうとしていた。
 煎餅とお茶は必須ですよ、奥さん。











「おお…み、見違えたぞ。う…美しいひとであったのだな」

 噛んでる、噛んでる。
 王子は広間に現れた姫の美しさに、一目で心を奪われた。
 青いドレスが、また白い肌によく似合っていた。口が曲がりそうだ。

『――……』

 姫は声を奪われているので、勿論喋ることはできない。頭を下げて感謝を表した。

「なにか困ったことがあれば、なんでも言ってくれ。できる限りのことはしよう。…ああ、名前を聞いてもいいだろうか?」

 姫は唇をゆっくりと動かして教える。ここで文字さえ書ければ、話は簡単に済むのだが。海の人間が、陸の文字を扱うには少しばかり設定に無理があるのだよ。

「せ・い・い・ち。そうか、精市というのか。良い名だな」
『―――……』

 突込みは無し…? そうか、無しなのか。おっと、マイクオンだったな。失礼。

 姫は笑顔で答えると、王子は心なし赤面した。

 ここで第一関門突破、と姫が心中でガッツポーズをしたかどうかは知らない。

「あちらでお茶の準備がしてある。一緒にどうだ?」

 頷くと、差し出された手をとった。
 この瞬間。精市の眼が光った。
 わざと、よろけてその胸に倒れこむ。


「お、大丈夫か?」

 カーン! 試合開始のゴングが鳴った!
 赤コーナー王子弦一郎〜。青コーナー精市姫〜。
 先手必勝。精市姫の猛攻。見合って、見合って。さあ、右斜め45度から内角を抉るように打つべし打つべし。見上げる、潤んだ眼差しに王子は耐えられるか? 
 なにやら密着度が増しているぞ。これは卑怯だ! ボシングで言うならクリンチに近いぞ。
 おーっと弦一郎が固まっている。きっと頭の中もフリーズしていることだろう。

 レフリー! レフリー! これ以上長引けば、弦一郎の脳味噌がパンクするぞ!

「お二方、お茶が冷めるがぞ」
「…! すまん。そうだな、精市大丈夫か?」
『――――……』
「そうか、では行こう」

 執事の誘導により、二人は中庭へと出向いた。
 あ、執事が倒れたな。

「し…心臓に悪い役やらさんでくれ…」

 ご苦労。

 中庭に移った王子たちは、和やかな時を過ごした。
 もちろん、姫は喋れない。それでも、王子の話をにこやかに聞いては頷き。訪ねるときには、小鳥のように首を傾げたり、そっと手を握りこんだりと、それはもう怒涛の攻撃をし続けた。

(この女性は喋れない。しかし、その眼差しや仕草から聡明さが溢れて見えるようだ。このひとはきっと、素晴らしい教養を持ったどこかの姫に違いない)

 最後あたりでは、王子は見事に誑かせていた。
 しかし、ここでコロっと参らせるには、王子は純朴すぎたのである。

(なんて素晴らしい女性だろうか。しかし、オレには婚約者がいる。他の女性にうつつを抜かすなど、とんでもないことだ)

 こうなったら、近隣国で1.2を争う頑固者。
 浮気などという単語。口にするのも汚らわしいという思考の持ち主である。
 頭を一振りし、姫の誘惑を吹っ切った。

「精市よ、君はどこかの姫君ではないか?」
「……」
「答えてはくれないか。帰るべき場所があるのならば、ちゃんと最後まで送り届けるぞ」

 姫は物悲しい表情で、首を振った。
 なんせ姫は生死をかけた、大勝負に出、国を出た身である。

「なにやら訳ありのようだな。すまない、もう聞かぬよ」
「………」

 姫は立ち上がると、喬木の側に寄り。王子には背を向けて、項垂れた。

 これは凄い。背中で落とす作戦か。どこでそんな高等技術を身につけた。お前は演歌の聞きすぎだ。

「―――精市よ」

「王子……」

 ここで狙ったように現れたのは、隣国の姫であった。
 精市、あからさまに舌打ちするな。ばればれだぞ。

「おお、柳生姫よ。よくぞ来てくれた」
「はい。本日はまことにめでたく、ワタシ達の結婚式ですからね。昨夜からドキドキして眠れませんでしたよ。ええ、もう本当に」

 顔色の悪い柳生姫は、どことなく下向き加減で王子に寄り添った。

「――うぐっ!」
「どうした? 心臓鷲掴みだなんて。どこか具合でも悪いのか?」
「い…いえ、ご心配なく」

 背中を向けていた、精市が抜き身の白刃のごとくギラつきを見せて、隣国の姫を睨んだ。マッハで、柳生姫は顔を背ける。

「そ…その美しい方は、どちら様でしょうか」
「うむ。なにやら難破船に乗っていたらしくてな。今朝、浜辺で倒れていたのを助けたのだ。精市という」
「そうですか。それは可哀想ですね。ごきげんよう、柳生と申します」
「………」
「ぐふっ!」
「だから、どうした? そんなに具合が悪いのか?」
「え…ええ、ちょっと心臓に持病が…」
「そんな、今日は結婚式だというのに」
「だ、大丈夫です。そんな時のために、この真っ白メガネが支給されましたから。大丈夫大丈夫。これさえあれば何も見えない見えない」
「本当に大丈夫なのか? 冷や汗が凄いが」
「おおーっと! あんまり近寄らないで頂きたい。さすがに最後まで持ち…キターっ!! なんか脳内イリュージョンキヤガッターっ!! 人知を超えたジェラシーストームはやめたま、え!」
「お、おい。柳生姫」

 クジ運の悪い隣国の姫は、息も絶え絶えに王子に支えられた。

「精市よ、話を聞いていたとおり。今日はオレ達の結婚式なのだ。よければお前も参加してくれ。豪華客船にて決行だ」

 どこの秘密大作戦、オレ達特攻野郎Aチームだ。十代にはわからないネタはさておき、王子は婚約者に肩を貸しながら、準備のために退場した。

 残された精市姫は、かける言葉があるわけもなく。確かに縮まりつつある己の命の期限に、そっと息を漏らすのであった。

 んなタマな訳が無い。

 ―――パチーン。

「――は、ここに」

 草陰から現われたるは、お庭番兼執事。

『仁王、手を貸せ』

 

 

 


 豪華客船は盛大な花火を上げて、航海に出た。
 大国の王子と姫の結婚式とあり、出席者も多く。場は盛り上がり、誰もが祝福を送った。
 式は夕闇とともに始まり、そこで神に二人の愛を誓うらしい。
 それを知り、精市姫は時間が無いと焦った。

 焦燥に駆られながらも、精市は甲板に出た。赤く染まった太陽が、海に色を溶け込まそうとしている。
 決戦が近づいている。

 そう、意気込む姫の足元から

「精市」

 と、名を呼ぶ声が上がった。驚いて海に視線を移せば、そこには海の王国にいるはずの姉達がいる。

『ブン太お姉さん、赤也お姉さん』

 急いで欄干を降りていった。

 おい、赤也。設定の都合上仕方ないんだから、姉さんと呼ばれて身の毛をよだたせるな。我慢しろ。

「ああ、人間なんかに恋をしてしまったために、不憫な精市」
「そうっすよ。なんで、あんなゴリラみたいな人間なんかに…」
「敬語使ってどーするよ」
「あ、いつものクセっす。すんません」
「とーにかく! あんな男に精市なんて。ブタに真珠。月とスッポン。そんなヤツのために命を捨てるなんてバカバカしいぜ」
『どうして、それを…』
「ジャッカル締め上げて聞いたんっすよ。ブン太姉さんが」
「全部聞いたぜ。このままいけば、お前は0時の鐘の音…じゃなくて汽笛か? と共に泡となるらしいじゃんか。バカバカしい。やめちまえよ」
『やめるって…』

 訝しがる精市に、姉たちは宝石を散りばめた短刀を掲げた。

「魔術を破る、唯一の方法だ。これで、王子の胸をぶっすり刺ししちまえ。0時までにやり遂げれば、お前はまた海に戻れる」
『――――っ?』
「別に、お前を殺してオレも死ぬ。ってヤツじゃないぜ? 大体さあ。王子助けたのはお前じゃん。いくら意識がなかったからって、隣国の女とお前の区別もつかねーよーな恩知らずだぜ。ひと思いに殺っちまえ」
「そうっすよ。精市さんが助けてなきゃなかった命。返してもらっても罰は当たりませんって」
『そんな……』

 戸惑う姫に、姉達は短刀を握らせる。

「いいか? これがラストチャンスなんだからな?」
「筋肉分厚そうですから、思いっきりいっちゃってくださいね」

 姉達は言うだけ言うと、人間に見つかるのを恐れてさっさと波間に潜っていってしまった。

 残された精市姫は、短刀をドレスの袂に仕舞うと、何事もなかったように船内に戻ったのだった。

「――そんなに、釣り合わないかなあ。オレからすりゃ、ベストカップルだと思ったんだけど」

 予定にないことを喋るな。お前は今声が出ないんだから。


「おー、姫さん。こげな所におったんか。現在王子は控え室で一人じゃき。あとは人払いしときゃいいんじゃな?」
『恩にきる』
「きとおせ。無事、王妃になった暁には……」

 童話とは思えないほどの、暗い笑みを浮かべて、二人は王子のもとへと向かった。


 一方、狙われた子羊。もとい、王子は今更ながらのマリッジブルーに陥っていた。

「オレはこんな気持ちのまま結婚してしまっていいのだろうか。ああ、一体オレはいつからこのような不実な男に成り下がったのだ」

 命を助けてくれた姫君と、突如現れた美しい姫君。
 二人の女性の間を揺れ動き、葛藤する様は、まさに助けてみのさん! 午後は〇〇おもいっきり状態であった。

「不実はいかん。オレはふ…ファーストキスの相手と結婚をしようと決めておるのだ。だから、隣国の姫しかおらんのだ」

 キ…キモ…げふんげふん。純情な王子は、嵐に合い生死に一生を得た時。かすかにだか、唇に残る感触に、隣国の姫に人工呼吸といえども、初接吻を奪われたと思っていた。

「そうだ。結婚式当日に悩んでどうする!」

 ――コン。

 見計らったように、ドアに何かが当たった音がする。

「む。もう時間か?」

 悩みを引き摺りながらも、王子は扉を開けた。が、そこには誰もいない。

「――気のせいか?」

 しかし誰もいないはずの廊下に、かすかな気配を感じ取り。この時間ならば、客も含め全ての人間が大広間に行っていることも考え、訝しがりながらもそちらに向かってみた。

「―――!? 精市っ」

 そこでとんでもない光景を目の当たりにすることになる。
 なんと姫が短剣を胸に刺そうとしているではないか。

「なにをしているんだ! バカはやめろ!」

 咄嗟に駆け寄り、その手を払う。カランカランと、短剣が床に落ちた。

「―――………」

「一体…なにが……」

 姫の両腕を掴みあげ、その顔を覗き込む。白い面は、苦痛に歪み。切れ長の双眸からは、今にも涙が零れ落ちそうであった。

「―――精市…」

 ここまできたなら、賢明な方はお気づきであろう。

 精市姫。一世一代の大博打…もとい、大芝居。

 声が出ない。事情が説明できない。――ここで、仁王に通訳してもらえばあ〜? などと夢のないことを言ってはいけない。最近の若者だ。間違いない。…キャラが違ってきたな。失礼した。

 お! 王子の胸に抱きついた…!

 押して、押して。扉前まで押し切り、そこで寄り切ったぁ!

 ――バタン。

 無情にも扉は閉じられる。

 隠れて待っていた仁王が現れて、外から施錠した。

「南無さん〜」

 もちろん、中からはドッタンバッタンと、なにやら揉み合う音がする。

「あれじゃのう〜。昔から不思議に思っとったんじゃが、0時までに魔法が解けるって、それまでにベッドインしろってことかい?」

 ――って、誰だ。照明ピンクにしたのは! 仁王も踊るな! ちょっとだけよ〜じゃない! だから十代は生で放送見てないと言っているだろうが。

「だってのう〜。間がもたんじゃろうが。なんなら、中の実況中継しちゃろか? えらいことになってるがぞ」

 しなくていい。

 良い子のみなさんには、只今こちらに牧場の風景をご用意している。しばし、こちらで心を和ましてくれたまえ。

「王子…?」

 そこに間が悪くも、柳生姫がやってきた。

「お、柳生姫。ご機嫌よう」
「ごきげんよう…。ってか、なんですか。このピンクのライトは」
「気にしなさんなあ〜」
「王子を呼びにきたんですが…、まだ中ですか?」
「そうじゃが、見んほうが身のためぞ」
「何わけのわからないことを言っているんですか? …あれ? 鍵がかかってますね。どうしました、王子?」


 扉を叩く柳生姫から、仁王はすかさず離れた。

 しばらくして、扉が開けられる。

 

 その先の阿鼻叫喚。修羅場・ザ・ジャッジ。は、皆さんのご想像にお任せしよう。

 柳生姫が「破廉恥です!」と、某人材派遣会社に電話したとかしないとか。王子が、姫の知恵と勇気を搾った、美技の数々に感服し「ミルキーはママの味」と果てたとかないとか。

 とりあえず。姫は声を取り戻すことに成功し、全ての事実は明らかにされ…

 まあ、めでたしめでたしでいいんではなだろうか。

 強引だなあ。これ書いたの誰だ。あ、まだマイク入ってた。




 
 ナレーションは柳蓮二でした。

 




 

終幕。

 

 

 

 

 

「うおお! 柳生が血吐いて倒れよったぞ!?」
「うわあ〜! ヒロシー! 大丈夫かあ! 傷は浅いぞ!」
「良かったっす。マジでオレが婚約者じゃなくて良かったっす」
「〜ううう。魔女だって胃に穴が開きかねーんだから、柳生だってイっちゃったさ」
「あ! こっちでは副部長が茹でダコになって倒れているっすよ!」
「うおおお〜! 真田ぁ! 誰がやったんだあっ!」
「落ち着きんしゃい、ジャッカル。闇に紛れて悪さした人物なぞ一人しかおらんわい。――というか、幸村どこに行きよった?」
「あー、幸村なら、閉幕とともに消えた柳追っかけてったぜい。まあ、確かに舞台に上がっている間はナレーションに突っ込んじゃいけないってのがあったけどよう。言いたい放題だったもんな、柳」
「丸井――。そんなにあっけらかんと……」
「んだよー。なんならジャッカルが止めに行けばいいじゃん」
「怪獣大戦争に入っていけるほど、オレは命知らずじゃねえ」
「肺は四つあっても、命は一つだもんな!」
「山田君! 赤也に座布団一枚!」











 す…すみません。たまにフザケタもんが書きたくなるんです。
もう本当にすみません。近頃シリアスばっかり書いてた反動がでました。







戻る

テレワークならECナビ Yahoo 楽天 LINEがデータ消費ゼロで月額500円〜!
無料ホームページ 無料のクレジットカード 海外格安航空券 海外旅行保険が無料! 海外ホテル