肌がじっとりと湿って気だるい感じが続いていた。
喉が渇いて仕方なかった。
冷房をつけたがそれでも身体の火照りは収まらなかった。
氷入りの冷えた水を一気して、桐山は床に就いた。



どことも知れぬ空間の中。
切なげな表情をした充が目の前にいた。
一糸纏わぬ姿。僅かに恥らうように頬を染めている。
その腰をさすり、中心に手をやるとそこは優しく潤んでいた。

「ボス…早く…」






「・・・・・・」

下肢の中心に熱い疼きを感じ、目覚めた。

わだかまる熱を帯びたそこに手を当てる。自分が出したものですっかり濡れているのに気付き、桐山はほんのちょっと眉を顰めた。
夢精、というものだろうか。初めての事ではなかったが…少し、驚いた。

滞る事無く後始末を終えると、新しい寝巻きに着替え、薄掛けを被った。
時計は午前四時を少し回ったところだった。起きるには早すぎる。
瞼をそっと閉じた。まだ目は冴えていて、再び寝付くのにはもう暫くの時間が必要だろうと思われた。
ぼんやりと色々な事に思考を巡らせていると、一つの面影に行き着く。
「…充」
ぽつりと桐山は呟いた。
そう言えば、夏休みに入ってから充と一度も会っていない。

終業式が終わった直後から、桐山は父から命じられて膨大な量の課題をこなさねばならなかった。
ひとつひとつの課題は桐山にとって造作も無いものではあったが、いかんせん量が多すぎる。
書類に目を通すだけでかなりの労力を要した。
必然的に自宅に篭もる割合が高くなった。

温度管理の行き届いた部屋でする作業。時折気をきかせた使用人が冷たい飲み物を持ってきてくれる。
それで特に問題もなく過ごしていたわけではあるが。
…あんな夢まで見るとは、自分でも意外だった。
想像以上に飢えていたのだ、自分は。
…充という存在に。
幾ら喉を潤そうとも満たされない渇きを、桐山は感じていた。

次の朝早く、桐山は充に電話をかけた。
「ん…ボス…?」
十回近く鳴らしてやっと、眠たそうな声の応答があった。
その声を聞くのも随分と久し振りの様な気がした。
「充、今日会えないか」
「…え?」
珍しく急くような桐山の口調に、受話器越しでも充は多少驚いた様だった。
「すぐにでも充に会いたいんだ。駄目か?」
「えっ、俺はいいけど、何か用でも…」
「理由が必要か?」
桐山はいくらか低めのトーンの声で言った。
その声と言葉には有無を言わせぬ圧力が篭もっていた。
それですっかり覚醒したらしい充は、慌てた様に言った。
「…全然。…俺もボスにすげえ会いたいって思ってたし…」
その声には僅かだが熱が篭もっているようであった。
「…そうか」

その日の昼下がり、桐山は夏休みが始まって以来初めて自宅の外に足を踏み出した。
途端に強い陽射し。ぎらぎらと照りつけるような暑さに桐山はほんの少しだけ眉を寄せた。
家の中に居てはほとんど分からなかったのだが、夏とは本来このようなものなのだと思った。

足取りが速まった。一刻も早く、目的地に辿り着きたかった。
僅かに数分で、体中にうっすらと汗が滲むのを感じた。
「…ボス!」

目的地のすぐ近くまで来た時。
ひらひらと手を振り、その人は屈託の無い笑みを浮かべて歩み寄って来た。
「…充」
夏休みと言う事もあって、終業式の時より幾分明るめに脱色された髪がふわふわと風に揺れた。
「ひさしぶり」
「…ああ」
桐山は無表情で、充を見詰めて言った。



今結構涼しくなってるぜ、充はそう言って桐山を先に玄関に上げた。
確かに外よりは幾らか気温が低いようだ。
充に勧められるまま、居間に入り、畳の上に敷かれた座布団に腰を下ろした。
そこで動いている見慣れぬものに、桐山は僅かに訝しげな表情を作って、尋ねた。
「充、これは…」
「ああ、暑いからさ、ちょっとでも涼しくなればいいなって思って」

「扇風機」というのだそうだ。
こんなものは初めて見る、と言うと、マジ?と充は大げさに驚いた様な顔をした。
「やっぱボスんちは冷房だから…こんなの使わないか…」
「いや。…これも悪くは無い」
吹き付ける風は人工のものとはいえ心地良かった。

充はやがてアイスキャンデーを二本持って来た。
終業式の帰りに、駄菓子屋で充が奢ってくれたことがあった。
充は絶対ボスに食べさせたかったんだ、とはにかんで言っていた。
充の好物なのだと言う。
悪くない、と言ったらひどく喜んでいた。…それを覚えていたのだろう。

舌先に触れる冷たく甘い感じ。…悪くない。
つと桐山は充の方に視線をやった。
充の方は桐山とは比べ物にならないほどアイスに夢中のようだった。
「……」
一心不乱にアイスキャンデーを頬張る充を見て、桐山はふいに下肢の中心に疼きを感じた。
充の方は全く意識していないようだが、今の桐山には、どんなにささいなものでも刺激となってしまうのだ。
桐山はごくりと息を飲んだ。

「…ボス?」
端正な顔にしげしげと見詰められて、さすがに充も気付いたらしい。
「どうかした?」
しかし桐山の思惑になど全く気付いていないような態度。
ちろちろと味わうようにアイスを舐めている。
桐山はそんな充を今すぐにでも押し倒したいのを、何とか堪えていた。
表情には一切出さないものの、心は穏やかではない。
「…それを食べたら、わかる」
「…え?」

充はきょとんとしたような顔で桐山を見た。
桐山はしかしそれ以上は何も言わなかった。
桐山の様子に、何となくいつもと違うものを感じ取ったらしく、
充は今度はかなり早口でアイスを食べ始めた。
ゆっくりと味わう暇もあったものではない。

「…ボス、終わったよ」
残ったアイスの棒を空袋に突っ込み、充は桐山の顔を覗き込んだ。
「何だったの…用って…んん…っ…」
充の言葉は遮られた。
お決まりのパターンである。桐山に唇を塞がれていたのだ。
「はっ…用ってやっぱり…」
「…そのつもりでいたんだろう?シャンプーの香りがする」
桐山は充のやわらかな髪を撫で回しながら、再び充の唇に自分のそれを重ねた。
「んっ…ん…」
充は否定の言葉を発する事はなかった。
思うさま口内を蹂躙され、切なげに喘ぐ。
桐山はそれとほぼ同時進行で、充のシャツを捲り上げて肌を露にした。
「ふ…」
胸の突起を愛撫されて、充は僅かに身体を震わせる。
滑らかな、しかし少し日焼けした健康的な肌を桐山はゆっくりと堪能した。
唇を離すと、桐山は囁くように言った。
「充の夢を見たんだ」
「え?」
「その時も充は…今みたいな顔をしていた」

見る見る顔を赤く染める充に構わず、桐山は愛撫を続けた。
腰骨に手を滑らせ、薄い茂みを撫でて、張り詰めた充のものを指でそっと握る。
軽く上下させただけでそれはふるふると震えた。少し力を加えるととろりと透明の先走りが零れた。
「ああ…ボス…」
「今日は随分と感じやすいんだな」
恥ずかしいのか、充は頬を染めて黙っていた。
桐山は更に愛撫を続けた。
躊躇う事無く濡れた充の下肢の間に顔を埋めて、尖端をちろりと舌でなぞる。途端にびくっと充の腰が跳ねた。
「あっ…」
「少し、我慢していろ」
そう宥める様に静かな声で言って、桐山は充のものの尖端を口に含み、それからゆっくりと根元まで咥え込んだ。
「ふ、あ…ボス…」
充の手が頭を押さえつける感触。桐山は口に含んだものを舌で転がしながら、丁寧に愛撫してやった。充のものは素直に反応して、更に大きく反り返った。
強弱をつけて吸うと、充は泣き声に似た声を上げた。
「あ…あぁ…ボス、俺もう…」
桐山はそれに応える様に激しく吸い上げ、下の張り詰めたふくらみも同時に手で優しく揉んで、充の射精を促した。
「ん…あああ…っ…」
桐山は吐き出された充の欲望を、一滴も残さず受け止め、飲み込んだ。




桐山はベルトを外し、熱くなっている自身を露にした。
荒く息をつきながら、充はどこか熱っぽい目でそんな桐山のものを見詰めた。
それに気付いた桐山が充の顔を覗き込むと、慌てた様に視線を逸らしてしまったが。
「ボスは…しなくていいのか」
「ああ。…俺は早く充に入れたい」
桐山は充の腰を抱き寄せた。
「…あまり慣らしてやれない。…すまないな」
桐山がどこか上擦った調子の声でそう言うと、充は僅かに不安げな瞳を桐山に向けてから、頷いた。

「あ、あ…」
濡れた指でそっと開きかけた蕾をなぞり、侵入させると、充は切なげに喘いだ。
言葉どおり、桐山はゆっくり慣らしている余裕など無かった。
桐山は間もなく指を引き抜き、すっかり張り詰めて先走りで濡れている自分のものの尖端を秘部にあてがい、後ろから充を貫いた。
「ひ、ああっ……」
押し入ってきたものの質量に、充は悲鳴に近い声を上げた。
構わず根元まで桐山は一気に腰を進めた。
きつく自身を締めつけられ、さすがの桐山も僅かに表情を変える。
「はっ…あ…ああっ…あ…」
充は荒く息をつきながら、身体を震わせた。
それに構わず桐山は腰を突き動かした。
打ちつけるたびに当たる充の腰の感触が心地良かった。
突かれる度、充は悲鳴にも似た声を上げた。
「あ…い…っ…いいっ…ボスっ…」
充の背中が反り返っていた。やがて堪えきれなくなったように肘を折り、尻だけを高く掲げた状態になる。
その充の淫らな姿態に桐山の熱は更に上がった。
衝動の赴くまま抜き差しを繰り返した。
「あっ…あっ…ボスっ…ボスっ…」
「…くっ…」
いつもより早く達してしまいそうだった。
それも前回抱いたときよりも大分間が開いている所為だろうと思う。
充の腰を強く抱いた。そして深くまで貫き、桐山は自分の欲望を解き放った。
「う…んん…ああっ…」
自分の内部がどんよりとした桐山の精液で満たされていくのを感じ、充はぶるぶると身体を震わせた。
桐山は腰を押し付けた。まだ、出ている。
ついに受け止め切れなかった雫が充の下肢を伝って溢れ出した。
背中の桐山が荒く息をついているのに気付き、充の心拍数が上がった。
つつ、と音を立てて桐山のものが引き抜かれると、充はぐったりと倒れ伏した。
「…充、大丈夫かい?」
桐山はさすがに自分が理性を無くしていた事に気付き、僅かに気遣わしげに充に尋ねた。
充は顔を上げて、健気に頷いて見せた。
「……」
桐山は無言で、そんな充の頭を撫ぜた。
不思議とそうしたい衝動に駆られた。
柔らかい充の髪は触り心地が良かった。

「ボス…」
「どうした?」
「ボスの…まだ…」
充に指摘されて、桐山は僅かに目を伏せて自分の下腹部のものを見た。
充から抜け出たばかりのそれは、早くも元通りの硬度を取り戻して、ひくひくと息づいていた。
「…気にする事はない」
「でもさ…そのまんまだと、辛いだろ?」
充はそっと手を伸ばし、濡れた桐山自身を手に取った。
ゆっくりとその手を上下させる。
「…っ…」
ぴりりと快感が込み上げて、桐山は秀麗な眉をひそめてうめいた。
充はそんな桐山の様子をぼんやりと見ていたが、やがて桐山のものを優しく撫でて放し、ゆっくりと桐山の上に跨った。
充が何をしようとしているかを察した桐山は、目を細めて言った。
「充。…無理はよせ。辛いんだろう」
「へい、き」
充はまたも健気に頷いた。
「次、いつボスに会えるかわかんないから…いっぱいボスの事…覚えてたいんだ…」
切なげな顔で充はそう言い、桐山のものを強すぎない程度に握ると、濡れた秘部にそっと押し当てた。
やがて僅かに力を篭める。
桐山の精液で滑らかに潤されたそこは、たいした抵抗も無く桐山を受け入れていった。
「あ…んん…っ…ボ、ス…」
尖端がつるりと滑り込むと、すぐにきつく襞に締め付けられる感触。
桐山は堪えきれずに腰を突き上げ、充をより深く貫いた。
「あ…っ…あああっ…!」
充は苦痛とも快感ともつかぬ、幾らか高めの声を上げた。
辛そうに見えて、桐山は充の腰を支えてやった。
自分の下腹部に跨って荒く息をつく充の姿はひどく扇情的に見えた。
桐山の欲情は股間のものに素直に表れ、充の体内で更に体積を増した。
「あ、またおっきく…」
僅かに嬉しげな声だった。
ひくっと充の内側が緊迫を増し、桐山は痺れる様な快感を覚え思わず身体を震わせた。
「うっ…」
「…ボス、気持ちいい…?」
無言で頷くと、充は幸せそうに微笑んだ。
ゆっくりとだが充は腰を動かした。その度に充の襞に締め付けられ、尖端が擦られて桐山は危うく達しそうになるほどの快感を覚えた。
いつもは攻める側なのが、今日は充に攻められているようであった。
それも悪くは無い。
時折眉を寄せながら、桐山はゆっくりと充に与えられる快感を味わっていた。

それから暫くして、充は動きを止めた。
さすがに疲れた様だ。
ぐったりと桐山の胸に顔を伏せた。
「ごめん…ボス…俺もう…」
桐山は充の背中を優しくさすった。
「もう充分だ。…良かったよ、充…」
それからは桐山が動いた。
からだを繋げたままで抱き合って、ゆっくりと動いているうちに、桐山は再び達しそうになってきた。
「…っ…みつる…っ…」
「あ…ああっ…」
眩暈がするほどの快感を覚えながらも、充のそこを愛撫してやる事も忘れなかった。
「…うっ…」
それでも先に達したのは桐山だった。低く呻いて、きつく自分を締め付ける充の内部に、二度目とは思えない程の量の精液を解き放った。
「ふ…あ…ああっ…ボスっ…」
内側の衝撃に小さく悲鳴を上げた充のそこも優しく扱いて、出させてやった。
充の出した量は桐山に比べれば少なかったが、桐山の手に留まらず、零れて桐山の白い腹までも濡らした。

それから二人とも、疲れきって横になってしまった。
誰も居ないのをいい事に上半身は裸のままだ。
さらさらと扇風機から吹く風が二人の火照った肌を冷やし過ぎない程度に冷ました。

「…充」
「何?」
「大丈夫か?」
「今更…これくらいで疲れてちゃボスの相手務まらないだろ」
冗談めかして充は笑って見せたが、無理をしている事は一目で見て取れた。
しかし、手加減する余裕がなかったのだ。…いつも、充を抱くときは精一杯だったが。それにも増して。
どうしてかはわからないが。

桐山が黙っていると、充は身を乗り出して、桐山の顔を覗き込んだ。
「ボス」
「何だ?」
「満足…した?」
「ああ。今は一応」
滞りなく答えると、充は僅かに落胆した様な顔をした。
…何故?
しかしすぐに桐山はその理由に気付いた。

そう言えば、いつも自分は充を抱いた後、ろくに留まる事無く家に帰っていた。
それに特に理由はなかったのだが…。
「用」が済んだから、自分がすぐに帰ってしまうものと思っているらしい。
「充」

顔を上げた充の頭を、桐山はくしゃっと撫でた。
「セックスだけが用ではない。…俺は充に会いたかった。…それは駄目なのか」
座布団に頬を預け、桐山は穏やかな声で尋ねた。
桐山と同じ様な姿勢で横たわっていた充は、ただでさえ紅い頬を更に上気させた。
充は桐山の胸に顔を埋めて、桐山にしがみつくようにした。
「…充?」
「駄目なわけ無いだろ」
充の手は優しく桐山の背中を撫ぜていた。
「用なんて無くたって…俺はボスと一緒にいたい」
充の声は、心持ち震えている様だった。
桐山は黙って、そんな充を抱き寄せた。
随分と、寂しい思いをさせたようだ。
「…そうか」
桐山は目を閉じた。自分も、同じ。
腕の中のこの温かい存在を、自分がどれだけ必要としていたか。
…一緒に。
残り少なくなってしまった夏休み、出来るだけ充と一緒に過ごしたい。…そんな事を考えながら。





おわり






後書き:初桐沼裏。…初の割りにH全開なのは夏だからでしょうきっと。
kiroroの「長い間」からタイトルお借りしました。
「長い間待たせてごめんね」とか。
…うちのボスは果てしなく充に甘いです。

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