ふわふわと花びらが舞い落ちる。
淡い紅色のそれが髪に降りかかるのを幾度か振り払う。
そうしてから、空を見上げる。

まだ色づき始めの群青色の空が目に映る。
それでやっと実感する。
今年も春が来たのだ、と。





「くしゅん」
「あれ、ボス。風邪?」
「いや」

小さくくしゃみをする桐山に、充は微笑して訊いた。
「ボスも花粉症?」
「分からない」

桐山は軽く目を擦った。
柔らかな風が吹いて、桐山の艶やかな髪がさらさらと音を立てそうに靡いた。
充はそっと手を伸ばし、その桐山の髪に手を触れる。
少しだけほつれた髪を耳にかけてやる。
桐山は充のなすがままに任せていた。

学校に向かう途中の道。
至る所に春の訪れを感じる。
蕾が開く季節。
頬を撫ぜる温かい風。
いつもと同じ道の筈なのに。
季節の変化で、こんなにも違った表情を見せるものなのだ。
―こういうのも悪くないと思う。

いや、きっとそう思うのは隣に居るのが充だからだろう。

少し自分より高い位置にある充の顔を見上げる。
充は桐山と目が合うと、嬉しそうに微笑んだ。
その充の表情を見て、桐山は何かを感じた。

「今日は機嫌が良いんだな」
「そう見える?」
「ああ。何故だ?」
「春になったんだなって思って」
充は笑顔でそう言った。
充も自分と同じ事を考えていたのだと思う。
充の色素の薄い髪が陽に当たってきらきらと光った。
―眩しい。
充を眩しいと感じ始めたのは、いつからだっただろうか。
「今度はクラス替えだな」
「ああ」
少しだけ寂しそうな顔で言う充に、桐山は淡々と返した。
―今日から新学期。
充も桐山も二年生になる。
初めてのクラス替え。
ここで離れてしまったら、もう一緒のクラスにはなれない。

校門が見える位置まで来た。
黒い学生服とセーラーの生徒達が群がっていた。
中心に居る教師は何か白い紙を配っているようだった。
多分、新しいクラスの名簿だろう。
桐山はもう一度充を見た。
充はやはり少し寂しそうな顔をしている様に見えた。

にぎやかな生徒達の声。
黙ったままの充。
桐山も、何も言わなかった。
校門が近づく。

その時充が、やっと口を開いた。
ただ、とてもとても小さな声で。
喧騒に掻き消されてしまいそうなその声を、
桐山は確かに聞いた。

「今年もボスとずっと一緒に居られるといいな」

桐山は眉を上げた。
こめかみがちりっと疼いた。
「―充」

桐山は何かを言いかけた。
しかし充は、自分で言った言葉が急に恥ずかしくなったのか、
「...俺、紙貰ってくるな」
それだけ言って、桐山に背を向けて、走り出した。
人ごみの中に充は消えていった。

桐山はこめかみに手を当てていた。
独り言の様に呟いた。
「俺も」
充は、ここには居ないのに。
「俺もそう思うよ、充」

充の琥珀色の頭は黒髪だらけの集団の中でも目を引いた。
それが人ごみを抜けて、此方へと駆け寄ってくる。
片手には白い紙。
充は息堰切って走って来た。
「同じクラスだぜ、ボス!」
その顔は喜びに満ち溢れていた。

桐山はちょっとだけ目を細めた。
充が眩しく見えた。

ふわふわと桜の花びらが舞う。
春は、充と初めて会った季節。
多分、そこから全てが始まった。
自分にとって、全てが。

願わくは、これからも、ずっと。
充と一緒に。


おわり

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