[T O P]

クリスマスプレゼント 地球で言うクリスマスの日の夜。 アーリグリフではいつもと変わらない夜が過ぎていくところだった。 そんな寒い夜、スフレは泣きながら仲間がいるはずの酒場に飛び込んだ。 しかし中ではアルベルが一人で酒を飲んでいるだけで、他の仲間の姿は見当たらない。 かまわずにスフレはアルベルにすがりついた。 「なくしちゃったの! 見つからないの!」 要領の得ないことを叫びながらアルベルの胸に顔を埋める。 寒さで手足が痛い。でももっと大事なことで心が痛い。 「何がだ。わかんねぇぞ」 アルベルはいつもどおりの面倒くさそうな声だ。その手をスフレはしっかりと握り締めた。 「イヤリング、雪の中に落としちゃったの」 「ンなこと言ったって、クリスマスとかなんとかで誰もいねぇぞ。諦めろ」 ダメ、とスフレはかぶりを振った。 「お母さんの形見なの!」 「テメェの母親の……」 アルベルは不意に言葉を切った。 「耳飾りって、あの金の丸いのだったか」 「そうだよ」 「そうか……」 「どうしたの、アルベルちゃん」 義手に目を落として大きく息を吐く彼の姿は、スフレの見たことがないものだった。 長い前髪の間からのぞく顔はなんだか苦しそうな表情だ。 やがて顔をあげた青年は、無表情にスフレを押しやった。 「私、何か悪いこと言ったかな?」 「何でもねぇよ。とにかく今日は遅いから寝ろ」 「やだよ! 探さないと!」 「朝になったら一緒に探してやる」 アルベルにしては信じられないぐらい優しい言葉だったが、それでもスフレは納得しなかった。 「夜のうちに誰か拾ったらどうしよう! そうじゃなくても捨てられちゃったり……」 頬杖を突いてそんなスフレを眺めていたアルベルは不意に立ち上がった。 「来たな」 どうしたの?と問いかけるスフレの目の前で扉が開いた。 「アルベル様、全区域異常ありません」 漆黒の夜警の定時報告のようだ。 「報告ご苦労。ついでなんだが、落し物の捜索も頼む」 「落し物ですか」 「手袋とか耳飾りとか結構あるだろ。適当にどっかにまとめておけ」 「了解しました。では次の定時報告までにまとめておきます」 夜警の兵士が去ると、アルベルが振り返った。 「次の報告は朝の4時だ。待っててもしょうがねぇから寝ろ」 「えー。アタシもアルベルちゃんと一緒に起きてるよ」 「いや俺は仮眠するぞ」 「じゃあ一緒に寝る」 駄々をこねるスフレに、アルベルもついに折れ、二人で宿の部屋へ戻った。 が、自分の部屋の前まで来てもスフレはアルベルから離れようとしなかった。 「アルベルちゃん」 「何だ」 「一緒に寝ていい?」 「…………」 「怖いの。見つからなかったらどうしようって」 「…………」 「お願い」 不安で不安でたまらない。必死でアルベルにしがみついた。 「今晩だけだぞ」 やがて聞こえた言葉。ようやく安心を手に入れて、スフレは声を上げて泣いた。 スフレが眠ったのを確認すると、アルベルはそっと部屋を抜け出した。 早朝――。 スフレが目を覚ましたとき、すでにアルベルは身支度を整えていた。 「いつまで寝てるんだ。蹴られたくなかったらさっさと起きろ阿呆」 「あ、そうだ、探しに行かないと!」 勢いよくベッドから飛び降りたスフレは、靴を履こうとして動きを止めた。 「あれ……」 靴の中で何か光ったような気がしたのだ。 おずおずと手を入れて引っ張り出してみると、まず白いリボン――というより布が出てきた。 それから、スフレが探していた金のイヤリング。手の中のそれを、スフレは驚いて眺めた。 窓から差し込む光にかざしてみたが、間違いなく本物だ。 「ア、アルベルちゃん、これ……!」 「どうした?」 「イヤリングが靴の中にあったよ!」 「俺は知らねぇぞ。クリスマスとかいうので惨太が来たんだろう」 「惨太じゃなくてサンタ。それにサンタクロースちゃんなら靴じゃなくて靴下だよ」 「うるせぇ。知らねぇつってんだろ」 半信半疑のスフレだったが、アルベルが後ろを向いた瞬間にぷっと吹き出した。 2つに分けて結んである髪のうち、右側の結んである部分が何故か短い。 その髪を覆っている布がイヤリングに結んであったものと同じなのはすぐにわかった。 スフレは笑いながら後ろからアルベルの腰に手を回した。 怖そうなのがアルベルちゃん、というのは訂正しないと! 「嘘つくのがへたくそなサンタちゃん捕まえた!」 「おい、離しやがれ」 「イヤだよ。だって大好きだもん!」 おわり。
エロSS置き場にあるやつの非エロバージョンです。イヤリングのあたりは妄想です。 ネタはちょっと違いますが細かいところで結構同じですね。 [T O P]

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