Jackpot!!

2 - 2004/9/2

お外で遊んでいたら白くて丸いものが浮いているのを見かけました。雪のように真っ白でふわふわしていておいしそうでした。風に乗ってどこかへ飛んでいってしまいそうだったので、急いで追いかけました。

ふわふわと飛んでいく丸いものはだんだん大きくなっているようでした。最初は野球ボールくらいの大きさだったのに、今はボウリングの球くらいです。

不思議なことに、その丸いものは木や建物にぶつかることはありませんでした。そして、まだまだ大きくなりながらふわふわと飛び続けました。

鳥が一羽、丸いものに近づいてきました。くちばしでつつこうとしましたが、突き刺したところからふわふわに沈んでいってしまって出てきませんでした。

運動会の大玉くらいに膨れ上がったころ、丸いものは海の上に出ました。もう追いかけられないやと思って寂しく感じました。そんなことはお構いなしに丸いものはどんどん沖へと行ってしまいました。

10年が経ちました。夕飯の材料を買おうと思って外に出たら、空にあの丸いものが浮かんでいました。大きさはあの時とは比べ物にならないくらい大きく、空の四分の一くらいを埋め尽くしていました。あのときのようにおいしそうとは思いませんでした。色があのときと正反対の真っ黒だったからです。

もうすぐ私もあのふわふわな丸いものに潰されて取り込まれてふわふわの一部になるのでしょう。そうしたらあれは何色になるのでしょうか。それを見た人もきっとすぐにふわふわに。ふわふわに。ふわふわ。ふわふわ。

1 - 2004/9/1

誰が信じてくれるだろうか。目が覚めたら猫になっていただなんて。もちろん俺自身信じたくないのだが、鏡に映っているのは紛れもなく一匹の猫だ。信じるとかどうこうじゃなく、納得せざるを得ないだろう。

見慣れたはずの部屋を見回してみた。昨日と比べて特に変わった様子は無さそうだが、俺の視界が白黒のせいかどこか新鮮な印象だ。

背後で金属が擦れる音がした。恐らく何千回と聞いたであろう玄関の扉の音だ。しかし、俺は一人暮らしだし、突然訪ねてくる知り合いもいない。誰が入ってきたのだろう。

扉と距離を取るように跳び、着地と同時に振り返った。そこには俺がいた。正確に言えば「人間の」俺が。

「……なんだ、起きてたのか。」

人間の俺は靴を脱ぎつつ言った。手にはコンビニのビニール袋が下がっている。

「お前なら理解しているだろうな?この状況。」

返事をしようとした、が鳴き声しか出ない。代わりにうなずいた。

「正確に言うとお前は俺じゃない。そこらの野良猫に俺の要らない部分を詰め込んだだけの中途半端な存在さ。」

……要らない部分?何の事だそれは。

……詰め込む?一体どうやって。

「理解できないのも無理はないだろうな。それに関する記憶はお前には残してないから。」

確かに理解できない。だが、別の事は理解した。それは、「俺なら」この要らない猫をどうするかということ。――逃げなければ、消されてしまう。

この季節なら東側の窓は――やはり開いている。俺は床を蹴り、窓の淵に飛び乗った。振り返る。俺の手に握られているのは、ナイフ。さすが自分自身の事だ、よくわかる。複雑な気分だ。

「逃げる気か?俺はそれでも構わない。人間の意識を持った猫なんて中途半端なものが生き延びられるわけは無いからな。ただ、すぐ死んで楽になるより苦しみながら死んでいく方を選ぶのは理解できないが。」

なるほど、一理ある。こんな状態で生きていくのは相当苦労するだろう。それは正しい。だが、俺はそんなことで諦めるような性格ではないという事……それは俺自身が一番良く知っているだろう?

今のお前がこの感情を理解できない……つまり、これが捨ててしまった要らない部分ということか。ようやく理解した。

俺は俺を一瞥して窓の外に飛び出し、土の上に猫ならではの身体能力で難なく着地した。後ろを見たが、俺が窓から顔を出す様子は無い。

さて、どこへ行こうか。宛てなど全くない。これから先生きていけるかどうかもわからない。だが、俺の心の中はしばらく味わっていなかった不思議な高揚感で満たされている。

こんなものを簡単に捨ててしまうなんて、俺は本当に馬鹿だな。そう自嘲して、ゆっくり歩き出した。


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