「マリア、行こう。」
本当にこの天使は甘いなあ。
自分にも、誰にでも。
ふっと八重歯を見せながら口元に笑みを浮かべて、フェニックスが先ほど腰掛けていた丸太まで一気に歩み。
よっしと腰掛、マリアはそのままぐいっと一気にブーツを履いた。
ぎゅうううっと紐を締めるとそれだけ心も引き締まって。
「よっしゃあっ!」
そして背筋も伸ばして大いに立ち上がり、湿った泥の地面をドスっザクっと足を垂直に降ろして湖面に向かう。
視界を広がるは真白のリンク。
きらきら光る地上と空とをまぶしく思いながら大股で一歩、足を踏みおろした。
そして大いに後頭部からひっくり返った。
…。
…。
…。
ズデンッゴンッ!!と痛くて硬い音がしたかと思うと、周囲は一気にしんっと凍りついたような静寂に包まれた。
そしてそれを破る絶叫は、いまだ響いてこない。
「っーーーっ!!??」
突然足元に生じたつるんとした感覚。
一気に空に変わっ視界。
次の瞬間襲った強打した後頭部の痛み、っていうか衝撃。
先ほど盛大に立ち上がりフェニックスの横を颯爽とすり抜けて湖の上に身を滑らせた途端、文字通り滑ったのだorz
後頭部を抱えて油汗を顔に浮かべながらぱっと見無言でびくびくともんどり打つマリア。
声を出したりこれ以上動くと先ほどの衝撃が体に襲い掛かってきそうで。
くわんくわんと目が回る。
うーひー、と口ががくがくいう。
それでも、それでも痛みより意識の方が回復しそうなその時。
「マリアっ!大丈夫!?」
はっとようやく事態に我に返ったのだろう。
慌てたフェニックスの声が聞こえた、と思ったら。
っズデーン。
っゴン。
「っーーーっ!!??」
「っちょ!?フェニのあんちゃん大丈夫か!?」
っズデーン。
っゴン。
「っーーーっ!!??」
・・・。
・・・。
・・・。
息継ぎする間もない怒涛の悶絶は氷上の風にさっさと流され。
後に残ったのは冷たい、白い氷の上で累々と倒れ痛みと衝撃に身悶える3人。
「・・・、おまえらあほだろ。」
それと一人、未だ土の地面で立ち尽くすティキが脱力的につぶやいた。